春の訪れを告げる白い妖精がひっきりなしに春ですよーと叫んでいる。
しかし暦の上ではもう夏だ。春の終わりを告げる黒い妖精に後ろから蹴り飛ばされている姿もたびたび目撃されている。
おっちゃんやおばちゃんたちも見たことがない珍しい光景なのだそうだ。
雪は降り止み、気候も既に春のそれだけど、当然のことながら降り積もった雪がすぐになくなるわけではない。
結構な速度で溶け出しているけど、それでも数日はかかる。田畑の整備もそれからになるだろう。
だけど、人間の都合なんてお構いなしなのが神さまというものである。
外回りの警邏のときに、雪に埋もれた田んぼの中で猛然と雪かきをしている穣子さまを発見した。
私と一緒に見回りをしていたNOUMIN、テンションが天元突破する。
私に警邏の代わりの申請と他のNOUMINへの言伝を頼んで即座に雪かきに参戦。こちらは精神的に置いてけぼりである。
ともあれ穣子さまのために能力も駆使してダッシュで伝言を伝えに行く。
話を聞いたNOUMIN、テンションを上げて田んぼに向かう。
話を聞いた陰陽衆、納得してあっという間に警邏の準備を整える。
話を聞いていた咲夜ちゃん、見たこともないような笑顔になって田んぼへの案内をせがんでくる。いつからいたのこの子。
いつも買い出しついでにサボってるように見えるんだけど、お屋敷のお仕事は大丈夫なんだろうか。
ともあれおまけを連れて私も田んぼに戻る。
雄たけびを上げながら雪を蹴散らすNOUMIN達。
いつの間にかそれに混ざっている静葉さま。
どこからやってきたのか雪合戦をしている妖精たち。
何故かそこに参加して集中攻撃を受けている穣子さま。
それを生暖かい視線で見守っている陰陽衆。
端的に言ってカオスである。
とりあえず駆け寄って妖精どもを駆逐する。ピチューンという一回休み宣言が耳に心地よい。
穣子さまは私のことに気付いたらしく、ノータイムで胸をわしづかみにしてくる。予想外すぎて避けることもできない。
続いて流れるように尻を揉まれる。成長したからかずむりと指がお尻の肉に沈んでくる。
しっかり実ってるね、元気な子供を生みなさい。ととてもいい笑顔。
こちらもありがとうございますと素直に返す。頬が赤くなっているのはしかたのないことである。
そして穣子さまはにやにやとどこか優越感の漂う笑みを浮かべながら歩を進める。
向かう先にいるのは見紛う事なきメイドちゃんである。
私は程度の差はあれ静葉さまも穣子さまも両方信仰しているけど、咲夜ちゃんは私の知る限り豊穣を司る穣子さまだけを信仰していた気がする。
恨めしそうな視線を向けながらも静葉さまが雪かきの手を止めないのはたぶんそういうことなのだろう。
今更だけど咲夜ちゃんには感謝してもしきれない。
彼女が洋服を仕立て直してくれなかったら今頃どうなっていただろう。
信じられないくらい冬が長引いてしまったし、衣類の数をそろえることができてなかったらと思うと正直ぞっとする。
しかし衆人環視の中で胸をもまれているというのに、心の底から至福の表情を浮かべているように見える。
瞳をきらきらと輝かせながら尻を撫でられている。もはやパッと見では痴女でしかない。
その後おへそに手を当てられ、最後に何故か胸を指先でつつかれて、水増ししないようにね? と告げられている。
はいっ! と大きく返事をすると、彼女はその場で膝をついて祈り始めた。
信仰心というものが形になるとしたらこのときの咲夜ちゃんのようになるのだろう。
海外の宗教の作法だった気がするけど、穣子さまが嬉しそうなのでどうやら問題はないらしい。
祈りを終えた咲夜ちゃんに日本式の作法を教えてあげると、そっちで改めてお祈りを捧げ始めた。メイド服で拍手って微妙にミスマッチである。
ノリノリの咲夜ちゃんが祈りを捧げる教会はどこで、どんな供物を捧げればいいのかとたずねると、何故か穣子さまの表情が曇る。
穣子さまにご自分のお社がないことが発覚。静葉さまも同様だ。私も今日までそんなことは知らなかった。
咲夜ちゃん、げきおこである。
NOUMIN達を雪の中正座させ、怒声を響かせながらお説教を始める。
雰囲気に呑まれて静葉さまも正座しているけど、それを指摘できるような空気ではない。
穣子さまはおろおろしている。止めるべきかどうかがわからないのだろう。
ぶちぎれた咲夜ちゃんは止まる気配を見せない。
NOUMIN達を指揮して材木を切り倒し、どこからか大工さんを拉致してきてテキパキと指示を出し始めた。
冬の間に潰した長屋の建て直しでどこの大工も忙しいはずだけど大丈夫なのだろうか。
しかしそんなことを気にする暇もなく、瞬く間にお社が出来上がる。
神さまのお社というよりは、居住性も考えられた庭付き一戸建てのお社風一軒家である。
物理的にありえない速度だけどそれは咲夜ちゃんがなんやかんやしてどうにかしたそうだ。久々の咲夜ちゃんすげーである。
怒りに身を任せて勢いで行動していたように見えてそうではなく、田んぼの拡張性や里からの交通の便まで考えられたこれ以上ない計算されつくした場所に立てられたらしい静葉さまと穣子さまのお社。
信じられないようなものを見たような表情でお二人は顔を見合わせ、ふらふらと鳥居をくぐる。
瞬間、清浄な風が流れ出す。この場所が神の住居になったのだと、魂で理解した。
NOUMINたちが雄たけびを上げる。静葉さま達は泣き崩れ、咲夜ちゃんはやりきった顔で佇んでいる。
どこから嗅ぎ付けたのか天狗の文屋が飛び込みで取材を始めているけどそんなことは些細なことだろう。
今はまだ七月。降り積もった雪はまだまだ残っているし、作物の植え付けなんか始まってもいない。
私達の秋はこれからである。