キセキの忠臣蔵   作:あるく天然記念物

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第二十二話 離脱

 

 その後俺たち赤穂浪士は勝ち鬨を上げ、史実通り泉岳寺にきていた。

 その間、俺の知っていた歴史通りに事は運んでくれ、上杉家の追っ手というイレギュラーが発生することもなく、本当によかったと思う。

 万が一追っ手が発しいしていたら、惜しみなく《炸牙》をお見舞いしていただろうから。

 その泉岳寺なんだが、ちょっとした騒ぎとなっていた。

 町人達がいち早く討ち入りのことを聞きつけ、俺たちは英雄視されたのだ。

 人気取りで討ち入りしたわけではないのだが、何の因果か、

 

「キャーッ! お武家さま~! こっち向いて下さいまし~!」

 

「あ~ん! こっち、こっちですわ~!」

 

「ちょっと、お武家さまはあなた達の物ではないのですよ! ということで、こっちを向いて下さい~!」

 

 てな感じで、俺がかなりの人気を誇ってしまった。

 そのせいで内蔵助の機嫌が少し傾いてしまったのいい思い出だな。

 取り敢えず、海斗やキセキの世代、さらには直刃のいいとこ取りしたルックスはかなりの物みたい。

 

 そして現在、俺は何をしているのかというと、

 

「内蔵助」

 

「ん………? あぁ、直刃か。何か用か?」

 

 浅野内匠頭の墓前にて、邂逅していた。

 というか、主税に内蔵助が寂しがっていると聞かされて会いに来たんだけどな。

 

「いや別に。ただ、ようやく終わったな。挨拶というか、礼はもうしたのか?」

 

「まったく、直刃には何でもお見通しなんだな」

 

 そう言って、内蔵助は愛おしげに脇差しを撫でる。

 以前墓参りしたときに、あの脇差しが一瞬輝いて見えた。そして、討ち入りの時も。

 あの時は聞こえなかったが、墓参りの時に聞こえた気がした声には答えておくか。

 無事に果たし、守りきったぜ。

 

「さーて、俺たちが共にいるのもあと僅かだな」

 

「そう……だな」

 

 この後、赤穂浪士は幾つかの大名家の屋敷にて預かりの身と成るんだよな。

 その後、幕府からの裁きによって切腹する。

 これが、俺の知る赤穂浪士の結末。

 恐らくは、俺もその一員となるのだろう。

 だが、ただでは死なんがな。

 

「まっ、どうであれ捕まるまでどっかふらつくかね」

 

 内蔵助の様子も確認し終えた俺はそういい残し、立ち去ろうとする。

 だが、そんな俺を内蔵助は、

 

「ちょっと待て。私も直刃に用があるのじゃ」

 

「なんだ?」

 

 俺に用事があると引き留めてきた。

 この時に用事か?

 まあ予想はつくが。

 

「直刃。お前は、ここから離脱して直ちに赤穂に向かえ」

 

「………………」

 

 言葉を失う。

 別に、見限られたとか、内蔵助達の仲間から外されてしまったといったものからくる感じではない。

 ただ、ほぼ予想通りの用事に俺自身言葉を失った。

 

「それは、赤穂に残っている将監たちに仇討ちの成功を伝えるのか? もう、仇討ちの第二陣は不要だと」

 

「っ!?」

 

 俺の返答に今度は内蔵助が言葉を失った。

 そこまで驚くことか?

 まあ自分の考えをほぼ見透かされたら誰だってこうなるか。

 なぜ第二陣を計画していたことに気がついたのか。

 それは、刃傷の真相を推理したとき、幕府の連中からしてみれば赤穂武士というのは目の上のたんこぶ同様に不要というか不確定要素だ。

 もしかすれば、裏で吉良と繋がって仇討ちに失敗する可能性もあるってわかった。

 内蔵助なら今後の予想もして保険の第二陣を組む筈って思ってのだ。

 

「………そうじゃ。頼めるか」

 

 本来なら不戯れるなとかバカやろうとで言って断るのが道理なのかもしれん。

 でも、それはできないよな。

 だって、

 

「ふむ。恐らく、ここで断れば俺は内蔵助に斬られるのだろうな。元から、内蔵助は俺が仇討ちに参加するのは反対だった。あくまで俺が参加できたのは呪いが解け、現代に戻れるという前提があったからな。だから、ここで離脱させるんだろ? な、内蔵助?」

 

「……もう、そこまで見透かされて入るのなら、分かるじゃろ」

 

 既に内蔵助言葉は弱々しい物に変わっている。

 余程隠し通したかったのだろう。

 俺自身、元は赤穂の人間じゃない。

 浅野内匠頭に忠義を誓ったわけでもなく。

 赤穂という国に生まれ育ったのでもない。

 だだ、不運でこの時代にやってきだに過ぎない、いわば稀人のようなものだ。

 だから、内蔵助はここで死ぬべきではないとし、俺を離脱させるんだろう。

 愛する人を死なせたくない。

 他の家臣に恨まれても、疎まれても、ただ、それだけを切に願って。

 本当に凄い人だ。

 いいだろう。最後の命令、聞いてやるさ。

 誉れ高き武士が、恥を忍んで本音を隠してまで頼んできたのだ。

 ましてや愛する人からの頼み。

 それを聞くのが筋ってもんだろ。

 

「わかった。不肖この深海直刃! その使命! 命に代えても遂行いたします!」

 

「直刃……たの、む。将監には死に急ぐなよ。そう内蔵助が言っていたと伝えてくれ─」

 

「ですが!」

 

 だが、

 

「?」

 

 いきなり話が切り替わることに内蔵助の中には疑問符が浮かんでいることだろう。

 でも、これだけは伝えなくては。

 ここから先が、一番重要だから。

 

「使命を遂行いたした後、自分は最早赤穂の武士ではない故、何をしても、決して恨まれないで下さい。別に死に急ぐわけではありませんので」

 

「直刃………わかった。そこから先は私も何も言うまい」

 

 そろそろ時間か。

 

「御城代! どうか達者で」

 

「うむ。さらばじゃ……直刃。強くそして、優しく生きよ。私はどこに行っても、お前の幸せを祈っておる」

 

 挨拶を済ませ、別れる。

 それが。

 それが、内蔵助と俺がこの場で交わした最後の言葉だった。

 元禄十五年十二月十五日。

 酉の刻(午後五時)

 深海直刃。

 泉岳寺より………離脱。

 

 さてと、残業行きますかね。

 その腹に壮大な野望を潜ませて。




暗躍の主人公~
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