異変に真っ先に気付いたのはけーね先生だったらしい。
今日は満月のはずなのだが、何故か変身が起こらなかったのだという。
その足で陰陽衆を叩き起こして厳戒態勢を引き、次いで自警団を起こして周っているところに私が合流したとのことだ。
そしていつものように伝令を預かる。適材適所、足が速いだけの私は今日も走り回るのだ。
更にどういうわけか妹紅さまが里にやってきた。住居の近くでドンパチが始まったのでけーね先生に宿を借りに来たのだという。
妹紅さまのおかげで異変の発生源もわかったので、そちらに向けて警戒網が敷かれることになる。
そうして警戒すること三時間。
妖精や小妖怪が活性化するという異変特有の変化は見られるものの、それだけといえばそれだけのまま何事もなく夜が明けた。
更にそのまま警戒を続け、それでも何も起きないことが確認されて解散となった。
けーね先生曰く、六時間ほど夜が長引いたらしい。
星占術に長けた人と共に星や太陽に影響が出ているかをこれから調べるのだそうだ。
私を含む農民達は警戒を強めながらも農作業に向かう。
妖精が暴れたのか、農作物がいくつかダメになってしまっていた。許すまじ。妖精許すまじ。
郊外のお社に住んでいる姉妹神のお二方も無事だったご様子。
中に神さまが入っているお社は一種の神域であって、下手をしたら人里よりも高い防護を誇るのだという。
NOUMINたちが獲物を狙う目でお社を見つめている。静葉さまが神隠しにあってもいいなら歓迎するわと告げると、彼らは何事もなかったかのように農作業に戻って行った。
夜、昨晩立ち上げた警戒網を元に緊急警備のローテーションが組まれる。
が、何事もなく夜が明ける。妖精の活性化すら起きていない普段通りの夜である。
翌日、妹紅さまが再び里に訪れる。
妹紅さまの調査の結果、異変は満月の夜だけということが判明する。けーね先生の表情が曇る。
今までの異変解決のペースを考えると数年がかりの異変になりそうだと誰かが呟く。けーね先生が膝を抱えて蹲る。
そしてまた表向きは平穏な日々が流れ出す。
一月に一回、それも起こる時間も場所も分かっている異変なのだ。
昨年からの容赦ない致死量の異変と比べたらなんでもないようなものである。
私が農家の次男坊とお見合いをして農業方針の違いですぐに破談を迎えたり。
咲夜ちゃんの胸部が成長限界を迎えて誰はばかることない巨乳パーフェクトメイドとなったり。
穣子さまと静葉さまがお社で初めての収穫祭を開いてNOUMINたちが大暴れしたり。
あっきゅんたちと新作の冬物洋服でファッションショーを開いたり。
しとしとと降り積もるだけの雪に向かって気合が足りねーぞと言うのが流行したり。
何故かうちの畑で春野菜の神さまの加護が弾かれるという事態が発覚したり。
あまりにも平穏で、皆が忘れていたのだ。夜の闇は、里の中にだってあるということを。
永夜異変と名づけられた、満月の夜の異変が始まってから半年。六回目の欠けた満月の日にそれは起きた。
里の中で轟音が響き渡る。
いい意味で夜の警備に慣れていた自警団はすぐさまその場に駆けつける。
寺子屋の壁に大穴があいていた。
けーね先生、キレる。
怒鳴りつけるように自警団に里の警備を押し付けると、毎度のように避難してきていた妹紅さまを引っつかんで竹林の方角へ飛んでいった。
なにやら書簡のようなものをわざわざ私に押し付けたのは伝令の習慣からだろうか。
自警団のリーダーに書簡を渡す。けーね先生の歴史フィルターなしでも里を守れるように考えられた警備の計画書だったらしい。
例によって例の如く陰陽衆への伝令に走る。案の定、突然歴史フィルターが消えたのもあって陰陽衆の詰め所はてんやわんやになっていた。
それでもやはり歴戦の陰陽衆。けーね先生の計画書を渡すとすぐに統制を取り戻す。
そして、何時明けるかもわからない夜が明けるまでの、防衛戦が始まった。
防衛戦ではあるけれど、私の仕事は走ることだ。
空を飛んだり屋根の上を走ったりする伝令に混ざって、私は地上を駆け抜ける。
伝令を伝えては受け取り伝えては受け取り、たまに体を休めてまた走る。
死者こそ出ていないものの、先月までの防衛と比べても遥かに被害が多い。
けーね先生にどれだけ守られていたのか、どうして今まで動かなかったのかがよくわかるというものだ。
計画書まで作ってるならあらかじめ言っておいてくれればいいのに、と誰かが言っていたけれど、それは私もそう思う。
だけど被害は増えているにも関わらず、けーね先生への不満はそのくらいしか聞こえてこない。
寺子屋を修理する大工さんからも苦情は出そうであるが、そのくらいである。
信頼というのは偉大だ。
本当にゆっくりとしか動かない月が天蓋の頂点を過ぎたころ、突然ものすごい勢いで動き始めた。
今までにないような異様な光景。それが更なる異変なのか、それとも解決の前兆なのかわからないけど、みんな後者であることを信じて最後の力を振り絞る。
月が動き始めて僅か数分。ゆっくりとご来光が顔を出した。
夜が明ける。誰も彼も疲労困憊だけれど、里の防衛はまだ続いている。
異変が終わったとしても余波がまだ残っているし、けーね先生が戻ってくるまで気を抜くことはできはしない。
しばらくして晴れやかな表情のけーね先生とどこか煤けたような妹紅さまが里に戻ってくる。
けーね先生の口から異変の解決を告げられ、先生の歴史フィルターも再稼動したことでようやく皆は安堵の息を吐くことが許された。
半年に及ぶ永い夜の異変は、こうして幕を閉じたのだった。