季節は巡り、夏。夏野菜の神さまもうちの畑に豊穣を与えることができなかった。
どうにも昨年の春雪異変の後に一面を芋畑にしてしまったのが原因らしい。
そんなわけで私達の農家では春野菜、夏野菜の生育を諦め、秋の農作物に特化して耕作を行うこととなる。
春夏野菜の畑は秋野菜の畑に様変わりし、穣子さまは飛び上がらんばかりに飛び上がって生き生きと加護をばら撒いていた。
そして力を使いすぎてぱたりと倒れ、現在は静葉さまと咲夜ちゃんに看病されている。
元々余り力の強い神様ではなかった穣子さまは、お社ができたとはいえ今までのおよそ三倍に及ぶ加護の行使に御身体が耐えられなかったご様子である。
そうだ、巫女を決めよう。
寝転がったままの穣子さまが唐突にそんなことを仰られた。
誰彼ともなくNOUMINたちの視線が一点に集まる。視線の先には銀髪メイドの咲夜ちゃん。
信仰心は誰よりも強く豊穣の祝福も受けていて、お社を建てたのも彼女であり、更に吸血鬼のメイドなら純潔であることは疑いようもない(偏見)。
が、当の本人はこれを固辞。神として信仰はすることはあっても、主として仕えることは絶対にないと完全否定である。
大妖怪の従者なんてやってるんだから、そこにはきっと譲れない何かがあるのだろう。
NOUMINたちだけではなく穣子さまからも不満の声が上がるが、それでも彼女が首を縦に振ることはなく、なら彼女はいかがですかと、私にキラーパスが飛んできた。
他に信仰している相手がいないから純度は高いものの信仰心自体は余り高いわけではなく、一応祝福はもらったが所詮は一農民であり、誠に遺憾ながら彼氏いない暦イコール年齢の生娘である。
最後の部分を知ってる人はほぼいないが、NOUMINたちの視線はこう言ってる。うん、微妙。
私自身もそう思うので更にパスしようと辺りを見回すが、そこで静葉さまから待ったがかかる。
この際この子で妥協しておきましょう? お社が建っただけでも十分なのに、これ以上の充実を求めていたらきりがないわ。
そうして私の髪を軽く撫でる。瞬く間に黒髪が紅葉のような鮮やかな赤に染まり、毛先には黄色のグラデーションがかかる。
はい、貴女に紅葉の祝福を。これで貴女は私達の、秋を司る紅葉と豊穣の巫女よ。
ぽかんとしているうちに変化は終了。朗らかに笑う静葉さまなのだが、それはしてやったりという穣子さまの笑顔にどことなく似ている気がした。
もはやこうなっては拒否などできるはずもないだろう。
謹んで拝命しますと答えると、お、おぅみたいな微妙な空気がNOUMINたちから流れ出す。
微妙でわるかったな、ちくしょう。
こうしてなし崩し的にお二人の巫女になったのではあるが、そもそも巫女としての作法なんて何も分からない。
お社に住み込みで働くことになったのだが、自給自足を主とする静葉さまと穣子さまは私より遥かに料理がお上手である。
神さまのお召し物が汚れるようなことはなく、むしろ私の巫女装束を用意する必要がある。
唯一掃除だけはお役に立てているようだけど、明らかにこのままではいけないだろう。
巫女がいるだけでステータスになるものだ、とお二方は仰るけれど、私がそれには耐えられない。
要スキルアップである。幸いなことに、私にもそのあてはある。
そう、農民を戦闘民族NOUMINにまで鍛え上げ、自身も返俗してNOUMINとなった、先代博麗の巫女さまである。
彼女は博麗であったため、特定の神さまを信仰することはせずに人の技術とノウハウだけで農業を行う派閥に所属している。
この派閥は規模こそ小さいものの、耕作技術が飛び抜けて高いために農家の中では一目置かれている集団である。
農薬や化学肥料もバンバン使う派閥であり、穣子さまとは非常に相性が悪いので出かける際に一悶着あったけれど、静葉さまに取り成して頂いてどうにか事なき事を得た。
先代博麗の巫女さまを訪ねると、私が巫女になったことはもう広まっているらしく、快く講師を引き受けてくださった。
ブートキャンプでも始まるのかと思っていたけれど、ごく普通に精神修行から始めることに。
博麗と普通の巫女は違うだろうけど、それでも基本の基本は同じはず。
落ちこぼれないようにがんばっていこう。
なんだかんだで人の縁には恵まれている気がする。
この縁が切れてしまわないように、私は私にできるだけのことをしたいのだ。