キセキの忠臣蔵   作:あるく天然記念物

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いざっ! 尋常に勝負!


第二十話 激戦! 吉良家最強の家臣対赤穂最強の天帝

 

 さて、役目を終えた俺はすぐさま吉良邸に戻ってきたわけだが、目の前に広がる光景に少し唖然とした。

 

「おやおや、ようやく坊やのご登場かい?」

 

「………す、直刃……わりぃ」

 

「…………直刃……すまない……」 

 

 たった一人の女武士に赤穂のトップ二とも言える二人が負けていた絵柄に……

 いや、違うな。本当に注目したのは、少なくとも負けるとは思っていなかった二人を倒した女武士、清水一学とその彼女が纏う雰囲気にだ。

 おかしい。

 明らかにおかしいのだ。

 前に会ったときはそこまで強い者では無かったはず。

 それが何故ここまで進化しているんだ。

 その謎を探るために注意深く一学を見たら、直ぐにその理由を見つけることができた。

 ん? 瞳が……赤い………まさか……だとしたら、二人が負けるのも当然だな。

 

「数右衛門、安兵衛、選手交代だ」

 

「……直刃…」

 

「…………頼む」

 

「あぁ、安心して下がっとけ」

 

 俺は二人の元に行き安全な場所に下がらせた。

 俺の予想が確かなら、巻き込む恐れがあるからな。

 二人が安全な場所まで下がったのを確認し、改めて一学と相対する。

 俺が前に出るのを確認すると、一学は赤い瞳を楽しげに緩ませた。

 

「あら、坊やが直々に相手するのかい? なんなら下がらせた二人も一緒で構わないわよ?」

 

「そうかい。だが、一つ質問があるから答えてくれねぇか?」

 

「なんだい? あたしは今すごく機嫌がいいから答えてあげるわ」

 

 「そいつは良かった」と前置きし、俺は最初から確信に迫る。

 

「お前、なんか呪い的な物にかかってるだろ」

 

「…………へぇ、分かるんだ」

 

 やはりか。明きからに纏っている雰囲気が禍々しいから、もしやとは思っていたが。つーか赤い目なんて怪しさ満点だったし。

 

「そうよ。あなた達を返り討ちにするために私はこの力を手にしたわ」

 

「………一応聞くが、誰からだ?」

 

「そうさねぇ。私も名前までは知らないわ。ただ、可愛い女とでも言っておこうかしら」

 

 なるほど。どうやらその女こそが俺をこの時代に呼び寄せた直接的原因なのかもしれん。

 初めの内は荻生が怪しいと踏んでいた。だが、それでは引っかかる点があった。それは、俺がこの時代に来るメリットが荻生に全くないこと。ただでさえ露見したら自分の首が危うい事をしているのに、わざわざ証拠になる俺を呼び寄せるのか? てな。そこで俺は二つの仮定をした。一つは完全なる事故。もう一つが、荻生以外の第三者が黒幕。この二つだ。後々そこら辺を調べようと思ってはいたが、一学のおかけで後者だって事が分かってしまっな。

 しかし女か。

 つくづく俺は女には運がないな。女難の相でもって出てるのか?

 まっそれでも此処で俺がする事は変わらんが。

 

「そうか……まあ何であろうと、俺はお前を斬り伏せて仇討ちを成功させるだけだ」

 

「あら残念。なら私は、あんたら全員を殺すだけさ」

 

 売り言葉に買い言葉。

 互いにもはやこれ以上の会話は不要とばかりに俺たちは刀を構える。

 一学は二刀を。

 俺は一刀を。

 

「………………」

 

「…………ふふ」

 

 一瞬か……あるいは永遠かに思われた睨み合いは、

 

「─────はぁっ!」

 

 俺の叫び声と共に終わりとなり、

 

「─────しっ!」

 

 ガキイイィンッ!!

 重金属の衝突音と共に、互いの刀の唾競り合いが闘いの開始を伝える合図となった。

 

「ちっ、てりゃ!」

 

 一撃で仕留めるつもりが、まさか防がれるとは。

 続けざまに俺は二、三と追撃をするも、

 

「うふふ──はぁっ!」

 

 カンッ! ギャリィンッ!

 軽い音を発し、一学の持つ双剣に全て弾かれてしまう。

 おいおい、マジかよ。

 通常二刀流というのは玄人向けのものだ。

 それは何故か。

 答えは至ってシンプル。普通なら両手で振り回す刀を片手で振り回す必要があるからだ。

 さらに言えば通常人は必ず右が左の方へ無意識の内に傾く。二刀を扱う上ではそれも矯正しなくてはならない。そうしなければバランスを崩してつけ込まれるからだ。

 しかし、もしそれらの条件を全てクリアしていたら、そいつは常人の約二倍の手数と戦力を手にできる。

 目の前の一学もその条件をクリアしていた存在だ。

 だが、そんな二刀流にも決定的な弱点が存在する。

 それは、最大の利点でもある片手で刀を扱う点だ。

 人間というのは片手の握力には限りがある。ましてや女ではその握力など五、六十あればいい方だろう。

 故に圧倒的力で刀を叩きつければ、必ず相手は刀を放すのは自明の理。

 だが、一学は違った。

 あの追撃の時、俺は避けられないよう青峰の柔軟な身体を赤司の頭脳で無駄のない加速で突っ込み、紫原の肉体からなる圧倒的破壊力で刀を振り下ろした。

 それだけの事はしたのだ、慢心はしないが、これで確実に仕留めたと思った。

 にも関わらず、一学は俺の刀を弾き返したのだ。

 つまり、ヤツは俺の動きについてこれる上に、俺の刀を弾き返したことから片手で俺の両手分の力があるって事になる。

 俺が言うのも何だが、マジで化けもんかよ。

 

「あらあら、お兄さん、もうお終いかい? なら、今度はこっちからだよっ!!」

 

「ちぃっ! こっ、んの馬鹿力が!」

 

 ギャリィインッ! キィイインッ!

 

 お返しとばかりに繰り出される剣劇の嵐。

 明らかに俺の力を上回っている。よもや、呪いとやらのドーピング効果がここまでとは。

 

 こうして剣を交わすこと数分。

 

「……はぁ、はぁ……ん、はぁー…いっつ……」

 

 攻撃をまともに受けるわけにもいかず、なんとか逸らし回避するのに思いのほか頭を使ったのか、荒い呼吸と共に若干頭痛がしてきた。

 

「おやおや。先ほどまでの威勢はどうしたんだい? まさか、もう終わりって事はないだろう?」

 

「はっ、ぬかせよ」

 

 さて、一学の挑発を返したはいいが、状況はちと面倒だな。

 若干満身創痍になりつつある俺に対して一学は呪いのおかげかピンピンしてやがる。

 

「ねぇ、お兄さん」

 

「なんだ?」

 

 強者の余裕のつもりか、勝負の途中に一学は俺に語りかけてきた。

 自分もしてきたことだが、されると腹が立つな。

 

「綺麗な雪だと思わない?」

 

「……確かに同意はするが、なにが言いたい」

 

「怖い怖い。でも、そんな綺麗な白い雪にお兄さんの血が彩られると思うとゾクゾクしちゃう」

 

 そう言うと一学は妖艶に笑い出し、唇を一舐め。

 うむ、薄々気がついていたが、コイツ、

 

「ふんっ。とんだサディストだな、お前」

 

「? さでぃすと?」

 

「いや、気にしないでくれ。正直に勝負に関係のない話だ」

 

 思わず現代の言葉を口に出していたが、マジでどうするか。

 はっきり言ってこのままだと勝てない。

 このままだと本当に俺の薄汚れた血をまき散らす羽目になる。

 しかし、そんな状況にも関わらず、俺の中に渦巻く感情は焦燥やら焦り、ましてや絶望なんかじゃねぇ。

 歓喜だ。

 ただただ、喜びの感情だけが俺の中に渦巻いていた。

 安兵衛の時の試合でもある程度は満足はできたが、今回はそれ以上だ。

 互いが互いに命を懸けてしのぎを削る。

 負ければ待っているのは死。

 これ以上無いほどのシンプルなルールの上、これ以上無いほどに本能が求める自然界の摂理そのものな闘争。

 しかもその相手は安兵衛や数右衛門を遥かに凌ぐ呪いの加護を受けた化け物ときている。

 ……面白れぇじゃねぇか。

 今までは面倒だったが、一学、テメェ相手なら、俺も少しは本気だしてもいいだろう。

 それに───二刀流も旨そうだ。

 俺は自身のスイッチを切り替え、ある構えをとる。

 

「───さーて、第二ラウンドといこうか?」

 

「!? …………へぇ、挑発のつもりかい?」

 

 俺の構えに一学はかなりイラついた表情をしてきた。

 そりゃそうだろう。

 何故なら俺は今現在二刀流で構えているのだから。

 ちなみにもう一本の刀についてはテキトーに吉良の家来から盗んできた。コレが結構良い刀なんだ。

 それと今は、隣の芝生が青くて仕方ねぇ。

 

「さあ、どうだろうな? ただ、これだけは言えるぜ。コレはもうお前の技じゃねぇから」

 

「そう。余ほどあたしを怒らせたいみたいだ、ねっ!!」

 

 最後の言葉と共に一学が襲いかかってくる。

 ブォオオオオンッ!

 まるで爆風のような音を響かせ、呪いにものを言わせた凄まじい攻撃を繰り出してきたが、

 

「ふっ─」

 

 ガキィンッ!

 常識はずれの音を発しながらも、今度は此方が何事もないかのように俺は受け流す。

 まるで先ほどの一学のように。

 

「おいおい、さっきも言ったが、コレはもうお前の技じゃねぇーよ」

 

「ちっ! きええええぇえっ!!」

 

 真似されて相当頭にきているのか、一学は怒りにまかせて刀を振り下ろしてくる。

 しかし、その動きは先ほどよりも少しだけぎこちなく、緩いものになっていた。

 当然ながら、そんな攻撃を俺が喰らうわけもなく、

 

 カァンッ! キィンッ! などの軽い音を鳴らし、

 

「どうした? 調子でも悪いのか? 動きが悪くなってるぜ」

 

 軽くあしらわれる。

 更に言えば、攻撃をする度に一学の剣劇に達人のみが持てるキレというものが無くなってきていた。

 いや、より正確には調子が崩れてきているの方がしっくりくるな。

 まるで本来の型を見失ったかのように。

 

 それから再び剣を交わし合うこと数分。

 今度は一学の方が満身創痍な姿をさらし始めた。

 

「ど、どういうことだい! あたしの技が……な、なんで!!」

 

 自分の思うように動けないことに一学は苦悶の表情を見せ、焦りが感じられる。

 長年自分の矛であり盾でもあった物がなくなりかけたらそうなっちまうよな。

 

「だがら何度も言ってるだろうが、もうコレはお前の技じゃねぇ。俺の技だ」

 

「だからどうしてなのよ!!」

 

 一学の心からの叫びが辺りに響き渡った。

 まるで我が子を取られかけた母のような雰囲気を感じさせるな。

 まあそんなことは俺の知ったことではない。

 しかし、このまま何も知らないのもある意味で可哀想だ。

 故に俺は冥途の土産として種明かしをしてやることにした。

 

「俺はな、見ただけで相手の技を完全に自分の物にできんだよ」

 

「み、見ただけで……」

 

「そう。《確実完全なる強──てっ、あれ? 英語は通じないんだっけ。なら、俺はこの技を確実完全なる強奪と、そう呼んでいる」

 

「……確実完全なる強奪」

 

「そして、この技の最も恐ろしいのは、模倣ではなく、自分の物にしちまう所だ。つまり、俺自身に最も合った形にしてしまうんだよ。限りなくお前の技に近いようで全くの別物にな」

 

「………ま、まさか」

 

 俺の説明にこの技の恐ろしさに気がついたのか、一学は目を見開き、驚愕の表情に顔を染めてくる。

 そうさ、この技の最大の特徴は──

 

「見せられたら本人は無意識のうちに俺の技を自分の技だと誤認してしまうのさ。なにしろ、ほぼ九割が自信の型にそっくりなんだからなぁ。その結果、本来の自分の形を忘れ、最終的には使えなくなっちまうんだよ。今のお前みたいにな」

 

 コレこそが俺の持つキセキの世代の能力の中で最も最強なる才能──強奪だ。

 灰崎の持つ強奪とは打って変わり、何であれどんな物であろうと俺は完全によって盗むことができる。

 そして、盗まれた相手は俺の自分に最適化された技を見て、勝手に自爆していくのさ。自分の技と俺の技を一緒くたに見てしまってな。

 さらに言えば、今の俺の強奪は本当に盗みきれる。つまり、盗まれた相手は二度とその盗まれた技を使うことができない。俺のより洗練された完璧な技を自分の技だと誤認して脳裏に焼き付けてしまうからな。

 だからこそ、この技が俺の本気であり、秘蔵の奥の手ってワケだ。

 

「さてと、種明かしも終わったことだし、そろそろ終わりにしようか」

 

 一学と戦って既に結構な時間が経過している。

 そろそろ決着をつけるべきだな。吉良を探さねぇと。

 

「……………いいわ。例えあなたが盗んだとしても、それを超えていくだけよ」

 

 吹っ切れたのか、或いは考えないことにしたのか、再び戦意を取り戻した一学は俺に刀を構えてきた。

 その瞳に揺らぎなど微塵も感じさせない。

 仕切り直しってわけか……最高だぜ。

 

「へぇ、面白い。なら、死ぬ気で来るんだな。そうすればこの身に届くやもしれんぞ?」

 

 俺も構え直し、一学と向かい合う。

 

「………………」

 

「………………」

 

 沈黙が辺りを包み、神経を研ぎ澄ませる。

 恐らく、勝負は一瞬で決まる。

 限界まで集中力を高める両者。

 そして、

 

「────はぁああっ!」

 

「────きええええぇえっ!」

 

 どちらか、ではなく気がつけば俺たちは同時に駆けだしていた。

 俺たちは共に間合いに入り、刀を交わす。

 互いが互いを殺す必殺の一撃を。

 

「──────!!」

 

「──────!!」

 

 ガキイイィン!

 

 とてつもない激突音を鳴らし、交錯し、互いに密着しあう両者。

 やがて迎えた結果は、

 

「……ふふ。やっぱり、お兄さんを超えられなかったか」

 

 その手に得物はなく、心臓に刀を貫かれた敗者と、

 

「ふんっ。王者たるこの俺をそう易々と超えられるわけが無いだろうが。知っているか? 決して負けることが無いから王者なのだぞ。覚えておくがいい」

 

 堂々たる態度で、その敗者の心臓を貫いている刀を手に持つ絶対なる王者を生み出した。

 そして、

 どすん! どすん! と、俺たちの傍に二本の刀が地面に突き刺さる。

 見紛うなき一学の刀だ。

 刀身に大きく罅が入っており、互いの衝突がどれほど凄まじかったのかが予測できる。

 

「ほんと………お兄さんって……人? 化け物の間違いなんじゃない? 鬼って言われたほうがまだ納得できるわ」

 

「阿呆。んなわけあるかよ。これでも人の子だ」

 

 あの交錯の時、俺は一学の攻撃を巻き上げで二本とも空に舞わせ、無防備な胸に刀を突き刺したというだけ。ぶっちゃけ凡夫には出来ない芸当だな。それでも一学がとっさに握り替えしたしたせいでこっちも本気で巻き上げたがら腕が疲れたぜ。

 

「……それにしても……あたしの剣じゃぁ……お兄さんには届かなかったかぁ……残念だわ」

 

 心臓を刀で貫かれているのにも関わらず、一学はまるで子供のように悔しがる。

 だが、その解釈は少し間違いだ。

 

「いや、届いていたさ」

 

 俺がそう口にした瞬間、

 パキンッ!

 突如として一学の胸に突き刺さっているのとは別の刀が砕け散った。

 まったく、二刀を一本で巻き上げたとはいえ、俺の扱う刀を砕くとは。

 ほんとすげーよ、あんたは。

 

「そう……なの。うれしいわぁ」

 

 その砕け散った刀を見た一学は嬉しそうに頬を緩めた。

 

「…さて、言い残すことあるか? 一応武士らしく聞くぞ」

 

 一学の胸からは止めどなく血が流れ出している。間違いなく、後数分であの世に旅立つ。

 だからこそ彼女の武士としての誇りを尊重して俺は訪ねる。

 すると一学は一度クスリと笑った後、

 

「そうねぇ……なら、また遊びましょう、お兄さん? 今度はあの世で待ってるから………それじゃ……またね、お兄さん……」

 

 とだけ言って目を閉じた。

 腕がダラリと落ち、段々と体温が下がっていくのを感じる。

 俺はそっと一学の遺体を地面に寝かせ一言。

 

「安心しろ。何時になるかは判らんが、あの世でまた遊んでやるよ」

 

 この時代唯一の好敵手との戦いは、振り返ってみるとあけっないほど簡単に終わってしまった。

 

「……お疲れ、直刃」

 

「やったな! 直刃!」

 

「安兵衛、数右衛門か」

 

 ふと気がつくと、傍に離れさせていた二人がいた。

 

「ほんとにすげーな直刃は! 俺や安兵衛が手も足もでなかった相手を倒しちまうんだから! しかも途中から見せたあの二刀流はなんだよ! いつの間に取得したんだ?」

 

「数右衛門、いきなり多くのことを聞くな。だけど直刃、よくやったな」

 

 二人に肩を叩かれ、激励の言葉を受けて自覚する。

 あぁ、久々に本気を出した闘争──あれほど楽しかった闘争は終わったのだ、と。

 しかし、ここで燃焼仕切ってはいけない。

 俺は気を入れ直し、二人に向き合う。

 

「あぁ。だが、これで終わったわけじゃない」

 

 そう。なにも俺は戦う為に吉良邸に来たわけではない。仇討ちのためだ。

 こんな所で無気力になっていては同志に笑われてしまう。

 

「そうだな」

 

「あぁ、さっさと吉良の野郎を見つけ出さねぇとな───!?」

 

 俺たちは互いに気合いを入れ直し、これから行こうとしたその時、

 ピィー! ピィー! ピィー!

 突如として笛が鳴る音が屋敷中に響き渡りだした。

 この音は、

 

「…吉良が………見つかったのか」

 

 その笛の合図は、吉良を発見した時に流す物、合図の呼び子であった。

 




ついに吉良との決戦へ
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