キセキの忠臣蔵   作:あるく天然記念物

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だんだん赤司様としての魅力がががが………なくなってる! なぜだ!


第五話 大評定

 

 翌朝

 俺の予想通りに、赤穂は混乱期に突入した。

 より具体的に記入するのなら、今朝エモシチと共に見た早駕篭はやはり江戸からの悲報のようで、内容も予想通り、赤穂の殿、浅野内匠頭が松の廊下にて刃傷に及んだと。

 その報告により朝から家臣総登城の太鼓が赤穂に響き渡った。

 それで長助さんとエモシチは城に向かった。

 刃傷に及んだ事になると、おそらくはお家は断絶。今まで赤穂が持っていた禄も全て幕府に没収されるはずだから、藩札、現代で言えば国債を全て支払う必要が出てくるだろう。そのために勘定方の二人が向かったと思われる。

 俺? 安定の留守番だ。倒れてからエモシチが長助さんに味方するようになってろくに外に出ることができなかったんだよ。

 ……………ほんと、何してんだろ、俺。

 

 そんな慌ただしい日も過ぎていき、二三日たってある程度落ち着きを取り戻した今日。

 ろくに外に出られない俺は現在何をしているのかと言うと、

 

「ここは城を枕に腹を切る! それしかない!!」

 

「いや、籠城して幕府に我らの怒りを伝えることこそ武士だ!」

 

 殺伐とした雰囲気の立ち込める赤穂城に登城していた。

 現在ここ赤穂城では、藩の今後を決める大評定が開かれている。

 なぜそんな状況下に俺がいるのかというと、何の因果か、俺を外に出したがらなかった長助さんが原因だ。

 元から身体の調子が悪かった長助さんは、ここ数日の慌ただしい藩札交換で無理が語ったのか、倒れてしまったのだ。

 本人は大丈夫と言っていたが、あいにくそれが嘘だと俺の目に映っていた。

 少なくとも数日は安静にする必用がある。

 そんな状態で大評定に出るわけにもいかず、急遽俺が長助さんの代わりに出席することになったのだ。無論心配性のエモシチも一緒に。

 あぁ、ちなみに長助さんは城を枕に腹を切るのに賛成のようだった。俺にそう伝えてくれって頼まれたからな。

 

「さて、これはある意味凄い状況だな」

 

 話し声の殆どが討ち死にだの切腹だの、死ぬことしか飛び交っていない。

 てか、この場にいる人間の殆どが女性という点にある種の驚きを感じてしまう。

 まあそんな事はいいとして、何故にここまで殺気立って恐ろしい事ばかり飛び交っているのかには理由がある。それはエモシチから聞いたのだが、幕府は赤穂に城を無条件で明け渡せと通告してきたのだ。ここ赤穂城は初代の殿様が自分でお金を出して立ち上げだ城で、幕府の力を借りてないのにそれをよこせとは言語道断だそうだ。まさにジャイアニズムの鏡だな。

 そして全体のまとめ役であり、この大評定において一番発言力のあるであろう内蔵助は部屋の奥で、ただ静かに目をつむって座っている。

 理由もそうだが、こりゃぁ話が纏まらんわけだ。

 

「で、こんだけ討ち死にだの切腹だの飛び交う中、エモシチと松之丞はどうかんがえているんだ?」

 

 取り敢えず俺は近くにいた二人に意見を求めてみる。

 まぁ大体予想つくけど。

 

「決まっています! 城を枕に討ち死に! それしかありません!」

 

「あぁ。の右衛門七言うとおりだ。我らの怒りを幕府に伝えるにはそれしかない!」

 

 さも当然の如く口にする二人。

 マジで予想を裏切らないところに脱帽だぜ。

 

「直刃よ。そういうお前はどっちなのだ?」

 

「そうです。直刃しゃんはどう考えているんですか?」

 

 自分たちだけ質問されるのが気にくわなかったのか、松之丞とエモシチは俺に対して質問を返してきた。

 ふむ。

 

「まっ、後で教えてやるよ。それに、そろそろ纏まりそうだぞ」

 

 俺は答えを濁しつつ、視線を変える。

 視線の先には、考えが纏まったのか、対立した意見を持つもの同士、神妙な顔をしている。

 

「では、決を取りましょう」

 

「あぁ。その方が白黒ハッキリするからな」

 

 ………どうにも状況は更にヤバい方向に進んでいたようだ。

 仕方ない。発言するならここしかないな。

 

「では決を───」

 

「その多数決、ちょっと待った!」

 

 訥々に部屋に響く第三者の声に、約四名を除いた全ての人が驚く。

 

「待て、とはどういう意味だ?」

 

 皆が蒼然とする中、一人が俺に質問してきた。先ほど切腹を進言してきた人だ。ちなみに討ち死にを進言していたのは唯七だ。

 

「言葉通りの意味だが? それに、お前たちは何か勘違いしてないか?」

 

「勘違い…だと?」

 

 俺の言葉の真意が分からないのか、彼女は眉を潜めてくる。

 

「そうだ。討ち死にだの切腹だの言うのは勝手だが、自分たちの意見が全員の考えだと勘違いしてないか?」

 

「なにッ!」

 

 俺の言葉に周りにいた女性たちの殆どが俺に向けて殺気を向けてくる。

 ふむ。ここまで濃密なのは久し振りだな。禁止区域の餓えた獣以来だ。

 そんな雰囲気を懐かしみつつ、俺は更に言葉を続ける。

 

「周りを見てみろよ」

 

「? ………ッ!」

 

 周りを見渡すように言って、見渡した彼女たちが息を飲むのがわかる。そこで俺の言った言葉の意味がようやく理解したようだ。

 

「お前たちの意見は大多数に見えて、実際は過半数は愚か、三分の一にも満たない少数意見なんだぞ」

 

 周りには、彼女たちの雰囲気に圧倒されてなにも言えず、ただこそこそと隣の人と話す人たちが多くいた。

 更にそれにと俺は言葉を繋げる。

 

「討ち死にだの切腹だの。そんなの、俺は後免だね」

 

「なっ!?」

 

「す、直刃しゃん!!?」

 

「…………」

 

 三者三様。いや、一人を除いて皆の心が一つになった反応だな。

 主に殺意だが。

 

「き、貴様! それでも武士か! 武士であるならば、亡き主君の後を潔く追うものであろうが!!」

 

「そうだぜ直刃! お前何言ってんだよ! 切腹には反対だが、幕府に自らの過ちを知らしめることこそ武士だろうが!」

 

 意見は違えども、死ぬことにこそいみがあると言ってくる彼女たち。

 そんな彼女たちに対して俺は鼻で笑う。

 

「はっ、武士の本会だと? 戯け。武士として……いや、人として、命ある限り、守るべき物と決めたものを、その人が大切にしていたものを命をとして守るのではないか!」

 

 思い出すは二人の女性。俺は命に変えてでも守と決めた。もし万が一、守れなかったのならば、俺でも潔く後を追うだろう。

 だが、もしも彼女達が大切にしていたものがあれば、俺は命ある限りそれを守り続けていただろう。かつて最愛の妻を失いながらも、その妻が宝物として大事にしていた俺を腐った禁止区域で生きていけるために鍛え上げてくれたクソ親父のように。

 

「それに、藩の今後を決めるのならば、先ずは一番発言力を持った人間の意見を聞くのが先決ではないのか?」

 

 俺は内蔵助の方をみる。この様な状況にも関わらず、内蔵助はめをつむったままだ。

 

「そ、それは……」

 

 俺の意見に彼女は言葉を詰まらせる。

 そして、そんな中、一つの声が響いた。

 

「…………皆、答えは出揃ったようだな」

 

「!? く、内蔵助……」

 

「ご城代……」

 

 ここに来て、初めて内蔵助が口を開いたのだ。

 その事に、この場にいる藩士一同が驚愕を始めとする様々な感情を抱いた。

 ようやく、か。なれない事をするもんじゃねぇな。

 

「直刃? 反対と申すからには……お前は、無条件で城を明け渡せと申すのだな」

 

「な!」

 

「城を明け渡す………」

 

「無条件で………」

 

 内蔵助の言葉に、皆が非難の声を上げ、俺を見つめてくる。

 そんな中であろうと、俺はあっけらかんと自分の意見を伝えた。

 

「あぁ、無論だ。大体、どうして皆がそこまで急いで死にたがるのか……俺には理解できないね。ただ、これはあくまでも一つの意見にすぎないけどな」

 

「なるほど」

 

「ちょっと待ってください! 無条件で城を明け渡すなんて、そんな武士の恥を我らにさらせと言うのですか!? そんなのできるわけないでしょう!」

 

「その様な事をすれば、我らは幕府の過ちを見過ごすことになってしまいます!」

 

「だが、それも直刃の言うとおり、意見の一つということじゃ」

 

「!?」

 

「母上……」

 

 俺たちの会話に唯七を筆頭に様々な人が反論をしてくるが、内蔵助の一言でそれは収まった。

 

「皆は忘れているようだが、殿の弟君である大学様は幽閉されているとはいえご存命だ。その大学様を跡継ぎに据えれば、お家再興の道はまだ残されている」

 

「では、内蔵助は城の明け渡しに賛成なのか?」

 

 先ほど俺と口論した彼女が、内蔵助に聞いてきた。身分が一番高い内蔵助を名前で呼ぶところから、どうやら身分がそれなりに高かったようだ。

 やべ、そんな人に俺タメ口で口論しちゃったよ………大丈夫だよな? まあ万が一には逃げることも辞さないが。

 

「ならば、藩士一同のお命……この内蔵助にお預け下さることを誓う誓約書を書いてくださらぬか?」

 

 おっと、どうやら色々思考しているうちに話が纏まったようだ。

 先ほどまで感じていた殺気立っていた雰囲気が今は感じられない。

 どうやら、内蔵助が上手く藩士をまとめ上げたようだな。

 まったく、やれやれだぜ。

 

……………

 

………

 

 

 それからは内蔵助が用意した誓約書に名前と血判を押し、大評定は終わりに見えかけたが、最後の最後に内蔵助は爆弾を置いていった。

 

「万が一………お家再興の夢が潰えたときは、ここに集まっている藩士一同、亡き主君の御無念を晴らすべく、吉良上野介の御首を頂戴する」

 

 と。

 つまりは、どうしようもなくなった時には仇討ちをやると言うことだ。

 そして、これが歴史の動きとなる。

 先ほどはいろいろと偉そうな事を言った俺だったが、その本心は、この正史の流れに向くようにし向けたのだ。俺というイレギュラーのいるこの時代、一体何が引き金となって歴史が変わるか予想もつかない。だからこそ、敢えて歴史通りに時間を進めることで、そういったイレギュラーを対処しやすくしようと考えたのだ。

 無論、だからといって仇討ちに参加するつもりは毛頭亡い。何しろ、俺はあの禁止区域という地獄であっても死を受け入れず、泥水を啜ってでも、生き恥をさらし続けていても、生き抜いたのだから。

 それから帰りがけ、髪の毛が青い女性とすれ違ったのだが、その女性の持つ雰囲気に思わず俺は赤司様の雰囲気を出してしまうことがあった。いやー、強い人を感じ取ったら見境無く出てきたがる赤司様には本当に困ります。

 

 こうして、怒涛の大評定がこれにて終了したのだ。

 

 だが、この時の俺の発言や行動が、後々の行動に多大なる影響し与えてしまうことを、この時の俺は知らなかった。

 

……………

 

………

 

 

 さて、あの大評定の後、赤穂武士として恥の無いように徹底して立つ鳥跡を濁さずを実行した俺たちは、城を明け渡す日を迎えた。

 現在俺は藩士のみんなと一緒に城の明け渡しを見学しています。

 ぶっちゃけ面倒だから参加したくなかったのだが、「自分で提案したことでしょうが!」とエモシチ起こられ連れてこられたのだ。てか、俺の意見だが最終決定権は内蔵助にあったというに。

 

「しっかし、これでしばらく見納めだと思うと、なんか感慨深いな」

 

「そうですね──って、何他人ごとみたいに言うんですか直刃しゃん! 直刃しゃんの提案でしょうが!」

 

 だって他人ごとやんか。

 そんな俺の心情を知らないエモシチは更に怒ってくる。だから悪かったって。

 

「おぉ。こんな所にいたのか」

 

「あ、松之丞しゃん」

 

「おぉ、松之丞か。どうしたよ」

 

 エモシチとじゃれ合っていたら、どこからともなく松之丞が現れた。

 

「直刃、母上が呼んでいる。一緒に来てくれ」

 

「内蔵助が? 何でまた」

 

「私が知るものか。それとお前はまた母上を呼び捨てに」

 

 気づいている人も沢山いると思うが、結構前から俺はご城代──大石内蔵助を呼び捨てにしている。てか、これに関しては前世の影響が大きすぎるな。相手に敬意を持てないとかそんなんじゃなくて、なんか、面倒なんだよな。まっ、さすがに相手が明らかに敵意を剥き出しにしてくるときにはしないが。

 

「安心しろ。内蔵助だけじゃなく他の連中も呼び捨てにしてるから」

 

「余計に安心できるか! とにかくついて来い!」

 

 松之丞に腕を引っ張られ強制的に連れて行かれる。

 ちょっ、着物伸びるから引っ張るな、引っ張るな。

 

「松之丞、直刃をつれてきてくれたか?」

 

「はい、母上。ほら!」

 

 松之丞に背中を押されて突き出される。

 

「で、俺に何の用だ、内蔵助?」

 

「き、貴様!」

 

 俺のタメ口に松之丞が怒り心頭になる。が、それを内蔵助はいさめる。

 

「よい、松之丞。私は気にしておらぬから。それと直刃よ、これからの事なんしゃが」

 

「ん? これからって、俺はエモシチたちと一緒に上方に行くつもりだが?」

 

 赤穂藩士一同は散り散りになるが、その主な向かう先は二つだ。

 一つは江戸。

 これは元々江戸の方で働いていた人が向かう。

 次に上方。これは京都の方を指す言葉で、エモシチたちが向かう。

 当然ながら俺もエモシチたちと共に向かう予定だ。 本当は江戸の方に向かいたかったのだが、さすがに未だに体の調子が優れない長助さんたちをほっとけない。

 だが次の瞬間、俺は驚愕することになった。

 

「ふむ。それなんだが、お前は、私たちと共に山科に来てもらうぞ」

 

 思考が軽く停止する。

 え? 来てもらう? どゆこと?

 

「すまん。もう一度言ってもらえませんか? なんか、山科に一緒に来いとか、なんか、すごいことを言われた気が……」

 

 自分の耳が馬鹿になったのかどうか確認するため、再度同じ事を言ってもらう。

 

「わかった。直刃よ、お前は私たちと共に山科に来てもらうぞ」

 

 どうやら聞き間違いでは無かったようだ。

 なるほど。俺も内蔵助たちと共に山科に行くのかぁ…………………………………………はぁ!?

 若干納得仕掛けて我に戻る。なんで俺までついて行く必要があるんだよ。おかしくね?

 そ、それに長助さんだってこの事は──

 

「それにこの事は長助も了承済みだ」

 

「マジ?」

 

 ──どうやら知っていたようだ。てか最初から決まってたのかよ。

 

「これからよろしく頼むな、直刃よ」

 

「は、はぁ……まあよろしくな」

 

 俺なりにおもうところがあったが、こんな状況になるのは二回目だったので納得させた。

 気づかないうちに勝手に決められちまう。まるで麗華のような手腕だぜ。まっ、麗華より腹が読めんのが玉にきずだが。

 

 その後の内蔵助との会話で、俺を女所帯では何かと物騒だから護衛としてついてきてもらいたいのと、長助さんには二両で取引したことを伝えられた。

 二両…つまりは現代価格で六十万。

 これを安いと捉えるべきか妥当だと思うべきか微妙な金額だ。

 だがまぁ普通に稼ぐよりは遥かに高い金額だと思うし、食い扶持ちが一つ少なくなる上に今すぐにお金が手に入る方が長助さんたちの生活にはいいだろう。

 しかし、俺が内蔵助たちと共に行動か。さてさて、一体今後どうなることやら

 

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