ファーランの弟が生きるためにどうにか頑張るお話。 作:霜月@
第四話
847年
「私が運悪く貴様らを指導することになったキース・シャーディスだ!!」
…あの人おっかないなぁ。さっきから他の訓練兵を凄く罵倒している。
僕は恐喝されなかったけど、あんなに否定されるなんて、生まれて初めてだろう。
「貴様は何者だ!」
「コ、コニー・スプリンガー!ラカゴ村出身です!!」
「…逆だコニー・スプリンガー……最初に教わったハズだ。この敬礼の意味は「公に心臓を捧げる」決意を示すものだと…」
なるほど、彼の心臓は右にあるのか。そんなことを考えながら、ふと横をみた。
サクッ
いやサクッじゃないんだけども。
横を向いたら芋を食べてる女の子がいた。
キース教官も驚いて固まってる。そりゃそうだ。
「おい…貴様は何をやっている…?」
彼女は食べ続ける。自分に向けられてないと思ってるな。いや気づけよ。
もう一口というところで、キース教官は恐喝した。
「貴様だ!貴様に言っているんだ!何者なんだ貴様は!」
すると彼女は芋を急いで飲み込んで、見事な敬礼をした。
「ウォール・ローゼ南区、ダウパー村出身、サシャ・ブラウスです!」
「今貴様が手に持っているのはなんだ!」
「蒸かした芋です!調理場にちょうど頃合いのものがあったので、つい!」
彼女はバカなのかな。
「何故だ…何故貴様は芋を食べだした…?」
「冷めてしまっては元も子もないので…今食べるべきだと判断しました。
「いや……分からんな…何故芋を食べた…?」
サシャ「…?それは何故人は芋を食べるのか、という話でしょうか。」
彼女……サシャと言ったか。本気で分からないという顔をしている。そしてサシャは何かに気づき、芋を半分にした。気づけ、そこじゃない。
「チッ………半分、どうぞ…」
「半、分……?」
4分の1にも満たないその芋をみて、キース教官はみるみる顔を険しくさせた。
…謝るのは今のうちじゃないか?
「……フッ」
彼女はドヤ顔していた。
ああ、もう、これはダメだな。
「…あの芋女、まだ走らされてるぜ…」
「五時間ぶっ通しか…凄いな」
何人かが外に出て、走らされている彼女を眺める。
エレン「だけど死ぬまで走れって言われた時より、夕飯抜きって言われた時の方が悲壮な顔してたぜ。」
この世の終わりみたいな顔をしている彼女を思い出す。
お世辞にも多いとは思えない訓練所の夕食じゃ、彼女は満足できそうにないな。
「そういえば、君達はどこの出身なの?恐喝受けなかったみたいだけど。」
「俺はこいつと同じシガンシナ区だ。」
そばかすの子が出身地を尋ねた。
シガンシナ区………超大型巨人か。
「じゃあ…見たのか!?超大型巨人!!」
坊主が興奮したように言う。
そばかすの子が止めようとするが、好奇心には勝てなさそうだ。
「僕も聞いてみたいな、超大型巨人。」
このまま乗ってしまおう。
出身が地下街なんて言いにくいしね。
「……だから、見たことあるって。」
案の定彼は質問責めに遭っていた。
「ど、どのくらい大きかったんだ!?」
「壁から顔を出すくらいだったな。」
あれ、噂と違うな。壁は跨がなかったのか。
周りも聞いた話と違うのか、ざわざわしている。
「ウォール・マリアを突破した、鎧の巨人は!?」
「そんな風に言われてるけど、俺には普通の巨人に見えたな。」
鎧の巨人…名前からして皮膚が硬いのか?
僕が思ったより被害は大きいらしい。ボスは超大型巨人だけかと思ってたよ。
「それじゃあ、普通の巨人は……!?」
「……!?ぐっ、」
普通の巨人の話を出した途端、彼は吐きそうになっていた。
…なるほど、彼も身内を亡くしたのか。きっと目の前で食われたのだろう。僕は見たことはないから、僕より彼の方が辛そうだ。
「もう質問はよそう。思い出したくないこともあるはずだ。」
「わ、わりぃ……思い出させちまって…」
「……いや、違うぞ。」
彼はパンを握りしめる。
「巨人なんて、実際大した事ねぇな!俺たちが立体機動装置を使いこなせるようになれば、あんなの敵じゃない!!」
敵じゃない、か…
そういえば僕は巨人なんて見たことないから、軽く兵士になるって言っちゃったなぁ。巨人への憎しみより、兄さん達が死んだ悲しみの方が大きくて、あまり考えて無かった。
…巨人は、どれだけ怖いんだろうか。
「石拾いや草むしりじゃなくて、やっと兵士として訓練できるんだ。さっきは思わず感極まっただけだ!そんで調査兵団に入って、この世から巨人共を駆逐してやる!そして…」
彼は調査兵団に入るのか。あんな悲惨な目に遭っておいて。
「オイオイ正気か?今お前、調査兵団に入るって言ったのか?」
馬面……ジャンだった気がする。ジャンが笑って横やりを入れる。
「ああ、そうだけど……。お前は確か、憲兵団に入って楽したいんだったっけ?」
「オレは正直者なんでね。心底怯えながらも勇敢気取ってやがるヤツより、よっぽどさわやかだと思うがな」
性格悪そうに見えるけど、本当にただの正直者だな。
ジャンの言い分も分からなくもない。誰でも死にたくはないさ。
ただ、調査兵団に入って戦いながら生きるか、憲兵団に入ってのんびり生きるかの違いだ。
「それはオレのことか?!」
短気なのか、ジャンに突っかかっていく。ピリピリしてるな。今にも喧嘩が始まりそうだ。
そんな二人を僕らは遠くで傍観する。
丁度カンカン、と夕食の終わりの合図が聞こえた。
その音で喧嘩は免れたらしい。
「あー…悪かったよ。正直なのはオレの悪い癖だ。気ぃ悪くさせるつもりも無いんだ。あんたの考え方を否定したいわけじゃない。どう生きようと、人の勝手だからな。」
……今はジャンの方が大人のようだ。教官に怒られなくて済む。
「これで手打ちにしようぜ。」
ジャンが手を差し出す。
「……ああ。」
ようやく収まったみたいだ。
……そういえば、サシャはどうなったのだろうか。