ファーランの弟が生きるためにどうにか頑張るお話。   作:霜月@

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第二十話

「(あっちから来た時よりだいぶ遅くなった…疲れたのか?あの速度で再び走られたら手遅れだ。今やるべきだ。今やらないと…!)」

 

 

 

互いに頷きあい、実行しにいく。

 

 

 

「(いいかお前ら…さっき言った通りだぞ…少しでも長く注意を引きつけて、陣営が撤退できるよう尽くせ。少しでも長くここに留めるんだ!)」

 

 

 

最初にヴィーネとジャンが動いた。

 

 

「(……足の腱を削いだら十分以上かな。うなじを削がなくてもいい。動きさえ止められれば)」

 

 

 

 

左右から足の腱を削ごうと、立体機動に移り、女型に近づいていく。

 

 

 

 

「……!?」

 

「なにっ…!?」

 

 

 

 

しかし、女型の動きが想定以上に早かった。二人の動きをよけ、アルミンを叩き潰そうとする。女型の手は馬に当たり、アルミンはそのまま吹っ飛ばされていった。立体機動が外れ、転がっていく。

 

飛ばされた馬はライナーの方向へ飛び、ライナーはギリギリで避けていた。

 

女型は頭から血を流しているアルミンを見つめていた。アルミンの頭の中には、先程自分を見逃した時の光景が蘇る。

 

 

 

 

 

 

「クソ…ッ!」

 

 

 

 

ジャンは女型がアルミンに気を取られている内にアンカーを刺すが、女型は素早く反応し、攻撃を仕掛けようとする。

 

 

 

「(クソッ…運動精度が普通の奴の比じゃねぇ!認識が、認識が甘かった!)」

 

 

攻撃を避け、うなじを狙う。

 

 

「……!!」

 

 

「(うなじを守りやがった!?弱点を理解しているのか…!)」

 

 

 

女型はジャンの方向を見る。

 

 

 

「(マズイ、ワイヤー掴まれて終わりだ!死んじまう…!)」

 

 

 

「ジャン!!」

 

「っヴィーネ…!?」

 

 

 

 

ヴィーネが女型にアンカーを刺して女型を引き付ける。当然女型は反応し、ジャンへの注意が逸らされた。ヴィーネもうなじを狙おうと向かうが、やはり振り払われてしまう。うなじは諦めようと何度か攻撃を避け、方向を変える。

 

 

 

 

「っ…殺すわけじゃないんだ…少しは止まってくれ…よっ!」

 

 

 

 

そして足元の方へ行き、左足の腱を削ぐ。女型は左足を地面につきながらも、ヴィーネを叩き潰そうと、腕を大きく振り上げた。

 

 

 

「…!わ、っ…」

 

 

 

アンカーを刺し体制を立て直そうとするも、刺す場所がなく地面へ打ち付けられる。「ヴィーネ!」とライナーが叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィーネ!死に急ぎ野郎の仇をとってくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

女型の動きが止まる。

 

 

 

 

 

 

「そいつだ、そいつに殺された!右翼側で本当に死に急いでしまった、死に急ぎ野郎の仇だ!」

 

 

 

「(頭打って混乱しちまったのか…?マズイぞこんな時に…!)」

 

 

 

突然のアルミンの言葉にジャンが焦る。

 

 

 

 

「(…死に急ぎ野郎に反応したのか?……いや、その前に…もう腱が治ってる。深くやったのに…異様に再生が早い)」

 

 

 

 

ヴィーネがそう思っていると、ライナーが動いた。フードを外し、女型のうなじを狙う。

 

 

 

 

「僕の親友を、そいつが踏み潰したんだ!」

 

 

「(いける…!アルミンに気を取られている今なら…!)」

 

 

 

 

 

ライナーが女型の顔と同じ高さまで飛んだ瞬間、女型は視界にライナーを捉えた。

そして、右手で動きを封じ、捕まえる。

 

 

 

 

「……ライナー…?」

 

 

 

必死に逃げようともがくライナーに、ヴィーネはライナーの名前を呟く。

女型はゆっくり右手に力を入れ_____

 

 

 

 

 

グシャッという音と共に、血飛沫が上がる。

 

 

 

 

 

 

「!!…あ、」

 

「嘘だろ…」

 

 

 

 

 

 

その光景を目にし、ヴィーネとジャンは目を見開らく。アルミンも唖然としていた。

 

しかし、すぐに異変が起こる。

 

 

ライナーの血だと思っていたのは女型の血であった。ライナーは女型の指をブレードで削ぎ、その手から逃れた。ミカサで隠れてはいたが、ライナーもまた、飛び抜けて優秀な兵士である。

 

そのまま、倒れているアルミンを抱きかかえ、走っていく。ヴィーネとジャンも、ライナーの走る方向へ向かう。

 

女型は、削がれた自分の手を見ている。

 

 

 

 

「もうー時間稼ぎは十分だろ!急いでこいつから離れるぞ!人食いじゃなければ、俺たちを追いかけたりしないはずだ!」

 

 

 

ライナーはそう言って、後ろを振り向く。

 

 

 

 

「見ろ!デカ女の野郎め、ビビっちまってお帰りになるご様子だ!」

 

 

 

 

女型は、ライナーの言うとうり、ヴィーネ達を追いかけずに別の方向へ走って行った。だがその方向は。

 

 

 

「(そんな…何故…あっちは中央後方…もしかして…エレンがいる方へ…)」

 

 

 

アルミンが疑問に持つが、それを追いかける馬も力もなく、女型は中央後方へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女型から逃れた後、ヴィーネ、アルミン、ジャン、ライナーの四人は、木の影で休んでいた。ジャンの指笛の音が聞こえてくる。

 

 

 

「どうだ、アルミン。立体機動装置は」

 

「大丈夫。留め具が正しく外れてくれたから、壊れてはないよ」

 

「そうか…それは良かった…。ヴィーネも大丈夫か?さっき地面に叩きつけられていただろ」

 

 

 

に、ライナーが心配そうに言う。

 

 

 

「…何てことはないよ。…で、どうする?馬は2頭いるし、乗れないことはないけど」

 

「…そうだな」

 

 

 

 

ヴィーネとライナーの馬が戻って来たため、ギリギリだが四人乗ることができる。

アルミンの手当てもあり近くの木で隠れていたが、それも時間の問題である。ジャンは出来る限り自分の馬を呼ぼうと、指笛を吹き続けていた。

 

 

アルミンは頭の中で、女型の時の様子を考えていた。

 

 

 

「おい…アルミン?」

 

「えっ………ああ、ごめん」

 

「…まだボーッとするの?」

 

 

 

ライナーの声でハッと気がつき、アルミンはヴィーネとライナーの方を向いた。ヴィーネが心配そうに言う。

 

 

 

「だが、そろそろ行かねぇとな…ジャン、そろそろ行くぞ!」

 

 

 

 

ライナーがジャンに声をかけるが、ジャンは他の方向を見て、何やら嬉しそうな声を上げる。

 

 

 

「……いや、二人乗りの必要は無い。誰か来たみたいだ…!それも、馬を2頭連れて!」

 

「え…」

 

 

 

ジャンの見る方向を見ると、言ったとおり、馬を2頭引き連れ、こちらに走ってくる兵士が見えた。

 

 

 

「あれは…クリスタ?」

 

 

 

少し長い髪を後ろで一つ束ね、金色の髪を揺らしながら来る兵士は、104期の同期であるクリスタだった。

 

 

 

「俺の馬じゃねぇか…!はは、どうどう!落ち着けよ!」

 

「その子酷く怯えてて…こっちに逃げてきたの。巨人と戦ったの?…アルミン、その怪我は…?」

 

「大丈夫、大したことないよ」

 

「お前には不思議な人徳があるようだ。よくここが分かったな、クリスタ」

 

「ジャンの馬が逃げてきた方向から、もしかしてと思って…」

 

 

 

 

そしてクリスタは、目尻からこぼれそうな涙を手ですくい取り、微笑みながら言った。

 

 

 

「でも…最悪な事にならなくて、本当に良かった…」

 

 

 

4人の目には、クリスタの笑顔が眩しく見え、固まる。

 

 

 

「(神様…)」

 

「(天使…)」

 

「(女神…)」

 

「(結婚したい)」

 

 

 

それぞれの思いを心の中で叫びながら、クリスタの笑顔を見つめる。

 

 

 

「さぁ、急いで陣形に戻らないと!」

 

「そうだ、もうすぐ撤退の命令が出るはずだ!」

 

 

 

そうして、クリスタの連れてきた馬にジャン、アルミンが乗り、陣形に戻るべく馬を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし…壁の外に出て一時間足らずでとんぼ返りとは…見通しは想像以上に暗いぞ…」

 

「あいつは僕らにとって想定外だからね」

 

「ああ…しかも奴は何故か、戦闘の司令班とは逆の方向へ行っちまったしよ…」

 

「奴…?」

 

 

 

 

 

奴とは何か?とクリスタが言おうとしたところで、信煙弾が打ち上げられる。色は緑で進路変更の意であり、つまり作戦続行するということだった。

 

 

 

 

「そんなっ…撤退命令じゃないの…!?」

 

「エルヴィン団長は一体なに考えてんだ…!」

 

「分からなくても今の状況じゃやることは決まってる!判断に従おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。五列中央・待機であるリヴァイ班も、緑の煙弾を確認していた。

 

 

「煙弾…緑か。オルオ…お前が撃て!」

 

「了解です!!」

 

 

 

リヴァイの命令に従い、オルオが信煙弾を準備する。

そして、近くの班の兵士が、こちらにやってくる。

 

 

 

「口頭伝達です!右翼索敵壊滅的な打撃、右翼索敵一部機能せずとの事です!」

 

「聞いたかペトラ…行け!!」

 

 

 

 

リヴァイは伝達を受け、今度はペトラに指示を出した。ペトラも指示に従い、他の班の方へと馬を走らせる。

 

 

 

「右翼側…そこは確か、アルミンがいるはず…」

 

 

 

幼馴染の配置を思い出し、不安の色を隠せないエレン。リヴァイもヴィーネの配置を思い出していた。

 

 

 

「(…ヴィーネ)」

 

 

 

死ぬんじゃねぇぞ、とリヴァイは心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「右翼側が壊滅状態だと…!?それでも撤退しないのか!?」

 

 

 

ヴィーネ達の先輩である兵士が、エルヴィンの指示に疑問を抱く。彼らだけではなく、調査兵団の殆どがそう感じていた。

 

 

 

 

「目的地の旧市街地は南のはずなのに…このままじゃ陣形はあそことぶつかるな…」

 

「ああ…見えてきたぜ!巨人の森が」

 

 

 

 

 

信煙弾で指示された方向通りに進んでいくと、巨大な木がそびえ立つ森が見えてくる。

 

巨大樹の森。木が最大50m程あり、立体機動装置が最も活かされる場所でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより中列荷馬車護衛班のみ森に侵入せよ!」

 

 

陣形に戻り、アルミン、ジャンと別れたヴィーネとライナーは、指示通り森に入らず、外側を走っていた。

 

 

 

 

「…中列だけ森に入るとは、おかしな話だと思わねぇか?」

 

「…ああ」

 

 

エルヴィンの意図が分からず、とにかく今は、エルヴィンの指示に従うしかなかった。

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