ファーランの弟が生きるためにどうにか頑張るお話。 作:霜月@
翌日からの訓練は、実践よりも、エルヴィンが考案した『長距離索敵陣形』を頭に叩き込むことが主となった。その陣形には、エレン・イェーガーの配置は記されていなかった。
「お前達新兵はここだ」
そう言って、新兵の纏め役を任されているシスは、陣形の荷馬車護衛班と索敵支援班の場所を指していく。新兵達は、ここで予備の馬と並走し、伝達を任せられた。
*
晴れているこの日、新兵達は新しい制服を貰うため、外で待機していた。
「ミカサ!アルミン!」
先に調査兵団へと入っていったエレンが、幼馴染の名前を呼ぶ。その声にアルミンは顔を明るくし、ミカサは焦った様子でエレンに迫った。
「暫く振りにあった気がするぞ!」
「エレン、何か酷いことはされてない?体を隅々まで調べ尽くされたとか、精神的苦痛を受けたとか…」
「ねぇよ、そんなこと…」
「くっ……あのチビは調子に乗りすぎた、いつか私が然るべき報いを…」
「まさか…リヴァイ兵長の事を言ってるのか…?」
怖い表情で、あの人類最強をチビ呼ばわりするミカサ。エレンがそれに冷や汗をかいていると、後ろから声をかけられる。
「久しぶり、エレン」
「!…ヴィーネ!なんだよ、みんな揃ってるのか!」
そこには上位陣のほぼ全員が揃っていた。
また再開できたことに顔を明るくするも、すぐに顔を暗くさせた。
「ここにいるって事は、まさか調査兵団になったのか」
「他にここにいる理由があるのか?」
コニーが笑う。
上位陣のほぼ全員とは言っても、エレンの視界にジャン、アニ、マルコの3人は入っておらず、「憲兵団に行ったのはその3人か」と呟く。
すると、何か他の用事があったのか後からジャンがやってきた。それにエレンが驚くが、次にジャンが口にした言葉は、エレンにとって信じがたいものだった。
「マルコは死んだ」
他の104期生達はそれを知っていたが、先に調査兵団に行って、人類の希望となってしまったエレンは、そのような情報は入ってきていなかったのだ。雰囲気の暗くなった新兵達をよそに、上官が新しい制服を持ってくる。
「お前ら!新しい制服が届いたぞ!」
渡された制服を着る新兵達。それぞれの背中には、統一して調査兵団の紋章、自由の翼が描かれている。何故だかエレンには、ここにいるはずのないマルコの調査兵の姿が見えた。
*
「…お前ら、本当に…」
「そう、私達も、今度の作戦に参加する」
制服を渡された後、倉庫裏で、新兵達は集まって話をしていた。
新兵も今度の作戦に参加する事を聞くと、エレンは不安の色を見せた。トロスト区襲撃や、奪還作戦の時のように、あの惨劇をまた繰り返すのではないか、と考えているのは誰から見ても分かった。皆、同じ気持ちであるからだ。
「なぁエレン、お前巨人になった時、ミカサを殺そうとしたらしいな。それは一体どういうことだ?」
ジャンがエレンに問う。トロスト区奪還作戦の時、巨人化したエレンは自分を制御できず、巨人に意思が反映されずにミカサを攻撃したのだった。審議場でも問い詰められたことであり、エレン本人は、この事を知らなかった。
「違う、エレンはハエを叩こうとして…」
「お前には聞いてねぇよ。…なぁミカサ、頬の傷はかなり深いらしいな。それはいつ負った傷だ?」
ミカサがどう考えても無理がある誤魔化し方をするが、ジャンに遮られる。そして、頬の傷の事を聞かれ分が悪そうに傷を髪の毛で隠そうとする。
「…本当らしい。巨人になった俺は、ミカサを殺そうとした」
今まで黙っていたエレンは口を開らき、肯定する。
「らしいってのは、記憶に無いって事だな?つまりお前は巨人の力の存在を今まで知らなかったし、それを掌握する術も持ち合わせていないと」
「…ああ、そうだ」
ジャンの確認に、エレンはまたも肯定する。ジャンは溜息をつき、後ろで話を聞いていた新兵へ振り返った。
「お前ら聞いたかよ。これが現状らしいぞ。俺達と人類の命がこいつにかかってる。俺達はマルコのように、エレンが知らない内に死ぬんだろうな」
「ジャン!今ここでエレンを追い詰めることに何の意味があるの…!?」
ジャンの言葉に、ミカサが問いかける。
「…あのなぁミカサ。誰もがお前みたいに、エレンの為に無償で死ねるわけじゃないんだ」
ミカサやアルミンはエレンの幼馴染であるため、エレンが巨人だと知っても、彼を恐れることはなかった。特にミカサは、幼少期に両親を亡くし、イェーガー家に引き取られているのもあり、エレンに依存していた。
そんな2人はエレンを何としてでも守ろうとするだろう。しかし、他の者たちは違う。いきなりエレンの為に命を賭けろと言われても、納得できないだろう。
「知っておくべきだ。俺達は何のために命を使うのかを。…じゃねぇと、いざという時に迷っちまうよ。俺達はエレンに見返りを求めてる。」
ジャンの言っていることは正しかった。自身が命を捨てる代わりに、人類の勝利という大きな見返りを求めていたのだ。今は、全てエレンに賭けるしか無い。
「きっちり値踏みさせてくれよ…自分の命に見合うのかをよ…」
そう言って、ジャンはエレンの肩を掴み、顔を険しくさせる。
「だからエレン!!お前…本当に頼むぞ……!!」
エレンはその気迫に押され、ああ、としか返せなかった。
*
「エレン」
「…?ヴィーネ…なんだよ?」
ジャンの話も終わり、全員が新しい宿舎へ帰ろうとしていた。ジャンが全て代弁してくれたおかげもあり、この場にいた全員は腹を括ることが出来ただろう。そしてエレンも旧調査兵団本部へ帰ろうとしていたとき、ヴィーネが声をかけた。
「リヴァイ兵長の所へ案内してくれないかな」
「……は?何でリヴァイ兵長なんだよ」
「会う約束をしてるんだ」
調査兵団に入団して数日が経つも、未だにヴィーネは、リヴァイと話が出来ないでいた。そこでたまたますれ違った時に耳打ちされ、今日会うことになっていた。
「約束なら別にいいけどさ…じゃあ行こうぜ」
リヴァイ兵士長は地下街出身だ、という噂をここで聞いたことがある。事実であるのだが、エレンも聞いたこともあるはずだ。
この時ヴィーネは思った。
「(……エレン、僕が地下街出身だって忘れてないか?)」