キセキの忠臣蔵   作:あるく天然記念物

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第二十四話 内蔵助の本音

 

 季節は冬を巡り、春に向かうものの未だに厳しい寒さが襲っている。

 我らが討ち入りをして既に1ヶ月が過ぎた。

 現在我らは何カ所かの大名家に預かりのみとされ、幕府の処遇待ちとなっている。

 されど幕府は私の読み道理四苦八苦しているのか、処遇の判決が下ってない。

 今日も私は預かりの身となっている細川家で寒さに震えていた。

 

「うぅ…………寒いのぉ……」

 

「そうですね………」

 

「今年の冬は例年より、寒さが厳しいと聞いています…………」

 

 私と共に細川家に預かりの身となった片岡と磯貝も私の言葉に賛同し、体を振るわせる。

 なぜ冬というのはこんなにも寒いのじゃ。

 

「はぁ……寒いのはかなわん………」

 

 だが、私はその寒さなどどうでもよくなるほど気になることがあった。

 

 「………直刃」

 

 直刃は今、なにをしておるのじゃろうか。

 別れの時に何やらするようなことを言っていたが、変な気を起こしてないだろうか。

 私の言いつけ通り、優しく、そして強く生きているだろうか。

 今の身では、それを確認することすら叶わない。

 恨んでいるだろう。

 悲しんでいるだろう。

 謝っても許されないほど、私は直刃の武士としての魂を傷つけたのだから。

 それでも私は、直刃に生きてほしかった。

 愛する人が切腹など、耐えられない。

 思えば、出会いから突拍子もない奴だったな。

 

 

 

 

 初めて出会った時は、なんとも失礼な奴だと思っていた。

 いくら右衛門七の兄とはいえ、無礼にもほどがあったからな。

 天下の往来で竹刀片手に爆走してぶつかってきたり、名前をきけば、

 

『おいおい。人に名を聞くときは、先ず自分から名乗るのが礼儀だぜ?』

 

 なんて言ってくる始末。

 一体長助はどんな育て方をしたのか聞きたくなってしまうほどだ。

 しかし本人の話を聞けば、なんと記憶を失っているとのこと。

 記憶がないのに楽しそうに走る姿を見たとなれば、どれだけ心が強かったのかを思わせる。

 そんな直刃をしっかりと認識、意識し始めたのは殿の悲報後の大評定での時だ。

 あの時は誰も彼も口を開けば討ち死にや切腹など。

 とにかく死ぬことしか考えていない状況だった。

 私は、どうすればいいのか一瞬分からなくなってしまった。

 なにを行うにしても、藩の皆が一つにならなければどうしようもない。

 そんなときだった。

 

『その多数決、ちょっと待った!』

 

 主税や右衛門七と共に颯爽と現れ、自身の考えを殺伐とした会議であっても、いつものような態度ではっきりともの申したのだ。

 当然ながらいきなりの事に同士の皆が邪険にし、殺意を向けてくる者もいた。

 しかし直刃は怯むどころか、状況を逆手にとって逆に言いくるめてしまった。

 その時に私は思った。

 小奴がいれば、赤穂は再び光を取り戻すことができると。

 じゃから私は長助に頼み込んで直刃を私の向かう山科に同行させた。

 今思えば、その頃から直刃の事を好いていたのかもしれん。

 だんだんと自分の思いを占める割合が高くなっていったのは、江戸詰めの同士達を沈めるために江戸に向かう前日での会話だな。

 あの時、自分が正しかったかについて、思わず同じ考えだった直刃に質問していた。

 そしたら、自分だけは支持し味方であると言ってくれ、思わず涙を流してしまうくらい嬉しかった。

 あぁ、私は間違ってなかったと。

 誰かに賛同してもらえる決断を下せたのだと。

 それからは直刃の思いがけない強さを知り、優しさを知り、撞木町で迎えに来たときにはもう1人の男としか見ることができなくなっていた。

 というか直刃よ、いくらただ者ではないと思ってはおったが安兵衛をあしらうほどと知ったときには驚いた。

 私ですら安兵衛とは互角に戦えるのがやっとだというのに。

 そんな直刃にたいして家臣と家老の関係に私は我慢できずにとうとう告白し、恋仲となった時には年甲斐もなく嬉しくて、それこそ生娘のように喜んだ。

 じゃが、そんな直刃が未来から来たという話には、さすがの私でも土器網を抜いたぞ。

 しかし、納得もする。

 直刃は仇討ちの事についてあまり関心を示しておらぬかったからな。

 恐らく、結末を知っていたからであろう。

 私その結末を知りたくないが故に直刃の話を与太話として切り捨てたが、いざ大学様の処分が決まれば、認めざるを得ない状況になった。

 それからは仇討ちになるわけじゃが、未来の人間である直刃には参加させたくなかった。

 しかし直刃は呪いのせいで自分がこの時代にいて吉良もそれに絡んでいることを理由に参加を迫ったときには呆れてしまったわ。

 結局仇討ちが終わっても直刃が元の時代に戻ることはできなかったが。

 だけど、いつの日か戻れると私は思っている。

 故に私は、直刃を離脱させたのだ。

 この時代ではなく、未来の世界で生きてほしい。

 しかし、直刃と別れた訳じゃが、一つ謝らなければならぬことがある。

 満月の夜、直刃が口にしていた──

 

『美しく最後を着飾る暇があったら、醜くても最後まで生きよう、って』

 

 という言葉。果たせそうにない。

 こんな不甲斐ない内蔵助をどうか許してくれ。

 

 

 

 直刃………会いたい。

 会ってこの手に温もりを感じたい。

 好きだと言ってほしい。

 

 

 

 

 

 

 そんな私の思いとは裏腹に幕府の下した判決は、極刑。

 分かってはいたが、もしかしたらと思ってしまった自分がいる。

 

「大石殿、お時間です」

 

「はい」

 

 城明け渡しの時にお世話になった荒木殿に名を呼ばれ、立ち上がる。

 既に白装束を着込み、準備は整った。

 直刃への罪悪感はいっさい拭いきれてはおらぬが。

 

「大石殿? 最後に言い残す言葉はないのですか?」

 

「………何かとお心つけられ、かたじけないが。申し残すことは何もありません」

 

 嘘だ。

 いくら亡き殿の御無念を晴らせ満足しているとは言え、気にならないことがなくなったわけでない。

 でも、それを口にすれば未練が残ってしまう。

 だから、これでいいのだ。

 

「………大石殿」

 

「?」

 

 突然荒木殿が断りをいれず口を開いた。

 どうしたというのだろう。既に吉良家の処遇については教えてもらったというのに。さらに何か私に伝えることがあるのだろうか。

 それにいつもは断りを入れて話す荒木殿が何の断りもなく話しかけてくるのも珍しい。

 

「大石殿、よい家臣をお持ちになったな」

 

「? 荒木殿、それはどういう意味なのでしょうか」

 

 まさか直刃が何かしたのではないか?

 

「いえ、別に。では行きましょう」

 

 言葉の真意が掴めぬまま、私は死地に案内される。

 直刃………いや、もはや気にしても仕方のないこと。

 殿、それから同士の皆よ、もう直ぐ、会いに行くぞ。

 やがて大書院上の前庭に四方を白い幕で囲まれた畳三畳ほどの場所にやってきた。

 いよいよだ。

 畳の上に正座し、目を閉じて心を静める。

 自分でも理解していたことだが、やはり死ぬのは少し怖いな。

 しかし、いつまでもとまどっているわけにはいかない。

 そろそろ頃合いか。

 目を開き、足元に置かれた扇に手をかける。

 そして介錯人がその手に持つ刀を振り下ろした────────私の側面に。

 ど、どういうことなのだ?

 訳が分からない。まさか、斬るのに失敗したのか? だとしたら、それは武士として許し難い侮辱であるぞ!

 などと思っていれば、介錯人は徐に刀を鞘に納め出す。

 そして私に向けて一言。

 

「今ここに、赤穂藩筆頭家老の大石内蔵助は死した」

 

 え?

 

「そ、それって」

 

「大石殿。本当に素晴らしい家臣をお持ちになりましたな。さっ、屋敷の外で家臣がお待ちですぞ」

 

 まっ、まさか、赤穂藩筆頭家老の大石内蔵助が死んだということは、直刃がやろうとしていたというのは───

 

 それからの私は白装束から着物に着替えさせられ、細川家を出させられた。

 約一月半振りの外。

 もはや叶うまいと思っていた外の世界。

 

 そして、

 

「………内蔵助」

 

「あぁ…………」

 

 そんな外で待っていたのは、

 

「お前が俺の死ぬのに耐えられないようにさ、俺も耐えられないんだよ。それに俺は言ったぜ、美しく最後を着飾る暇があったら、醜くても最後まで生きよう、ってな。だから、俺のために生きてくれよ、内蔵助」

 

「す、直刃…………」

 

 私が心から愛した、

 

「それはそうと───お帰り、内蔵助」

 

「直刃っ!」

 

 思わず抱きしめ、その体温、その存在を全身に感じる。

 間違いない。

 私が会いたくて会いたくてたまらなかった直刃じゃ!

 寒空の下、直刃と抱き合う私。

 こんなにも愛する人の体を暖かく感じられるのなら、冬は少しだけ好きになってもいいかもしれぬ。




完全なる原作崩壊! でも気にしない
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