キセキの忠臣蔵   作:あるく天然記念物

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ついに悲願は果たされる


第二十一話 決戦! 吉良上野助対受け継がれた天帝

 それから急いで音の発信源に俺と安兵衛、数右衛門の三人で向かうと、そこには一人の老人を同志が囲っていた。

 

「…………………」

 

 老人は口を堅く結び、俯いている。

 この老人が……吉良なのか。

 ここにいる全ての同士が討ち取りたくてたまらなかった藩の仇が目の前にいる。

 事実である程度予想はできたけど本当にご老体なんだな。

 

「某、元赤穂藩の家老、大石蔵之助と申す者」

 

 皆を代表し、内蔵助がその老人に吉良本人かどうかを聞くも、老人は知らないの一点張り。

 そして内蔵助は、主税に浅野内匠頭がつけた傷があるか確認を取らせた。

 傷があれば吉良と判断する証拠とするためだ。

 

「御免っ!」

 

 めくられる着物。

 

『!?』

 

 驚愕に包まれる藩士一同。

 

 はだけたその背には、確かに一筋の刀傷があった。

 

「こいつが………」

 

「亡き殿の………」

 

「仇討ちの相手………」

 

 安兵衛、主税、エモシチの声がしんと静まり返った場に広がり、この場にいる四十六人の心は一つとなっていた。

 こいつが、本願である仇討ちの相手だと。

 これでようやく本願が達成できる、と。

 だが、そんな中、

 

「…………………何かいやーな予感がするんだよなぁ」

 

 俺一人だけは、そうは思えなかった。

 少なくとも、今日討ち入るのは吉良家も知っていたはず。いや、最悪あの荻生徂徠というクソ野郎も知っていたかもしれん。

 絶対に何かしら仕組んでいるに違いない。

 てか、神籤の呪いのこともある。

 少し注意した方が良さそうだな。

 

「その背中の傷こそ、我等の亡き主君、浅野内匠頭がつけた刀傷。やはり、そなたが吉良上野助で相違ありませぬな? ならば、その首………我等が貰い受ける」

 

 おっと、俺が思考している間に場面がえらく進展していた。

 というか老人を吉良だと断定してた内蔵助が今にもその首を跳ねようと刀を構えている。

 止め方がいいよな。

 

「吉良殿、お覚悟を」

 

「悪い! 少し待っても────」

 

 俺が慎重になれと口を開くが、奇しくもそれは、

 

「ふ、ふはははははははははっ!!」

 

 影武者の不気味な笑い声にかき消された。

 

 そのとき──

 

「ぬ!?」

 

「くっ、なんか仕掛けやがったな!」

 

 衝撃音と共に突如、影武者を中心に突風が吹き荒れだした。

 明らかに自然の仕業ではない。

 

「な、なんだ!?」

 

「くそ! 凄ぇ風だぞ!」

 

「落ち着け! 落ち着くのだ!」

 

 数右衛門を筆頭に皆があわて出すも、安兵衛が諫めていく。

 しかし、その努力も虚しく、ほとんどの藩士が突然のことに戸惑い出した。

 立っていられないほどの強風。

 考えられるなら、荻生徂徠が何かを仕組んでいたのだろう。

 マジでヤバいよな。

 このような非現実的な事に出会したことなど死んで神様に会ったことくらいしかないのだ。

 確実に非現実的な事が起こるにちがいない。

 

「さてと、鬼が出るやら蛇が出るのやら」

 

 やがて……風が止み、視界が元に戻る。

 だが、その時………俺たち赤穂浪士全員の目に飛び込んできたのは、

 

「!?」

 

「な!?」

 

「こ、こいつは」

 

「……………あぁ」

 

「これが……吉良?」

 

「一体、どうなってやがる………」

 

 俺たちにとっては悪夢のような光景。

 あまりにも人としての常識を乖離させた姿に内蔵助を筆頭に俺を除く誰もが息を呑む。

 

「ほぉ、鬼が出るのやら蛇が出るのやらとは言ったが、まさか蛇がでるとは思わなかったぞ」

 

 その姿とは、

 

「くくく………そう簡単に上野助の首を獲らせるわけには行かぬわ」

 

 巨大な白蛇を身にまとった青年が、そこにはいた。

 まさに物の怪。

 いやはや、マジで呪いの影響で物の怪がでてくるとはな。想していたとはいえ笑えんぞ。

 

「くくく…………」

 

「ふむ……」

 

 状況は芳しくない。

 明らかに自然の形成とは言えない白蛇を身に纏った吉良の姿に藩士の殆どが息を呑み、硬直し、戦意を喪失仕掛けている。

 まあ無理もない。歴戦の兵士だろうと、戦車を目の前にしたら果敢に戦おうと思える奴なんて滅多にいない。

 寧ろそう思える強者など蛮勇の愚か者か、本物の英雄ぐらいだ。

 しかしその時、

 

「皆の者! 臆するな!」

 

 本物の英雄である内蔵助の叱咤が藩士一同に降り注いだ。

 

「たとえ、相手がどのような者であっても! 我等のする事は唯一つ!」

 

「まっ、その通りだな。今更こんなことで止まってる暇もないしよ」

 

 内蔵助の叱咤に俺が同意すると、

 

「御城代の仰る通りだ! 我らの悲願まで! あと僅かだぞ!」

 

「よく見りゃ、物の怪とは言え一人だけじゃねえか! 全員で囲っちまえば、あっという間だぜ!」

 

 安兵衛や数右衛門といった強者も続いてゆき、

 

「お、おう!」

 

「おのれ! 上野助!」

 

「亡き殿を辱めた恨み! 今ここで晴らしてやる!」

 

 一人、また一人と、他の者達も戦意を取り戻していく。

 だが、続く一人の言葉により、事態は更に悪化した。

 

「ちょっと待て! 屋敷内の様子が変だ!」

 

「なに…………? ッ!?」

 

 いち早く安兵衛が屋敷の方に視線を向け、言葉を失う。

 つられて俺も視線を向けるとそこにあったのは、

 

「おいおい、反魂術なんてもんがこの世にあったとはな」

 

「………………ぅぅ」

 

「…………………へぁぁあ」

 

 討ったはずの吉良の家来が立っていたのだ。

 禍々しく眼を紅に染め、憎悪に顔を歪ませたままに。

 そして体を引きずり、一歩、また一歩と俺たちの方に向かってきている。

 その醜悪な姿はまさに悪鬼そのもの。

 

「ちぃ! なんて、夜だ………」

 

 この事態に数右衛門が愚痴をこぼしているが、まあ俺も同意だな。

 史実通りに討ち入りができるなんて思ってはいなかったが、ここまでの大事になるなんて誰が予測できるかよ。俺の内に眠る赤司様だって不可能だ。

 

「安兵衛! 数右衛門!」

 

 同士の皆が更に悪化したこの状況で戦意を喪失させる前に、内蔵助の指示が飛び出した。

 

「お前達は皆を率いて吉良の家人を討て!」

 

「───!?」

 

「心得ました!」

 

 その指示に数右衛門は同意するも、安兵衛は驚愕する。

 というのもその指示だと、

 

「御城代はどうするのですか! ま、まさか─」

 

「吉良は私が討つ!」

 

「!?」

 

 物の怪となった吉良をたった一人で討ち取るということに他ならないからだ。

 

「お前達は私に構わず敵を掃討せよ!」

 

「御城代───ふぅ、はぁ……わかりました。よいか! 皆の者! これが最後の一働きだ! 生き返った吉良の家来を斬って斬って、斬りまくれ!!」

 

『おう!』

 

 安兵衛の声に皆が頷き、各々が最後の戦いに挑んでゆく。

 さーてと、俺も最後の一働きをするかね。

 

「内蔵助、俺は助太刀するぜ。なに、向こうは安兵衛を筆頭によって名だたる武士がいるからな。それに、ある程度は予想できていたしな」

 

「うむ! わかった!」

 

 俺の助太刀はつっぱられる事なく受け入れられた。

 まあ、呪いの事など話している間柄だしな、当然といえば当然か。

 

「直刃? あの吉良の姿は呪いの影響なのか?」

 

「あぁ、おそらくは。しかし、ものの見事に物の怪だな」

 

「そうだな。直刃よ! 決して、討たれるでないぞ!」

 

「それはこっちのセリフだ」

 

 相手は物の怪。

 俺は予想していたから心に乱れはないが、内蔵助は多少はそのかぎりでない。

 それにこの呪いは俺が招いたことでもある。

 俺の手で仕留めなくては。

 内蔵助と俺は吉良に向けて刀を向ける。

 しかし、

 

「くく…………」

 

 先ほどから吉良が何も仕掛けてこない。

 舐めてるのか、もしかして戦う気がないのか。

 もし前者なら俺は吉良を三分で挽き肉にするのも辞さん。舐めなれるのは嫌いだ。

 するとその時───。

 吉良の肩に乗った白蛇かわゆっくりと鎌首を持ち上げる。

 その刹那───

 

「シャァァァァァァァァァッ!!!」

 

 大口を開け、鋭い牙を向けて飛び出してくる白蛇。

 完全に意表を突かれる攻撃となった。

 

「むっ」

 

 しかし、天帝の目と天成の肉体を持つ俺からしては奇襲など何の苦でもない。

 軽やかにステップで避け、逆に渾身の一撃を与える。

 

「チェストォォオッ!」

 

 が、

 

「シャアァァア!」

 

 カァアアアアンッ!

 金属の衝突のような音を出し、鱗によって白蛇は無傷に終わる。

 寧ろこちらの刀に刃こぼれが生じる始末だ。

 

「ちっ、なんて硬さだよ」

 

「直刃!」

 

 内蔵助の心配の言葉に「大丈夫」だと返し、再び白蛇と相対する。

 吉良は攻撃を白蛇で行うみたいだな。どうやらお飾りでは無いようだ。

 しかも、巨体に似合わず恐ろしく疾ぇ。

 更に言えば、あの硬すぎる鱗が厄介だ。

 持久戦になってしまえば、得物をあっさり折られてしまう。

 そしてよく見れば、白蛇は吉良を守るように俺と内蔵助の前に立ちふさがっている。

 どうやら、この白蛇をなんとかせにゃ、吉良にはたどり着けねぇみたいだな。

 仕方ない。

 

「内蔵助! この白蛇は俺が抑える! だから、お前は悲願を───吉良を討て!」

 

「す、直刃!」

 

 俺の提案に内蔵助は思わず立ち止まってしまう。

 当然、敵がそれを見逃すはずもなく、

 

「シャァァァァァァァァァッ!!!」

 

 白蛇はその巨体を内蔵助に向けた。

 

「! ───ハァアアッ!」

 

 ガキィイイイインッ!!

 内蔵助に向かっていた白蛇の攻撃を迎え撃ち、防ぐ。

 防いだ瞬間に鉄のかけらのような物が見えた。

 恐らく、あと四、五回真っ向から防いだら折れるな。

 そうなる前に決着をつけなければ。

 未だに呆けていた内蔵助に向け、俺は言葉を飛ばす。

 

「いいから! 早く! 行け!」

 

「直刃……済まぬ!」

 

 俺に向けて一度頭を下げると、内蔵助は一気に吉良の元に駆け出す。

 

「!? シャァァァァァァァァァッ!!」

 

 と、それと同時に白蛇が吉良を守るように動き出素。

 やらせねぇよ。

 

「お前の相手は俺だろう──がっ!」

 

 カァアアアアンッ!

 その白蛇の進路を遮るように俺は立ちふさがり、白蛇に一太刀浴びせる。

 結果はこっちの刀が更に刃こぼれを起こす事になっが、

 

「吉良! 覚悟ぉおっ!」

 

 その間に内蔵助は吉良の元にたどり着き、戦闘を始めていた。

 

「さーて、こっからは白蛇に集中しますか」

 

 吉良は内蔵助に任せ、俺は白蛇に全神経を向ける。

 相手は物の怪。

 手加減なんざいらねぇ、本気でいく。

 

「さて、これまでの人生初の化け物退治だなっ!」

 

「シャアァァアァァァアッ!!」

 

 ガキィイイイイン! キィイイイインッ!

 鱗と刀が交錯し、火花が飛び散る。

 

「ちぃ、たかが鱗ごときで火花かよ。うぉおおおおっ!」

 

「シャアァァア!」

 

 ガキィイイイインッ!!!

 再び交錯し、攻撃を交わし合う。

 真っ向から防げは刀は意図もたやすく折られてしまうため、受け流す必要がある。

 だが、受け流してばかりでは決定打を打てず、最終的には喰われるか絞め殺されてしまう。

 しかし、天帝の目を利用して弱点や急所を探すも、見つけきれずにいた。

 蛇というのは真正面こそが死角なのだが、この白蛇は何で索敵をしているのか、真正面から迎え撃ちに行っている俺に反撃をしてくるのだ。

 そして急所を見つけようにも、そこの部位を攻撃したところでアホみたいに硬い鱗に阻まれ、こっちの攻撃は全く通らない。

 これほどまで公平じゃない戦いは初めてだぜ。

 

「どうすっか、このままだと……刀が持たねぇぞ」

 

 既に白蛇と打ち合う回数は二桁に上り、攻撃を受け流し続けていた刀は、一学との戦いのダメージもあってか、限界にきていた。

 できることなら、生き返った吉良の家来から刀を奪って使いたいところだが、

 

「シャァァァァァァァァァッ!」

 

「ちぃっ! はぁぁぁぁぁっ!」

 

 キィイイイインッ!

 隙を見つけて襲いかかってくる白蛇に阻まれて取りに行くことができない。

 それに、ここで俺が刀を奪いにこの場を離れてしまえば、白蛇は内蔵助の方襲いに向かうだろう。

 そして内蔵助の方も、あまり状況はよろしくない。

 

「あがけ! あがけ! その程度では、この上野介は満足できんぞ!」

 

「おのれ! はぁあああっ!」

 

 呪いの影響で人の身でありながら白蛇と同じように化け物じみた力を振るう吉良の猛攻に耐えていた。

 やはり、俺が内蔵助のどちらかが敵を片付けて助けに行かなければならないだろう。

 でなければジリ貧だ。

 だがどうする。

 相手は隙も死角も、ましてや弱点すら見つかっていない真生の化け物。

 対してこちらは同じくらい化け物とはいえ、呪いのドーピングもしてなければ折れそうな刀を片手に持っているだけの人間。

 ……………いや、策はある。

 この状況を劇的に変え、勝利するための必勝の手段が。

 しかし、これはある種の博打に等しい。

 本当にできる確証もなければ、正しくやれるためのガイドもない。

 やれるのか、本当に……

 

 勝負の最中に深く考え込んでしまったのが不味かったのだろう。

 

「シャァァァァァァァァァ!!!」

 

「あぁ……」

 

 気がつけば、目の前に白蛇の大きな牙があった。

 このままだと、俺の体はみるも無惨に噛み砕かれるのだろう。

 そのまま白蛇に飲み込まれるのか、はたまたゴミのように放置されるのか。  どちらにせよ、死ぬ運命には変わらない。

 ……ははっ、あっけない。

 本当にあっけなく死ぬのか、俺は。

 自ら動く事によって招いた運命に呑まれようとした、その時───

 

 

 

 

『君は、それでいいのか?』

 

 

 

 

 ──え?

 

 声が、聞こえた。

 

 すると目の前には迫り来る白蛇の姿などどこにもなく、代わりに七人の青年達の姿があった。

 

『君は紛いなりにも僕と同じ力を受け継いだのだ。勝者として、勝ち続ける義務がある。相手は所詮雑魚。いつものように踏破すればいい』

 

 最強の目を持つ勝者の青年。

 

『全く愚かしい。試合は最後の瞬間のコンマ一秒であろうと何があるのかは分からないのだよ。俺もそれは教えられた事だが』

 

 絶対的なシュートを誇る青年。

 

『………なにぼさっとしてんだ。ようやく自分より強大な化け物に出会えたんだぞ。喜ばずしてなに諦めてんだよ、馬鹿が』

 

 縦横無尽にコートを駆け巡る青年。

 

『そうっすよ! 俺たちのように華やかに戦わなくてどうするんすか! あと! 可愛い女の子にいいとこ見せないと!』

 

 技を完璧に模倣する馬鹿。

 

『非道いっす!』

 

『うるせぇ、テメェの出番は終わったんだからさっさと変われ。おい、お前の頭の中には旨そうな技があるんじゃねぇか。それを今喰わずしていつ喰うんだよ』

 

 相手の技を奪い取る青年。

 

『……まあ、負けるのは嫌い。それにさぁ、体格だけで決まる勝負ってもの絶対じゃないしぃ。というか、あの化け物ぼくちんより大きくてムカつく』

 

 圧倒的肉体の鉄壁をほこる青年。

 

『──僕は影だ。影は光がないと生まれない。そして影は、光が強ければ強いほど、その濃さを増す。ですから、最後まで諦めないでください。相手の光が強ければ、影の僕は濃くなるのですから』

 

 ひたすらチームの影に徹した青年。

 

『あぁ……上手くは言えねぇが、相手が畜生なら余裕だろ。本当の醜い化け物をあの世界で見てきた俺たちは、な?』

 

 怠惰主義の最強たるボディーガード。

 

 ……そうだ。

 俺は彼らをこの背に背負っていたんだ。

 それに1人にいたっては同じ人生の軌跡を歩んだではないか。

 だったら、なに恐れてんだよ。

 それは、彼らの才能───彼ら自身を信じてない侮辱ではないか。

 思い出せ。

 彼らの才能は、世界において最強の、絶対なる物だと!

 

『俺たちにできんのはこれだけだ。後はお前次第さ。まっ、適当に頑張ってくれ』

 

 あぁ、わかった。

 不甲斐ない俺で悪かったな。

 もう大丈夫だ。

 迷いはない。

 信じ切るって決めたから。

 

 ボディーガードの言葉を最後に青年達が消え、それと同時に景色は戻っていき、景色は白蛇に飲み込まれそうな場面へと変わる。

 

 

 

「シャァァァァァァァァァ!!!」

 

「!? 直刃っ!?」

 

 喰われそうな俺を見て、内蔵助の叫び声が上がる。

 安心しろよ、内蔵助。

 俺はもう───誰にも負けない!

 

「うぉおおおおっ!!!」

 

 迫り来る白蛇を紙一重で避けきり、その巨大な頭の側頭部に鋭い蹴りを叩き込み、距離をとる。

 それで軽い脳震盪でも起こしてくれれば嬉しかったのだが、巨大な体は飾りではないようで、すぐに体制を整えてくる。

 体力も残り少ない。

 刀は所々に大きな罅が見えている。

 放てるのは一度切り。

 その一撃に

 すべてを懸ける!

 

「すぅ───はぁ……」

 

 刀を上段に構え、精神を限界まで研ぎ澄ませる。

 やがては周りの景色から色が消えていき、モノクロの世界へと変貌していく。

 

「シャァァァァァァァァァ!!」

 

 その俺の姿を隙とみたのか、好機と見たのかは定かではないが、白蛇が再び大きく口を開け、迫り来る。

 

「……………」

 

 まだだ、まだ研ぎ澄ませ。

 徐々に俺と白蛇の距離が狭まってくる。

 それでも俺は研ぎ澄ませることに全神経を費やす。

 俺の腕からメキメキッ、バキバキッ!

 おおよそ常人ではあり得ないほどに力を込める音が上がる。

 しかし、そんな肉体とは打って変わり頭はすごいほどにクリアだ。

 嵐の前の静けさという奴なのか。

 白蛇が目の前に来ているというのに、不思議と恐怖などなかった。

 もはや頭には、勝つ自信しか存在しない。

 そして───時が満ちた。

 ──勝つ!

 その一点に全てを集中させきった。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーッ!」

 

 叫んだ。ありったけの叫びを。白蛇の叫び声を打ち消すように。

 その声に驚いたのか、はたまた怯んだのか、白蛇の動きが一瞬止まる。

 その隙を、天帝は見逃さなかった。

 

「───────────────ッ!」

 

 その刹那の時を付く。

 ────ドォォォォォォォォォォォォンッッッッッッッッッッ!────

 空気の壁を幾つも破壊したような音を上げ、刀が倒壊しつつも、フルスイングの凪ぎ切りを放った。

 本能で察したのか、白蛇はその巨体を素早くそらし、俺の横凪ぎをこちらも紙一重で躱す。

 ────甘ぇよ。

 この技が、そんな単純なものか。

 《炸牙》

 俺がまだ現代にいたとき、とある小説で見た技だ。

 刀身の先端速度を瞬間的に亜音速にまで上げ、衝撃波を放つ大技。

 敵が斬撃を躱そうと関係ない。新幹線に轢かれるのと同等の衝撃波を与えるのだ。

 そしてその範囲は俺の前方、角度にして扇形に60度を、まるで重爆撃でもされたかのように消し飛ばす。

 所詮はフィクションの産物で、実際に行う人物も化け物そのものだが、あいにく化け物という土俵には俺も片足を突っ込んでいる。できない道理などない。

 《確実完全なる強奪》で本能的に技を自分の物とさせ、続いて赤司様の頭をフルに使い、技を小説内では表せなかった細部にまで検証し、実用できる技にまで解読させる。その後、それでも常人にはできるはずのない対裁きを紫原、海斗、青峰の肉体で補い、無理なく完璧に技を放てるよう準備させたというわけだ。

 それでも、技の代償として俺の肉体は無事であっても刀は砕け散ってしまうけどな。

 そんな大技をまともに受けた白蛇は当然──

 

「シャァ──────………」

 

 禄な断末魔を上げられることもできず、《炸牙》の爆音と共に大量の肉塊へと姿を変えた。

 技を放った俺は当然ながらその肉塊の放つ大量の返り血を浴び、まるで悪鬼のような姿をさらしてしまったが。

 それと、技の影響で吉良邸の庭と前方が灰燼に帰してしまったが、別にいいか。だって吉良邸だし。

 

「なにぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

 倒される筈がないと思っていたのか、吉良の悲痛な叫び声が聞こえた。

 わりぃな。俺の背負うもんは、化け物ごときじゃ壊せねぇよ。

 

「直刃………?」

 

 俺の目の前に内蔵助がやってくる。

 その表情から、かなり心配させたようだ。

 

「内蔵助? 心配をかけたな」

 

 内蔵助を安心させるように、俺は頬をなでる。それで安心できるかは分からんが、何もしないよりはマシだろう。

 

「うぬぬ………何故だ!? 何故、貴様如きが白蛇を倒せ!? ───ごふっ!」

 

 どうしたというのか、突然、吉良が大量の血を口から吐き出した。

 どうやら、白蛇と吉良は密接な繋がりがあったみたいだな。

 

「ぐぬぬ……」

 

「吉良」

 

 俺は内蔵助と共にに吉良の元に向かう。

 

「俺が白蛇を倒したのがそんなに不思議か?」

 

「当たり前だ! 愚劣な人間ごときに負けるはずがないだろう!」

 

「………愚劣か。俺からしてみれば借り物の力に酔いしれたテメェの方がよっぽど愚劣に見えるけどな」

 

「なん……だと」

 

 白蛇を倒した俺の力も所詮は借り物だ。

 その点では吉良と同じだ。

 だけど、

 

「テメェとは違って俺は誇りを持っているし、信じ切っている! それが理由だ」

 

 俺の背負う七人が、高々呪い如きに負けるわけがない。

 

「ぐぐ………」

 

「どうやら、テメェと白蛇は一心同体みたいだな。もはや風前の灯火、か?」

 

 吉良は既に多くの血を吐き出し、立っているのもやっとに見える。

 

「ば、馬鹿な……オレが殺ららるというのか!? そんな馬鹿なことが!」

 

 吉良は最後の力を振り絞ったのか、それとも悪足掻きだったのか、

 

「あってたまるかぁぁぁぁぁぁぁあぁっ!」

 

 構えなど関係なく、まるでだだをこねる餓鬼のように向かってきた。

 ホントに、哀れだな。

 振り下ろされる刀。

 俺はそれを、

 

「ふんっ!」

 

「なぁ!?」

 

 人差し指と中指の日本で受け止めた。

 また、安兵衛たちの剣劇の方が凄いぜ。

 刀を受け止めたあと、刀を握る手首をがっちり掴む。

 

「き、貴様ぁ……」

 

「正直、テメェに恨みなんざねぇ。だだ、俺が引き起こした呪いによっての騒動なら、全て俺が受け持つ!」

 

 元は俺が引いた大大凶なる神籤によって始まったこと。

 自分のケツは自分で吹くさ。

 

「このぉ……」

 

 手首を掴まれた吉良は身動きが取れない。

 ここで俺が止めを刺すのは容易い。

 が、それは俺の役目じゃない。

 それをするのは、

 

「内蔵助! やれぇぇぇぇぇっ!」

 

「おぉっ!」

 

 内蔵助はいつの間に折れたのか、何時も使用していた刀ではなく、浅野内匠頭が使用していた脇差しを構える。

 

「浅野内匠頭が家臣! 浅野家、筆頭家老! 大石内蔵助! 押して参る!」

 

 全ての思い、赤穂の人々の思いを胸に。

 今、大石内蔵助が駆け出す。

 

「上野介っ! この亡き殿小脇差しの威力! とくと味わうがよい!」

 

 この時、内蔵助の持つ脇差しが炎を帯びたかのように映った。

 神々しいまでの黄金色の炎。

 その明かりは、墓参りをしたときと同じように暖かく、熱い物だった。

 理解する。浅野内匠頭が内蔵助に力を貸しているのだと。

 果たして、あの脇差しはなんなのだろうか。

 今は関係ないか。

 

「覚悟ぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 突き出される脇差し。それは寸分違わず吉良の心臓に、

 

「がっ!」

 

 深々と突き刺さった。

 

「上野介! 討ち取ったり!」

 

 今宵、数々の苦難を乗り越え、ついに、約二年の悲願である討ち入りは果たされ、江戸の街に仇花という名の花が咲き乱れた。

 多くの同士たちの無念がようやく報われたのだ。

 しかし、この俺が現代へ戻ることは、叶わなかったが。




いやー。結構無理矢理感が半端じゃない
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