ファーランの弟が生きるためにどうにか頑張るお話。 作:霜月@
数日後。
_____…ああ疲れた。
ヴィーネとリヴァイが地下街で一緒だというのは、一気に広まっていった。その所為もあってか、随分と質問責めに遭う。先日も、ハンジという分隊長の女性が話しかけて来ていた。
_____地下街出身っていうのが気になるのか?……いや、やっぱりリヴァイさんの方か。
ヴィーネが頼まれた仕事をこなそうと歩いていると、考え事をしていたのもあって、誰かにぶつかってしまった。
「!…ごめんなさ…」
謝罪しようとぶつかった相手を見上げるが、謝罪は途中で途切れた。目の前にはベルトルトよりも背の高い男性兵士が立っていて、ヴィーネはその男性兵士に見覚えがあった。
「…あの時地下街にいた…」
「!…記憶力がいいな」
ヴィーネの言葉に、男性兵士は驚く素振りをみせる。ヴィーネはこの男にはいい感情を抱いていなかった為、反射的に警戒したが、男性兵士は構わずヴィーネに近づき、おもむろに匂いを嗅ぎ始めた。
「っえ、」
突然の事に驚き、体を硬直させるヴィーネをよそに、男性兵士は臭いを嗅ぎ終えるや否や、フッと鼻で笑った。
「…いきなりで悪かったな。…お前はファーランの弟か?」
「…。……ヴィーネ・チャーチです」
「そうか。俺はミケ・ザカリアスだ。分隊長をしている」
ミケはスン、と鼻を鳴らし言った。調査兵団には、初対面の人の匂いを嗅ぐ癖がある変人がいるという事を、ヴィーネは先日、ハンジから聞かされた。ああこの人かと思いながら、ミケを見上げる。
「調査兵団に入ったんだな」
「…はい」
何もしないと分かっていても、やはりヴィーネは警戒を拭えなかった。
「……警戒しすぎだ。別に取って食おうとしてるわけじゃない」
表情には出ていなかった筈だが、ミケはヴィーネの心情を読み取ったかのように言った。そのことにヴィーネは少しだけ目を見開く。
表情が変わらなくても分かる、とミケはまたフッと笑った。
「…俺を恨んでいるのか」
真っ直ぐとヴィーネの目を見て、ミケは言った。
「……いや、別に恨んでいません。ただ、反射的に」
「…お前の唯一の家族を調査兵団へ引き込んだから、恨んでいるかと思っていたが」
そこでヴィーネは目を逸らし思考を巡らせ、少し時間をおいた後、口を開いた。
「兄さん達が調査兵団に行ったのは無理やりじゃない。自分の意思で行きました。だから恨んではいません」
調査兵団に恨みはない。そこで、ヴィーネは再びミケに目を合わせる。
「…それに、このことで誰かを恨んでも、どうにかなる訳じゃないので」
「!」
まぁ、最初は恨みましたけど。と付け足す。
ヴィーネは、リヴァイ達が出て行った後、約2年間帰りを待ち続けた。3人で、笑って帰ってくるのを信じて。しかしそれが叶うことは二度となかった。
ファーラン、イザベルが死んだと聞かされた時は、頭が真っ白になり、絶望した。
それと同時にヴィーネは実感されられた。やはりこの世界は残酷だと。
「…俺が思っていたよりも、お前は随分と冷静だな」
「どうも。…すみません、そろそろ失礼します。」
「ああ、引き止めて悪かったな」
「いえ、こちらこそ」
そう言って資料を片付け、ヴィーネは宿舎へと歩いていった。
「……あいつは抱え込みすぎているな」
歩いていくヴィーネの後ろ姿を見つめ、ミケはそう呟いた。
*
壁外調査の前日。
ヴィーネは深夜に目が覚め、うっすらと目を開けたが、すぐに目を閉じて、再び眠りについたのだった。
*
____壁外調査当日。
「至近の巨人は粗方遠ざけた!開門30秒前!」
壁外調査は、もうすぐ始まろうとしていた。
ヴィーネの目に、キラキラとした目でこちらを見ている子供が映る。昔は自分も、あんなに純粋だったのだろうか、と考える。
「いよいよだ!これより人類は、また一歩前進する!お前達の成果を見せてくれ!」
その声に、その場の兵士が雄叫びを上げる。
そして、開門始めという合図が聞こえ、とうとう門が上へ上がり始める。
馬の手綱を握った。
「これより第57回壁外調査を開始する!前進せよ!!」
陣頭指揮を執るエルヴィンの声に、調査兵団の兵士たちは、壁の外へと馬を走らせた。