朝日がまぶしくて目が覚めた。起きてすぐは気付かなかったけどそれってつまり霧が晴れたってことである。
今日は九月の最初の日。紅い霧が里に立ち込めておおよそ二ヶ月。紅霧の異変がようやく終わったようだ。
飛び立っていく紅白を遠目に見ながら里の警邏をしていたを今でも思い出せる。まあ二ヶ月しか経ってないし。
そして日暮れと共に帰ってきたのも忘れることはできないだろう。
そのとき遭遇した里の人が言うには、お弁当持ってくの忘れたって言ってたらしい。
次の日には大量のおにぎりを背負って飛び立っていくのが目撃されていた。
数日後、ずたぼろになった魔女ルックを引っつかんで里に戻ってきた。
そのとき私は郊外の畑で農作物を収穫していたのでやはり人から聞いた話ではあるのだが、背負って来た紅白の巫女装束に白い部分がなかったというほどの大怪我だったらしい。
その後、巫女は怪我こそしていなかったものの、血を浴びたせいで生まれた穢れを払うための禊に入った。
魔女は普通に治療後の療養である。どうもこの魔法使い、霧雨屋の娘さんらしい。
霧雨屋のご主人が見舞いに来ては非常に遠まわしに心配してしている姿がたびたび目撃されている。
里では紅い霧の影響で体調を崩す人が増え始めた。けーね先生が歴史フィルターを発動して被害を押さえ込むも完全とはいかず、この時期に初めての死者が出た。
禊を終えた博麗の巫女がおにぎりを担いで再び出動。魔女も気が付いたらいなくなっていたらしい。霧雨屋のご主人ごかんむりである。
数日後、白黒にまばらに赤を足した魔法使いが魔法の森へ飛んでいくのが目撃される。
博麗の巫女については音沙汰がないが、心配している人は皆無である。信頼度の桁が違う。
数日後、けーね先生が満月なのに歴史編纂の余裕がなくてキレる。里の陰陽衆が結界で余裕を作ると申し出たが、先生は拒否。
曰く、いつ異変が終わるのかも分からないから少しでも余力を残しておくように。本当に頭が上がらない。でも壁に頭付きをかますのはやめていただきたい。
しばらくして、再び博麗の巫女が瀕死の白黒を担いで現れる。魔女の不要説が里で囁かれ始める。三度も耐えるのは仏のような人だけということだろう。
何日か経ち、巫女が再出動するも、魔女は未だ意識が戻らず。里の人間が弱っているのが分かるのか、ただでさえ異変で活性化していた周囲の妖怪の動きが活発になる。
こちとら能力はあるけど経験が足りない新米なので、幻想郷縁起のデータを求めてあっきゅんを訪ねる。あっきゅんが臥せっていることが発覚。
霧雨屋のご主人が白黒魔女が出て行かないように自警団に監視を要請してくる。既に二度も博麗の邪魔をした実績があるため、了承される。
白黒、案の定脱走しようとして捕縛される。博麗の巫女は当てにならないから自分が行くなどと言っているが、既に信頼度はゼロに近い。
霧雨屋のご主人の言もあって暴行されるようなことはないが、守護神に等しい博麗の巫女を非難したことでもはや誰も聞く耳を持たない。同年代の同姓ということで世話役を押し付けられる。
監視といってもやることはないので話半分に白黒魔女の言い分を聞いてみる。
曰く、博麗の巫女はスペルカードルールに致命的に向いていない。その辺の木っ端妖精のがまともな弾幕戦ができると言い切れるほどに。
人間側は肉体的、精神的に可能な限りコンティニューできるというのがスペルカードルールの基本骨子の一つだ。
通りがかりに観察したが、博麗の巫女は一度も勝つことなく、無限コンティニューで相手がもう飽きたからどっか行けと言いだすまでゴリ押していたのだという。
そんなのでは暇つぶしに暴れているやからはともかく、異変を起こした黒幕に諦めさせることはできはしない。
んなあほなという言い分ではあったものの、もし本当ならと考えてしまえば不安になってくる。開放されるための嘘ならもうちょっとましなことを言うだろうし。
監視から離れられないのであっきゅんにお手紙を届けてもらう。現状の説明と魔女の言い分だ。
あっきゅんは幻想郷縁起の編纂で色んな程度の能力を知っているので、半ば程度の能力の研究家じみているところがある。話を聞ければ参考になるはずである。
あっきゅんの体調が多少回復してお手紙が帰ってきたのがそれから数日後。
答えは、是。ありうると。
博麗霊夢は空を飛ぶ程度の能力を持つ。それはあらゆるものに縛られないという、破格の能力である。
故に、博麗霊夢はスペルカードルールにおける弾幕攻撃が下手である。
博麗霊夢が望めばあらゆるものから宙に浮き、神であろうと干渉することができなくなる。故に、彼女は人妖、神であっても同じように扱う。
博麗霊夢にとって神と木っ端妖怪は同列である。故に相手が神であろうと木っ端妖怪であろうと同じ威力の攻撃をする。
が、スペルカードルールでは相手の命を奪ってはならないと定められている。本来妖怪側にかかる制限が博麗霊夢にもかかってしまっている。
重ねて、博麗霊夢にとって神と木っ端妖怪は同列である。木っ端妖怪が、対神弾幕を受けてなぜ耐えられないのかが本質的に理解ができない。
博麗霊夢は手加減ができない。する理由を理解することができないから。
博麗霊夢は空を飛ぶ程度の能力を持つ。それはあらゆるものに縛られないという、破格の能力である。
故に、博麗霊夢はスペルカードルールにおける弾幕回避が下手である。
あらゆるものは彼女を害することができない。ルールで当たったらダメといわれていても、避ける必要がないと本能が知っているのだ。本当なら避けずとも当たらないのだから。
それをわざわざ避けないといけないと認識し、わざわざ体を動かして回避に意識を向けなければならないのだから、うまくいかなくて当然である。
博麗霊夢は回避ができない。避けずとも当たらないものを、わざわざ避ける必要などないのだから。
以上の理由から、博麗霊夢はスペルカードルールに致命的に向いていない。
むしろ妖怪の賢者が霧雨魔理沙の開放を要求してきたので異変解決に向かわせるように。
読み終わるとほぼ同時に目の前に一本の線が引かれ、その両端がリボンで結ばれ、がばりと開いた空間から瘴気が押し寄せる。
ピギィとか女子としてどうかと思う悲鳴を上げながら全力で後ずさり、この世のモノとは思えない美しさの女性がスキマから出てきたのを最後に記憶が途切れている。
悲鳴を聞いて駆けつけた自警団の先輩によると、部屋には恐慌状態の私一人が残されていて、魔女はもちろん妖怪の賢者の影も姿もなかったらしい。
そんなこんなで稗田家の一声で霧雨魔理沙というらしい白黒魔女への風当たりが表向きなくなったころ、けーね先生の様子がおかしくなる。
何かを焦っているような様子が見られ、けれど心配した子供達や保護者が声をかけても心配いらんと言うばかり。
日に日に先生の焦燥が増していく中、何もできない周囲を置き去りにして事態が進行してしまう。
けーね先生、自棄酒に走る。紅霧異変が始まってから二度目の満月である。居酒屋でザルのように飲みながらひたすら管を巻いていたそうな。
ちなみに満月の日は八月三十一日。昨日である。本日も酒に溺れるけーね先生が見られるかもしれない。