キセキの忠臣蔵   作:あるく天然記念物

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第一章 大石内蔵助編
第一話 忠臣蔵


 忠臣蔵

 

 それは、誉れ高き赤穂浪士達が亡き主君である浅野内匠頭の仇討ちを行った出来事を指す。

 

 その歴史において、一人の現代の若者が偶然にも参加する出来事があった。

 

 彼は突然のタイムスリップに驚きつつも前へと進んで成長していき、その中で最愛の出会いと別れを積んでいった。

 

 彼の軌跡を一言で表すのであれば悲哀だろう。そんな彼の姿は多くの者たちを感動させた。

 

 そう、神でさえも。

 

 

……………

 

………

 

…

 

 

「と言うわけでもう一回転生してくれないかな?」

 

「いきなりすぎて何のこっちゃわからんぞ」

 

 暁の護衛の世界で天命を全うした俺こと朝霧海斗は、気がつくといつか見た神様に出会っていた。

 ちなみに、昔の決意通りにゼウスにはキャメルスクラッチからのチョークスリーパーをお見舞いしてやった。反省も後悔もなく他の神々から拍手喝采だったぜ。

 

「だからさぁ、君にも話しただろ? ChuSingura 46+1 について」

 

 そう言って神はゲームパッケージを俺の目の前に押しつけてくる。

 

「その話は飽きるほど聴かされた。俺が言いたいのは、その忠臣蔵と俺がどう繋がるってことだ」

 

「だからぁ、このパソゲーを遊んで俺は物凄く感動してしまったのさ。深海直刃の赤穂浪士としてのあり方に……う、思い出したら涙腺のダムが……うぅ」

 

 よよよ、と神は目元をハンカチで抑えるだす。

 まっ、マジで号泣してやがる。

 

「神様がどんだけその作品に感動したのかわかったから。さっさと本題を話してくれよ」

 

「おっと、俺としたことが。いやはや、お見苦しい物を見せてしまったね。まあ要するに、人間たちはみんな悲哀のあり方で納得してるみたいだけどさ、俺は納得できないわけよ」

 

「直刃という奴の恋が悲哀なところにか?」

 

「そう! そうなのだよ!!」

 

 ビシィッ! といった効果音が似合いそうな勢いで指を指してくる。つーか、人様を指さすなよ。

 

「なぜ彼の恋は全て悲哀で終わってしまったのだ! 人は幸せになる権利があるって人自ら言っているのに、これでは本末転倒でないか! 俺は認めんぞぉ!!」

 

「認めんぞって。商業作品に自分の感性を押しつけるなよ」

 

「それに関しては、それはそれ、これはこれの理念でそこら辺はおいておくとして」

 

 ムカつく理念だな。

 

「やっぱりハッピーエンドが見たかったんだよぉ~。それに君だって転生後の人生で何の悔いなく逝ったじゃん。同じエロゲーに転生したというのに」

 

「う、それを言われると何も言い返せねぇ……てかエロゲー言うな」

 

 確かに俺はボディーガードとして麗華を守り続け、同業の薫と護衛対象の麗華の二人と添い遂げた。人としてハーレムは最低だったかもしれないが、それでも俺は二人を生涯に渡って愛し、ふたりとその子ども達や孫に看取られ生涯に幕を下ろした。その人生は直刃と比べたら月とすっぽんレベルで幸せと呼べる物だろう。

 

「だが、俺が転生したとして、その直刃とやらが赤穂浪士たちと幸せに暮らせるとは思えんが?」

 

「まあ歴史を変えるって、意外と難しいからねぇ~。直刃では無理かもしれない。けど、特典のおかげでバカみたいに現代チートの塊になった君なら可能性は100に近くなるんじゃない?」

 

「ん? ………どういう意味だ?」

 

 神様の物言いに、俺は思わず聞き返す。

 先ほどは直刃と言う奴が幸せになって欲しいとか言っていたのに、こんな物言いだと、不可能だと言ってるようなものだ。

 

「言葉通りの意味さ。直刃は一般人。君はチート。君なら本来あり得ないことが可能になるってわけだ。何が言いたいかって言うと、今回君は朝霧海斗ではなく、深海直刃として転生して欲しいんだ」

 

 は?

 

「ちょっと待て。それだと、直刃ではなく俺の人生になっちまうぞ。それはそれで本末転倒だ」

 

 俺がそう言うと神様は大丈夫大丈夫といった感じで手振りをしてきた。

 いや、何が大丈夫なんだよ。

 

「その点に関しては問題ない。さっき言ったみたいに君には直刃として転生してもらうから。てゆーか記憶消去してぶっ込めば、誰が何言おうと君は朝霧海斗ではなく深海直刃だ」

 

 さ、さらっと恐ろしいこと言いやがるな。まぁ確かにその理屈だと問題ないのか?

 確かに俺は本来朝霧海斗では無いが、原作知識ほぼゼロ状態だったからある意味で朝霧海斗として生きていたのだから。

 

「しかし、神様よ。その言い方だと直刃を救う気は無いのか?」

 

「うーん。認められない事は認められないんだけどさぁ。ファンディスクを見た限り彼は自分の運命に納得してるみたいなのさ。だから下手に手を出せないんだよ。俺って無理強いって大嫌いだらさぁ」

 

 腕を組み、うんうん唸る神様。そこまで考えていたとは。

 

「なるほどね。腐っても神様か。他人を思いやるとは」

 

「誉めてくれるのは嬉しいけど、腐ってないからね!? その点君は俺のお気に入りだしさ。前回の人生を見ていて凄く面白かったよ。まさかのハーレムルートを作り出すとは思わなかったし。そんな君だから第三の道を作り出すかもしれないじゃん。あぁ抑止力等は安心していいよ。俺が抑止力を司る神様と物理的交渉したから」

 

 どこからともなく取り出した釘バットを振り始める神様。危ないからしまっておきなさい。それと血のような染みが見えたのは気のせいだと思いたい。

 

「さらりと恐ろしいことと盗撮を暴露するなよ。まあ江戸時代ってのも自分の目で見てみたいし。いいぜ、転生してやるよ。俺も神様のこと気に入ってるからな」

 

 それとはそうと抑止力を司る神様、本当にごめんなさい。あなたの犠牲は無駄にはしません。

 

「本当! んじゃ早速今回の特典決めちゃおうか」

 

 え? また特典決めるの?

 

「前回と同じじゃダメか?」

 

「うーん。ダメって事はないけど………いいの? 江戸時代って銃刀法違反バッチコイの世界だよ?」

 

 何を今更。つーか、

 

「たかが刀を持ってるだけだろ。つーか、そんなのより偶に銃を持っていたりする禁止区域の住人の方が遥かに怖ろしいぞ」

 

 頭の裏には禁止区域の住人が引き起こした事件がよぎる。あの時の住人はちょっとした軍人より怖いからな。まぁ問答無用でボコってやったが。

 

「そ、そう言や君は禁止区域で生活してたんだっけ。そりゃ前回と同じを要求するわな。それじゃ特典は前回と同じで全ての物事に適応可能のキセキの世代全員の能力と幻の六人目の力で、黄瀬の能力は灰崎を主体とした能力ミックスでいいのかな?」

 

「あぁ。それとできれば朝霧海斗の能力もプラスしてくれないか。前回あそこまで完璧に使いこなせたのは朝霧海斗のポテンシャルが大きいからな」

 

 直刃のポテンシャルだと、おそらく一人の能力を使うのも一苦労だと思うからな。

 

「だね。それじゃ朝霧海斗の能力もプラスしてっと。あくまで能力だけだから思考回路は今と変わらないから安心してけれ。まあ朝霧海斗として生活していたから抜けきらないとは思うけどね。そんじゃ、せいや!!」

 

 全ての特典を決めきった神様は気合い一発手をたたくと、前にも見た光り輝く扉を出現させた。

 

「さぁ、この扉をくぐると君は忠臣蔵の世界に行くことになる。記憶は無論消させてもらうよ。さーて、覚悟は?」

 

 記憶消去はいいとして、最後の振りは何だよ。ネタか? ネタ振りか? まっ、好きなキャラだしつき合ってやるか。

 

「俺はもうできている!」

 

 俺はそう言うと同時に扉をくぐり抜けていった。

 

……………

 

………

 

…

 

「す、直刃さん!」

 

「ん、なんだ?」

 

 突然声をかけられて振り返るとそこには、学園でも二番目に可愛いと言われる女の子がいた。名前は興味なかったら知らん。

 

「あ、あの! あなたのバスケの試合を観て一目惚れしたって言うかぁ……その……私と、つき合ってくだ──」

 

「あぁ、興味ないからパス」

 

「さ──え?」

 

 女の子は告白を俺に途中で止められて目が点になる。しかも断られる結果で。

 

「ど、どうして! り、理由を教えてもらえないかな?」

 

 断ったと言うのにまだ可能性があると思っているのか質問をしてくる。

 

「理由って。どうもこうも、お前にに興味ないからさ。なんか、お前ってつまんなそうだし」

 

……………

 

………

 

…

 

「ってな感じで断ったな」

 

「もったいねぇー!!」

 

「そうだね。さすがに僕もそう思うよ」

 

 現在俺は告白されてから教室に戻ってきていた。

 そして告白されたという情報はすぐに広まり、友人二人に話しかけられているというわけだ。

 噂ってこぇー。

 

「どうして断ったんだよ。相手は学園でも二番目の人気を誇る女だぜ?」

 

 食いつき気味に聞いてくる男は赤坂。

 いつもバンダナを頭にを付け、制服を着崩している姿から不良と思われている奴で、俺の数少ない友人の一人だ。

 そんな友人に俺は真実を伝えてやる。

 

「そうでもない。知っているか?」

 

「何を」

 

「あの女、俺の記憶が確かなら、つい先日まで理事長の息子でサッカー部のエースとつき合ってた筈だ。それも肉体関係付で。そんな尻軽と付き合える訳ないだろ」

 

「まっ、マジかよ……マジか………よ……マ………ジ」

 

 俺の伝えた真実に驚き肩をガクリと下ろす その傷はかなり深そうだ。

 見た目に反してこいつは純粋だからなぁ。

 

「そう言えばそうだったね。てゆーか直刃、それとは別に先月にも告白されなかった?」

 

 理知的な感じで話しかけてくるこいつは陶山。

 メガネをかけた小柄な少年で、成績は俺の次に頭のいい二番だ。

 なんで俺の成績が一番かって? 全てに勝利する赤司を舐めちゃあかんよ。ノー勉で100点なんて当たり前なんだぜ?

 それと、こいつも俺の数少ない友人の一人である。

 

「あぁ。たしか学園一の美人だったか? 性格はまさに大和撫子そのものだったな。まっ、それも興味ないからパスしたが」

 

「あ、相変わらずバスケ以外には興味ないね直刃は」

 

 なに当たり前の事を言ってるんだこいつは。そんなもん当然じゃないか。

 

「な、なんでこんな奴がモテんだよ」

 

 真実によって与えられたダメージから復帰したのか、赤坂が俺に質問してくる。

 復帰するの早いな。

 

「知らん。それにモテたいなら特別に秘訣を教えてやるぞ」

 

「マジでか!! 教えて教えて!!」

 

 思った以上の食いつきにだな。

 

「それはだな」

 

「………ゴクッ」

 

 地味に周りの男子も聞き耳たてて静かになる教室。

 そして徐に俺は口を開く。

 

「頭が良くてスポーツができて顔が普通以上で会話も普通以上なら自ずとモテるさ」

 

『な、なんじゃそりゃぁぁぁあッ!!!!』

 

 無駄にクラスの男子全員の心が一つになったな。

 

……………

 

………

 

…

 

「ふぅ、補習も終わってようやく冬休みか」

 

 学校の補講が終わって迎えた本当の冬休み。今日は元旦だ。

 神様から転生させられてはや17年。

 俺は深海直刃として生まれた。

 バスケで調子に乗ってしまった事以外は概ね普通の生活を送っている。

 いやー。まさかの一年年で部長になってしまうとは。いつもいつも赤司様には脱帽です。

 

「ふぅーっと、さて今から何を───」

 

「直刃~いる?」

 

「しようかと考えていたんだけどな」

 

 突然勢いよく部屋のドアが開き、一人の女性が竹刀片手に入ってきた。

 彼女の名前は鐺。

 これが赤の他人なら問答無用で外に放り出すの出すのだが、残念ながら彼女とは世間一般では姉弟という関係なのだ。

 

「突然部屋に入ってくるなっていつも言ってるだろうが姉貴」

 

 俺の物言いに姉貴はゴメンゴメンと言いながら片手を顔の前に持ってくる。しかしその顔が半笑いしていることからあまり反省はしてないようだ。

 

「で、今日はどんな用事だ? ツケが貯まってるから課題は手伝わんぞ」

 

「はぁ!? ちょっと洒落にならないんだけどってぇ、そうじゃなくて、初詣に泉岳寺に行くって行ったでしょ? もしかして忘れてたの?」

 

 そう言われて少し考える。確かこの時期というか元旦の日には 泉岳寺では忠臣蔵の討ち入りを祈念して何かしらイベントがあるんだったか? つい最近まで戦国時代にハマっていたというのに。さては戦国に飽きやがったな。

 それで昨日ぐらいに一緒に行こうって誘われたんだっけ。面倒だな。

 

「寒いからパス。一人で行ってくれ」

 

「えー、一緒に行こうって言ったじゃん」

 

「誘われただけだろうが。それに聞くが、俺が一緒に行くことにどんな意味があるんだ?」

 

 おそらく出店でおごってもらうとかそんなところだろう。姉貴の事だ。間違っても姉弟の親睦を深めようとするために提案をしてくるわけがない。

 

「えぇ………と………はっ! ほ、ほら、バスケの試合の必勝祈願とかさ、した方がいいんじゃない?」

 

 俺の予想通りの目的だったのか、しどろもどろに答える姉貴。

 あからさまに今さっき思いついたような理由だな。

 しかし年始めには必勝祈願はしておくべきか。人事を尽くしてこそ最大の結果を生み出すからな。

 それに今年は皆既日蝕も見れる珍しい日だし。

 そう思った俺は立ち上がり、コートを手にし、肩に通す。

 

「何してるの?」

 

「………初詣に行くんじゃ無いのか? それに行くんだったら寒さ対策だけはしておけよ姉貴。おそらく外はあり得ないほどに寒いからな」

 

「う、うん。なんか、こういうかんじの男ツンデレって良いわね。私としてはもう少し粘ってもらった方が──」

 

「さっさと行ってこい!」

 

 いきなり男のツンデレに対して評価をし始めた姉貴を強制的に部屋から放り出す。全く、こういったことを臆面もなくさらけ出すから姉貴も初詣にいく彼氏の一人もできないだろうに。

 

「失礼ね! 私はバッサバッサ切り捨てるあんたと同じよ!」

 

 ドア越しに姉貴の怒声が聞こえてくる。どうやら声がでていたようだ。

 

「さいですか」

 

「それとさ、直刃。あんた、もう剣道しないの?」

 

「はぁ? いきなりどうした」

 

「いや、たった二日でやめちゃったからさ。初日はお父さんや道場の師範も天才だって言っていたのに次の日にはやめちゃったんだもん。まあそのまま腐る訳なくバスケにのめり込んじゃったからいいけどさ」

 

 その事か。確かに俺は姉貴の言うとおり二日だけ剣道場に通ったことがあった。きっかけは姉貴に誘われたことなんだが、俺自身もキセキの世代の力の転用ができるか試したかったこともあり、剣道場に行ったんだが、そこで体験したのは、どうしようもない才能という壁だった。だって、初日に俺自身の潜在能力に気がついた道場の師範に勝負を挑まれ普通に勝ってしまった。才能に溺れることなく鍛えた事もあったが、それでも圧倒的な才能の差は、俺のやる気を無くすには十分だった。本当はその日辞めたかったのだが、師範から後一日だけでも辞めるのは考えてくれないかと頼まれたから二日目まで残ったに過ぎない。

 

「そうだな。剣道はもうしないな」

 

「えぇ~、やろうよ剣道。あたしも師範にお願いするからさ。あんたがいてくれたら全国大会も夢じゃないし」

 

 全国大会が目的かよ。てか、俺一人で確かに個人も団体もいけるとは思うが、個人任せで全国大会って侘しくないか?

 

「だとしてもだ。それに、バスケと違って剣道は個人対個人じゃないか」

 

「それがどうしたのよ」

 

「要は、俺に勝てるのは俺だけだってことだ」

 

……………

 

………

 

…

 

 それから姉貴が着替え終わりと同時に俺たちは泉岳寺に向かった。

 家から歩くこと十数分。ようやく目的の泉岳寺に到着した。

 

「やはりイベントのせいか人が多いね~」

 

「だねぇー。あっ、ねぇねぇ直刃、あそこに御神籤があるわよ。引いていかない?」

 

 姉貴の指差す方向を見ると巫女さんが御神籤を販売している。

 

「ふむ。今年の運勢を占う意味でも引く価値はあるな」

 

「なら決まりね。すいませーん。御神籤一回ずつお願いします」

 

 巫女さんに二人分の料金を払い、俺たちはそれぞれ神籤を引く。

 

「ねぇ直刃。引いた御神籤で勝負しない?」

 

「勝負?」

 

「そう! 神籤でどっちが凄い運勢を引けるかをね!」

 

 勝負の内容に些か疑問が出てくるが、恐らくは保険のつもりだろうな。

 

「なる程、凄い運勢でか。面白そうだが、とうぜんタダじゃないんだろ? さっさと要件を言えよ」

 

「相変わらず抜け目ないわねぇ。そうね、なら、あたしが勝ったら今までのツケはチャラって事でどう?」

 

 どうやら俺を初詣に誘ったのにはこういう裏があったとは。

 まっ、どんな魂胆があろうと挑まれたら受けて立つが。

 

「いいだろう。なら俺が勝ったらボールの手入れでもしてもらうか」

 

「うぅ。あんたからそれ頼まれると次の日筋肉痛になるからいやなんだけど。でもいいわ。今回私が勝てばいいだけだし」

 

 その意気込みは無駄になると思うが言わないのが優しさだと思い、ここは黙っておく。

 

「よし。んじゃ勝負だな」

 

「いくわよ、いっせーのせっ!」

 

 姉貴のかけ声と同時に俺たちは互いの神籤を開く。

 

「ふ、ふふふ、やったわ。ついにあんたに勝つ日が来たわ!」

 

 そう言って姉貴は不気味な笑みを浮かべつつ、俺に神籤を押しつけてきた。その神籤には大きく大吉と書かれてある。

 

「どう? 大吉よ大吉! これこそあたしの最高の幸運の結果よ! しかも今年の運勢はやることなすこと全てがうまくいくって書いてあるわ」

 

 姉貴の言うとおり神籤にはそう書かれてある。年始めにしてはもの凄く運勢良いな。

 

「ほぉ、元旦から大吉とは。随分さい先がいいみたいだな」

 

「あら? 負け惜しみかしら? まあ大吉より凄い運勢なんて滅多にでないものね」

 

 これから大学の課題を手伝わせる算段をしているのか、姉貴は嬉しそうに大吉の神籤を見つめる。

 そんな姉貴とは対照的に、俺は静かに口を開く。

 

「ふむ。そう言えば姉貴、知っているか?」

 

「何を?」

 

「凄いと言う言葉は、二つの意味に使われるのだぞ。一つは姉貴のように凄く良いと言う意味だ」

 

「…………ま、まさか」

 

 俺の言いたいことがわかったのか、姉貴の顔に段々と余裕がなくなってくる。

 そんな姉貴に畳み掛けるかのように俺は自分の神籤を広げた。

 

「そしてもう一つは、凄く悪いという意味でだ。残念だったな、今回の勝負も俺の勝ちだ。姉貴の最高幸運も、俺の天運には届かなかったみたいだな」

 

 その神籤にはでかでかと大大凶と書かれてあった。

 

「で、でも運勢的には大吉の方が」

 

「姉貴、勝負のルールを忘れてはないか? 勝負は、凄い運勢を引いた方の勝ちだと。大方同じ結果になったとしても勝負を濁せるように逃げ道を作ったのがまずかったな。大吉と大大凶。どっちが凄いか明白だな」

 

「あ、あぁ………」

 

 勝負に負けるとは思っていなかったのか、何も言えなくなって真っ白になった姉貴がそこにはいた。

 

「あの……すみません」

 

「ん?」

 

 後ろから声が聞こえて振り返ると、俺たちが神籤を購入した巫女さんがいつの間にか立ってた。

 

「大大凶って聞こえたのですが、もしかして、大大凶を引かれたのですか?」

 

「あぁ確かに大大凶を引いたぞ」

 

 内心突然の登場に驚きつつも、巫女さんに大々凶の神籤を見せる。

 

「す、凄い。この寺の神籤に大大凶が出るのは年に一度ですし、元旦に大大凶が出たのはもの凄く昔なんですよ」

 

「昔? ちなみにどれくらい昔なんだ?」

 

「えぇ───と、少々お待ち下さい」

 

 巫女さんはなにやら記録をしてあるノートを広げるとページを凄い勢いでめくり始めた。そんなに昔なのか?

 二三分捲ったところで巫女の手が止まる。

 

「あ、ありました! 今から約300年前で元禄十四年に引かれましたね」

 

「……元禄十四年ということは、ちょうど徳川綱吉の時代だな」

 

 そこまで昔に引かれたのか。引いた奴は俺みたいな天運の持ち主か、はたまたあり得ないほどの不幸体質の持ち主なのか。

 俺は興味深そうに神籤を見つめる。

 大大凶の神籤には『これから予想がつかないほどの困難が待ち受けているだろう。気をつけておきなさい。消して逃げては駄目だ』と書かれている。

 試合で予想外に強いチームと出会えたら良いなと思い、俺はポケットに神籤をしまった。

 

 この時、この大大凶の神籤が大きな事件の鍵になることを、今の俺は知る由がなかった。

 

……………

 

………

 

…

 

「さてと、姉貴は忠臣蔵のイベントを見るんだろ? ならここで少し別れるか」

 

「あれ? あんたは見ていかないの?」

 

 勝負に負けた姉貴が調子を取り戻したところで、俺たちはイベント会場にきていた。

 

「ああ。いくら俺の天運が勝つためとはいえ大大凶なんて物を引いたんだ。今後の試合に関わってきても困るし、同じ様な不幸な状況でも仇討ちを成功させた赤穂浪士の墓でも参って、御祓いでもしようかと、な」

 

「確かにあたしに勝ったとはいえ大大凶なんて最悪の運勢だからね。わかった。ならイベントが終わったら連絡するから。その間、あんたはしっかりと御祓いするのよ」

 

「了ー解。そんじゃ、また後でな」

 

 姉と別れて俺は一人赤穂浪士の墓に向かう。

 

……………

 

………

 

…

 

「ここが赤穂浪士たちの墓か」

 

 イベントの開始時間と重なったのか、有名スポットにも関わらず全く人がいない。ここまでいないと寧ろ少し怖い。

 

「まあ人がいようがいまいが、やることには変わりないから、いないに越したことはない」

 

 俺は墓の中でも一番立派な物の前に立つ。

 その墓には大石良雄の墓と札が掛けられてある。

 大石良雄ということは要するに大石蔵之助って人を指す。

 大石蔵之助。

 忠臣蔵において中心的な人物に当たる。

 一体どんな気持ちで仇討ちなどを行ったのであろうか。命をとしてまで主君の敵を討つ。地を這いずり回ってでも生き残ろうとした俺には、想像もつかないな。

 まっ、不幸が待っているという意味では大先輩だし、参っておくか。

 俺は墓より低い姿勢で手を合わせようとした瞬間、

 

「あっ! 日蝕がはじまるよ!」

 

「おっ! 本当だ!」

 

 どこからともなく参拝者の声が聞こえて思い出す。

 そう言えば今日は日蝕も見られる珍しい日だったな。

 俺は他の参拝者同様に空に目を向ける。勿論観測眼鏡を装備してだ。よい子のみんなは決して肉眼で日蝕を観測しちゃダメだぜ。

 空では丁度太陽が隠れ始めていた。

 それから徐々に当たりは暗くなっていき、数十分後には完全に太陽が月に隠れた。

 少し肌寒いが、日蝕なんて珍しいものをみた……な…!?

 

 太陽が隠れたと同時に突然俺は胸が苦しくなった。

 

「……あ…がぁ……」

 

 まるで赤の他人に心臓を鷲掴みにされたかのような、少なくとも前世では体験したことのない激痛が走る。

 あまりの苦しさに息ができない。

 

 な……なに…が………起こって…………。

 

「!!?」

 

 次の瞬間……。

 

 俺は意識を完全に手放した。

 

……………

 

………

 

…

 

「……しゃん」

 

 ………声が聞こえる。

 

「直刃……しゃん」

 

 ………一体誰が呼んでいるんだ?

 

 意識が浮上して目を開けるとそこには、心配そうに見つめてくる少女がいた。

 何故か着物を身につけているが。

 

「直刃しゃん?」

 

「え? あぁ……」

 

 俺の気の抜けた返事を聞いて安心したのか、少女は胸をなで下ろす。

 

「ほっ………良かったですぅ。急に倒れたときは、どーしよーかと」

 

「……………」

 

 一体ここはどこだ? 俺は先ほどまで姉貴と泉岳寺に初詣に来ていたはずだ。

 周りを見渡すに、ここは昔の建築物のようだし。

 少なくともこんな民家にやってきた記憶はない。

 

「す、直刃しゃん? ま、まだ意識が戻ってないのですか?」

 

「あぁ、いや。どうも記憶に履き違えがあるみたいだ」

 

「は、はい?」

 

「すまんが、名前を教えてはくれないか?」

 

「な、名前って、右衛門七の名前を忘れたのですか?」

 

 若干涙目になりつつも名前を教えてくれた。

 どうやら目の前の少女の名前はエモシチと言うらしい。随分と古風な名前だな。

 

「いや、助けてくれた人の名前ぐらいは憶えておこうと──」

 

「おっ! 目が覚めたみたいだぞ?」

 

「あっ! ホントだ」

 

「直刃ぁ? おめめ、覚めまちたかぁ?」

 

「…………え?」

 

 言いかけたところで突然、見ず知らずの三人の小娘が現れた。

 一体なんなんだ? 新手のドッキリか? てか、この子等といい、なんで俺の名前を知ってるんだ?

 

 

「あら? 直刃さん? お目が覚めたようですね? お加減はいかがですか?」

 

「直刃? 大丈夫か? 心配したぞ? 急に倒れて、流行り病でも患ったか?」

 

「………は、はい?」

 

 小娘の次は優しそうな女性と少し厳しそうな男性の二人が現れた。二人の雰囲気から夫婦なのだろう。

 マジでこの人たち誰なんだ? 少なくとも誘拐犯ではなさそうだが。

 て言うか、何故に男の人はちょんまげなんだ?

 江戸や安土桃山時代じゃあるまいし。

 一体全体どうなっているんだ?

 

「なぁ、ここはどこなのかいい加減に教えてくれないか?」

 

「え?」

 

「す、直刃さん?」

 

「直刃、一体どうしたというのだ?」

 

 俺の質問に先ほどのエモシチと夫婦が俺に聞いてくる。ふむ。

 

「すまないが、俺にはあなた達の記憶が一切ない」

 

「………」

 

「………」

 

「……え」

 

 夫婦の目が点になり、エモシチの乾いた声が部屋全体に広がった。

 

……………

 

………

 

…

 

「なるほど。ほぼ理解した。どうやら俺は記憶喪失みたいだな」

 

 あの衝撃発言の後、エモシチが恐ろしい勢いで俺に質問してくるのを答えていくに、どうやら俺はこの家で家族として生活していたことや、ここが俺の済んでいた東京でないこと、さらには年号が元禄ということがわかった。正確には元禄十四年だったが。

 そしてエモシチから外へと連れ出されて見た景色は、明らかに時代劇でしか見たことのない村が広がっていた。明らかに東京の景色ではない。地名は播磨国赤穂。現代では兵庫県の辺りだったはず。

 分かったことや見たことから推察するに、どうやら俺はタイムスリップしたみたいだ。しかも普通にタイムスリップしたのではなく、この時代の深海直刃という同姓同名の少年の身体に乗り移った形で。どうしてそれだと分かったのかというと、俺を見ても誰も不思議がらないことや、実際鏡で確認したら俺と同じ顔をしてあったからだ。ちなみに元服済み。

 この状況でマズいのは、俺自身が土地狂った人間だと思われることだ。江戸時代であるならば、バカ正直に「俺未来から来たんです!」なんていった日には、城の地下牢にでも放り込まれてしまう。それほどまでに狂った人間は迫害されていたのだ。

 そこで俺が思いついた作戦は記憶喪失にしておくということ。

 そうしておけば本来知っていることを知らなくても怪しまれず、人格が乗り移る前の直刃と変わっていたとしてもバレないからだ。

 

「き、記憶喪失ですか」

 

「あぁ。見たもの聞いた物が全て初見に感じる物ばかりだ」

 

「そ、そうですか」

 

 俺の言葉に思い切り肩を落とすエモシチ。

 彼女の正式な名前は右衛門七だった。普通に読めるかよ。なので俺はエモシチと呼ぶことにしている。

 

「うむ。どうやら、倒れた事が原因かもしれないな」

 

 少し厳しそうな目をしているこの人は、この家の主である矢頭長助さん。

 話をして分かったが、この家はどうも武家のようだ。身分は勘定方と言うことからあまり高くはないみたいだったが。

 何故同じ名字でない俺と長助さんが一緒の家に住んでいたのかというと、知り合い、ここでは俺の父親になるのだが、その人から面倒を見てくれと頼まれたことにより、家族同然として育てられたと言うわけだ。

 

「はい。おそらくは」

 

 倒れた事が原因と言うのは、俺が気を失ったのと同じようにこの時代の直刃も日蝕のあったこの日に倒れたようだ。おそらくはそこで俺の意識が宿ったに違いない。

 

「そうか。では直刃よ、しばらくは家で養生していなさい」

 

「……わかりました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

 

「よい。下手に他の者たちに知られたら、乱心者と扱われ、幽閉されてしまうかもしれんからな」

 

「直刃しゃん……」

 

 長助さんの言葉にエモシチは寂しそうな目を向けてくる。

 そして驚いたことに、エモシチも少女ながら武士だというのだ。この時代では女性も武士と認められているようだ。勿論そんなことは歴史の教科書にも文献にも載っていなかったから、明らかに俺の知っている江戸時代とは違うみたいだ。

 

「なに、心配せずとも、記憶なんて直ぐに思い出すさ」

 

 エモシチや俺を安心させるように長助が言葉をかけてくれる。

 その優しさは嬉しいのだが、本当は記憶喪失などしていないから記憶なんて戻るはずもなく、その事実に少し心が痛んだ。

 

「ほんと、神籤も当てにならんな。予想外過ぎてどうしようもないだろうが」

 

 こうして、俺の江戸時代での生活が幕を開けた。




追記

主人公のしゃべり方を赤司様から海斗に無理やり変えました
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