どうも先日の騒動は引っ越してきた子が蕎麦の変わりにドヤ顔をばら撒いて大きな顔をしたかったのが原因らしい。どう見ても自業自得である。
件の襲撃者は里で宗教勧誘を行っているようだが完全に無視されている。ぶっちゃけ石を投げられないだけでも温情があると思う。
私の姿を見かけるとそそくさと逃げていくので、あの件はきっちりトラウマになっているようだ。
一応、軍神や祟神というネームバリューから細々と信仰は増えているようである。
もはや奇跡が起こっても二度と同じ結果になるとは思わないが、最初の躾が効いたのか、こちらには無干渉ということで見逃してくれているようだ。
どうでもいいことだけど、私が襲撃されたのは博麗の巫女と勘違いされたからだそうだ。
博麗信仰を分捕りたかったと証言していたけど、引越ししたてで土地勘も常識もないのにいきなりラスボスに挑むなんて身の程知らずにも程がある。
もし本当に襲撃したのが博麗の巫女だったのなら、彼女達は今頃幻想郷には居なかっただろう。
スペルカードルールでは命の保障はされているけど、それを守らないガチ戦闘で相手を気遣うようなことは一切ない。
博麗の巫女は定められたルールに関しては情け容赦もなく厳格である。
そんな博麗の巫女ではあるが、現在絶賛行方不明である。
元より普段はどこでどんな活動をしているのか余り知られていない彼女ではあるが、一週間ほど前から一切目撃されることがなくなったのだ。
妖怪の賢者からも音沙汰がないため、現在は先代博麗の巫女さまが一時的にお役目を代行し、大物妖怪の取り締まりに当たっている。
同時期に咲夜ちゃんも姿を消したが、こちらはちょっと旅行に行ってくるとのことらしい。お土産を期待してます。
お山の三人衆が戦力として売り込みに来たのだけど、つい最近やらかしたばかりの相手を懐に入れるほど先代博麗の巫女さまは楽観的ではない。今とは違い、やるかやられるかの時代を生き抜いた生粋の武人である。
空き巣や強盗でしか信仰を集められない奴は帰って寝てろと素気無く追い返していた。
彼女達がぶーたれながらも去って行った後、何かやらかすかもしれないから警戒度を上げておけとの伝令が走る。ある意味信用しているんじゃなかろうか。
ちなみになぜ私がそんなことまで把握しているのかというと、まがりなりにも巫女なので巫女パワーを用いた術式やらなにやらを現地で学ぶためについて回っているからである。
あくまで私は紅葉と豊穣を祀る巫女であって非戦闘員なのだけれど、今後も何かあったときの為に覚えておくようにとのことだ。
処女性を失って巫女パワーが不足している先代博麗の巫女さまをサポートする外付け燃料的な役割も担っている。完成した術式に巫女パワーを送り込むだけの結構繊細な作業である。
そうして備えを整えながら二週間ほど経ったある日、ついに妖怪たちが動き出した。
博麗の巫女という理不尽の権化がいなくなったのに、連中はとうとう気付いたのだ。
奴らが密集している場所は収穫の終わった田畑の更に外側。その数、万を下らない。
どこからともなく戦太鼓が響き渡る。方角は前方、妖怪の密集地。
注連縄を背負った神さまが大声で何かを叫んでいる。こちとら普通の人間なのでなに言ってるのか聞こえないです。
相対するように人里の上空に蛙幼女神が現れた。声は聞き取れるけど、古語っぽいのでなに言ってるのかは全然分からない。
そして最後に現れるのはパチモノ巫女服の尻紅葉。同じくこちら側の上空である。
何やってんのと声をかけるとびくりとおびえた様子を見せたものの、蛙幼女神に促されて何事もなかったかのように口上を述べ始めた。
曰く、ただの村人の集団が軍神に率いられた軍勢を誅す奇跡をご覧に入れましょう。
うん、なんというか、盛大にやらかしてくれている。
もはやこれは一種の神楽だ。軍神に戦を奉納するという、シナリオの決まった壮大なお祭りだ。
これは結果の決まったやりとりなのだ。軍神が負けさせる為に軍勢を率い、相対する彼女達がそれを倒すという。
ノリのいい人里の住人達は突如始まったお祭りにテンションが鰻登りである。命の危険が薄くなったのも一因ではあるだろう。
既に決死の防衛戦の空気ではない。祭りである。
先代さまもこう来るのは予想外だと苦笑を零す。
なので私も遠慮なく愚痴を零す。
なんでわざわざうちのお社の近所でやってんの、当て付けかよ、と。