東方弱霊夢   作:こまつな

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#8

何かもわからないまま終わってしまった異変の後を引きずることなどできるはずもなく、普段どおりの朝が訪れる。

 

今日の穣子さまは手が離せないようなので先に静葉さまにお供え物を奉納し、二礼二拍手一礼。

集まっている農家のおっちゃんたちと挨拶を交わしながら畑へと向かう。

今年の田んぼは芋畑になっているから畑扱いでいいらしい。

田んぼに芋なんか植えて大丈夫なのかとは思うけど、そのへんは神の御業のなんやかんやで問題ないのだそうだ。結構いい加減である。

 

お社ができたおかげで穣子さまのもたらす豊穣の奇跡はかなり強まっているらしい。

だからといって、それに胡坐をかいていいわけがない。

穣子さまは手作業による農耕に豊穣を与える神様である。神の奇跡を当てにして手を抜くような人に加護を与えることはない。

豊穣を司る権能を持たない分、静葉さまはNOUMINに混じって物理で鍬をふるっている。

長い年月を掛けてNOUMINから技術を吸収しているのか、その手腕はこの場の誰よりも優れているように見える。

そしてドロップキックで飛来する穣子さま。どてっぱらにもらって転がっていく静葉さま。

穣子さま曰く、邪魔スンナ。技術も効率も段違いの静葉さまだけど、静葉さまがやった分には穣子さまの豊穣の権能が届かないらしい。

そのまま喧嘩を始めそうなお二人だったけど、農家のおっちゃんにやんわり邪魔すんなと叱られると、しょんぼりしながらお社へ帰っていった。

何の変哲もない牧歌的な農耕風景である。

 

長い冬の異変は終わったけれど、その影響であちこちに出現した葛餅のような幽霊はまだそこかしこに残っている。

作物に近づくと冷害の元になるので農家の天敵である。

霊体には物理が効かないのでそういう意味でもNOUMINには対処が難しい。

冥界から回収業者さんが来るのが今日らしいので見学に行くことにする。

 

しかし冥界となんていつの間に繋がったというのか。

稀にではあるけど幽霊は以前から見かけたし、元々繋がっていたんじゃないかという噂もある。

三途の川もどっかで流れてるらしいから地続きなのは納得できないでもないけど、幻想郷は死が近いってそういう地理的な意味じゃなかった気がする。

 

陰陽衆が結界で確保していた葛餅たちは業者さんの後ろに一列に並んで付いていく。

たまに紐の切れた風船のように列から外れるのもいたけど、そういうのは打ち落とされて背負子に詰められドナドナされていく。

実にお見事な手際である。ロリロリしいけど幻想郷にはよくいる能力や実年齢が見た目と一致しないタイプの人なのだろう。

 

見てたらなんか葛餅食べたくなってきた。帰りに喫茶で食べて帰ることにする。

途中、迷子の迷子の咲夜ちゃんを回収。お社には迷わず来れるのに里の中では未だによく迷っているのを見かける。謎だ。

咲夜ちゃんの買い出しを手伝い、ついでにそのまま喫茶店になだれ込む。

冥界餅なる新商品が出ていたのでそれを注文。咲夜ちゃんは冥界大福。出てきたのはそれっぽく成形した葛餅と大福である。

甘味をぱくつくメイドちゃんと駄弁りながら、折角なので昨日見た羽幼女のことを訪ねてみる。

どうにもあの子が咲夜ちゃんの仕えるお嬢様らしい。五百年を生きる吸血鬼。マジ物の大妖怪だ。

妖怪に仕えているのは意外だったけど、それはもう咲夜ちゃんすげーで片が付いた。非常に便利な言霊である。

 

私が軽く流したのが咲夜ちゃんにとって予想外だったらしく、その理由を聴いてきた。

大妖怪なら農家はひまわり畑の幽香さんと交流があるし、対応の仕方ならある程度分かっている。

嵐が来たら雨戸を閉めるし、地震が来たなら机に潜る。大妖怪も、外ならともかく人里では必要以上に恐れる必要などないのだ。

むしろ怖がるほうが失礼な気がする。それってつまり、最低限のルールさえ守れない相手だと見ていることになるんじゃないかと。

ぶっちゃけ怖いのには変わりないけど、どうしようもないものはどうしようもないのである。

改めて染まったなぁとは思うけど、人里のごく一般的な民にしてみれば妖怪との距離感ってそんなものである。

 

咲夜ちゃんと別れ、特に何事もなく帰宅する。

ここのところ異変だのなんだので色々大変だったけど、今日は珍しく平和な一日だった。

 

目下の頭痛の種はこの前あっきゅんからおすそ分けされたお見合い写真くらいである。

外界じゃそうでもないけれど、私は幻想郷基準じゃ結婚適齢期を少し外れたくらいだったりする。

しかし外界の新しい血であり、能力持ちの濃い血であり、豊穣の祝福なんてものまでもらった私は超優良物件らしく、それでもお見合いの申請は後を引かないらしい。

水際で食い止めてくれてるあっきゅんに本当に感謝である。

しかし結婚、結婚かー。……うん、考えても仕方ない、寝よう。

 

 

 

真夜中に目が覚める。

夢見が悪かったのだろう。水差しから直接水を飲んで、また床に着く。

 

真夜中に目が覚める。

さすがに何かがおかしいことに気付く。外もなにやら騒がしくなっている。

 

夜が終わらない。

 

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