ファーランの弟が生きるためにどうにか頑張るお話。   作:霜月@

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第十二話

「…エレン…?なんで…」

 

 

 

死んだはずのエレンが生きていた。それも、巨人のうなじから出てきて。

アルミンは目の前でエレンが食われるのを見たはずだった。誰もこの事態を理解出来ていない。そんな中、ミカサはエレンの姿を見つけると、すぐに駆け寄り体を抱えた。

 

死んではいないようだ。胸に耳を寄せると、ミカサには、エレンの心臓の音が聞こえた。死んだと思っていた、たった1人の家族が生きていた。その事実が、ミカサを歴代最強の兵士から只の少女へと変える。いつもの冷静な者とは思えないほど、エレンを抱えて泣きじゃくっていた。

 

 

 

 

「…っ」

 

 

アルミンも、無くなったはずの腕と、足を確認する。ああ、夢じゃないと確信すると、ミカサと共に、静かに泣いた。

 

 

 

 

 

「なんだ…何が起こっているんだ……」

 

 

ライナーが困惑した声を出す。ライナーだけではない、他の4人も同じであった。だがそうなるのも無理はなかった。こんな状況は今までになく、前代未聞である。

 

 

 

 

「……分からない事だらけだけど。とにかく、エレンが危ないんじゃないか」

 

 

ミカサ達を眺めながら、ヴィーネは言った。それにジャンも頷く。

 

 

「ああ……先輩方が見てるしな。……くそ、エレンの奴、どれだけ俺達を振り回す気だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「訓練兵!! 装備を万全にして次の指令まで班編成で待機だ!!」

 

 

 

上官が指示を飛ばす中、エレンの件の後巨人に占領された街から脱出したヴィーネ達は、そこで別行動を取っていたクリスタ達と合流し、互いの状況を知らせ合っていた。

 

 

「じゃ…じゃあ今ここにいない人達は全員…」

 

「…ああ」

 

「本当か?あのミカサもか」

 

 

 

他の誰が死んだとしても、104期主席であるあのミカサが死ぬとは思えない。ユミルの問いかけに、コニーは首を横に振った。

 

 

「イヤ…ミカサはジャン達と一緒に遅れて来たと思ったんだが…」

 

「ジャン…まさかミカサは負傷でもしたのか?」

 

「……」

 

 

ジャンは答えを言い淀む。ミカサ達がこの場に居ない理由を、ジャンは知っている。ミカサ達は今、駐屯兵に連れて行かれたエレンを守りに同行していた。

 

 

「オレ達には守秘義務が課せられた…言えない。もっとも…どれ程の効果があるのかわからんが…」

 

 

うなじから人間が出てきた………いや、人間が巨人になった。

世界を根幹から揺るがすその事実に、ジャンは顔を暗くした。

 

 

「隠し通せるような話じゃねぇ…すぐに人類全体に知れ渡るだろう…。…それまでに人類があればな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体何があったんですか…?」

 

「お前らあの後壁に登らなかっただろ、何か知ってんのか?」

 

 

サシャやコニーに質問されるも、ジャンらと同じく守秘義務を課せられているヴィーネは、首を横に振ることしかできなかった。

 

 

 

「…これは命令だから言えないんだ。でもすぐにわかると思うから」

 

「そうですか…」

 

 

 

 

自身もこの状況にやっと頭がついてきたは良いものの、分からない事が多すぎる。ヴィーネがそう思っていると、ベルトルトが心配し声をかけてきた。

 

 

 

 

「ヴィーネ…大丈夫?顔色が悪そうだけど」

 

「…いい気分ではない。けど具合が悪いわけじゃないから大丈夫だよ。」

 

 

 

ヴィーネが言うと、ベルトルトは少しホッとした様子だった。

今はきっと、ミカサが駐屯兵からエレンを守ろうとしているだろう。一度失いかけた家族だ、次は守ると死に物狂いだ。

 

 

「(…アルミンも頭が良いし、最善策を考えてるかな。)」

 

 

 

そんな事を考えていると、次の瞬間、激しい爆発音が聞こえる。

聞こえた方向を見ると大砲ではない…巨人が蒸発する煙が見えた。

 

 

 

 

「超大型が出た時と同じ音………まさか」

 

「!?ちょ、おい、ヴィーネ!?」

 

 

 

 

 

 

ヴィーネは呟くと同時に、屋根の上に登っていく。コニーの制止など聞こえなかった。そして、それに続く形でライナー、ベルトルト、アニも登っていった。

 

 

屋根の上から見た光景は、何とも異様な光景であった。

エレン達がいるであろう場所に、巨人らしきものがいたのだ。大方エレンが出現させたのだろうが、その巨人は完全ではなく、もう蒸発し始めていた。

 

 

 

 

「もう…次から次へと………もう頭が破裂寸前だ…」

 

「………そう、だな…」

 

 

 

 

 

 

 

そして、煙の中からアルミンが丸腰でやってきて、弁明を始めた。駐屯兵の制止の声が聞こえる。

 

 

 

 

「貴様!そこで止まれ!!」

 

「彼は人類の敵ではありません!私達には知り得た情報を全て開示する意思があります!!」

 

 

 

 

 

 

アルミンが説得しようと試みるも、駐屯兵は耳を貸さなかった。考えることを放棄していたのだ。誰も状況がわからないが故に、恐怖だけが伝染している。

 

 

アルミンは何かを決意したように、敬礼をし、叫んだ。

 

 

 

「私は、とうに人類復興の為なら心臓を捧げると誓った兵士!!

 

その信念に従った末に命が果てるのなら本望!!彼の持つ『巨人の力』と残存する兵力が組み合わされば!この街の奪還も不可能ではありません!!

 

人類の栄光を願い!これから死に行く、せめてもの間に!!彼の戦術的価値を説きます!!」

 

 

 

 

 

アルミンの見事な敬礼に、駐屯兵だけでなく、ヴィーネ達も心が震える。

他の駐屯兵が、やめようと駐屯兵団隊長に話しかけると、隊長は構うことなく、右手を振り上げた。

ヴィーネがエレンの名前を言いかける。

 

 

 

「…!エレ、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よさんか」

 

 

しかしその振り上げた右手は降ろされることはなく、誰かによって遮られた。

 

 

「相変わらず図体の割りには子鹿のように繊細な男じゃ。お前にはあの者の見事な敬礼が見えんのか」

 

 

 

 

ドット・ピクシス。駐屯兵団司令官であり、現人類領土南部最高責任者である。果断な指揮能力を持っているが、飄々とした言動から生来の変人とも知られていた。

 

 

説得が成功したことを知るや否や、アルミンは力が抜け、地面に座る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…大丈夫みてぇだな。戻ろうぜ」

 

「ああ…」

 

 

 

 

 

ジャンがそう言って、ヴィーネ達もさっきまでいたところへ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トロスト区奪還作戦。

トロスト区連絡扉付近に集められた兵士達は、この非現実的な作戦を耳にしていた。つい先ほど、真っ先に第104期訓練兵団所属であるダズが、意義を唱えた。巨人に食われたくない、食われるくらいならここで処刑された方がましだ。その意義は、ここにいる兵士ほぼ全員の意見でもあった。

 

逃げられるものならば逃げたいが、こんな狭い壁の中で、どこに逃げようというのだ。しかし、そんな事を考える余裕もなく、また恐怖だけが伝染していく。所々から反対の声が聞こえてきた。上官が沸を切らし、ダズをはじめとした兵士を反逆罪とし処刑しようとブレードを引き抜こうとする。

 

 

 

 

「ちゅうもぉぉぉおおおおおおく!!」

 

 

 

____しかし、それは壁の上にいたドット・ピクシスによって遮られる。

その登場に場がそう前とする中、ピクシスは声を張り上げる。

 

 

 

 

「これよりトロスト区奪還作戦について説明する!!」

 

 

 

 

 

 

 

ピクシスに聞かされる作戦内容は、先程より兵士達に混乱を招いた。

 

トロスト区を奪還するためには、超大型巨人によって開けられた壁の穴を塞ぐことなのだが、今の彼らに数十mに及ぶ大穴を塞ぐ技術は持っていなかった。しかしたった一つ方法が見つかったらしい。それは、エレン・イェーガーの存在であった。

 

エレン・イェーガーはヴィーネ達の目の前で、巨人のうなじから現れた、104期の同期だった。彼の巨人化能力を駆使し、大岩を持ち上げて壁を塞ぐという。その簡単そうで難しい作戦は、兵士達の反感を大きく買った。

 

 

 

 

 

「そんな作戦に俺たちの命を捧げられるわけないだろ!俺たちは……俺たちは、使い捨ての刃じゃないんだぞ!」

 

 

 

 

 

エレンが巨人となって大岩を運んでいる間、兵士は邪魔をさせないために、巨人を誘導させる必要がある。

 

しかしそれは大きなリスクを伴っており、死ぬ可能性が高いのは火を見るよりも明らかである。成功率も極めて低く、失敗したら兵士は犬死となるのだ。

 

 

 

 

「(…誰だって死ぬのは怖い。……………僕も、死にたくない)」

 

 

 

仲間が死ぬのをこの目で見た。

潰されて原型もとどめていない死体や、上半身または下半身がない死体。見るに耐えられなかった。ヴィーネの握る手に、力が入る。

 

 

 

 

「俺は降りるぞ!」「お、俺も!」「私も!」と、一人がその場から離れると、更にもう一人が離れだす。駐屯兵団隊長である、キッツ・ヴェールマンが反逆罪で処刑、この場で殺そうとするが、またもピクシスがそれを遮った。

 

 

 

 

「ワシが命ずる!今この場から去る者の罪を免除する!」

 

「なっ…!?」

 

 

 

ピクシスの言葉に、キッツが目を見開く。

 

 

 

「一度巨人の恐怖に屈した者は二度と巨人に立ち向かえん!

 

巨人の恐ろしさを知った者はここから去るがいい!

そして、その巨人の恐ろしさを自分の親や兄弟愛する者にも味わわせたい者も!ここから去るがいい!」

 

 

 

 

 

 

______その言葉に、逃げようとした兵たちは反転する。

 

『最後の希望』のために。

 

 

 

 

「(……ああ、そうだ。何もしないで死ぬのは絶対に嫌だ。…最後まで無様に抵抗してやる)」

 

 

 

 

 

____こうして、トロスト区奪還作戦が始まった。

 

 

 

 

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