キセキの忠臣蔵   作:あるく天然記念物

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まだまだいくぜ!


第四話 急変

「んーッ! とぉ…まだ暗いね~」

 

 あれから数日。なにやら妙な感覚に見舞われながら朝早く目覚めた俺は、一人家の前で朝風に当たっていた。

 

「さてと、状況はかなりマズいな……」

 

 思い出すは、エモシチ登場後の内蔵助達との会話だ。

 

 あの後、エモシチと内蔵助の肌が女性ホルモンのおかげでツルツルになった事は放っておくとして、俺は内蔵助に現在赤穂の殿様、浅野内匠頭はどこにいるのか聞いてみた。

 いくつか予想はしていたが、内蔵助が告げた場所は俺にとって最悪の場所であった。

 

「殿は今、江戸に奉公に出かけておるぞ。幕府から勅使の御馳走人の大役に命じられたからの。というか、この赤穂の民全員が知っておることじゃぞ」

 

 江戸へ奉公。

 つまりは参勤交代という訳なのだが、時期的にはあの事件が起こるであろう日と重なってしまう。

 松の廊下での刃傷。

 元禄十四年に発生する事件だ。

 そして最悪なことに俺のいるここの時代も元禄十四年。

 つまり、今回の奉公で松の廊下での事件が起こるという事だ。

 できれば今すぐに赤穂に戻ってくるように進言したかったが、それは悪手だと分かっていたため、のどの奥に留めた。

 なぜなら、幕府から命じられた役目を途中で放棄する事も下手をすれば腹を切ることになってしまう。しかも最悪なことにこの時代の将軍は綱吉。江戸幕府始まっての暗君の代表格。何を命じてくるか予想もつかん。

 またそれ以前に俺自身の発言力がとてつもなく低いことが一番の理由だ。

 俺の役職は長助さんと同じ勘定方。

 対して内蔵助は、長助さんの役目を平社員としたら、いわば会社の社長クラス。

 進言するのもおこがましいほど身分の差が甚だしい。

 そんな人間の話を聞くか?

 聞くわけがない。ましてやそれが敬愛する殿が引き起こす事件なのだ。信じるどころか、乱心者として今度こそ幽閉される可能性の方が高すぎる。

 おまけに記憶喪失を偽っている俺は、既に乱心者と扱われるのに片足をつっこんでいる状況なのだ。

 よって、俺は未来の事を胸に秘め、決して悟られないように尽力して今日を迎えたというわけだ。

 

「あれ? 直刃しゃん。こんな朝早くにどうしたのですか?」

 

 気がつくと目の前にエモシチがいた。

 どうやら接近に気づかないレベルで思考をしていたようだ。

 

「いや、ただ風を浴びていただけさ」

 

「そうですか。ですが、気をつけてくださいね。また前みたいに倒れてしまったら……」

 

 心配そうな表情を俺に向けてくるエモシチ。

 そういや、俺が気にしているのは松の廊下事件だけじゃないんだよな。

 実はその内蔵助達との会話の後に、俺がタイムスリップする前に感じた胸の痛みが再び襲ってきたのだ。

 前回同様俺は痛みに耐えきれず気を失ってしまったのだ。

 その時に若干もとの世界に戻れるのでは? と思ってしまったが、世界はそんなに甘くなく、普通に長助さんの家で目が覚めた。

 その事もあり、エモシチは流行病がぶり返したと勘違いしてしまい、ことあるごとに俺の心配をしてくる。

 しかし、あの時に感じた痛みには何かがあるはず。 その事がのどに刺さった魚の小骨のように気になっているのだ。

 こりゃ、なんか嫌なもんに巻き込まれてやがるな。俺の経験上禄でもないことに引っかかってばかりだったし。

 取り敢えず今は気にしても仕方がないと割り切りるしかねぇな。

 

「安心しろよエモシチ。さすがにそう何度も倒れる事なんてないさ」

 

「ですが……」

 

 俺の言葉を信じれないという風に見つめてくる。

 そんなに信用無かったっけ? 俺なんかしたか?

 松之丞や唯七の顔が浮かんできたが無視する。

 

「たく、エモシチは心配性だなぁ」

 

「むー。直刃しゃんが軽く見ているだけなのでは」

 

「さてな」

 

「もぉ──え、あれって……」

 

 何かを見かけたのか、話が途中で止まってしまう。

 

「どうしたエモシチ──って、なんだ?」

 

 つられて俺も見てみると、道の奥から誰かが走ってきている。

 

『急げ、急ぐのだ!』

 

『早くこの事をご城代に!』

 

 まるで風の様に俺とエモシチの前を通り過ぎていった。

 あれは……早駕篭か?

 早駕篭とは江戸時代などにおける交通手段。言わば現代におけるタクシーのような物だ。

 それが来ているだと。こんな早朝どころか夜更けといえる時間に。しかも乗っている二人は満身創痍の姿。まさか……。

 俺の頭の中に最悪な予想が過ぎる。悲しいことに、その予想が一番真実味を帯びてやがる。

 

「あれは、早水しゃんと萱野しゃん」

 

「エモシチ、知っているのか?」

 

「はい。お二人とも江戸で殿の付き添いをしていました。ですが、その二人がどうして……」

 

 エモシチは不思議ですとばかりに首を傾げる。

 そして俺は、そのエモシチの話を聞いた俺は予想が確実に変化したのを確信した。

 間違いなく、江戸で何かがあった。いや、松の廊下事件が起こったのだ。

 

「エモシチ、家に戻るぞ」

 

「え? もうよろしいのですか?」

 

「あぁ。それと、寝れるうちに寝ておくぞ。これから忙しくなるからな」

 

「そ、それってどういう……す、直刃しゃん~」

 

 俺は投げかけられる言葉を無視しつつ、家に戻っていく。

 今の俺は、この状況でどうするべきかで頭が一杯だった。

 

 部屋に戻り、俺は一人、今後について考える。

 

 このまま赤穂は混乱の最中になり、討ち入りが行われるだろう。

 俺も参加するか? いや、絶対にあり得ないだろう。

 正直、俺は赤穂にこれっぽっちも未練もなければ、義理もない。ましてや、憑依する前の直刃はどうかは知らないが、俺には浅野内匠頭のに対する忠義すら持ち合わせてもいない。

 むしろこの時代から現代に戻ることが目標だ。

 

 だけど、現時点で俺は少し迷いが生まれていた。

 

 果たして俺は、本当に現代に戻りたいのか、と。

 

 確かにこの時代では俺の大好きなバスケはできない。現代に戻ればアホみたいに四六時中できるだろう。

 だけど、それだけじゃないだろうか。

 バスケはできる。だけど、現代で俺はそれだけで満足していたか?

 姉貴に誘われて始めた剣道だって一緒だ。

 俺は満足できていたのか?

 答えは否だ。

 変わり映えのない日常。

 ありふれた日常。

 何一つ面白味のない日常。

 対してこの時代はどうだ?

 バスケをできない事を除けば、目にすることやることなすこと全てが新鮮で、現代に染まりきった俺にとっては非日常と言えるのではないか。

 それに松之丞の母親である大石蔵之助。

 彼女ののほほんとした雰囲気で騙されたが、持っている潜在能力や史実ではかなりの強者だと思われる。。それは俺が名前を訪ねたときに、感心したような声を上げたときに気づいた。あれは格上の人間の持つ関心の持ち方だ。俺がバスケにおける王者とすれば、彼女は剣術における王者だろう。現代にいるはずのなかった俺と同等レベルでの強者だ。いつか闘ってみたい。どちらがより高みにいる王者か白黒つけたい。

 一度そう思うといてもたってもいられない。まるで麻薬。あるいは禁断の果実のように心引かれてしまう。

 俺は心のどこかで求めていたはずだ。

 こういった非日常を。

 そうした好敵手を。

 それに俺はまだエモシチや長助さん、松之丞とか唯七など多くの人たちに対して恩を返しきれてない。

 だから、せめて俺に出来ることは最大限やってみようと思う。

 理由なんて、それだけで十分だろうさ。

 だが、それを含めた上でも、俺には一つ懸念があった。

 そう、あの胸の痛みだ。

 俺がタイムスリップする前と数日前の二回。

 そして二回目があった日から数日たった今日に江来た戸からの飛報。

 これを偶然で片付けるには少し強引すぎるだろう。

 必ず何かがあり、黒幕がいるはず。

 なら、自分の落とし前は自分でつけるとしよう。どこの何奴がどんな意図があって俺を呼んだかは知らんが、それ相応の覚悟をしてもらうぞ。王者たるこの俺を巻き込むのだからなぁ。まあ、こんな非日常に送り込んだ事には感謝しても良いが、操られてるとなれば話は別だ。徹底的にぶっ潰してやるよ。

 

 そう決意し、俺は今後の出来事に備えて眠ることにした。




短いって? キリがいいんだよ
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