ファーランの弟が生きるためにどうにか頑張るお話。 作:霜月@
訓練兵になって1年くらいが経った。
他の奴らもだんだん兵士に近づいてきた頃だろう。
ちなみに僕は周りの影響か少し口が悪くなった。
「…対人格闘か……ペア探すの疲れるなぁ…」
対人格闘術は得意分野だ。リヴァイさんに沢山教えてもらった。
かなりスパルタだったため、上達するのも早かった。
しかし訓練ではペアを探さなくてはならない。
…周りはほとんどやってしまっている。どうしようか。
「ヴィーネ、もしよかったら僕といいかな。」
「!ベルトルト…」
困っていると、ベルトルトが声をかけてきた。
ああ助かる。教官の頭突きは痛いから嫌だ。
ベルトルトとライナーは過去の話をしたり、寝床が隣でもあり仲が良かった。ほぼ彼らと一緒にいるだろう。
ベルトルトは周りと関わることを避けていたが、根気良く話しかけたら段々と心を開くようになった。今でも他とは関わろうとしないが、僕には積極的に話しかけてくれる。心底嬉しい。正直僕もベルトルトとライナーには割と懐いている。
ライナーは兄貴分のような性格で、面倒見がいいから子供扱いされるのが気に食わないが、悪い気はしない。
「良かった、ベルトルトがいなかったら僕は怒られるところだった。」
「はは、それは僕もだ。」
「じゃあやろうか。ならず者は僕がやろう。手加減はしないで欲しいな。」
104期の中で一番背が高いベルトルトは、その長い手足で攻撃を仕掛けてくる。
背の割りにはかなり俊敏なため避けるのも困難だ。
「わっ…と、……!」
攻撃を仕掛けるが、容易くよけられ、思い切り蹴り上げられた。
それをギリギリで下に避け、ベルトルトの脇腹を蹴る。
「ぐっ…!?ふっ!」
「…!!」
…耐えたか。長身だけでなく忍耐もあるらしい。とても手強い。
蹴りを流そうとするが、受け止めきれず腕がジンジンする。
「…やっぱりヴィーネは強いなあ。短剣が取れないよ。」
「軽々と避けておいてよく言うよ。あ、脇腹大丈夫?」
「まだ痛いけど大丈夫さ。」
「なら良かった。……もう時間みたいだ。次は座学だったっけ、行こう。」
「うん」
キース教官の合図を聞き、対人格闘を終えた僕達は次の訓練に向かった。
「そういえば、ベルトルトは良くアニを見てるけど。」
「え、そ、そうかな……?」
「僕の勘違いとは思うけど、好きなの?」
流石に人と話している時は見ていないけど。訓練の合間や、食事の時などには見ていることが多かった。
「僕はアニと親しくないし、好きとかは分からないかな…」
「…それもそうだね。でもあの足技凄いし、今度僕も習ってこようかなあ。」
「え、それ以上強くなるの?」
「強くなるために兵士になったんだよベルトルト。」
ベルトルトが見ていたのは気のせいだったか。
アニとは何度か話をしたことはある。無愛想で口数が少ないけど、本当は優しい奴だと思っている。
「…ヴィーネは?気になる子とかいるの?」
聞きたいな、とニコニコしながら訪ねてくる。
…少し楽しんでいるな?
「そうだな………サシャ、かな。」
「えぇ!?意外だなあ。」
サシャと名前を出すと、とても驚かれた。
つい先日、ジャンに同じことを聞かれ、この名前を出したら「あの芋女かよー!」と笑われた。
「面白いよね、あと度胸がある。いい友達になれそうだなぁ」
「え、そっち?まぁいっか…」
僕はサシャと少し仲良くなった、あの日を思い出した。
「……サシャ、何やってるの」
入隊式から数ヶ月が経った頃。今日は訓練が休みの日であったので、暇を潰そうと図書室にいたのだが、サシャが本棚で何やら奮闘しているのが見えた。
「ヴィーネ、助けてください!あそこの本が届かないんですよー!あと少しなんですけど…!」
「本?よっと…これでいいかな。」
「はい!ありがとうございます!」
彼女が図書室にいるなんて珍しいな、と思いながら指された本を取る。
「これ、料理の本?何か作るの?」
「食料庫から芋を盗ってきたので。折角の休日ですしね!」
「…また盗んだの?バレたら怒られるよ。」
サシャはいつも通りだった。勉強でもするのかと思いきやまた食べ物だ。
しかし食べ物の話をする時が一番嬉しそうな顔をしている。
「大丈夫ですよ!…そうだ!なんなら一緒に作って食べましょうよ!」
「え、」
目を丸くする僕に、名案と言わんばかりに、サシャは目を輝かせて言った。
珍しい、あんなに食い意地の張ったサシャが、一緒に食べようなどと言うなんて。
「食べる時は一人で食べるより、二人で食べた方が美味しいんですよ!」
「そうなの?何人で食べようが一緒だと思ってたけど。」
「そんな事ありませんよ!さぁ、一緒にやりましょう!」
もしや連帯責任にさせようとしてるのかと疑ったが、サシャの目があまりに透き通っていたものだから、断るに断れなかった。
…仕方ない。用はバレなきゃいい。
「…いいよ、作ろうか。仕方ないからもしバレても一緒に走ってあげるよ。」
「!嬉しいですけど、別に連帯責任とかそんな意味で誘ったわけじゃありませんよ!?」
「あはは、分かってるよ。」
僕が笑うと、サシャは目を丸くしていた。…そんなにおかしかったか?
「ヴィーネってちゃんと笑えるんですね…」
「なにそれ、当たり前じゃないか。」
「まぁそうなんですけど。ヴィーネ、仏頂面なんで割と誤解受けやすいんですよ」
それについては心当たりがあった。
たまに呼び出されては相手を誤解させていたらしい。それにしても仏頂面だなんて。
「仏頂面なんて失礼な。……あーもう、作るなら早く作ろうよ。」
「そうですね!丁度死角になる調理場があってですね_____」
あの日がきっかけで、サシャとは少しだけ仲良くなった。あの後、教官にはバレそうにはなったが、危機一髪難は逃れた。
だがあれからも変わらず、サシャは食べ物を盗んでは教官にしばかれている。
「……昔は友達とかいなかったからさ……嬉しいんだ。今が凄く楽しい」
「そうだね、僕も凄く楽しいよ。…むしろ辛いくらいに」
地上に出てから約1年。地上はこんなにも澄んでいたのかと感動した。そして、自分の汚さを軽蔑した。