キセキの忠臣蔵   作:あるく天然記念物

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第十三話 清水一学

 

 次の日

 大事をとって安兵衛の屋敷で一泊した俺はある場所に向かった。

 向かう先は無論泉岳寺だ。

 ちなみに数右衛門は内蔵助に報告するため山科に先に戻って行った。

 だがその泉岳寺でも情報は集まらず、結果は空振りに終わったが。

 

「さて、マジで徂徠ってやつに喧嘩売りに行くか?」

 

「ちょっと、お兄さん?」

 

「ん…………」

 

 突然声をかけられ、意識をその方に向ける。

 するとそにいたのは、

 

「久ぶりぃ」

 

「あぁ、あの時の女か」

 

 以前江戸に来たときに喧嘩をふっかけてきた清水一学がそこにはいた。

 

「で、今日はどうした? 喧嘩売りに来たわけじゃないんだろ?」

 

「まぁね。あたしが聞きたいのは、お兄さんがどうして泉岳寺に二度も参ったのかについてさ」

 

 ふむ。若干突っ込みたい部分は多々あったが、答えた方が色々と都合が良さそうだな。

 

「あぁ、行ったは行ったが、それが何か?」

 

「いや、ただ、その時に荻生徂徠について聞き回っているそうじゃない」

 

 この女、俺を監視してやがったのか?

 というかそんなこと聞いてなんになるんだ。

 

「ねぇ? お兄さんは耳にしている? 我が主である吉良上野介の性格について」

 

「性格? なんだ? 散歩でも趣味だったのか?」

 

「そんな庶民的なものなら良かったんだけどねぇ」

 

 なんだ違うのか。

 

「以前は温和な性格で笑顔を絶やさなかった好々爺だった御主人様があの松の廊下での刃傷事件の前から、性格がガラリと変わってしまった。正確に申せば………年が明けてからすぐ豹変された」

 

「年を明けてからすぐ、だと?」

 

 何かが、何かが繋がりそうな気がする。

 それを確かめるべく、俺は女の話に注意深く耳を傾けた。

 

「そうよ。そして、その御主人様は元旦に将軍の使用人である柳沢吉保と荻生徂徠とお会いになっている」

 

「な、荻生徂徠だと?」

 

 よもや吉良に会っていたのか。

 神籤といい──まさか、

 

「そう。荻生徂徠と言えば、儒学者という触れ込みだけど様々な呪術も扱うとも言われる得体の知れぬ者」

 

「……………」

 

 女の言ったことで、確証を得た。

 間違いない。荻生徂徠は、黒だ。

 より正確には、呪術を吉良にかけたのだ。

 それがどんな効果を生むかは定かではないが、この女の話によると、荻生徂徠達と会った元旦に吉良の性格がガラリと変わったことから、性格が豹変する類だろう。よもや、たったそれだけの事で俺が巻き込まれたのか? はっ、だとしたら、全く持ってお笑い草だぜ。

 

「へぇ? お兄さん? 今の話を聞いて、顔つきが変わったよ? やっぱり、何か知ってるんだね?」

 

 どうやら自分が滑稽に思えてしまったことが余程堪えたのか、顔にでていたようだ。

 

「あぁ、自分が滑稽極まりないことに気づいてしまったからな」

 

「滑稽?」

 

「なぁ、あんただけ質問するのは公平じゃねぇから、俺の質問にも答えてくれねぇか?」

 

 まだだ。まだ決定的な確証がない。これが分かれば、全てが繋がる。

 

「ふぅーん。まっ、確かにアタシだけじゃ公平じゃないわね。いいわ、言ってちょうだい」

 

「江戸は、幕府はここ最近、何かを求めるような行動や片鱗を見せなかったか?」

 

「? いきなり何の事? それが今の話とどう──」

 

「いいから、頼む」

 

 柄にもなく俺は懇願する。それほど俺に余裕が無くなってきていたようだ。

 

「………おかしなお兄さん。まぁいいわ。そうね、ここ最近だと、幕府は塩を求めていたかしら」

 

「…………本当か?」

 

「えぇ。幕府は近々大きな戦が起きるんじゃないか危惧してねぇ。ほら、あのお犬将軍の事だから、何かと不満が多いからねぇ。だから、戦に備えて塩を備蓄しようとしてるのさ」

 

 繋がった。

 その一つの繋がりによって得た情報で、赤司様と海斗の天才的頭は一つの答えをはじき出した。

 本気で笑える。

 だって、俺の考えが確かなら、吉良は加害者じゃなくて被害者になるからだ。

 

「そう………か。だとしたら、俺たちは………いや、吉良も内匠頭も被害者なのか」

 

「? それってどういう事かしら?」

 

「あぁ。ようやく分かった。どうして、俺がここにいて、あの松の廊下での刃傷があったのか。その背景の全容がな」

 

「なっ!? どう言うこと!」

 

 女は余程知りたいのか、声を荒げて俺に問いつめてきた。

 

「言葉通りだ。全てが分かったんだよ。はっ、滑稽だぜ、だって、あの刃傷は、別に吉良を斬らなくても良かったんだからなぁ。ただ、今回吉良が御馳走人だったから白羽の矢が立ったにすぎなかったんだよ」

 

「な!? そ、それってつまり───」

 

「あぁ。吉良は、幕府──いや、正確には柳沢吉保と荻生徂徠に利用されたにすぎなかったんだよ」

 

 そう。幕府は誰でもよかったんだ。

 ただ、浅野内匠頭が殿中で刀を抜く結果にさえなればいいのだから。

 そもそも松の廊下での刃傷。これには多くの疑問がある。それこそ、俺のいた現代ですら理解できないような疑問が。

 まず持って大きな疑問。それは、何故吉良上野介が浅野内匠頭を辱めたのか。ぶっちゃけ、吉良には何の得もないのだ。だって、もし自分が仕掛けたことで内匠頭が失敗した日には、吉良自身にも罰が回ってくるのだから。よって、吉良がそんな事する理由すら出てこない。

 では、この場合だと、誰が得をするのか。

 それは、幕府ただ一つだ。

 この時、幕府が求めていたのは何か? それは先ほど一学が教えてくれた、塩。

 そもそもこの時代、塩というのは現代以上に貴重な物で、値もそれなりに張る。当然お犬将軍によって幕府は財政赤字な状況で大量に確保なんてできるわけがない。

 だが、たった一つだけ抜け道がある。それは、塩を特産としている土地を幕府が支配権を完全に握ればいいだけのことだ。

 そうすれば、格安どころかただ同然で大量に塩が手には入る。

 で、その事が今回の松の廊下での事件に関係してくるのだ。

 では、その土地をどう手に入れるか。普通に考えて簡単に手に入れられるわけがない。塩の恩恵で資産もそれなりにあり支配力も強い土地だ。ならどうするか、答えはいつの世も偉い人間はする事は同じ事。罪を着せて罰で奪えばいい。そうすりゃ、周りからの批判もなく簡単に土地が手には入る。

 よって、偶然にも勅使饗応の役で江戸に来た浅野内匠頭が──いや、赤穂が狙われた。

 それで罪を着せるために呪術を使って吉良上野介を利用して刃傷を起こさせ、見事幕府は赤穂を手中に収め、念願の塩を手にすることができたってわけだ。

 その証拠に吉良の性格は元旦を期に変わっているし、事実赤穂は幕府が手中に納めている。

 これが俺がはじき出した、松の廊下事件の真相と背景だ。

 

 俺はその事を軽く一学に伝えてやった。

 一応この事が分かったのには一学の情報が大きかったからな。

 

「てな分けだ。まあ色々と推察に穴がちらほらあると思うが、大まかなところだと合ってるだろ」

 

「…………まさか、そんな事のために御主人様が利用されたっての」

 

 その言葉には怒気が含まれていた。そりゃそうだよな。自分の主がただ利用されただけって気づいたら腹立つよな。

 

「だな。まっ、お互いに運が無かったという事だ」

 

「………ねぇ、お兄さん?」

 

「なんだ?」

 

 瞳の奥に怒りを持ちながら一学は俺にはなしかけてくる。

 

「もし仮にその事が本当なら、仇討ちするのは間違いなんじゃないかしら?」

 

「…………なにが言いたい?」

 

 まさか、

 

「簡単な事よ。それなら仇討ちをするのは御主人様に対してじゃなくて、幕府じゃないのかしら?」

 

 この女、何を言い出すのかと思ったら。

 あろう事か俺に仇討ちを止めろってか?

 はっ、んなもん、

 

「あぁ、そいつは無理な話しだ。お互いに引けないところまで来ちまったし、なにより、それで吉良上野介が浅野内匠頭を辱め、喧嘩両成敗になってないのは明白だ。つーか、呪いやら呪術のせいかもしれんが、んなもんにかかった吉良が悪い。だから、俺たちは吉良に仇討ちするのは変わんねぇってこった」

 

 俺の言葉に説得は無理と分かったのか、一学は軽く息を吐くと、

 

「そう………ならいいわ。その時は本気で相手してあげるから」

 

 俺たちと敵対の意志を伝えてきた。

 

「あぁいいぜ、そん時はガチで相手してやるからよ」

 

 対する俺も真っ向から対立の意志を伝える。

 ここまで来たら退くに退けねぇからな。

 

「それじゃぁね、お兄さん? せいぜい夜道には気をつける事ね」

 

「あぁ、俺もむざむざと人は斬りたくないからな」

 

 一学と決定的な決裂をした俺はそのまま別れ、数日後、山科へと戻った。

 しかし、荻生徂徠。よもや偶然で俺を巻き込むとはな。いいぜ、その事を絶対に後悔させてやるよ。利用された訳じゃねぇが、ただのオマケってのが気に食わんからな。

 けど、今はこの真相を内蔵助たちに伝えるのは止めとくかな。下手すりゃ幕府に刀一つで突撃しかねん。まっ、俺が後々なんとかするかね。




とうとう直刃君がこの作品の六割の真実を知ることに………
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