キセキの忠臣蔵   作:あるく天然記念物

7 / 25
第七話 縁側での誓い

「江戸に向かう? 何故にまた」

 

 刺客襲来から数日が過ぎた今日。

 何時もの日課である森林浴から戻った俺は、内蔵助から江戸に向かうからついて来いと聞かされた。

 マジで唐突すぎる。

 あっ、そうそう。女刺客襲来の後だが、完全に出遅れた破数右衛門とやらがやって来て目の前の惨状に驚愕されたり、二人ほどの女の仲間と思わしき刺客がやってきたりした。後からやってきた二人の刺客に関しては、一人は数江門があっさりと倒し、もう一人は俺が女と同じように二つの道を与えて、見事に逃走を決め込んでいたから、そのまま見逃してやった。戦う気のない奴をどうこうする趣味は持ってないからな。ぶっちゃけつまんねぇし。

 そして刺客を返り討ちにした後、数右衛門は内蔵助に面通りを願ってきたので、一緒に屋敷に戻ったのだ。

 まぁその後は数右衛門が仇討ちに参加したいとか何とか言ったりしたが、数右衛門は藩から暇を出された身らしく、あっさりと断られてしまった。それでも諦めきれなかったのか、いまでも自主的に屋敷の警護をしている。

 それと、実は俺は数右衛門と何度か試合をさせてもらった。何分女刺客が思ったよりも骨がなくて不完全燃焼気味だったので、発散すると同時に、型にはまってない達人レベルと打ち合ってみたかったからだ。試合の結果は、まぁ予想通りの俺の全勝だ。だが、その事もあってか、数右衛門にはえらく気に入られてしまった。

 おかげで事あるごとに試合を挑まれ、それに松之丞が便乗してくる始末だ。あいにくバトルジャンキーな気質は認めなくもないが、基本的には怠惰だから勘弁して欲しいぜ。程々がいいんだって、程々がな。

 

「うむ。実はのぉ、安兵衛たち江戸詰めの者たちが、どうも仇討ちの計画を立てておってのぉ」

 

 内蔵助の話によると、どうにも吉良邸の屋敷替えに乗じて首を取ろうと江戸詰めの人達が考えているみたいだ。しかも分が悪いことに、上方の藩士も同調しているらしい。

 どうやら俺が日課の日向ぼっこやら森林浴にうつつを抜かしている間に情勢は大きく変わっていたようだ。

 

「なるほどな。つまりは説得か。時期尚早ってことなんだろ?」

 

 まっ、それを抜きにしてもお家再興を一番に考えている内蔵助が仇討ちなんて認めるわけ無いだろうが。。

 

「そうなる。じゃから、お主には私の護衛をしてもらいたいのじゃ。頼めるか?」

 

 別段断る理由もない。てか、むしろ願ったり叶ったりの提案ともいえる。

 説得するためには勿論江戸に向かうことになるだろう。つまり、俺がこの時代に来る原因となった泉岳寺にいけるということだ。

 

「いいだろう。引き受けた」

 

「うむ。よろしく頼むぞ、直刃よ」

 

 江戸には俺の他に数右衛門もついて行くなど、いくつか予定を話しいき、出発は明日と決まり、俺は準備のために内蔵助と別れた。

 

 同日の夜

 明日に備えて早めに寝ておこうとした俺だったが、どうにも寝付けず、気分転換に縁側に出てみるとにした。

 しかしそこには思わぬ先客がいた。

 

「ん、内蔵助か?」

 

「おや、直刃も寝付けないのかの?」

 

「まぁ、そんなところさ」

 

 先客こと内蔵助は縁側で一人座り、夜空を見上げていた。

 

「ほれ、そんな所に突っ立ってないで、座るといい。私はここから見える月が好きでの。直刃も見てみるがよい」

 

 言われたとおりに俺は内蔵助の隣に腰を下ろすと、空を見上げる。

 するとそこには、大きく優しい光を出し続けている月があった。

 現代とは空気の質が違うのか、くっきりはっきりと見える。正直、これほど美しい月は見たことがない。

 だが、

 

「……綺麗だな」

 

「そうじゃろう? 私のお気に入りなのじゃ」

 

 月もそうだが、それだけじゃない。

 月を見上げる内蔵助も月同様に綺麗だった。

 

「……のぉ直刃」

 

 しばらく月を見上げていた俺たちであったが、突然内蔵助が口を開く。

 

「なんだ?」

 

「お主は、本当にお家再興が叶うと思っているか?」

 

 不安なのか、その姿にはまるで今にも堕ちてしまいそうな白百合のように感じてしまう。

 

「何を言い出してんだよ」

 

「私はあの判断で良かったのかと不意に思ってしまってな」

 

 話の内容から大評定の事だな。

 おそらく、今回の仇討ちの計画や上方、江戸詰めの藩士の事から、自分の判断が正しかったのか分からなくなってしまったのだろう。

 本当にお家再興は可能なのかって。

 自分が諦めてしまったら、ほかの者たちに示しがつかない。故に悩み、葛藤が胸に渦巻いているのだろう。

 未来を知っている俺には、その質問について答えることはできない。いや、してはならない。それは、人という生き物の意志を全否定することに繋がるから。運命によって決まってるんだ、何をしても無駄だって。そう宣言することになる。

 だけど、自分の意見は伝えられる。俺にはそれしかできない。

 

「さぁ、お家再興の件は正直分からん。ただ、俺は、あの時の内蔵助の判断は正しかったと思うぜ」

 

「……ほぉ。それはどう言った理由でじゃ?」

 

 ここで茶化すのもあれだし、真面目に答えることにした。

 少し間をあけた後、俺は月を見上げる。

 

「………人は、いつかは死ぬ」

 

「…………」

 

 いつもの軽い声色ではなく、真面目な声色に内蔵助の顔がまじめなものに変わる。

 

「それは、生きとし生ける者の、生まれたときからの定めだ。だけど、俺はこう思うんだ。美しく最後を着飾る暇があったら、醜くても最後まで生きよう、って」

 

 ほぼ他人の受け入りだが、俺はこの精神を非常に気に入っている。

 例えて生き恥を晒してでも生き続けたいと思った俺にぴったりの言葉だからだ。

 事実この言葉は俺の人生観を物語っている。

 

「だから、焦って死に場所を決めるよりは、最後までできることを探して、足掻いて足掻いて足掻き続けてから死ぬべきだってな」

 

「………なるほどのぉ」

 

「それに」

 

 俺は顔を内蔵助の方に向ける。この言葉は、本人に直接伝えないとな。

 

「俺は臆病だからな。あの場で死ぬ勇気なんて無かったのさ。だから、誰が何と言おうと、どう思おうと、俺は、大石内蔵助の、ご城代の判断を支持してやるよ。絶対な」

 

「そう……か」

 

 面と向かって言われたことが恥ずかしかったのか、内蔵助は顔を伏せみがちにし、言葉をぽつりとこぼした。

 少しの沈黙の後、内蔵助がいきなり立ち上がる。

 

「さてと、明日も早いのじゃ。直刃も早めに休んでおくのじゃぞ」

 

 それだけを言い残し、内蔵助は自室へと戻って行った。

 その後ろ姿に不安の色は全く見えなかった。

 

「さて、俺も寝るとするか」

 

 明日は早い。俺も身体を休めておくか。

 ただ、この時において、俺は一つの決意をした。

 歴史に同情でも、運命に同情したわけでもない。

 ただ、大石内蔵助って人を守りたいと。支えたいと思ってしまった。

 

「たったあれだけの会話でそう思ってしまうとは。俺も安くなったもんだ」

 

 討ち入りに関してはまだ参加する気はさらさらない。だが、それまでは内蔵助を支えていこうと思う。

 それに、おそらくこの忠臣蔵は歴史通りには行かないだろう。俺がいること及び黒幕によるイレギュラーによって。何故かはわからないが、俺の感がそう告げている。悲しいことにヤバい事に関しては外れたことが無いのだ。なら、それは俺自身の問題で、俺自ら処理する必要がある。

 まっ、今は明日に備えて寝るとするか。

 




短い! だが本作でも重要且つキリがいいためここまで
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。