私が巫女の任についてからおおよそ二年。
すっかり巫女としての立ち居振る舞いも板に付き、先代さまからもどこに出しても恥ずかしくないと太鼓判をもらってようやく一人前の巫女を名乗れるようになる。
合間合間で見に来ていた咲夜ちゃんのが先に免許皆伝をもらっていたけど気にしてはいけない。生まれ付いてのスペックが違うのだ。
門前のメイド習わぬ巫女を舞うとかいうレベルではない。久々の咲夜ちゃんすげーである。
もっとも、そのおかげで自主練に付き合ってもらったりもしたので私の習熟が早くなった要因の一つでもある。持つべきものは友達である。
今や我らが秋の姉妹神さまにはお社があり、ご利益もあり、巫女までいるという完全な布陣なのだが、信者数の伸びはいまいちだったりする。
というのも静葉さまは元々専業だったこともあって以前までとほとんど差が出ていないのである。
紅葉に思いをはせる人が増えたかと聞かれれば、増えるまでもなく秋限定で最初からほぼフルスロットル。お社が建とうが巫女が居付こうがその辺は変わらない。
穣子さまの豊穣の加護に関しても、化学肥料やメイドインカッパの便利な自動式農具から離れられないという人は少なくないのだ。
特に農薬を使っている場合は土の汚染除去から入る必要があるので無駄にハードルが高い。
信仰を増やすというのはままならないものである。
花が咲き乱れる異変からこっち、小競り合いこそあったものの異変らしい異変も起こらず、実に平和な日々が続いている。
大妖怪たちが裏でこそこそと何かを画策しているという噂もあるけれど、協調性が皆無に等しい彼女達が団体行動を成功させる青写真はまるで見えてこない。
人里としては、まず間違いなく飛んでくるだろう失敗の余波に備えるくらいである。
そんなある日、里に買出しにきていた私は唐突に吹き飛ばされた。
里の中だからと気を抜いていたのもあり、受身も取れずに地面を転がる。買い物籠もどこかに飛ばされた。
季節が秋真っ盛りであり、私と巫女服に掛けられている加護が全開なのが幸いした。怪我らしい怪我は転がったときの擦り傷くらいである。
慌てて体勢を整え、能力で加速して第二射を回避。仕掛け人は私を見失ったらしく、上空からきょろきょろと周囲を見下ろしていた。
理由はわからないが、私が狙いであることは確定。敵襲、敵襲とあちこちで叫ばれているからもう自警団や陰陽衆には伝令が走っているだろう。
言っちゃ悪いけど非戦闘系かつ加護自体も余り強くないお二方の防護を抜けなかった時点で、襲撃者が大した相手ではないのはもう分かっている。
巫女になってから射出できるようになった紅葉色の小玉でこちらに気を引き、相手がこっちに気付いたことを確認してからダッシュで逃げる。
博麗との差別化の為に巫女服の袖に縫いこまれている紅葉に巫女パワーを込めると、そこからはらはらと分裂した紅葉が落ちる。私の巫女としての権能、以上である。しょぼいにも程があるね。
わざわざ速度を落として、目印に紅葉まで撒き散らしているのだ。これで向こうが私を見失うことはないだろう。
雑な弾幕が飛んでくるけど避けることは容易である。それどころか家屋に向かう流れ弾を迎撃することすらできている。
なぜ里の中で襲撃してきたのかよく分からないが、私ごときに軽くあしらわれるくらいだ。常識すら持ち合わせていないのかもしれない。
そして里を抜け、我らがNOUMINのフィールドである田畑に辿り着く。
待ち構えるのは数十名の戦闘民族、NOUMINである。
今まで遠距離では基本的に投石しかできなかったNOUMINではあるが、私が巫女になったことで生成した小玉を投げつけることが可能となった。
石の落下を考える必要もなく弾切れの心配もなく、霊的な何かにも有効打を与えることができるようになったのだ。
飛行タイプとはいえたった一匹相手に後れを取るNOUMINではない。
そしてあっさりと撃墜。弾幕どころか飛行慣れすらしていなかった模様。何がしたかったんだ。
えっちらおっちら駆けつけてきた陰陽衆の手伝いで簀巻きにした後に結界で封じ込め、蹴り起こしてとりあえず言い分を聞いてみることにする。
卑怯だ卑怯だと喚きたてるばかりで会話が通じない。新種の妖精かなにかだろうか。
そこに紅葉塗りの為に外出していた静葉さまがお帰りになる。話を聞いて即、殺しましょうとなるあたり相当怒っておられるようだ。
私に手を出すと軍神が黙ってないぞなどと意味不明な供述を始めるおつむの哀れな子。
静葉さまはこれ幸いと責任者に出てきてもらいましょうと言い放ち、にこやかに拷問を開始する。
衆人環視の中で青のスカートを捲り上げ、貴女に紅葉の呪いあれーとリズミカルに尻を叩く。叩いた後には真っ赤な平手の後がくっきりと残るのだ。
芋が焼けたよーとお社から出てきて焼き芋を配り始める穣子さま。
尻叩きに興じる静葉さまを見て一瞬固まるも、華麗にスルーしてお芋の配布を継続する。この事態の優先順位はどうやら焼き芋以下のようだ。
焼き芋の山もすっかり食べつくされ、尻に紅葉が咲き誇って秋の野山と化した頃、山の方から神さまっぽい力の持ち主が飛んできた。
長身で注連縄を背負っている女性も蛙衣装の幼女も信仰不足で弱ってはいるけど、明らかに静葉さまや穣子さまよりも格上の神さまである。
なにやらゴゴゴと雰囲気を出して言葉を発しようとした山から来た神さまの機先を制すように、静葉さまの正座の一言が突き刺さる。
向こうが何かを言おうとするたびに被せるように正座の言霊が飛ぶ。表情こそにこやかだけど、言の葉は完全にドスが効いている。
痺れを切らしたのだろう、蛙幼女の神さまが何かをしようと地面に降り立つと、食べ物を粗末にするなと穣子さまがぶちギレる。
そのまま飛び掛ってマウントを取り、NOUMINたちの制止も聞かずに物理でフルボッコである。
静葉さまの正座なさいの声に、注連縄の神さまもついに従った。
静葉さまが懇々と当たり前の常識や神と巫女のあり方についてお説教を続け、穣子さまは幼女神の襟元を掴んでがくがくさせながら涙ながらに農民達の日々の苦労を語り続けている。
どうにも幼女神は祟り神の一種で、農地を祟って飢饉を起こそうとしたのだという。穣子さまがぷっつんするのも無理はない。
先に捕まってお尻を紅葉させている巫女もどきはありえないものを見たように、こちらに恐怖の視線を向けてきている。
正直この光景をありえないと感じるのは私も同様である。
静葉さまも穣子さまも、ご自身で八百万分の一を自称するほどに力のない神さまである。
それはお社の建つ秋の農地という完全なフィールドを得ていても目に見えて変わるようなことではない。
いくら弱っているとはいえ、弱っていてさえ圧倒的格上と分かるような上位神を相手にこんな結果になるとは誰が予想できるだろう。
どれだけ憤っても力の差で蹂躙されてしまうのが現実というものである。
それこそ、奇跡でも起きない限り。