ファーランの弟が生きるためにどうにか頑張るお話。 作:霜月@
その後、急遽駆けつけた調査兵団と駐屯兵団工兵部の活躍により、巨人は掃討され、ウォール・ローゼは再び巨人の侵入を阻むことに成功した。
トロスト区に閉じ込めた巨人を掃討するのには丸一日が費やされ、その間壁上固定砲は耐えず火を吹き続け、壁に群がった巨人の殆どが榴弾によって死滅。
僅かに残った巨人も、主に調査兵団によって掃討された。
その際、4m級と7m級の巨人の捕獲に成功した。
「…………」
作戦終了後、兵士達は犠牲となった兵の収容作業を行っていた。
そしてヴィーネも、目の前にある死体と、それに縋りつくように泣いている彼女を、光のない目で見ていた。
「ギーナ……ギーナぁっ……」
彼女…クララはギーナの名前を呼ぶ。
あの時クララを助けた後、ギーナは巨人の餌食となってしまった。その後クララはギーナの立体機動を借りて、難を逃れたのであった。
「私のせいよ………私なんか…死ねばよかったのにっ……」
「…クララ。自分を責めても仕方ない。それで生き返る訳じゃないだろ」
「っでも…!」
「訓練兵、彼の名前が分かるのか。答えてくれ」
自分の所為だと、己を責めるクララをヴィーネは落ち着かせようとしていた。
すると、後ろから医療班の兵士が尋ねる。
「……。……はい。第104期訓練兵団、21班班長、ギーナ・ヘルベルクです」
ヴィーネはゆっくり振り返り、静かに返答する。
そして、医療班の兵士は「そうか」と、名簿にギーナの名前を書き、作業に戻っていった。
今だにクララは彼の名前を呼んでいた。
「……クララ。大岩で穴を塞いでから、2日経ってるんだ。それなのにまだ遺体が回収出来てない。…分かるだろ」
「…っ!」
遺体が回収しきれないと、感染症が出回る可能性がある。
第二次災害を防ぐためにも、なるべく早く回収を済ませなければならない。クララもその事は分かっていた。
「…悲しいのは君だけじゃない。多くの兵士が仲間を失ったんだ。だけど、悲しんでる暇なんてない」
「……ええ、そうね…。ごめんなさい、回収しましょう」
「………ああ」
死者、行方不明者207名、負傷者897名。
人類が初めて巨人に勝利するという歴史的快挙であったが、それに歓喜するには失った人々の数があまりにも多すぎた。
ヴィーネも重い足取りで作業を続けていく。
*
数日を費やし、やっと回収が終わり、訓練兵は食堂で休んでいた。ガヤガヤと騒いでいたあの日とは違い、とても静かであった。
地獄を見た。この世界は元々分かりやすく残酷な世界であったが、みるに耐えなかった。目の前で仲間が手足を引きちぎられ、真っ二つに食べられていく。脳裏にその光景が何度も蘇った。
「(……それでも。こんな世界だからこそ、僕は強くなくちゃいけない)」
どんな事をしても、大切な彼等だけは守りたい。その気持ちだけは揺るがなかった。
きっと、他の兵士が食われそうになっていても、彼等を優先して助けるだろう。
「ミカサ・アッカーマン、アルミン・アルレルトは居るか!?」
ガチャ、と食堂の扉が開き、上官が名前を呼ぶ。
ミカサとアルミンが立ち上がり、上官について行った。ヴィーネの目の前にいたサシャが、ヴィーネに尋ねる。
「…あれ、多分エレンの件かな。今頃審議場かもね」
「やはりそれは免れないか…」
そうだよな、とライナーが呟く。エレンは今、動向を憲兵団、調査兵団のどちらに委ねられるかを決める審議を受けていた。巨人化出来る人間は前代未聞な為、審議は難航するだろう。
「憲兵団に引き渡されれば、きっとエレンは処分される。…だから調査兵団の方が人類の為になるんだけど…」
「…そうだな」
巨人は人類にとって天敵である。一般の民衆にも、やはり存在は隠しきれなかった。巨人となったエレンの、民衆からの反応は様々だった。壁の内側の者ほど破滅に導く悪魔だと蔑み、外側の者ほど希望に導く救世主と呼んだ。それ程までに、エレンの存在が与える影響は大きい。
「(…審議にはエルヴィン団長は当然、リヴァイさんも出るはずだ。…多分大丈夫)」
リヴァイさんは少し暴力的だから、エレンの身が心配だ。と考えながら、静かに水を飲む。
「……やっぱりヴィーネは、調査兵団に行くの?」
心配そうに見つめ訪ねてくるベルトルト。様子を見るに、ライナーも心配なようだ。ヴィーネは少し考え返答した。
「…入団した時から決めてたことだ。……君らは?この惨状じゃ、憲兵団に行きたくなるよね」
トロスト区の扉が壊される前までは、エレンの演説もあって調査兵団希望の者も多かった。けれど巨人の恐怖を目の当たりにして、調査兵団に希望できる者は少ないだろうと、ヴィーネは思っていた。
沈黙が流れた。
「……俺は、やっぱり調査兵団に行く」
最初に喋り出したのはライナーだった。
「何もしないで、憲兵でのうのうと生きるのは嫌だからな」
何か他の目的を見つけたように、ライナーは告げた。そしてベルトルトもそれに続き、僕もそうすると言った。
ヴィーネはライナー達を見た。
「……僕は心配だ。壁外調査で、君らが死んでしまうかもしれない」
壁外調査では班が異なるから、守りたくても守ることができない。と零すヴィーネに、ライナーがくしゃくしゃとヴィーネの頭を撫でる。
「心配するな。俺達はそんなにやわじゃない。」
「…そうだよ。僕等の事はよく知ってるだろ?」
「俺達を、信じてくれ」
“自分達を信じろ”。ヴィーネにとって、それは憧れの人物が口にしていた言葉。
何故かそれを聞くと、ひどく安心できた。
「……。……君達が言うなら。僕は何も言わないよ」
あの言葉が自分の兄の言葉と錯覚してしまうほどに、ヴィーネは彼等を慕っていた。