SAO『罪と罰』 〜何故彼は力を手にしながら表舞台に現れないのか?〜   作:トアール凡人

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前回、シリカの本名を誤って『紺野』としていましたが、完全な私のミスです。
『綾野』が正しいです。ただちに、修正をしましたが、勘違いを招くような誤りを犯してしまい、申し訳ありません。

歯切れが悪いですが、エピローグになります。
最後までお楽しみください……


Fifth section⑧〜罪と罰〜

 

11月7日、世界の終幕により現実世界に復帰した俺は都の総合病院にいた。どうやらデスゲームに囚われていたプレイヤーの多くが収容されているらしい。残念ながら、俺は目的の相手は見つけることができなかった。それは物理的にいなかったこともあるが、俺の身体が2年間の眠りからなかなか目覚めないことにも原因があった。

すぐに医者に頼み込んでリハビリをはじめた。正直、いうことの聞かない足を必死で動かそうとしているのに痛みがあるだけで機能不全に陥っている身体を自分で律するのはキツイものだった。それでも俺としては何としても早く現実世界に復帰したいため、朝から晩まで必死に続けた。あんまりにも熱心にやりすぎて、昼飯を抜いたら、俺の担当だった看護師のお姉さんにメチャクチャ怒られた。

だが、それでも俺はやめなかった。三週間が過ぎた頃に、突然身体がよく動くようになった。看護師のお姉さんが目を丸くしていた。どうやら普通ならあと数週間はかかるらしいのに、すさまじい回復力らしい。たぶん、あれだなデスゲームの前からやっていた剣道で多少の逆境には慣れていたこともあるからな。そのおかげでデスゲームではわりと役にたったけど、まあこの話は今度にしよう。

ああ、ちなみに俺は2年のタイムラグのせいで当然学校には復帰できない。けれど、聞いた話では国が帰還者を対象とした特別な学校機関を設置するらしい。次の春には開校だそうだ。そりゃよかった。さすがに今のご時世、大学を出てもろくな就職先がないのに、高校も入れないようじゃ困るからな。上のお偉いさんの考えていることは多少は推測できるが、それでも俺にとっては万々歳だ。

今日のリハビリを終えて病室のベットの上で俺は左手にダンベルを、右手に文庫本を読んでいた。片方は身体を鍛えなおすため、もう片方は頭の体操だ。2年前から別に頭は悪くなかったが、タイムラグは大きい。せめて、来年の春までには中学の内容までは全部学習しておかなければと自分にノルマを課している。

腕がいい感じに疲労してきたので俺は動きを止めた。ふと、壁に掛けられたカレンダーを眺める。明日からは12月か。

時々外を眺めると、イルミネーションが飾られているのが目についた。

 

コンコン

 

「はい、どうぞ」

 

この時間にノックをするとしたら、看護師さんだろう。定期的な健康チェックの時間だ。

 

「入りますよ……あら、また筋トレ?まだ、筋肉は弱いんだから無茶しちゃダメよ」

 

「そうはいってもですね。ほら、みてくださいよ、この貧弱な腕!これじゃあ紳士として外に出れませんよ」

 

「はいはい……それじゃあ、紳士様に朗報をあげましょうね」

 

朗報?なんですか

 

「あなたが探していた子だけど、いろいろ当たってみたら見つかったわよ」

 

俺は看護師さんから書類を受け取った。

…………ああ、そうだこの名前に間違いない。

 

「そんなに食い入るように見なくても……まあ、そんなに気になる子ってことは、あっちの世界では付き合っていたの?」

 

「んな!そ、そんなことありません!事実誤認、論理の飛躍もはなはだしい!!」

 

「あっそうか、女の子に早く会いたいから、筋トレをしてまで、リハビリをこんなに熱心にね……うふふ、少年紳士くんもウブね」

 

「ごめんなさい、もうやめてください」

 

何俺の知っている女性はどうしてみながみなこうなんだろうか……

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

新年が明けてようやく世間が正月から脱して社会に戻っていく中、俺は平日にもかかわらず、駅前の喫茶店にいた。ちなみに、一人寂しくやってるわけじゃない。俺の隣にはつい先日退院したばかりの彼女もまたいた。

 

「シリカ、身体の調子はどうだ?」

 

「うーん、まだ歩くのが大変です。すぐに疲れちゃって、今日もヘトヘトでした。……あと、ここではシリカじゃありませんよ、『筝(そう)』さん」

 

「ああ、悪かったよ『圭子』」

 

おそらくフリガナがふってあっても最初はみんな読み間違えるのが俺の名前だ。

如月筝(きさらぎそう)。それが俺のこの世界での本名だ。なんでも俺のおじさんが和楽器の専門家で日本伝統の楽器にちなんで付けたらしい。もっもマトモなのにしてほしかったね。まあ悪くはないけど。

 

「遅いですね、POHさん」

 

「仕方ない、あいつはいつでもマイペースだから」

 

お店の入り口の鈴が鳴った。誰かが入ってきた。その姿はあの世界のときとほとんど変わっていなかった。違いといえば、黒いフードではなく、現代風の若者ファッションに身を包んでいることくらいだ。

 

「ごめんね、おまたせしちゃった?」

 

「待った」

 

「男の子ならそこで待ってないって言うべきだよ、筝」

 

「はいはい……それで、やっぱり行ってしまうのか、風香(ふうか)」

 

彼女は右手に下げているボストンバッグを掲げながら、うなずく。

 

「うん、総務省の人にも許可はもらったからね。本当ならあの世界の犯罪者は保護観察処分らしいんだけど、あたしは世界解放の功績で免除だって、ほんとご都合主義もここまでくると笑えるわ」

 

「功績ね……それで何とかなるのが世の中なんだろうな」

 

英雄と呼ばれるものは歴史上存在してきた。カエサル、カール大帝、ジャンヌダルク、ナポレオン……彼らは後世の今でも偉大な人物として尊敬されている。だが、ここで水をささしてもらうと、彼らは決して高潔で無垢なる英雄ではない。彼らに共通するのは、戦争で活躍していること、それすなわち、必然的に殺しにつながってくる。彼らは戦いに勝利を見事に収める実力があったから、今でも偉大とみなされている。けれども、それは彼らに敗れ、無残に散った名もなき人々の上に築かれたものだ。俺は決して彼らのやったことを否定はしない。ただ、そうゆう見方をできないとも言い切れないのだ。これはある人が言った言葉だ。

『一人殺せば人殺し、10人殺せば殺人鬼、100人殺せばテロリスト、1万人殺せたら国の英雄』

なかなか趣味が悪い話だ。

けれど、彼女はそれでは納得はしなかった。彼女は世界を終わらせても、自分の罪を消さなかった。

 

「……ラフコフの手に掛けられた元プレイヤーを慰問する旅か……気が遠くなりそうだな」

 

「そうね、まだ身元がわかっていない人もいるけどね。でも困ったことに数人は海外に住んでいた人もいたの。当分は戻って来れないわ」

 

これが彼女のせいいっぱいの償いだ。国も法律も社会も、誰も彼女に罰を与えてはくれない、すべての責任は茅場にあると言って、あるいは、あの世界の出来事は立証不可能と行って、また、彼女は世界を救った一人だとして。

 

「風香さん……」

 

圭子が涙を浮かべていた。会えなくなるわけではない。それはしばらくのことだ。また会える。でもなんだかこいつが遠くに行ってしまって、戻ってくるのか不安なのだ。

 

「子猫ちゃん……いや、圭子ちゃん。そんな顔しないでよ。私なら大丈夫よ!一人でもなんとかやっていけるし、ほ、ほら!旅のおかげでいろんなところに行けるんだから、それもそれで安心よ!だ、だから元気出して!」

 

慌てているこいつを見るのはなんだか初めてな気がする。

 

「……そ、そうです、ね。ゴメンなさい、あたし、やっぱりまだ子猫みたいですね」

 

「うふふ、まだまだ可愛いからね♫」

 

2人はお互いの顔を見て小さく笑った。

なんとも、ほほえましい光景だな。まさかこの二人がこんなふうになるなんて、最初のときを考えると想像もつかない。

風香は腕時計を眺めた、そろそろ時間らしい。

 

「風香……ハニー、体には気をつけろよ」

 

「私が風邪ひくとおもう?」

 

「バカはな、体調管理ができないから風邪ひくんだよ……これをもってけ」

 

俺は小包に入った茶葉を渡した。特別な銘柄ではないが、俺の知ってる中では、免疫力向上にはもってこいだ。身体も温まる。

 

「ありがとう♫うふふ……これを飲むたびに君のことを思い出せるわね……はっ!もしかしてこれが狙い!!やるじゃないの〜さっすがー」

 

訂正、やっぱり返してもらおうかな。

 

「お、思い出す……」

 

圭子が何か言っている。なんだろうか?

 

「うふふ、子猫ちゃんは私の不在の間にがんばることね♫…………さあ、そろそろ行かないと、列車に遅れちゃうわ」

 

「見送るよ」

 

「ありがとう、でもいいわ。これは私の罰なんだもの、一人で行かないと」

 

「……そうか」

 

俺はこいつの意志を尊重することにした。

 

「じゃあね…子猫ちゃん、紳士君……また、いつか」

 

彼女はそう言い残して店を出ようとした。と、そのとき、急に振り返って俺の方に歩いてきた。

 

「子猫ちゃんには悪いけど……最後のお楽しみ♫」

 

彼女は背伸びをすると、ぐいっと俺の顔を寄せて、左ほほに……

 

「チュッ!」

 

俺はなにをされたのかよく、分からなかった。だが、圭子がワナワナと奮えながら目を丸くしていたので、ようやく認識した。すると、身体の奥から真っ赤なものがこみ上げてきた。

 

「お、おまえ……」

 

「じゃあね♫」

 

そう言い残して、彼女はスタスタと去っていった。振り返りもせず、俺たちに手を振る余裕も与えなかった。

 

「ったく、へんなやつだ……」

 

だが、隣の少女はそれでは済まなかった。

 

「…………」

 

しばらく、その場を動くことはなかった。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

や、やられた!あの女性はまんまと最後にとんでもないことをしでかして去っていった。ああ、どうして気づかなかったんだろう。アルトさん……筝さんは彼女のことをどう思ってるのだろう。

 

「ったく、へんなやつだ……」

 

そ、その感想はどうゆう意味なんですか。も、もしかして筝さんは既に風香さんのことを認めて……

 

『シリカちゃんでも、オネイサン容赦しないよ』

 

突然、あの時のことが思い出された。そうだ、ウカウカなんてしてられない。既に倍率は3倍。こ、ここで大きな差をつけないと、後々で大変なことに。

 

「そ、筝さん!」

 

「な、なんだ」

 

ああ、どうしよう。こんな状況で言えるのだろうか?め、めちゃくちゃ難しい。

 

『好きです!』

 

この一言を今言えばもしかしたら、筝さんの心をつかめるかも……で、でも今、風香さんと別れたばかりでこんなこと言うのはおかしいかな…もしかして、今あたしって卑怯なことしようとしてるの!だ、だとしたら、できないよ!こんな汚いあたしをこの人が見てくれるだろうか?でも、この人は風香さんも受け入れるような素敵な男性。そんなことであたしを拒絶するような人じゃない。だとしても、いったいどうすれば……

ええい!もうどうにでもなっちゃえ!

 

「あ、あたし、は、あなた、のこと、が……」

 

『す』までが出かかっていたとき、ちょうど大きな電子音がなった。それは彼の携帯だった。

 

「わ、悪いな」

 

彼は慌てて電話に出た。

 

「はい、ああエギルか……なに!?それは本当か!…………ああ、わかった、場所は?……うん、うん、よし、わかった、ありがとう!」

 

彼はヒドく興奮した様子だった。

 

「シリカ!じゃなかった……圭子!ようやく、彼らの居場所がわかったぞ!」

 

彼らって、まさか……

 

「ああ、キリトとアスナだ」

 

「本当に!よかった、ようやく連絡がついたんですね!」

 

「ああ、でも厄介なことになっていてな、アスナは……」

 

そ、そんなアスナさんが、そんな状態に……

 

「私鉄に乗り換えれば、少し時間がかかるが行ける距離だ……どうする、行くか?」

 

あ、あたりまえです!アスナさんはあたしの恩人……そんな人がまだ現実世界に戻ってないなんて、そんなこと……

 

「俺も、あの人には散々迷惑かけたからな……それに、彼女以外にも未だに囚われの未帰還者がいるってのは、少しおかしい……これは調べてみる必要はあるな」

 

もしかして、誰かが意図的に……とか?まさか、そんなこと……

 

「さあね、でも可能性の話さ」

 

彼は急いでコートを着てマフラーを身につけ始めた。あたしもせっせと支度をする。

 

「さあ!行こうか」

 

「はい!」

 

結局、告白の機会は頓挫しちゃったけど、今はそれどころではないのだ。だから我慢、いや、先延ばしにしたって、いいだろう。

あたしたちのデスゲームはまだ、完全クリアはされていないのだから……

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

少し、さかのぼること、元旦のある道場では新年から竹刀を振るう少女がいた。

 

「900……901……902」

 

たとえ素振りでも、すべての面なおいて相手を斬る、その気力でなければ、何千本やっても、それは一本振ったことにもならない。

少女は丁寧かつ速度を落とさずに、淡々と回数を数えていく。

 

「998…999……1000!」

 

20分ほどかけて、ようやく正面素振りを終える。だが、少し休憩したら、すぐに次の稽古に入る。少女は手ぬぐいで額の汗をぬぐいながら、気を完全に抜かないように自分の竹刀を見つめ直した。

彼女がここまで真剣なのには、一つには最近仲を取り戻しつつある兄がある。でも、実は兄にも言わないでいる、もう一つの大きな原動力が、少女にはあった。

 

「筝(そう)先輩………」

 

物語の歯車がまた一つ動きはじめていた。

 

 

〜〜アインクラッド編ー完ー〜〜

 




あとがきに今後の投稿のことについてなどを記しました。お手数ですが、目を通していただくとありがたいです。
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