キセキの忠臣蔵   作:あるく天然記念物

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どんどん投下していくぜ~


第二話 播磨国赤穂

 江戸時代にタイムスリップしてから一週間が経過した。

 その間に可能な範囲で色々と調べては見たが、未だにこの時代に来た原因も、元の時代に戻る方法も見つかっていない。

 いや、原因については赤司様の頭を使い、いくつか予想がついていた。

 この時代に来る前にいた泉岳寺。そこで引いた大大凶の神籤。日蝕。これら三つが関係してくるのであろう。泉岳寺の巫女さんは、元日に大大凶の神籤が引かれたのは元禄十四年以来だと言っていた。そして偶然か必然か、俺のやってきた時代も元禄十四年。偶然にしては出来すぎている。そこら辺を調べたら何かしらが分かるだろう。

 

「では、行ってくる」

 

「私も行って参ります」

 

 朝、巳の刻(午前九時)に長助さんとエモシチは仕事のために城に向かう。当然のごとく時計のないこの時代は、寺からなる鐘の音きき、おおよその時間を知るという仕組みらしい。

 二人の帰宅はその日によってバラつきはあるが、大体申の刻(午後四時)を過ぎると戻ってくる。

 それをふまえると、現代の公務員の雛型は江戸時代なのかもしれない。

 時間の表記が気になる人がいると思うから説明しておくと、江戸時代では干支を使って時間の単位を表している。一つの干支に二時間の意味を与えることで、二十四時間を表せるのだ。申の刻と言ったが、あれが四時から五時を表すというわけだ。

 

「ああ、すまんがエモシチ、少し頼みごとがあるんだが」

 

「はい? どうしましたから? 直刃しゃん」

 

 長助さんと出かけようとしたエモシチを引き止める。

 そしてちょいちょいと手を拭り、こちらにきてもらう。

 

「いや、記憶喪失とは言え、さすがに何時までも養生するわけにもいかんだろう。ましてや長助さんと同じ仕事をしていたのならなおさらだ。だから、一刻だけでいい、何時かは復帰できるように、俺に読み書きを教えてはくれないか?」

 

「え? べ、別に右衛門七はかまいませんが」

 

「なら頼む。何時までも迷惑は懸けたくはないからな」

 

「そうですか。わかりました。なら、変わりに直刃しゃんは、右衛門七の稽古を手伝ってください」

 

「あぁ、かまわねぇよ。それと気をつけてな」

 

「はい。では直刃しゃん。しっかり養生するんですよ」

 

「わかってるよ」

 

 それからエモシチを見送った後、無垢、絹、小夜の少女三人組と凧を作ったり、るいさんの畑作業を手つがったりして過ごした。

 その途中小夜が年の割には達観してセリフを喋ったことに今後の将来が心配になったが。

 

……………

 

………

 

 

「ただいま、戻りました~!」

 

 夕刻を知らせる鐘の音と共に、エモシチが戻ってきた。

 

「おぉ、お帰りエモシチ」

 

「おぉ、姉上、お帰りなのだ」

 

「姉上、お帰りー」

 

「お帰りー」

 

「あ、直刃しゃん、ただいまです。それに小夜、無垢、絹もただいま。それと直刃しゃん、読み書きの練習はお風呂の薪割りが終わってからでよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、ちょい待ち、エモシチ」

 

「はい?」

 

 エモシチはそう言って薪のある家の裏に向かおうとしたが、俺はそれを止めた。

 

「あいや、薪割りなら俺が済ませておいたぞ」

 

「そんな……薪割りなんて直刃しゃん? 大丈夫でしたか?」

 

 エモシチは俺が無事が確かめるように見てくる。

 なんだ? たかが薪割り程度で心配されるんだ?

 

「そこまで大変な作業でもないし、家にいるだけではつまらないからな。それとエモシチ、読み書きの練習の事なんだが」

 

「はい、薪割りは直刃しゃんがしてくれたので、右衛門七が焚きますから、お風呂の後でよろしいでしょうか?」

 

 張り切って読み書きを教えようと意気込むエモシチ。

 

「いや、必要が無くなったから気にしなくていいぞ」

 

「え!? ま、まさか、す、直刃しゃん! 記憶が戻ったのですか!?」

 

 エモシチが凄い勢いで俺に詰め寄ってくる。

 ち、近い、近いって。

 

「いや、そういうわけではないのだ」

 

「そ、そうですか」

 

 あからさまに肩を落とすエモシチ。物凄い罪悪感を感じるのは気のせいだろうか。

 

「で、では必要がないとはどういう意味なのでしょうか?」

 

「ああ、昼間に小夜に手伝ってもらってな。殆どの言葉を覚え直したのだ」

 

「え?」

 

「姉上、やはり直刃は凄いのだ。私が教えたこともあるが、一刻もしないうちに読み書きが本当にできるようになったのだから」

 

 突然会話に入ってきた小夜が補足説明をする。と言うか小夜、何気に自分の評価を高めるなよ。殆ど赤司様と海斗さんの頭脳のおかげに決まっているじゃないか。

 実際二人の頭脳がこの時代の読み書きの習得に置いて大きく貢献している。

 一目見ただけで瞬時に理解して、現代の言葉に訳せることができ、今では達筆とまでは……あるか、読むのも書くのも完璧だ。

 誠に二人には頭が上がりません。

 

「え? え、え?」

 

 言っていることが理解できないのか、エモシチは目は点にしたまま微動だにしなくなった。

 

「と言うわけだ。明日からは俺も長助さんと仕事できそうだ」

 

「は、はい?」

 

……………

 

………

 

 

 それからエモシチが焚いてくれた風呂に浸かりつつ、エモシチと前の直刃について話をした。

 会話の終了と同時に少女三人組が風呂場に乱入してきて、前の直刃は洗ってやったそうなので俺も三人を洗ってやった。ちなみに小夜の胸は姉のエモシチよりも大きいそうだ。

 何故か小夜の顔が終始紅かったのは気のせいだろうか? まぁどうでもいいか。

 それと、エモシチの話曰く、前の直刃は聞き上手で優しく、武士でありながら剣術より学問の得意な人とのこと。少なくとも薪割りを片手間にこなせるような人間ではない話を聞いて驚いたのは内緒だ。

 薪割りをやっている最中、地味に身体が鈍い感じがしたのはこれが原因か。まあそこら辺は海斗の肉体操作技術と紫原の肉体でカバーしたが。要は、使い方さえ理解できれば持続力以外は問題ないからな。果てしないほどに筋肉が痛んだけど。

 しかし、現代に俺が戻ってきた後、この時代の直刃が意識を取り戻し、恐ろしいまでの肉体改造が施された肉体を見たら、驚くだろうな。

 そう思うと、結構取り返しのつかない事をしている気がする。まっ、俺が気にしても仕方がないか。

 

 何時かは帰れる現代に思いを馳せ、今日も一日が過ぎていった。

 

……………

 

………

 

 

 それから日も明け、再び数日が過ぎた。

 未だに手がかりはつかめていない。

 と言うのも、記憶喪失と偽っているため、幽閉されることを気にされた長助さんが俺の外出を認めず、基本的にここ数日前まで家の周辺から出てこれなかったのだ。

 また、字の読み書きを覚え直して長助さんと一緒にお役目をして情報を集めようにも、記憶が戻ってないことを理由に養生を余儀なくされた。

 そして極めつけは、一番手がかりのありそうな泉岳寺。そこに向かおうにも、現在地点はここ、播磨国赤穂。対して泉岳寺があるのは天下の地、江戸。現代で表すのなら、兵庫県から東京まで。その旅にかかる日数、凡そ二十日。明らかに片手間で行けるわけもないし、記憶喪失設定で家からなかなか出させてもらえなかった俺だ、行けるわけがない。

 よって、ここ数日まともに情報が収集できなかったのである。

 

 そして現在、俺はようやく長助さんのお許しがでて、数日前から城下町に探索に来ている。

 ほぼエモシチの助力によってだけど。

 記憶喪失とは言え、何時までも家にいては戻るものも戻らないとエモシチが長助さんに口添えしてくれたのだ。

 ほんと、ありがとな、エモシチ。

 

「ここが城下町か。かなり賑わっているな」

 

 視線一杯に広がる江戸時代の町。

 街路字に行き交う人々は皆着物を着ている。

 その中には刀を腰に差している人もちらほらいて、割合としては女性が多い。

 その光景に、自分の知っている江戸時代では無いのだと感じさせる。

 

「はい。ここ赤穂は、赤穂塩の生産で大きな利益をあげている国なのです。ですので皆の生活は他の藩と比べても各段に上です」

 

 エモシチはまるで我が事のように胸を張る。まあそんなに張れる胸はないのだが。

 

「なんか、直刃しゃんから罵倒された気がするのが」

 

「そんな訳ないだろ」

 

 しかし、そのエモシチの言うとおり、ここ赤穂の城下町は本当に活気が溢れている。すれ違う人には笑顔が溢れていることが何よりもの証拠だ。

 だが、俺には一つの懸念があった。

 それは、赤穂と言う国の将来だ。

 俺の記憶が確かなら、この赤穂は混乱の渦に陥ってしまう。

 赤穂浪士、忠臣蔵。

 これらの出来事は赤穂が関係してくる。

 テストに出ないことや、あまり興味が無かったため詳しく調べようとしなかったことが仇となり、俺は忠臣蔵の発端となった松の廊下での事件の詳しい日取りを知らない。

 知っているのは、元禄十四年に松の廊下での事件があって、翌年元禄十五年に忠臣蔵の討ち入りがあったという事だけ。

 その時に俺はどうするべきなのであろうか。

 

「…………しゃん」

 

「………………」

 

「直刃しゃん!」

 

「ん? なんだエモシチ」

 

「もう! なんだ? じゃありませんよ。先ほどから何度も呼びかけていますのに」

 

 子供みたいにむくれてエモシチは俺を見つめている。

 どうやら深く思考しすぎていたようだ。

 

「すまんな。少し考え事をな」

 

「考え事ですか?」

 

「いや、たいしたことではないから、気にする必要はないぞ」

 

 まっ、今気にしたところでどうにかなるわけでもないし、なるようになるさ。

 それに、どんな状況になろうと、俺は逃げることだけはしないだろう。

 神籤で書いてあった『決して逃げてはならぬ』と言う言葉。

 こんな有り得ない出来事にある意味干渉してきた物だ。絶対に何かが関係しているはずだ。

 それに神籤の言葉だけじゃない。記憶喪失となった俺を心配してくれた上に面倒まで見てくれた矢頭家の人たちにはかなりの恩がある。若干行き過ぎているきもするが、それはそれ。どんな恩であれ絶対に返す。俺の信条だ。

 じゃなきゃ、顔向けできねぇ人が四人ばかりいるからな。

 不適に笑う赤髪の少女と男装した麗人、若社長に赤い染みの付いた釘バットを振り回す男が脳裏をよぎった。

 

 ……………………最後のは忘れよう。

 

 それからエモシチと街を散策したが、何一つ得られるものはなく、帰宅することとなった。

 

「ん? なぁエモシチ、この先には何があるんだ?」

 

 その道中、山の中へと続く石段を発見した。

 

「あっ、これですか? これは神社に続く石段ですね」

 

「神社……か」

 

 寺ではないが、同じ神やら仏を信仰している場所。何か手がかりがあるかもな。

 

「すまんエモシチ、少し神社に寄っていってもいいか?」

 

「あ、すみません。右衛門七、そろそろ家に戻って母上の手伝いをしなければならないので、直刃しゃん一人になってしまいますが……」

 

「かまわねぇよ。それに家までの道のりは覚えたし」

 

「そうですか。なら、暗くなる前には戻ってきてくださいね」

 

「あぁ、わかった」

 

 エモシチと別れ、俺は石段を登っていく。

 

「到着───っと。相変わらずこっちの直刃の体は重くて適わなわねぇな。おかげで筋繊維の何本かはあの世に行ったぞ」

 

 軽い気持ちで石段を駆け足で登ったら思いのほかキツく、これはいい練習になると思い、さらにペースを上げて登って来た結果、思いのほか早く目的地についたが、代償として俺の両足の筋肉が多大なるダメージを受けた。

 常人では動けなくなるであろう激痛が今も走っている。だが、あいにく俺は痛みにはかなりなれているので、この状態でも普通に動ける。

 慣れって怖いね。一回ビル飛び降りの特訓を受けたら、殆どの痛みという痛みに耐性ができちゃってるもん。ここにタイムスリップする前だって、なんか胸が痛いなーでも大丈夫だろ、なんて思っていたら、実は肋骨が何本か折れていた時もあったし。親にかなり怒られちゃった。

 もう一度だけ言うぞ、慣れって怖いね。

 

「さてと、神社に来てみたものの───ん? へぇ……」

 

 情報を探すも、何を探したらいいのか考えようとした俺は面白いものを発見した。

 

「せい! せいッ!」

 

 赤い短髪の少女が、境内で素振りをしている。

 その後景に思わず俺は目を奪われた。

 その素振りが美しいとか、プロ顔負けの錬度だったとか、そんなんじゃない。

 ただ、ひたむきに、一心不乱に稽古している姿が、まるで絵のように見えた────なんて事もない。

 ぶっちゃけ、練習の効率が割と真面目に悪いなーと思い、目が離せなかった。

 

「ん? そこに誰かいるのか?」

 

 おっと、どうやら練習メニューとか考えていたら、気づかれたみたいだ。

 まあもともと隠れる気もさらさら無かったので、俺は素直に物陰から出る。

 

「と、稽古中にすまんな」

 

「お前は……たしか、直刃だったか?」

 

 どうやら彼女は俺の事を知っているようだ。

 

「確かに俺は直刃たが。なんだ? 俺のことを知っているのか?」

 

「まあな。何度か城下で右衛門七と一緒に歩いているところを見かけたことがある。だが、こうして話をするのは初めてのことだな」

 

 話によると、なんでもこの少女はエモシチと同じ剣道場に通っているとのこと。

 なるほど、それなら納得だ。

 

「それで、その直刃がどうしてこんな所にいるのだ」

 

「いや、少しこの神社に用があってな」

 

「こんなところに用事があるのか?」

 

 不思議そうな表情を見せる少女。

 確かに目の前にある神社はかなり小さいく、こんなところに用事がある人間なんてそうそういないだろうから、不思議に思っても仕方がないだろう。

 おそらく、この神社には手がかりどころか、神籤すら売っていないだろうな。

 とんだ無駄骨である。

 

「だが、その用も終わったところだ」

 

 正確には無駄足となった、だけどな。

 

「で、君こそ、どうしてこんなところで稽古しているんだ?」

 

「む………」

 

 俺の質問と同時に、少女の纏っていた雰囲気が変わった。

 先ほどまで纏っていた温和な物ではなく、冷たいものに。

 あれ、なんか地雷でも踏んだか?

 

「なんだ? 私がここで稽古をしたらいけないとでも申すつもりか?」

 

「いや、そういうつもりじゃないが、剣道場に通っているのにどうしてこんなところで稽古してるのか気になっただけさ。それに、そんなに可愛いんだから、こんな人気の無いところで稽古なんて危な……」

 

「!? お、お前! 今、何と申した!?」

 

「え? だから、可愛いんだから」

 

「………………」

 

 俺の言った言葉がしゃくに障ったのか、少女の纏う雰囲気がさらに悪くなり、敵意をむき出しにる。

 あれ? なんか面倒な空気になってきやがったぞ。なに、誉めたら怒る子だったの? どこの薫だよ。

 そんな少女は怒気を含んだ声を発した。

 

「貴様! 武士に向かって可愛いなどと申すな!」

 

「え……?」

 

 どうやら可愛く思われたくなかったようだ。おかしいな、小夜達には言っても喜ばれたと言うのに。やはり薫と同じタイプなのだろうか。

 

「ふむ。気分を害されたのなら謝るが、君は自分の言葉が矛盾していることに気づいているか?」

 

「なんだと?」

 

「可愛く思われたくないのなら、なぜ女を捨てない。君の言う武士なら、たかだか可愛いと言われただけでそこまで怒るとは思えないが?」

 

「なぁ!?」

 

 俺の指摘に女性は肩を震わせる。

 どうやら完全にキレてしまった様子だ。

 何でキレられるの? 確かに言い方は悪かったと思うけどさ、見た目といい明らかに女の子の姿だと言うのに。

 ほんと、この世界の武士の価値観はわからん。

 

「要するにお前はこう言いたいのだな? オナゴである私が熱心に剣術の修行をしているのが滑稽と思うておるのだろ?」

 

「何でそんな話になるんだよ…」

 

「まぁ、良い。そこまで申すなら私にも考えがあるぞ?」

 

 少女は一旦神社の方に向かうと、何かを手にしてこちらに戻ってきた。

 あれは───竹刀か。

 

「ここに………ちょうど、予備の竹刀がある」

 

「それ以外に見えたら医者を呼ぶな」

 

「貴様も竹刀を持って、滑稽と思う女の私と剣術で勝負しろ」

 

 俺のボケは無視ですか。

 少女は俺に向けて竹刀を放り投げてきた──っておい、いくら真剣ではないとは言え武士が得物を放り投げるなよ。

 

「勝負……ねぇ」

 

 俺はその竹刀を受け取りつつ、この状況をどう穏便に済ませようか考える。

 こういったタイプの場合、下手に手加減でもした日にはさらに突っかかって来るのは必然。かと言って本気を出してもやり直しだとか色々難癖を付けてお流れになるのも必死。

 ならば、俺の取るべき道は一つ。

 

 

「なんだ? もしかして、滑稽だと思っていた女の剣術に恐れをなしたか?」

 

「いや、そうじゃない。ただ………」

 

「ただ?」

 

「お前、いつまで無防備に構えているつもりだ?」

 

「何を言って─────えぇ!?」

 

 少女の目が驚愕の物と変わる。

 それもそのはず。

 なぜなら、俺と少女の距離は既に手を伸ばせば届くまでに近づいていたのだから。

 

「き、貴様、いつの間───」

 

「さぁて、いつだろう、なッ!」

 

「!?」

 

 俺は竹刀を振り上げる。

 その様子に少女は恐怖のせいか、思わず目をつむった。

 そんな無防備な少女に向けて俺は竹刀を───

 

「……………………は?」

 

 ───振るうことなく、少女の目の前に置いてさっさと神社を後にし、家に帰った。

 黒子の能力を無駄にフル活用して。

 今なら隠密を本業としている人からだって逃げきれるぜ。

 これぞ俺が取るべきただ一つの道。

 その名も逃走。

 こんな勝負につき合ってられるか。アホらしい。

 

『き、貴様! 逃げるとは何事だ! それでも武士かぁ!!』

 

 帰り道、そんな少女の叫びが聞こえたが、気のせいだと思いみ、家へと急いだ。

 仕方ねぇじゃん。俺武士じゃねぇもん。

 

 そして家へと帰った俺は、一応自分の感性がおかしかったのか知るために、エモシチと小夜に可愛いと言った。そしたら案の定二人は顔を真っ赤にしてうれしがっていたことから、俺の感性は正常だと判断でき、あの場では俺ではなく、やはりあの少女の感性はどこかおかしかったようだ。

 やはりこの時代の武士の価値観はわからん。

 

……………

 

………

 

 

 それから迎える次の日。

 この日も情報収集に時間を費やすも、結果は惨敗。これはいよいよ持って江戸に行く必用があるかもしれない。

 そしてそんな俺は現在何をしているのかというと、

 

「さぁ! 直刃しゃん! 早く竹刀を持ってください」

 

「何で稽古なんてしてるんだろうな」

 

 エモシチと共に剣術の稽古っぽい何かをしている。

 と言うのも、エモシチは今日、稽古の時間を割いてまで俺に町案内をしてくれて、その穴埋めとして俺がエモシチの稽古の相手をすることとなったのだ。

 そしてエモシチの剣術の実力は稽古場において上から三十番目の実力だという。下から数えたら一番になるが。

 そして悲しい事に、この時代の俺はそんなエモシチとどっこいどっこいだという。マジで剣より筆の方が得意だったみたいだ。

 

 それからエモシチと剣術の稽古と言う名の戯れをすること数分、エモシチが自分の竹刀で頭を強打したところで、思わぬ来客があった。

 

「右衛門七~!」

 

「ん? …………えぇ……」

 

「あっ! 唯七しゃん! それに松之丞しゃん!」

 

「よぉ! 今日は稽古場に来なかったからどうしたのかと思ったぜ! それと直刃も久しぶりだな!」

 

 一人は活発そうな女の子。そしてもう一人は、

 

「おい、昨日は世話になったな?」

 

「なんでここにいるんだよ………って、そう言や、エモシチと同じ稽古場だったっけ」

 

 昨日俺に難癖つけてきた女の子が来た。

 

「右衛門七? この男、お前の家で生活を共にしている深海直刃だな?」

 

「は、はい…………そうですが。それが何か」

 

「この男………昨日、神社の境内で一人稽古している私を愚弄した」

 

「え!?」

 

「まさかの脚色とは、お兄さん驚きだよ」

 

「貴様、忘れたとは言わさんぞ。貴様は昨日、この私のことを女だとバカにしたではないか」

 

「おかしな。俺お前のこと女だって一言も言った記憶無いのになぁ」

 

 捨てろとは言ったけどさ。

 

「直刃しゃん! 今すぐ松之丞しゃんに無礼をあやまってください」

 

 エモシチが血相を変えて俺に詰め寄ってきた。

 なんでも、松之丞とやらご家老の長女。つまり、赤穂において二番目に偉い人の娘だそうだ。

 そして、誰よりも性別のことに関して言われるのが何よりも禁句だと。

 

「………なるほど。だが、権力に屈して謝るのは癪だ。そこまで俺は落ちぶれちゃいねぇよ」

 

 てか、その話を聞いても俺が悪い理由にはならんぞ…………身分の差は甚だしいが。

 

「す、直刃しゃん!」

 

「ほぉう。そんなに私を愚弄したいのか」

 

「だが、ここでエモシチに迷惑をかけるわけにもいかねぇ。だから、どうしてお前の癪に触ることを話してしまったのか、その理由を話す」

 

「す、直刃しゃん!?」

 

 理由となった事。それは即ち、記憶喪失だと明かすこと。しかもその相手はご家老の娘。つまり、即刻乱心者扱いからの幽閉に繋がる事もあり得るというわけだ。

 そのためか、エモシチ先ほど以上に顔を真っ青にさせる。

 

「理由だと?」

 

「俺、実は記憶喪失なんだ」

 

「は?」

 

……………

 

………

 

 

 真実を話すと、意外にも彼女は素直で、無礼を水に流してくれた。

 どうやら彼女の評価を改める必要があるのかもしれないな。

 だが、問題はそれで終わりにはならなかった。

 なぜなら、

 

「おい! 逃げるな! 私と戦え!」

 

「嫌だね。そんな面倒な事はお断りだ」

 

 竹刀を片手で振り回す彼女に追いかけられています。

 というのも、どうにも彼女は俺が勝負を濁したことが気に食わなく、再戦を申し込んで来たのだ。

 当然ながらそんな面倒な事を俺がするわけもなく、てきとーに濁して逃げたら、今度は竹刀片手に追いかけて来たというわけだ。

 傍迷惑この上ないな。

 いやまぁ、遊び心で技法を使った俺も悪いっちゃ悪いんだけどな。

 使った技法? ヒントは沖縄武術だ。

 

 かくして俺には、エモシチたちとは別に、記憶喪失を知る友人が二人できた。

 




オマケ 人物紹介

深海直刃 主人公

基本的スペックは暁の護衛時代の時と同じ。だだしルックスは直刃の侍としての魅力もプラスされ、もやはハリウッドスター顔負けのイケメンになっている。考えや思考は朝霧海斗のもを受け継いではいないが、たまに抜けきれてないのか海斗のようなさぼり癖やしゃべり方も出てくる。というか出まくっている。しかし、思考回路の基本は深海直刃が基準となっている。
特典は同じ。とにかくヤバいくらいの現代チート人
普段着は銀魂の高杉晋助と同じ着物と攘夷志士だった頃の戦闘服

CV お好みで。オススメは梅原裕一郎
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