相対性理論
これはかの有名な科学者、アインシュタインが見つけ出した法則だ。
物凄くわかりやすく噛み砕いて説明したら、幸せと思う時間はあっという間に過ぎていくということ。
俺は今、それを実感している。
「家禄は没収………じゃと………」
俺たちの希望でもあったお家再興。
それは、幕府からの書状一枚によって儚く散っていった。
大学様の閉門が解かれたことがわかり、一度は喜んでいた俺たちだったが、その後に続いた条件に言葉をうしなう。
家禄は没収。
そのたった一文で。
このことは、今までの財産は全て 幕府の物になったという事になる。もっと分かりやすくいえば、領地もなにもかも奪われ、お家再興は不可能だということだ。
その事に内蔵助は放心状態となり、部屋に閉じこもってしまった。
やはり、歴史は変わらぬか。
いや、幕府の目的も知った今、お家再興は叶わないって分かっていたはずだ。
でも、それでも悲しい。
どうやら、俺には悲しいと感じる心がまだあったようだ。
けど、内蔵助をこんな気持ちにさせ続ける訳には行かない。
俺は一人、内蔵助の元に向かった。
向かう途中、情けないことに、主税に軽く勇気づけられながら。
「内蔵助」
「………ひとりに………させてくれ」
内蔵助が縁側にいると主税に教えられて向かったら、そこにはどうしようもなく無気力感が伝わってくる人がいた。
一瞬人違いかと思わせるほどの変わりようだ。
目に覇気はなく、あんなに好きだった月すら見ず、ただ足元をみつめているだけ。
「お家再興の件………残念だったな」
どの口が言うか。
本から知っていた癖にと自分の心を詰る。
でも、それでも好きな人の事を守りたいんだ。
詭弁しか喋れないこの口であっても、励ましてやりたい。
だから俺は言葉をつづける。
「だが、俺は知っている。今まで、この山科に来る以前から内蔵助がお家再興に尽力したことを。俺だけじゃない。赤穂の同士全員が知っている」
「…………私は……」
「ん?」
内蔵助がポツリと言葉をもらし始めた。
今までやってきたことから、どんな思いでやってきたのかを。途中、内蔵助の瞳から大粒の涙が零れ落ち。その涙が月に美しく反射した。
やはり、この人は誰よりもお家再興を願い。願うだけじゃなくて行動していたんだ。それが、たった一夜で儚く霧散した。残った武士の命をと生活を守るために賭けた唯一の望みが。
それを行うために誰から恨まれ続けていたとしても。必ず浅野家の名を取り戻すために。
そして内蔵助は、俺に対して予想外───いや、殆ど予想しきっていたことを言ってきた。
「なぁ? 直刃?」
「なんだ?」
「お前は………お前はこうなることが分かっておったのじゃな? 三百年も先の未来から来た……お前には………」
やはり、内蔵助は信じていたんだ。俺が、未来から来たことを。
なんでも、俺が自分の知っている直刃と違うと気がついたのは大評定の時からで、確信に変わったのが安兵衛さんとの試合で勝ったときらしい。
まぁ、エモシチから聞いた直刃じゃ、安兵衛さんとの試合で勝ったりしないもんな。階段登っただけで筋肉断裂をおこしたのが懐かしいぜ。
「あぁ………知っていた。ついでに、これから先に待ち受けている事も、何もかもな」
そして内蔵助は俺に対して、未来やその事を聞くのが怖かったと。
そりゃ、未来が分かったら、何をしても無駄だって思うからな。
それで内蔵助は俺を山科に呼び、手元に置いたそうだ。
自分の行いが正しいかどうかが分かると思って。
けど、俺は何も言うことも、顔色一つ変えることが無かったから、内蔵助にお家再興が叶うと勘違いさせてしまった。
さらにその後内蔵助は、未来の人間である俺に山科から離れろと言ってきた。
これは赤穂の問題で、俺には関係ないからと。
まったく、こちらの気も知らずによく言うぜ。
反骨精神か、そんな内蔵助に俺は語りかける。
俺自身、詭弁でも偽善でもない本心を。
「内蔵助。俺にとっては確かにここは過去だったが、お前にとっては今だ」
「直刃?」
俺の言いたいことが分からないのか、内蔵助は首傾げてくる。
それでも構わず、俺は言葉を繋げていく。
「未来を創るのは運命でも、歴史でもない。つーか、未来に何が起こるかは誰だって俺にだって分からないさ。だって、今はここが、俺の今だからだ」
「直刃……お主…」
少し前までならここは俺にとっては過去だった。理が違い、どこか物語を読んでいるかの気で生きていた。
だけど、今は違う。
「それにな、好きな人を一人死なせるほど、俺は落ちぶれちゃいねぇよ」
誰かを好きになった。だったら男として守り抜く。共に生きていきたい。だから俺は未来を捨て、過去を今にしたんだ。
「だが……直刃」
「だがでもねぇよ。そもそも、自分の道は自分で決めて貫くものだからな」
「やれやれ、もう………何を言っても変わらなさそうじゃな」
呆れたかのように内蔵助は俺を見つめてくる。
当然だろ?
「あぁ。それと、この時代に来た理由は、俺自身が落とし前をつける必要もあるんだ。だから、嫌でも最後までお供するぜ」
これは確信だ。必ず、必ず仇討ちは予想外な事が起きると。
なら、俺がそれを払う。
それこそが、この時代で俺がやるべき責務であるから。
「しかし、徳川の無い世の中か。私も行って見たいものだ」
「そうだな。きっと、気に入ると思うぜ」
この後たわいの無い話をしつつ、内蔵助は俺に仇討ちのある日を聞いてきて、それ以降はただ呆然と月を眺めているだけだった。
主人公! 自信のイレギュラーの為に戦うことに