キセキの忠臣蔵   作:あるく天然記念物

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第二十三話 直刃の野望

 

 内蔵助と別れ、泉岳寺を去ったあの日から数日が過ぎ。

 幾つかの一人寂しい───ではない夜を乗り越え。

 ようやく赤穂の地にたどり着いた。

 とは言うものの、実際7日間ぐらいしか経過してない。

 なぜそんなに急ぐのかと問われたら、のんびりしていては俺の計画に支障をきたすというのが理由。

 しかし、本格的化け物じみてきたな俺。まさか一週間で江戸から赤穂に来れるなんて。

 

「さーて、ちゃっちゃと報告を済ませるか」

 

 気持ちを切り替えて将監の家を探す。

 しかし、その必要はなかった。

 

「す、直刃……なのか?」

 

「ん? 将監か?」

 

 突然声をかけられ、振り向くとそこには、武士の時着ていた着物ではなく、農民の安っぽい着物に身を包んだ将監がいた。

 マジで農民になってんだな。

 

「おぉ、やっと見つけたぜ。といってもまだ探すことすらしてなかったがな」

 

「直刃──お前は相変わらずだな」

 

 どういう意味だよ。

 

「おいおい、高々数ヶ月で変わるかよ。それより内蔵助から報告がある。家に上げてはもらえねぇか? ちと、人前では話せんことも多々あるし、何より時間がねぇ」

 

「直刃? ……わかった。ついてきてくれ」

 

 一瞬不思議に顔を潜ませたが、内蔵助からの報告ともあり、家に案内してもらえた。

 

 

「さて、報告を聞こうか」

 

 家に上げてもらうと早々に将監は話を切りだしてきた。

 その方がこっちとしても都合がいいため、話すけど。

 

「あぁ、まず一つ目だが、第二陣の用意は不要だぞ」

 

「────!? …………ふぅ、内蔵助と一緒にいた頃から只ならないとは思ってはいたが、まさか第二陣のことを知っていたとは」

 

「知っていたわけじゃない。ただ、予想してただけだ。松の廊下での刃傷の背景を予測してたらついでに予測できたのさ」

 

「そこまで……いや、今は仇討ちを成功させたことを喜ぼう。これで、亡き殿もお喜びになられるだろう」

 

 顔を綻ばせ、心の底から喜んでいるのが分かる。

 ただ、その顔は、これから死にに赴く亡者そのものだが。

 だからこその伝言か。

 

「将監、最後に内蔵助からの伝言を預かっている」

 

「伝言? 何だ」

 

 間違うことなく。

 一言一句、正確に伝える。

 

「死に急ぐな、と」

 

「!? 死に………急ぐな……」

 

 報告を聞いた将監は間違いなく腹を切るだろう。

 第二陣を組んでいたお人だ。本来なら、第一陣として闘いたかったに違いない。

 そんな人が、仇討ちが成功後の世にいつまでも生き続けようと思わないだろう。

 だからこそ、死を恐れる内蔵助は伝言を残したのだ。

 俺と同じ理由で、大切な人に死んでほしくない、と。

 

「そうか。まったく内蔵助やつ……最後まで他人のことを気にしおって。だが、その言葉は承諾できん」

 

 まっ、当然だよな。

 けどこっちも「はいそうですか」とは言えないわ。

 それに俺はNOと言える日本人でもある。関係はほとんどないけど。

 取り敢えず真面目な理由を将監に伝えか。

 そっちの方が納得するだろ。

 

「ダメだ。将監、あんたには後世に伝えていかないといけないんだ。大石内蔵助という武士がこの世にいたことを。四十六人の誉れ高き武士がいたこと。これからの世に」

 

「直刃………」

 

 ことの重大さ。

 その重みを感じているのだろう。

 将監の顔には迷いが見える。

 それをやっていけるのかという、迷いが。

 なら俺は、その背中を押してやるさ。

 同じように迷っていた時、彼らが俺にしてもらったように。

 

「将監、あんたなら、真実を正しく人々に語り継がせることができる。仲間が死に、一人生きていくのはとてつもないほどにつらい。でもな、その生き残る辛さを知る将監なら、必ず成し遂げられるさ。だから内蔵助は、お前に死に急ぐなと伝言を残したんだよ」

 

「そう……なのだろうか。私に………いや、やってみせよう。それが、友の最後の願いなら」

 

 吹っ切れたのか。

 もしくは受け入れたのか。

 将監の顔に迷いはなくなっていた。

 あるのは、誇りある責務を全うする武士の面構え。

 さすがは内蔵助の友人。

 もう、大丈夫だな。

 

「さて、んじゃ、俺はやることがあるからここいらで失礼するぜ」

 

「そういえば直刃よ。先ほどお前は時間がないと言っていたが、何をするつもりなのだ?」

 

「そうだな…………やるのは一つだけさ。たとえそれが、武士の誇りを失うことになろうとも。将監に報告を済ませた時点で俺はもう、赤穂の武士じゃなくなったから、な」

 

「? どういう意味だ?」

 

 そう、これが、

 

「内蔵助たちを、絶対に死なせねぇ。たとえ四十六人全員から恨まれてもな」

 

 俺の持つ、最大の野望だ。




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