東方弱霊夢   作:こまつな

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#4

洋服が着れなくなった。

何を言っているのか分からないと思うが私も現実逃避がしたい。

 

幻想郷にも洋服の専門店は存在している。

ただ、幻想郷で生まれ育った大抵の人は和装を着こなしている。洋服の肌に纏わりつく感じが性に合わないという人も多いらしい。

なので、お世話になるのは私のような外界出身者だったり、あっきゅんみたいな着道楽の人くらいだったりする。

 

私の衣類もそのお店で買っていたし、冬物は結構前にあっきゅんと小鈴ちゃんと一緒に買い揃えに行った。

神隠しにあったときは着の身着のままだったしお金もなかったから、買ったのは割と最近、秋口に入ったあたりだ。

 

私はもう成長期が終わっているはずである。

食事はこっちに着てからむしろ質素になって、間食なんて贅沢ができるほどの収入もない。

運動量だって毎日畑仕事や狩りに出ているのだから疑う余地もなく激増している。

 

言い訳に聞こえるかもしれないが、私だって仕事着は和装なのだ。

田んぼに入っての作業なんだからスカートやデニムなんて履いていけるわけがないし、袖なしや長袖のシャツと比較したらゆとりのある和服の袖は狩りのときの細々とした道具を持ち歩くのに非常に便利なのだ。

それにNOUMINも陰陽衆も皆和服だから私一人だけ洋服を着ていると周囲から浮いてしまう。そういう部分で妖怪からの注目率が増えたりして命に関わることもあるのだから、仕事着に和装を選ぶのはむしろ当然と言える。

 

だから洋服はプライベートのときくらいしか着ない。そして秋の農家に完全休日などはない。

だから、買ってから今日に至るまで一度も袖を通すことのなかった服がたくさんあるのはしかたのないことなのだ。

だから……しっかりとサイズ合わせして買って来たはずの洋服が着れないなんて考えるはずがないのだ。

 

つまり太ったのよね? と残酷な真実を突きつけるメイドちゃん。

いや、そうだけどそうじゃないから嘆いているのである。

 

 

 

街角で咲夜ちゃんを見かけたのは偶然だ。

お屋敷に篭っての仕事をしているらしい咲夜ちゃんと人里で出会うのは割と珍しい。

でも彼女にとってはそうではなくて、たまの用事で人里に出ると結構な頻度で私と遭遇するのだという。

そんな偶然もあってか、なんだかんだで顔を合わせればお話するくらいの仲にはなっていると思う。

 

しかしながら、地図付きのメモを持っているにもかかわらず毎回まるで関係のない場所で遭遇するのはどうしたことだろうか。

大抵地図とにらめっこしながらきょろきょろしてるところに声をかけるし、もしかして方向音痴なんじゃないだろうか。

一度ストレートに聴いてみたけどそんな自覚はなさそうだし、もっと複雑なお屋敷の中でも迷ったりしないと自信満々だったのだけど。

 

まあ関係ないことはさておき、時間の余裕はあるということだったので喫茶店で愚痴につきあって貰った結果がコレである。

いや、違うんだ。太ったわけじゃないんだ。肉付きがよくなったのは認めるけど太ったんじゃないんだ。

腕も足もしっかり引き締まってるし、お腹回りもくびれができつつあるくらい。出るとこが出たおかげでモデル体型になってるといってもいい。

体重も増えてると思うけどそんなの肉体労働で筋肉がつき始めた時点で諦めたし、なにより幻想郷には数値で現実を示してしまう悪魔の装置は存在しない。あっても誤差がひどいだろうから信用しない。

スタイルがよくなったのは素直に嬉しいし、月のものの負担も信じられないくらい軽くなっていた。

なんというか、たぶんコレが豊穣の祝福ってやつだから多少むっちりしたところでどうしたって嫌な気分にはならないのだ。

 

そこのところ詳しく、と初めて見るようなマジな顔で咲夜ちゃんが食い気味に身を乗り出してくる。美人にまっすぐ見つめられるのってなんか怖い。

ちょっとビビッてしどろもどろになりながらこの前の収穫時の出来事を話すと、何を思ったのか両手を組んで祈りをささげ始めた。

咲夜ちゃんくらいの美人さんが真剣なお祈りをしてるとそれだけで絵になるけど、ここ喫茶店だからね? すっごい見られてるからね?

しばらくしてどこか晴れやかな表情で祈りを終えると、それでどこに不満があるのか、とようやく本題を聴いてくれた。

 

私はまだ幻想郷一年生で、貯蓄もまともにできていない。

さすがに生活必需品は別枠で管理しているし、緊急用のへそくりもほんの少しくらいはある。

が、一冬分買い揃えた衣服を買い直すほど余裕があるわけではない。

農家のおっちゃんおばちゃんは後継人をしてくれているから多少の援助ならお願いすることはできる。

だからといってまさか穣子さまに頂いた祝福が原因で冬服を買い換えることになったなどと言い出せるわけがない。

 

そう、私が頭を抱えているのは、つまるところ金欠である。

 

なら仕立て直したらどう? と軽く聞かれるけど、こちとら裁縫なんてまともにやったことがない。

洋服の仕立ては人里じゃ数の少ない専門業種だし、下手をすると買い換えるよりもお金がかかる。一応その辺も調査済みである。

だったら私がやってあげるわ。今日のお礼よ。

一瞬何を言っているのかわからなかったけど、よく考えなくても咲夜ちゃんは本職のハウスメイドである。コスプレオタクなどではない。間違えたりしてすみません。

日本人らしい謙虚さは見せない。流れるように両手を合わせ、お願いしますと頭を下げた。

そのあとすぐにお屋敷の仕事は大丈夫なのかと聴いたけど、すぐ終わるから気にしないでと返された。

それならばと早速長屋に案内し、冬物をまとめて入れてある箱を空けたら既に仕立て直されていた。

何を言っているのかわからないと思うが私にも分からない。

超スピードなんてちゃちなものではない、もっと恐ろしい咲夜ちゃんすげーを味わったのだった。

 

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