キセキの忠臣蔵   作:あるく天然記念物

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ついに仇討ちやで!


第十九話 仇討ち

 十二月十四日。

 この夜。

 闇に紛れて四十七人の赤穂浪士たちが密かに相生町の同士宅に集結していた。

 ここから吉良邸までの距離は約六十メートルほど。

 まさに最終チェックポイントとも言える場所で、俺たちは準備を行っていた。

 

「ふぅ………寒」

 

 準備があらかた終わったところで一息ついていると、途端に寒さが見に染み出す。

 現代と違って暖房のだの字もないこの時代だと、布団を被ってないと寒さがガチで肌に突き刺さってくる。

 まあ我慢できない訳じゃないけどな。てか、前世じゃ氷点下の中、瓦礫の上でいびきかいてた日もあったな。

 だが、それを抜きにしても寒い理由は他にもあった。それは、

 

「マジで討ち入り装束はこれでいいのか?」

 

 現在着ているのは火消し装束と呼ばれる者だ。

 大人数で移動しても怪しまれないからとか、浅野家が以前江戸で有名な火消しだったとか多種多様な理由があるのだが、問題はそこじゃあない。

 ではなんなのか。

 それはデザインだ。

 この着ている火消し装束、本来の火消し装束とはかけ離れ肌の露出が多く、可愛さや見た目を重視する物になっているのだ。

 おかけでこの真冬に薄着をしてしまう結果を引き起こしている。

 これに関しては男女が逆転したことによる弊害だな。だって、この装束のデザインを決めるとき、誰一人として反対しなかったのだから。あの武士道を愚直に進みまくってくる安兵衛ですらな。

 まっ動けば暑くなるだろうし、俺が斬られることはまずないからいいかって事で俺も黙認した。

 よって今ここで少し寒がってるわけだ。あぁ……地味に冷える。

 

「直刃?」

 

「ん? 主税か?」

 

 話しかけられた方を振り向くと、そこにはなにやらいい雰囲気を纏っている主税がいた。

 

「へぇ、なかなかいい空気を纏ってるな主税」

 

「ん? どういう意味だ?」

 

「いや、暑くなりすぎず、かと言って冷め切ってもない。試合でいい結果を残せる最良の状態ってことさ」

 

「そうなのか? 私自身よくは分からないが、直刃が言うのだからそうなのだろうな」

 

「あぁ。しっかり役目を果たせよ」

 

「あぁ! 直刃も!」

 

 俺たちは互いにうなずき合った。

 主税とは意外にも長い付き合いになっちまったな。

 正直、俺がこの時代にくる前までの直刃が一緒に住んでいたエモシチ以上にだ。

 だからこそわかる。

 今の主税なら、なんの問題もないって。

 

「直刃~?」

 

「…………」

 

 再び誰かに声をかけられたら俺だが、その言葉が誰の者なのか分かっているために無視をする。

 

「す、直刃~?」

 

「……………」

 

 無視無視

 

「…………直刃の助平! うつけ! 阿呆!」

 

「………お前はどこのガキだ。で、何のようだよ数右衛門?」

 

 まさかの低学年レベルの罵倒に呆れ、俺は無視するのを止めた。

 

「なぁ~? オレと役目を代わってくれよぉ」

 

「たく、これで何回目だよ。ダメだ」

 

 此度の仇討ちにおいて、数右衛門の役目は後詰。つまりは逃げてきた者を斬るという役目だ。

 当然ながら血気盛んなこのアホは納得するわけがなく。

 度々俺に役目を代われと言ってくるのだ。

 俺の一存で代えられる訳がないと言うにこのバカは。

 

「ちぇ~! けちくせぇな~!」

 

「というか、お前はどんな役目であっても好き勝手に暴れるつもりだろうが。断言してやる。必ずお前は役目を放棄して吉良邸で暴れまくるってな。一両賭けてもいい」

 

「そ、そんなことは……」

 

 図星なのか、数右衛門の目が泳ぎ出す。

 マジで隠し事できない奴だな。

 

「まっ、とにかくお互い頑張るとしようや。な、数右衛門?」

 

「お、おうよ!」

 

 それから二三言話した後、俺は数右衛門と別れる。すると───

 

「直刃殿? どうぞ、握り飯です」

 

「あ、三村か。いつもすまんな」

 

 とある男性が俺に握り飯の乗った盆を差し出してきた。

 彼の名前は三村次郎右衛門。

 赤穂では台所役として働いていた。

 温和な性格からみんなに慕われ、料理の腕も良い。

 そんな彼から手渡された握り飯を受け取り、一口頬張る。うむ。

 

「旨いな。てか、こんな日にまで飯の支度をしてたのか?」

 

 握り飯を平らげ、二つ目を手に取りつつ、俺は次郎右衛門に話しかける。

 

「はは……私は台所役でしたから、皆様にお食事を作るのが役目」

 

「それが何があったのか包丁ではなく刀を握ることになるとはな」

 

「確かにそうですね…………直刃殿」

 

「ん、どしたん?」

 

「ようやくこの日を迎えるに当たって、直刃殿には色々とお世話になったのにお返しができなくて」

 

「おいおい、俺は何もしてねぇよ」

 

「そんな事ありません。直刃殿が助けてくれたからこそ、私は今この場にいるのです」

 

「んな大袈裟な」

 

 実際に次郎右衛門がこんなに恩を感じるような事はしていない。

 まあ何をしたのかと言うと、ただ次郎右衛門を仲間に加えさせたというだけのことだ。

 というのも次郎右衛門は台所役である事から武士の上位の人から疎まれていたんだ。なぜ台所役が誇り高き武士の場にいるのかってな。だから俺が一発そいつ等に言ってやったんだよ。今のお前ら如きより台所という戦場で刃物を扱ってきた次郎右衛門の方が百倍も戦力になるってな。

 それからは刃向かう奴を暇つぶし程度に遊んでやって見事次郎右衛門を認めさせたというわけだ。

 俺個人は本気で遊び感覚でやったから気にしなくてもいいんだけどなぁ。

 

「まあここではお互い赤穂の志士。やってやろうぜ、次郎右衛門?」

 

「えぇ、勿論です! では直刃殿、また後ほど」

 

 そう言って頭を下げた次郎右衛門は他の同士の方々に握り飯を配り始める。

 さてと、俺も気合い入れますかねぇ。

 

 やがて、誰かが灯りを消して部屋が暗くなった。

 暗闇に目を慣らすためだ。

 俺は禁止区域で嫌なほど殺り合いまくった経験から直ぐに慣れるがな。

 そして、眠気対策なのか一人一人に梅干しが配られ口に含む。うん。普通に酸っぱい。

 

「さぁ! やりますわよ!」

 

「………あいつか。そういや梅干しで変わるんだっけな」

 

 梅干し供給の後、やたらとテンションの高い声が聞こえ、直ぐその人物に思い当たる。

 声を発したのは十中八九孫太夫だ。

 たしか孫太夫は江戸で試合したときに知ったが、梅干しを食べることで高飛車な性格に変わっていたはず。

 恐らくは配られた梅干しで切り替わったのだろう。

 

「母上、そろそろ、刻限かと」 

 

「うむ…………」

 

 と、いよいよ始まるのか。

 主税が内蔵助に時間を伝えている。

 

「では、皆の者? 準備はいいな?」

 

「………………」

 

 全員が一様に頷き合う。

 もう後はやり合うだけだ。

 

「各自、人事を尽くせ。そして、天明を待て。全員が覚悟を決め、粉骨砕身の働きを見せようぞ!」

 

「おう!」

 

 全員が声を合わせて返事をし、内蔵助が最後の言葉を俺たちに伝えた。

 

「いざ! 我らが向かうは! 本所! 吉良邸!」

 

 いよいよ、この日が来た。

 泣いても笑ってもここ一番の大勝負の時。

 赤穂四十七浪士による忠臣蔵が。

 勇ましい掛け声と共に四十七人の刺客が颯爽と雪の上を行軍していく。

 ある者は武士の矜持を胸に秘め。

 またある者は家族との思い出を胸に。

 またある者は亡き主君の忠義を果たしに。

 ただ、亡き主君の仇を討つ。

 その悲願を達成するため、俺たちは死地へと進んでいった。

 ここで俺たちは裏門隊と表門隊と別れる。

 

「母上。では、後ほど会いましょう」

 

「うむ」

 

「裏門隊! 進め!」

 

 主税のかけ声と共に裏門隊に抜擢された方々が主税について行く。

 そして裏門隊が配置につくと同時に内蔵助は指示を出す。

 

「新六!」

 

「……………ん」

 

 内蔵助に名指しされた新六は梯子を使い屋敷の堀を乗り越える。

 新六の役目は邸内から表門を開けること。

 ちなみに新六が使用した梯子は吉良邸から拝借したもんだ。なんでも邸外に保管しているのを事前の調査で知ったみたいで、あるなら使わせて貰おうという事になったのだ。

 まっ、用は俺達の調査はそこまで細かく行っていたということだ。

 潜入してから数分後、

 

「………ようやくか」

 

 

 ギギィーー……っと古びた木の擦れるような音と共に表門が開かれた。

 どうやら新六は上手くやったみたいだ。

 それを俺は内蔵助に報告する。

 

「内蔵助、開門を確認したぞ」

 

「うむ! 表門隊! 配置につけ!」

 

 内蔵助の指令を受け、俺たちは事前に決められたら陣形につくため吉良邸へと侵入してゆく。

 

「全員! 配置についたか!」

 

「はっ!」

 

「ならば、合図の太鼓を鳴らせ!」

 

 全員が配置についたことを確認した内蔵助は表門隊の一人に指示を出し、太鼓をならせる。

 ドンドンと江戸の夜空に鳴り響く陣太鼓の音。

 これが俺たちの開戦を伝える合図だ。

 すると、かすかに火事だぁの声が聞こえ、何かを破壊するような音も響きだした。

 どうやら裏門隊が行動を開始したみたいだな。

 今回は山鹿流に乗っ取った挟撃作戦を利用している。

 まっここら辺は歴史通りだな。

 裏門隊が陽動をして表門隊が吉良を討つ。

 その際、混乱が大きくなるように裏門隊は火事だと叫びながら行動するのだ。

 江戸時代において火事は恐っそろしいからな。

 一度引火すれば大火事に繋がることも珍しくないし、当時の火消し隊はもっぱら引火防止に家屋の破壊が主な仕事だったと言われる位だ。

 そんな裏門隊の陽動の声を聞いた俺たちは皆それぞれの得物に手を添える。

 

「表門隊! 抜刀!」

 

 その合図と共に刀を抜き、構える。

 そして────

 

「ゆけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 一斉に戦地に駆けていった。

 それぞれが役目を果たしに向かう中、俺は一人この空気を感じていた。

 そこかしこで感じる殺気の数々。中には有り得ないほどの殺気を感じるところもある。

 やっぱ戦場はこうでないとな。んじゃ、此方もおっ始めるか!

 久々の命の駆け引き、それを全身で受けつつ、俺は吉良邸を駆け抜けだした。

 

「この! 曲も───」

 

「邪魔」

 

「かぁぁっ───!?」

 

 吉良邸へと足を踏み入れた所で吉良家の家来と思われるオッサンが俺に切りかかって来るも、俺は焦ることなく、すれ違い様にその首を切り裂いていく。

 

「ふむ。温いな」

 

「この!」

 

「ん?」

 

「狼藉も──」

 

 再び家来と思われるオッサンが切りかかってくる。

 が、

 

「遅い…」

 

「かぁ───!?」

 

 俺に適うはずもなく、ズバッと喉元を捌かれ直ぐに何も言わなくなる骸へと姿を変えていった。

 

「やっぱり温いな」

 

 何がではなく、全てが温い。

 禁止区域では殺すだの死ねだのが日常的で、そこの連中は馬鹿みたいに殺すことに躊躇無かったのに対して、ここの家来共は殺すのに慣れてないのか中途半端な殺気しか出していない。これでは自分から殺して下さいとお願いしてるようなのと同じだ。呆れて欠伸が出てきちまう。

 せめてもう少し骨があると助かるんだけどな。

 

「まっ、仇討ちに俺の欲求を発散させるのが間違いか」

 

「き、貴様ぁ───!」

 

「っの野郎!」

 

 仲間が斬られたことに対しての怒りか、今度は二人係でこちらに向かってくる。

 しかし、

 

「ふん、雑魚が」

 

 スパァン! ザンッ!

 

 数が増えたところでやはり雑魚は雑魚。

 まるで抵抗など感じさせないような両断音を発して、

 

「かへぇ!?」

 

「ヘラァ?」

 

 再び骸を生産していく。

 やれやれ、どうやらしばらくはこんな雑魚を相手する必要があるみたいだな。

 

「さて、一応内蔵助から頼まれた仕事をやりますかね」

 

 ある程度家来をぶった斬った俺は戦線を離れ、とある場所に向かった。

 

 走ること数分。

 ようやく目的の場所に到着した。

 吉良邸、隣家。

 土屋主税邸。

 討ち入りは夜中。当然ながらそんな時間に大きな音を出せば近隣住民は騒然して最悪の場合吉良に味方する可能性もある。

 だから事前に挨拶を入れて黙秘してくれって訳だ。

 

「よし。んじゃやるか」

 

 屋敷の塀を飛び越え、中庭に降り立つ。

 

「な、何奴!」

 

「……………」

 

 すると目の前には二人の女性がいた。

 片方は凛として俺の登場に驚いていない。対してもう片方は慌て、凛と構えている女性の前に立っている。

 どうやら凛と構えているのは当主である土屋主税みたいだな。

 なら、好都合だ。

 

「我ら、旧赤穂藩! 浅野内匠頭の家来だ」

 

「…………む」

 

 俺の身分に女性は目を細めてくる。

 まっ、良かれ悪かれ赤穂浪士は有名だからな。

 

「土屋家には一切関わることはない。だから、ここは見逃してくれないか」

 

「……………」

 

 明らかに交渉どころか頼みですらない俺の言葉に女性は無言で貫いてくる。

 無論ここで俺も引き下がれる訳もなく色々含めて無言で返す。

 何時までも続くかと思われる膠着状態。

 やがて、

 

「ふっ…………頼みに見えて逃げ道が無いではないか」

 

 女性の方が折れて終着となった。

 いやまあ、しれっと出してたのがバレたか?

 

「相判った! 亡き主君の為、思う存分に働くが良い! 但し! 我が屋敷に逃げ込んだ者がいれば! 浅野家! 吉良家! そのどちらであっても容赦なく切り捨てる! それで、よいな!」

 

「ふっ、願ったり叶ったりだ」

 

 よし、これで邪魔されることはないな。

 両名に頭を軽く下げた後、俺は再び吉良家へと走り戻っていく。

 

……………

 

………

 

 

「殿………本当によろしかったのでしょうか?」

 

 赤穂浪士の青年が去った後、家来が私を心配してかそう訪ねてくる。

 

「ふっ、あの場でそうしてなかったら私たちの首は繋がっておらぬよ」

 

「!? と、殿! それは一体」

 

 私の言葉に驚愕の表情を向けてくるが、今はそんな暇はない。

 すぐさま私は指示を出す。

 

「それより太刀を持ってこい。それと提灯を塀の上に灯せ」

 

「提灯をですか?」

 

「今申した通りだ。この塀を乗り越える者は何人であろうと切り捨てるとな。判ったな?」

 

「はっ!」

 

 家来は言葉通り動き出し、提灯に灯りを灯し始めていく。

 

「ふっ……大石め、あんな者を差し向けてくるとは」

 

 青年のことを思い出し、ここにはいない大石内蔵助に敬意を送る。

 まさか、私が死を覚悟するような者が来るとは思っても見なかったぞ。

 一歩間違えば対立の道。そんな中、大石はあのような青年を送ってきた。絶対に邪魔をするなと意味を込めてだ。

 そこまで決死の覚悟とは。

 ならば、

 

「大石、必ず仇討ちを成功させろよ」

 

 応援するぐらいは、構わぬだろう。

 

……………

 

………

 

 

 ん? なんか凄い勢いで勘違いされているような気がする。まぁいいか。俺には関係ないし。




仇討ちは三部構成でお送りいたします
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