東方弱霊夢   作:こまつな

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#2

幻想郷は外界の田舎よりも遥かに田舎なので空気がとても美味しい。

長屋の共同井戸でご近所さんの水汲みの手伝いをしてお駄賃を頂く。実に平和的な能力利用である。練習にもなるし。

現金じゃなくておすそ分けくらいだけど、村社会の幻想郷じゃこういう溶け込む努力を怠ると簡単にハブられる。

けーね先生が語っていたのでたぶん過去に本当にあった実例なのだろう。

お隣のおばちゃんを筆頭にご近所さんも積極的に構ってくれるから、このまま里の一員として胸を晴れるようになるまでガンバル所存である。

紅い霧の異変でこの長屋からも死人が出てるし、自警団の仲間にも行方不明や死傷者がいる。

それでもおばちゃんたちは図太く笑っている。身近とまでは言わないがないが、よくあることだと。

ここは今まで私が生きてきた世界より、ずっと死が近い。闇の恐怖が当たり前に語られる場所だ。

 

異変が終わったからといって、衰弱した人がすぐに動けるほど回復するわけではない。

私のような能力持ちやけーね先生みたいな友好的な妖怪、そしてムキムキマッチョなNOUMIN達はいつも以上に忙しく動き回っている。

人里の自警団というのはNOUMINの別名である。里の周囲に農家のフィールドである田畑があるのだから当然といえば当然と言える。

幻想郷におけるNOUMINとは、妖怪や猛獣の溢れる郊外や里の外で、奴らが餌として狙うこともある作物を守り育てられる人材なのだ。狩りも行う食の万能選手である。

衣食住の一要素をほぼ制圧しているNOUMINは里での発言力も高い。

その性質上、ひまわり畑の大妖怪とも交流を行う一大勢力なのである。

 

陰陽衆は結界による防護と対妖怪戦闘に特化したガチの戦闘集団である。

妖怪の被害は毎日のようにあるけれど、それでも日に数回程度なので大抵の人は暇を持て余していたりする。

そういう人はNOUMINと一緒に畑の世話をしたり、NOUMINと一緒に訓練をしているので、自警団と陰陽衆の仲は良好である。むしろなぜ区別されているのかが分からない。

気になったので聞いてみて、気軽に話題に上げたことをすぐに後悔した。

陰陽衆は、ある意味で死んでもいい連中を集めたところだと。

身内を妖怪に殺されて身を捨てでも復讐に走る奴。病や怪我で子供を作れなくなった奴。身寄りのない子供だった奴。

逆に農家には、畑という財産を持って家族を作り、養い、血を残す義務がある。能力持ちの濃い血を絶やさないように。外界の新しい血を零さないように。

そういって陰陽師のおっちゃんがいっぱい子供をこさえろとからかってきたけど、とてもじゃないけど笑えなかった。

 

若干ブルーになりながらもその日の帰り道、市街地の交差点で見慣れないものを見かけた。銀髪のメイドさんである。え、メイド?

そんな私のつぶやきが聞こえたのか、彼女はチラリとこちらに視線を向け、軽く会釈をしてそのまま歩いて行く。

進行方向が同じなのでその背を追うように私も歩くのだけど、なんか意識を向けられているようで若干気まずい。

横に並ぶのもアレなのでそのまま後ろを歩いているけど、気が付けば通りかかる人まで私に視線を向けている。なんかこう、期待を込めた感じで。

なんでかと思って頭を回してみると、考えるまでもなく簡単に答えに辿り着く。

目の前には和風な町並みから浮きまくっている明らかに見覚えのないメイドさん。きょろきょろと何かを探しているようで、手には買い物籠。だけど商店街は方向が違うのだ。私が向かっているのは居住区である。

この人、新しく幻想入りしてきた人じゃないだろうか。数ヶ月前の私みたいに。

コスプレで出歩くようなオタク趣味の人だったらコミュ障(偏見)で道を尋ねることができないのかもしれない。

うん、おせっかいしよう。私と同じくらいの若い子みたいだからおっちゃんたちじゃ声かけにくいもんね。

 

早速、商店街はこっちじゃないよと声をかけてみる。

振り向く彼女。めっさ綺麗。銀髪に青い瞳って外国の子かな?

なんだか反応に困っているようだったので名前だけの軽い自己紹介をしてから手を取って強引に歩き出す。はじめてのおつかいで私がおばちゃんにやってもらったことの再現である。

にこにこしながらとりあえず、日本語が通じてるかどうかを確認してみる。どこに向かっているのかと聞き返される。とりあえず言葉は通じるようだ。

様子から見て勝手に商店街に行こうとしてたけど目的地って合ってるのだろうか。一応確認を取ってみるけど間違っていないようだ。

地図を見せてもらうと主なのは食料品の買出しのようだ。丁寧に書かれているけどこれでどうやって道を間違えたのだろうか。

道すがら自分の苦労話とかを交えながらどうでもいいお話をする。

彼女が聞き上手なのもあってか、いつの間にか商店街に到着。気付けば私しか話していない。

気を取り直して続いてはお店巡りである。ここで放り出すほど私はおにちくでも馬鹿でもない。

村社会の人里、初対面の挨拶は肝心だ。だから今は顔合わせの時間。むしろお土産をもらいまくって買い物籠が埋まりつつあるから買出しは後で十分なのだ。

挨拶回りも何事もなく終わり、メイドちゃんは丁寧に頭を下げてお礼を言ってくる。

 

ようこそ幻想郷へ。と自分でも最高の笑顔で言えたと思う。

一度でいいから言ってみたかった台詞だからね。彼女にも誰かにこのセリフを言える機会が巡ってきますように。

メイドちゃんはくすりと笑って、悪いけど私のほうが先輩よ? とイタズラっぽく告げるとふわりと宙に舞い上がった。

ぽかんと口を開けて夕暮れの空に浮かんだ彼女を見上げる。

 

少しだけ欠けた丸いお月様を背中に、スカートの端を小さく持ち上げる静かな礼。それは同姓の私でも見惚れるような綺麗な仕草で。

 

 

 

……往来の上空でそんなことするから男共が大盛り上がりで。

買い物籠から南瓜こぼれて自由落下を開始して。

 

逢魔時に影が落ちる。人の影とも重なったけど、それはそいつの自業自得と言えるだろう。

 

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