ファーランの弟が生きるためにどうにか頑張るお話。 作:霜月@
「(あっちから来た時よりだいぶ遅くなった…疲れたのか?あの速度で再び走られたら手遅れだ。今やるべきだ。今やらないと…!)」
互いに頷きあい、実行しにいく。
「(いいかお前ら…さっき言った通りだぞ…少しでも長く注意を引きつけて、陣営が撤退できるよう尽くせ。少しでも長くここに留めるんだ!)」
最初にヴィーネとジャンが動いた。
「(……足の腱を削いだら十分以上かな。うなじを削がなくてもいい。動きさえ止められれば)」
左右から足の腱を削ごうと、立体機動に移り、女型に近づいていく。
「……!?」
「なにっ…!?」
しかし、女型の動きが想定以上に早かった。二人の動きをよけ、アルミンを叩き潰そうとする。女型の手は馬に当たり、アルミンはそのまま吹っ飛ばされていった。立体機動が外れ、転がっていく。
飛ばされた馬はライナーの方向へ飛び、ライナーはギリギリで避けていた。
女型は頭から血を流しているアルミンを見つめていた。アルミンの頭の中には、先程自分を見逃した時の光景が蘇る。
「クソ…ッ!」
ジャンは女型がアルミンに気を取られている内にアンカーを刺すが、女型は素早く反応し、攻撃を仕掛けようとする。
「(クソッ…運動精度が普通の奴の比じゃねぇ!認識が、認識が甘かった!)」
攻撃を避け、うなじを狙う。
「……!!」
「(うなじを守りやがった!?弱点を理解しているのか…!)」
女型はジャンの方向を見る。
「(マズイ、ワイヤー掴まれて終わりだ!死んじまう…!)」
「ジャン!!」
「っヴィーネ…!?」
ヴィーネが女型にアンカーを刺して女型を引き付ける。当然女型は反応し、ジャンへの注意が逸らされた。ヴィーネもうなじを狙おうと向かうが、やはり振り払われてしまう。うなじは諦めようと何度か攻撃を避け、方向を変える。
「っ…殺すわけじゃないんだ…少しは止まってくれ…よっ!」
そして足元の方へ行き、左足の腱を削ぐ。女型は左足を地面につきながらも、ヴィーネを叩き潰そうと、腕を大きく振り上げた。
「…!わ、っ…」
アンカーを刺し体制を立て直そうとするも、刺す場所がなく地面へ打ち付けられる。「ヴィーネ!」とライナーが叫んだ。
「ヴィーネ!死に急ぎ野郎の仇をとってくれ!!」
女型の動きが止まる。
「そいつだ、そいつに殺された!右翼側で本当に死に急いでしまった、死に急ぎ野郎の仇だ!」
「(頭打って混乱しちまったのか…?マズイぞこんな時に…!)」
突然のアルミンの言葉にジャンが焦る。
「(…死に急ぎ野郎に反応したのか?……いや、その前に…もう腱が治ってる。深くやったのに…異様に再生が早い)」
ヴィーネがそう思っていると、ライナーが動いた。フードを外し、女型のうなじを狙う。
「僕の親友を、そいつが踏み潰したんだ!」
「(いける…!アルミンに気を取られている今なら…!)」
ライナーが女型の顔と同じ高さまで飛んだ瞬間、女型は視界にライナーを捉えた。
そして、右手で動きを封じ、捕まえる。
「……ライナー…?」
必死に逃げようともがくライナーに、ヴィーネはライナーの名前を呟く。
女型はゆっくり右手に力を入れ_____
グシャッという音と共に、血飛沫が上がる。
「!!…あ、」
「嘘だろ…」
その光景を目にし、ヴィーネとジャンは目を見開らく。アルミンも唖然としていた。
しかし、すぐに異変が起こる。
ライナーの血だと思っていたのは女型の血であった。ライナーは女型の指をブレードで削ぎ、その手から逃れた。ミカサで隠れてはいたが、ライナーもまた、飛び抜けて優秀な兵士である。
そのまま、倒れているアルミンを抱きかかえ、走っていく。ヴィーネとジャンも、ライナーの走る方向へ向かう。
女型は、削がれた自分の手を見ている。
「もうー時間稼ぎは十分だろ!急いでこいつから離れるぞ!人食いじゃなければ、俺たちを追いかけたりしないはずだ!」
ライナーはそう言って、後ろを振り向く。
「見ろ!デカ女の野郎め、ビビっちまってお帰りになるご様子だ!」
女型は、ライナーの言うとうり、ヴィーネ達を追いかけずに別の方向へ走って行った。だがその方向は。
「(そんな…何故…あっちは中央後方…もしかして…エレンがいる方へ…)」
アルミンが疑問に持つが、それを追いかける馬も力もなく、女型は中央後方へと走っていった。
*
女型から逃れた後、ヴィーネ、アルミン、ジャン、ライナーの四人は、木の影で休んでいた。ジャンの指笛の音が聞こえてくる。
「どうだ、アルミン。立体機動装置は」
「大丈夫。留め具が正しく外れてくれたから、壊れてはないよ」
「そうか…それは良かった…。ヴィーネも大丈夫か?さっき地面に叩きつけられていただろ」
に、ライナーが心配そうに言う。
「…何てことはないよ。…で、どうする?馬は2頭いるし、乗れないことはないけど」
「…そうだな」
ヴィーネとライナーの馬が戻って来たため、ギリギリだが四人乗ることができる。
アルミンの手当てもあり近くの木で隠れていたが、それも時間の問題である。ジャンは出来る限り自分の馬を呼ぼうと、指笛を吹き続けていた。
アルミンは頭の中で、女型の時の様子を考えていた。
「おい…アルミン?」
「えっ………ああ、ごめん」
「…まだボーッとするの?」
ライナーの声でハッと気がつき、アルミンはヴィーネとライナーの方を向いた。ヴィーネが心配そうに言う。
「だが、そろそろ行かねぇとな…ジャン、そろそろ行くぞ!」
ライナーがジャンに声をかけるが、ジャンは他の方向を見て、何やら嬉しそうな声を上げる。
「……いや、二人乗りの必要は無い。誰か来たみたいだ…!それも、馬を2頭連れて!」
「え…」
ジャンの見る方向を見ると、言ったとおり、馬を2頭引き連れ、こちらに走ってくる兵士が見えた。
「あれは…クリスタ?」
少し長い髪を後ろで一つ束ね、金色の髪を揺らしながら来る兵士は、104期の同期であるクリスタだった。
「俺の馬じゃねぇか…!はは、どうどう!落ち着けよ!」
「その子酷く怯えてて…こっちに逃げてきたの。巨人と戦ったの?…アルミン、その怪我は…?」
「大丈夫、大したことないよ」
「お前には不思議な人徳があるようだ。よくここが分かったな、クリスタ」
「ジャンの馬が逃げてきた方向から、もしかしてと思って…」
そしてクリスタは、目尻からこぼれそうな涙を手ですくい取り、微笑みながら言った。
「でも…最悪な事にならなくて、本当に良かった…」
4人の目には、クリスタの笑顔が眩しく見え、固まる。
「(神様…)」
「(天使…)」
「(女神…)」
「(結婚したい)」
それぞれの思いを心の中で叫びながら、クリスタの笑顔を見つめる。
「さぁ、急いで陣形に戻らないと!」
「そうだ、もうすぐ撤退の命令が出るはずだ!」
そうして、クリスタの連れてきた馬にジャン、アルミンが乗り、陣形に戻るべく馬を走らせた。
「しかし…壁の外に出て一時間足らずでとんぼ返りとは…見通しは想像以上に暗いぞ…」
「あいつは僕らにとって想定外だからね」
「ああ…しかも奴は何故か、戦闘の司令班とは逆の方向へ行っちまったしよ…」
「奴…?」
奴とは何か?とクリスタが言おうとしたところで、信煙弾が打ち上げられる。色は緑で進路変更の意であり、つまり作戦続行するということだった。
「そんなっ…撤退命令じゃないの…!?」
「エルヴィン団長は一体なに考えてんだ…!」
「分からなくても今の状況じゃやることは決まってる!判断に従おう」
*
同時刻。五列中央・待機であるリヴァイ班も、緑の煙弾を確認していた。
「煙弾…緑か。オルオ…お前が撃て!」
「了解です!!」
リヴァイの命令に従い、オルオが信煙弾を準備する。
そして、近くの班の兵士が、こちらにやってくる。
「口頭伝達です!右翼索敵壊滅的な打撃、右翼索敵一部機能せずとの事です!」
「聞いたかペトラ…行け!!」
リヴァイは伝達を受け、今度はペトラに指示を出した。ペトラも指示に従い、他の班の方へと馬を走らせる。
「右翼側…そこは確か、アルミンがいるはず…」
幼馴染の配置を思い出し、不安の色を隠せないエレン。リヴァイもヴィーネの配置を思い出していた。
「(…ヴィーネ)」
死ぬんじゃねぇぞ、とリヴァイは心の中で呟いた。
*
「右翼側が壊滅状態だと…!?それでも撤退しないのか!?」
ヴィーネ達の先輩である兵士が、エルヴィンの指示に疑問を抱く。彼らだけではなく、調査兵団の殆どがそう感じていた。
「目的地の旧市街地は南のはずなのに…このままじゃ陣形はあそことぶつかるな…」
「ああ…見えてきたぜ!巨人の森が」
信煙弾で指示された方向通りに進んでいくと、巨大な木がそびえ立つ森が見えてくる。
巨大樹の森。木が最大50m程あり、立体機動装置が最も活かされる場所でもある。
「これより中列荷馬車護衛班のみ森に侵入せよ!」
陣形に戻り、アルミン、ジャンと別れたヴィーネとライナーは、指示通り森に入らず、外側を走っていた。
「…中列だけ森に入るとは、おかしな話だと思わねぇか?」
「…ああ」
エルヴィンの意図が分からず、とにかく今は、エルヴィンの指示に従うしかなかった。