東方弱霊夢   作:こまつな

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#19

私の盛大な空回りが天狗の新聞で特集を組まれていた。恥ずか死にそうだ。

 

ま、笑い話で済んだのなら御の字である。

間欠泉から本当に猛毒が垂れ流されていたらと思うとぞっとする。

 

一応、ダム湖を中心にキュウリ畑を作り上げていたカッパたちの調査によると、川で流れてくるくらいの濃度だとキュウリが巨大化して歩き回るくらい成長が促進されてしまうらしい。害虫も捕食する勢いなんだとか。

カッパにはちょうどいいらしいけど人里の田畑で使うにはさすがに濃度が高すぎる。

あながち無駄な労力だったわけでもないようで一安心である。

 

里でいろんな人にからかわれながら歩いていると、巫女もどきの尻紅葉が信仰獲得のための演説をしているところに出くわした。

半分名指しでネガティブキャンペーンをしているようなので折角だから顔を出す。

農民からの信仰が絶無で復権の兆しもないからといって思い切ったことをしたものだ。

 

尻紅葉が私を見るなりびくっとするのはもはや恒例行事である。

しかし今日はすぐに勝ち誇ったような笑みを浮かべ始める。うざい。

とりあえずは向こうが口を開く前に先制のジャブである。

明けましておめでとう。にっこり笑って新年のご挨拶。よろしくなどとは言わない。

さすがにこれは予想外だったのか、へっと小さく声を上げて尻紅葉が固まる。予想通りの成果だ。

続いて私の失敗を取り上げていたようなのでそれに乗っかる。

新年の笑い話になったようでなにより。当然笑顔は崩さない。

それを切り口に反撃をしようとしているのが見て取れる。が、被せるように更に追撃を行う。

本当に、毒なんかではなくて安心した。笑顔を少し崩して愁いを湛えるような表情に変化させる。巫女パワーを乗せて若干の神々しさをプラスするのも忘れない。

そしてすぐに、お邪魔したかな、勧誘がんばってねと言い残してそそくさと退散する。

 

これで尻紅葉は新年の挨拶も返さず、本気で作物の心配をしていた豊穣の巫女をこきおろし、しかし相手にすらされなかったやつとして民衆の印象に残っただろう。

そもそもぽっと出の巫女もどきと、数年に渡り収穫祭で神楽を奉納している紅葉と豊穣の巫女とでは知名度も信頼度も次元が違う。

これでも年単位で信仰獲得のために努力をしているのだ。この程度の印象操作や人心掌握はお手の物である。

祭神の戦力差で正面から戦ったら勝てるわけがないのだから、こういう地味な嫌がらせが成功すると実に気分がいい。

しかもこれはすぐにでも里中に広まるだろう。自警団を兼ねるNOUMINのネットワークはこういうときにも十全に機能する。

里の一大勢力で影響力も高いNOUMINを侮ったことを後悔するがいい。

 

 

 

ちょっとしたイベントを挟みつつも目的地兼待ち合わせ場所に到着する。

あっきゅん小鈴ちゃんと初見の羽の生えた妖怪が先に来ていたけど、咲夜ちゃんが見当たらない。

その辺の人からメイドさんの目撃情報を聞きこんで居場所を特定し、いつものように迷子案内を行う。何故か薬屋のウサギさんと幽霊回収業者さんと一緒だった。どういう繋がりなのだろう。

人妖入り混じって女の子ばかり七人も集まってどこに行くかというと、服を買いにきたのである。

服と言ってもただの服ではない。水着だ。

 

というのも、間欠泉が未だに止まらないのは異変らしく、博麗の巫女が動いているらしい。

異変が終われば噴き出す水量も落ち着くので、そこに温泉施設が建設されるというのだ。

既に一部の施設は建築が始まっているので、もう温泉水が無差別に川に流れ込むことはなくなっている。農民上がりの巫女としては一安心である。

温泉と言うよりは外界のスパリゾートを参考にした施設になるらしく、水着着用推奨ということで現在に至ると言うわけである。

私はあの温泉には行くことができないが、こういうのは空気を共有するのが大事なのだ。

 

そんなわけで水着を取り扱っている店にきているのだが、想像以上にごった返している。

そもそも水着を冬場に買うようなことは基本的にないわけで、品数がまず足りていない。

正月明けということもあいまって芋を洗うような混雑振りである。

 

さすがにこんな状況では楽しく水着選びなどできるはずもない。

加えて病弱なあっきゅんの体調も不安になる。

これを企画したのは私であり、お友達も呼んできてねーなどと言って期待させたのにこのざまである。なんかここの所、空回ってばっかりだ。

 

話は聞かせてもらいました、と元気のいい声が響く。

視線を向けると、そこには空中で仁王立ちしている尻紅葉の姿。

通りすがりのおばちゃんに里の中で飛び回るんじゃないと怒られ、すぐに地面に降りてくる。

気を取り直した尻紅葉曰く、水着なら未使用も含めて余っているから使いますか、とのこと。

一応聞いてみる。サイズ合うの?

尻紅葉は見たとこ並盛りである。あっきゅんと業者さんはつるすとーんだし、ウサギさんは大盛り、私と咲夜ちゃんに至っては爆盛りである。サイズが合いそうなのは小鈴ちゃんと妖怪っ子くらいしかいない。

たじろぐ尻紅葉だが、ここで咲夜ちゃんが助け舟を出す。ある程度ならサイズ合わせ可能であると。元の水着がみんなの中間くらいっぽいから割とやりやすそうなんだとか。

目を輝かせて早速みんなをお山の社に連れて行こうとするバカの後頭部をひっぱたく。

天狗が通してくれるわけないだろう。そもそも飛べない組はどうするんだ。あっきゅんとか里の重要人物だから何かあったら問題どころじゃ済まないぞ。

反論を許さないように正論で畳み掛け、そしてそのままの流れで水着を持ってこさせることに成功する。がんばれパシリ。早く戻って来いパシリ。

 

なんか私が尻紅葉に妙に辛辣なのは何故かと聞かれたけれど、こちとら一度殺されかけているのだ。個人的に嫌いになるのは仕方ないだろう。

いきなり死ぬかもしれないような不意打ちで襲撃してきた相手を好きになれるわけもない。

力があるのは妖怪だって変わらないけど、それでも殺すことができるのと殺されかけたのとでは全く意味が違う。

一般人に過ぎない私はそれを許して友好を築けるほど器が大きくできてはいないのだ。

 

そして尻紅葉は水着入りの箱を抱えて保護者同伴で戻ってきた。とりあえず新年のご挨拶をする。

試着会の会場はあっきゅんがお屋敷の一部屋を用意してくれた。冬場なので薪ストーブも全開だ。

注連縄の神さまはさすがに室内では注連縄を背負わないらしい。そして当然の顔をして試着会に参加している。

蛙幼女の神さまは帽子を被ったまま水着に着替えている。やたらとあざとい。自分の武器がよくわかっておられるようで。

なんか途中で隅のほうに三人集まってひそひそとしていたけど、しっかり聞いていたウサギさんが言うには尻紅葉がハブられてないかとかいじめられてないか心配で付いてきたらしい。おかんか。

大丈夫。いじってるのもハブにしてるのも私だけだ。みんな優しいから私一人くらいきつく当たってもバランスが取れてちょうどいいはずである。

 

まあ、水着を提供してくれたのは素直に感謝しておこう。

おかげでこの集まりが台無しにならずに済んだのだ。

尻紅葉が目を見開いて何を企んでいるんですか、とか失礼なこと言ってきたので、とりあえず意味深な笑みを浮かべておく。疑心暗鬼になって精々悩むがいい。

 

ところで咲夜ちゃん、これ仕立て直してもらったのにまだ胸がきついんだけど、元が小さすぎたのかな。

 

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