ファーランの弟が生きるためにどうにか頑張るお話。 作:霜月@
巨人発見から16時間後。
闇の中を、エルミハ区へ向かう荷馬車の列が駆け抜けていた。荷馬車にはリヴァイ、ハンジ、ニック。そしてヴィーネ、エレン、ミカサ、アルミンが座っていた。
ハンジは教団が巨人の秘密を知っていたこと話した。それを黙っていたことも。それを聞いてエレンは激情した。
「はぁ!?なんだよそれ!?人類の全滅を防ぐこと以上に重要な事なんてあるのかよ!」
「…つまり、今まで巨人に食われて死んだ人たちは無駄死にだった…ってことですか」
エレンはニックに詰め寄り、ヴィーネはハンジに問いかけた。
「全部が全部無駄なわけじゃない…と思う。人類滅亡より重要な理由があるのかも知れない」
ヴィーネは「…そう、ですか」といい、空を見上げた。
「(……兄さんやイザベル姉さんの死は……無駄じゃないといいな…)」
悲しげな目で空を見つめるヴィーネを、リヴァイは見ていた。
ハンジ曰く、ニックは無理矢理この場へ連れてこられたわけではなく、自ら同行を志願したらしい。壁の秘密を話していいのかどうか、この目で確かめるのだという。
「俺は今役立たずだが……こいつを見張ることくらいはできる」
視線をニックに移し、リヴァイは銃を突きつけた。役立たずということは無いだろうが、足を負傷しまともに動けないのは確かであった。エレンも巨人化のせいで体力を消耗している。
そこで、ハンジが一つの石を取り出した。
「…お前はただの石を眺める、暗い趣味なんて持っていたか?」
ただの石にしか見えない、というリヴァイに、ハンジは首を横に振った。
「ただの石じゃ無い。女型の巨人が残した硬い皮膚の破片だ」
ハンジは、ある石について説明を続けた。
女型の巨人が消えた後も皮膚が消えずに残った事は、すなわち「壁」は大型巨人の硬化した皮膚で形成されていると考えられ、事実その成分は壁とほぼ同じであった。ならば、巨人化したエレンが硬化し、壁の穴をその体で塞げるかもしれない。
「それならウォール・マリア奪還も明るいですけど……ただし、全てはエレンが壁の穴を塞げればの話だ」
「俺で…穴を塞ぐ?」
皮膚を硬化なんてしたことも無いし、やり方すら分からない。どうしろと。エレンが戸惑っていると、リヴァイが口を開く。
「出来そうかどうかじゃねぇ。やれ…やるしかねぇだろ」
「っ!……はい…!」
その言葉にリヴァイ自身の決意が伺えた。エレンが失敗すれば、待っているのは人類の全滅のみ。そして新兵達にこの最悪の状況から、人類を救う事を任せた。
「アルミン。お前はその調子でハンジと知恵を絞れ。ヴィーネ、ミカサ。お前等の能力の全てはエレンを守ることに使え。分かったな?」
リヴァイの命令に、3人は素直に頷いた。
「特にミカサ。お前が、何故そこまで執着するのか知らねぇが…今度はしくじるなよ。自分を抑制しろ」
「はい……勿論です」
エルミハ区到着後。
夜の街は、強い不安に駆られた表情の住民たちで埋め尽くしていた。この現状にニックも驚きを隠せない。ハンジが喋る気になったかと聞くが、ニックは結局首を縦に振らなかった。
「話すか黙るかハッキリしろよ!お願いですから!」
しびれを切らしたハンジがニックに迫る。
ニック自身もこの現状を見て考えが変わったのか、自分の口から喋ることはできないが、話すかどうか選ぶ権利を持つ者を教える、と言った。彼の最大限の譲歩である。
「我々は代々、強固な誓約制度を築き上げ、壁の秘密をある血族に託していた…。その子は3年前血族の争いに巻き込まれ、偽名を使い身を隠している。その子はまだ何も知らないが…壁の秘密を知り、公に話すことを選べる権利を持っている」
「そんな重要人物が……」
「…今年、調査兵団に入団したと聞いた。その子の名は_____」
クリスタ・レンズ。その名前の彼女は、104期生の、ヴィーネ達の同期であった。
まさか彼女が重要人物だったとは。同じく104期生の4人は驚いていた。しかし、名前と顔が一致しないのか、リヴァイとハンジは首を傾げていた。
「ちょっと待って!私達まだ顔を覚えてないんだけど…」
「あの一番背の小さい奴ですよ!」
「金髪で髪が長くて…えーと、あと…かわいい!」
エレンとアルミンの出したヒントを元に、顔を照らし合わせていく。そこでヴィーネがポツリ呟いた。
「……ユミルはこのことを知ってたのかな。だからクリスタを守るために、僕に順位を落とすよう交渉したのか…?」
その呟きを聞いて、ハンジとリヴァイは固まった。
「…お前、やっぱ手抜いてたのかよ…」
「ユミル達と同じ班の時は本気だったよ」
「おかしいと思ったんだ……ヴィーネ、中盤辺りまではミカサと僅差だったじゃ」
「ちょっといい!?」
僅差だったじゃないか。アルミンがそう言おうとしたところで、ハンジがそれを遮った。
「ヴィーネ、今なんて言った?」
「え、……クリスタを守るために、僕に順位を落とすよう交渉した…?」
「それも気になるけど!その前!誰が交渉してきたの!?」
ハンジの気迫に押され、少したじろぎながらも、ヴィーネは告げた。
「……。ユミル……、です」
その人物の名前に、ハンジは大きく目を見開いた。
「ユミル………!?」
何故その名前に反応するのか4人は分からなかったが、リヴァイとハンジは「ユミル」という名に見覚えがあった。
イルゼ・ラングナーの手帳に書かれていた、「ユミル様」「ユミルの民」と同じ名前だったのだから。
*
エルミハ区。
2時間程前、“ユミル”について聞かれた後、次の指示があるまで待機しろという指示を受け、その指示通り待機していた。
「ヴィーネ」
立体機動の整備をしていると、突然声をかけられる。誰かと振り向くと、そこにいたのはリヴァイであった。
「どうしたの?」
「立体機動は直したのか」
「え、」
ストヘス区の女型捕獲作戦の時、ヴィーネの立体機動装置は限界に近かった。ヴィーネもそれに気づいた上で女型の指を切り落としにかかったのだが、後で見た時には部品の一部が破損していた。
ヴィーネは苦笑した。
「……気付いてたんだ」
「ハンジから聞いた。俺はその場にいなかったからな」
「ああ…。まぁ、心配ないよ。急いで部品貰って交換したからね」
「そうか。…それと話が変わるが、お前…やはり内心は恨んでいるんじゃねぇか?」
リヴァイの言葉にヴィーネは整備していた手を止めた。そしてリヴァイの方へゆっくりと目を向ける。
「……リヴァイさん。本当はこっちが本題でしょ」
「まぁな。……で、どうなんだ」
「……それ聞いてどうするの」
「どうもしない。ただ本音が聞きたいだけだ。お前は俺達に迷惑かけねぇようにしてるのか、昔から我侭も何も言わなかったからな」
ヴィーネが黙っていると、「分け前の金も、本を買った釣りはファーランに渡していただろ」とリヴァイは続けて言った。
「お前は兵士だが、その前に餓鬼だ。変なところで溜め込むんじゃねぇ」
少しの間があいた後、ヴィーネはポツリと喋り出した。
「……恨んではいないんだ。前に同じことを聞かれて、その時も言ったけど…誰かを恨んだって、兄さん達が帰ってくるわけじゃないから」
そう言いながら、立体機動を片付けていく。
「でも、やっぱり寂しいよ」
「……ああ、そうだな」
4人で生活していた地下街での家は、1人で住むとなるとかなり広く感じた。そして何故かとても寒かった。
「…ねぇリヴァイさん。我侭、言っていいかな」
「…ああ」
「僕は……もう大切な人をなくしたくないんだ」
だから。と言ってヴィーネはリヴァイをまっすぐ見つめた。
「僕を、置いていかないで」
___なんだ、そんなことか。
我侭というより、お願いに近いその言葉に、リヴァイは静かに返答した。
「当たり前だ。俺は、お前を置いていかねぇ」
「……うん」
静かだが、力強く答えたリヴァイに、ヴィーネは心底安心した。
そして丁度ハンジがリヴァイを呼んだ。それを聞き取り、リヴァイは体をハンジのいる方向へと向ける。
「俺は行くが、お前はエレン達と居ろ。その方が指示も早い」
「分かった。今から行くよ」
ヴィーネの返答に「ああ」と返し、リヴァイは足を進める。
「…顔は怖いけど、優しいところは昔から変わってないな」
リヴァイの後ろ姿を眺め、ヴィーネは昔を懐かしみながら、自分もエレン達がいる場所へと歩き出した。
*
「ウトガルド城?」
アルミンが言った言葉に、ヴィーネは聞き返した。
「南班と西班がそこにいるらしい。巨人がそこに集まっているから、救助に向かうんだって」
「南班と西班って…」
確かそこにはライナーとベルトルトがいる、と聞いたはずだ。大丈夫だろうかと不安に思っていると、ハンジがこちらに駆け寄ってきた。
「ようやくアニの身辺調査の結果が届いたんだが…104期に2名ほど、アニと同じ出身者がいるみたいなんだ」
「え…本当ですか!?」
「うん、名前は…ライナー・ブラウンとベルトルト・フーバー」
「っ!!」
挙げられた2名の名前に、ヴィーネは大きく反応する。
「ライナーとベルトルトが……!?アニと仲良さそうには見えなかったけどな…」
「…私は覚えていません」
「僕も……女型と交戦した時、ライナーは握りつぶされそうで………!?」
エレンとミカサはライナー、ベルトルトとアニの接点は思いつかなかったが、アルミンは1人、接点ではなく他のことで心当たりがあった。思い出すのは、壁外調査で女型と交戦した時のことだ。
「…もしも、女型と交戦したあの時…女型の手に文字を刻んでたとしたら…」
ライナーが女型に捕まったのはわざとで、エレンの居場所を教えていたとしたら。必要以上にエレンの居場所を聞いてきたのも辻褄が合う。
アルミンは俯いているヴィーネに話しかける。
「ヴィーネ…アニが言ってたように、気づいてたんじゃないか?」
「………」
「アニが巨人だって知った今、ライナー達が共謀者かもしれないっていうのは、君が一番心当たりがあるんじゃないかな…君の反応を見て思ったことだけど」
アルミンの的確な言葉に、内心動揺していた。どうしてここまで分かるのか。やはりアルミンの頭脳というか鋭さは侮れない。
そして少し間を置いてから、ヴィーネは喋り出した。
「……同郷っていうのは初めて聞いたけど。訓練時代からライナー達はアニを気にかけてたのは覚えてるよ」
「そうなのか…!?」
「うん。分かりやすいんだ。あと…………、」
そのまま話を続けようと言葉を紡ごうとするが、ヴィーネはそこで止め、首を横に振った。
「…いや、何でもない」
「……、」
ヴィーネが続きを言おうとしていたのには気付いていたが、アルミンは深く聞かなかった。
共謀者で有ろうが無かろうが、ライナーとベルトルトにはアニと同じように地下室に誘導する必要がある為、彼らには気付かれないように、とハンジが言い、ヴィーネ達はウトガルド城へと出発したのだった。
「(……そういえば、あの時ライナーは辛そうで、ベルトルトは泣いてたな)」
僕は、酷い奴かもしれないな。
ジャン「多分信じて貰えないだろうけど、さっき脱衣所でミカサと「キャッ」「あ、ごめんなさい」ってイベントが発生した。本当に。でもその時裸だったのは俺。ミカサじゃなくて俺。つまり「キャッ」って言ったのは俺。俺が「キャッ」って言った。全裸で。俺が」