ようやく月一回のフィーバーが収束を向かえた翌日、別の異変が始まっていた。
いいかげんにしろよこのやろう。
私は紅霧異変以降の異変しか知らないけれど、いくらなんでも密度が高すぎやしないだろうか。
異変を起こすような大妖怪がこっちの都合なんて考えないというのは知っている。
しかし、春雪異変みたいなのが連続で来たりしたら人里って簡単に滅びないだろうか。
けーね先生の寺子屋で、子供達に混じって幻想郷の歴史はさわりではあるけど教えてもらった。
少なくとも数百年は続いているというのだから、ちょっとした手違いでころりと全滅してしまいそうな今の環境が異常だというのは少し考えれば分かることだ。
などということを貸本屋で遭遇したあっきゅんと店主である小鈴ちゃんに愚痴ってみる。
さすがに吸血鬼に仕える咲夜ちゃんにこんな愚痴をもらすほどアホではない。
これには小鈴ちゃんも同意見らしい。
幻想郷基準でお年頃くらいの年齢の小鈴ちゃんだけど、紅霧異変が起こるまでは異変なんて数年に一回あるかどうかという程度だったらしい。
それらだって博麗の巫女が数時間足らずであっという間に叩き伏せていたらしく、近年の異変ラッシュや解決にかかる膨大な時間というのは明らかにおかしいのだという。
どちらともなくスペルカードルールなるものに問題があるんじゃないかという結論に達する。お互い口には出さないが。
まあだからどうしたという話である。どうしようもないものはどうしようもない。
小さくなって頭を伏せて、通り過ぎるのを待つばかりだ。里の人間はそういう方面の適応率は非常に高い。
さて、今回の異変なのだが、花が咲いた。以上である。
あっきゅん曰く、六十年に一回起きる外界からの幽霊であふれかえる自然現象である。その結果花が咲くのだという。
なんで幽霊と花が結びつくのかはいまいち理解できなかったが、今までのような元凶のいる異変ではなく、時間経過で勝手に元に戻るのだという。
花が咲く、実になんてことのない異変に思える。
妖精や小妖怪どもがテンションを増すのは今までの異変と別に変わらないし、一月もあれば鎮静化するので普通に警備を強めれば普通に終わる異変なのだそうだ。
だが待って欲しい。どこにでも花が咲くということは幽香さんとランダムエンカウントするようになるということだ。
そして幽香さんの見ている前で花を踏もうものなら骨の一つや二つ簡単にへし折られる。里の外だったら害虫のようにぷちっとされるだろうことも想像に難くない。
というか実際ここに来る前にすれ違って心臓が止まりそうになった。
普段幽香さんが通らないようなひなびた道に居るもんだからその恐怖は計り知れない。
しかも自然が活性化しているので妖精との遭遇率も異変うんぬんを抜きにしても圧倒的に多い。
里の中でさえ頻繁に見かけてイタズラを仕掛けてくる始末だ。
今も本を盗みに来ていた三人組の妖精を捕獲したところである。容赦なく脳天を叩き割る。絵面がえぐいのは仕方ない。
ピチューンと自然に還ってゆく彼女達を見て、小鈴ちゃんが一言。幼女虐待にしか見えなかった。
物理で殴るしかできなくてごめんなさい。
二人と別れて田畑へ向かう途中、幽霊の回収業者さんが泣きそうになりながら幽霊を仕分けしているのを目撃した。
異変で外界から入り込んだ幽霊と、冥界で回収している幽霊は分類が違うので両方回収するわけにはいかないらしい。
私には一切見分けが付かないが彼女には違いが分かるのだろう。ヒヨコの雌雄を見分けるような職人芸である。
そしてどこからか湧き出した妖精に仕分けた幽霊をごっちゃにされ、怒って妖精をたたっ斬る間に幽霊が逃げ出しそうになり、慌てて追いかけようとしてすっ転んで盛大に逃がしてしまっていた。
ゆゆこさまーと誰かの名前を呼びながらえぐえぐと泣き始める。
なにこれかわいいい。見守っていた人々の心が一つになった瞬間である。
とはいえ私には幽霊の捕獲も仕分けもできないので遠くから応援するだけである。
畑に辿り着くと、そこでは我らが静葉さまと穣子さまが妖精相手に無双していた。
ちぎって投げちぎって投げというのはああいう光景のことを指すのだろう。
しかしお二人は戦闘に秀でているわけではない。次第に物量に押し込まれ、わっしょいわっしょいとどこかへ運ばれていってしまった。
そして通りがかりのメイドちゃんに救出され、ようせいこわいとお社に引き篭もられた。
咲夜ちゃんにはちゃんとお守りしなさいと怒られたが、こっちもこっちで割と必死なのだ。
遠距離攻撃の手段が投石か竹槍くらいしかないNOUMINでは、空を飛び、小玉とはいえ群れをなして弾幕を発射する妖精相手では分が悪いのである。
なんか話を聞いていると咲夜ちゃんは異変の元凶を探しているようだったので、これが自然現象だということを教えてあげる。
それならということでなんと咲夜ちゃんがお社の警護を引き受けてくれることになった。
お屋敷はいいのかと確認を取ったけど、巫女に攻められたりしなければ落ちることはないと零れ落ちそうなほどの胸を張っていた。
主人が夜行性だから仕事さえこなせば日中は割と余裕があるらしい。いつ寝ているのだろう。
どうでもいいことだけど、咲夜ちゃんはNOUMINたちに大人気である。
同じ神さまを信仰し、その神様のお社を築き、毎日欠かさずお供え物とお祈りをしている。
その上、巨乳美人で家事も万能。
これで嫌いになれというほうが無理がある。
ちなみに彼女の胸部の成長記録をつけていた馬鹿もいたらしい。私だ。
目に見えて大きくなったからね、しかたないね。
そうして思わぬ戦力を得て防衛を続けること数時間、ようやく日が暮れ始める。
咲夜ちゃんはお仕事のため帰宅していくが、あとはNOUMINたちだけでも大丈夫である。
今回の異変の主戦力は妖精だ。奴らは見た目どおりの子供っぽい行動原理を持つので、夜になれば比較的おとなしくなる。
日が暮れたら妖怪が闊歩するようになるけれど、物理で殴り倒せるような輩は我らNOUMINの敵ではない。飛べる奴も稀だから投石で十分に対応可能である。
異変が始まって一週間ほど経ったころ、田んぼの上空を幽香さんが通りかかった。
NOUMINたちの間に緊張が走る。咲夜ちゃんが飛びかかろうとするのを必死でなだめ、そのまま防衛を継続する。
幽香さんはそのまましばらく上空からNOUMINたちの奮闘を眺めていたが、飽きたのだろう、日傘を差したまま片手を向け、極太のビームで妖精を薙ぎ払って去っていった。
田んぼにも人にも被害はない。害虫には容赦はないが、働き蜂には割と優しい幽香さんである。
畏怖を植えつけるのも忘れない見事な手際に戦慄覚える。
その後も咲夜ちゃんの援護もあってか、運悪く幽香さんの見ている前で花を踏んづけてボロ雑巾のようにされた人が数名出た以外は問題らしい問題もなく、花満開の異変はあっさりと収束した。
ここのところの異変の例を見るととても信じられないが、本当に何事もなく終わったのである。