『鬼人正邪になった者』のお話   作:たぬさわ

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『』は脳内会話。


鬼人正邪、目覚める

 ある日、自分は「鬼人正邪」になっていた。

 

 いや、自分でも意味の分からないことを言っている自覚はあるのだが、間違ったことは言っていないのだ。というのも、目が覚めたら知らない場所にいたので、水辺で自分の姿を確認したら鬼人正邪だったのである。ってか、よくこんな近くに都合よく水辺なんかあったなおい。

 

 

 

 ……というより、なんだこれ。よくある古代からのテンプレスタートとかいうあれかな?いや、そもそもここがどこでいつの時代なのかわからないけど。でも、この流れはきっとそうなのだろうと謎の確信を持つ。

 

 とは言っても、情報が足りない。今の自分に必要なのはそこである。

 さあ、どうやって情報を集めようか。

 

 

 

 それにしても、何故自分はこんなとんでもない現象に直面しても落ち着いているのだろうか?

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 そんなことを考えながら十分くらい水辺の近くで考え込んでいたところ、何だかとんでもないことが起こりました。急に、頭の中にもう一つの意識が芽生えたのです。

 それは自分のものではなく、「鬼人正邪」のものであった。……いや本当だって。

 

 眠っていた?のかはわからないけど、鬼人正邪本人の意識が目覚めたのだ。だけど身体の主導権は自分にある。何だこのオカルト現象。

 

 そして正邪が目覚めたと同時に、自分の頭の中に正邪の考えていることが流れ込んできた。恐らく、逆も然り。自分の考えも、正邪に流れ込んでいるのであろう。

 

 

 

『……あ、どうもこんにちは正邪さん』

『……いや、割と真面目に意味がわからないんだけど。お前誰だよ?私は知らないうちに、二重人格にでもなってしまったのか?』

 

 とりあえず頭の中で挨拶をしておいた。初対面?の相手には、大切なことだからね。

 しかし、二重人格か。なんかありそうな感じもしなくもないけど、それとは全く別物のような気もした。

 

 

 

 それとは別に、色々とわからないことも多すぎる。

 まず、自分自身が所持していた知識量というのがあまりにも欠如していたのだ。ある程度の原作知識と、あとはしょうもない微妙な知識。自分の名前?知らん。

 あと、原作って何だ。原作イコールで結びつくものが何かわかっていないのにどこから原作という単語が出てきた。

 

 だけど、その原作知識の中に正邪のことも含まれていたんだよなあ。だからこそ、自分の姿を見たときにすぐに正邪だということが分かったのだけれど。

 

 

 

 また、正邪から流れてきた知識というのも不思議なものであった。

 自分の知っている正邪というのは他者を利用し、幻想郷をひっくり返すほどの問題を起こしかけた純粋なる大悪党であった。

 

 しかし、この正邪は大よその性格等は同じものの、そんな大それた計画もしている様子もないし、どちらかと言えばとりあえず他者の嫌がることを好む、悪戯好きの子供みたいな性格だ。

 

 ちなみに、ここが幻想郷という土地ということがわかったのは、正邪の知識からわかったことである。いや、正邪が存在する時点でほぼ確定ではあったんだけどね。

 

 

 

『おい、誰が子供だ誰が』

 

 あ、聞こえてましたかごめんなさい。

 

 

 

『聞こえてるも何も、お互いの考えている事は筒抜けになっているんだろう?……はー、なんなんだよこれ』

 

 正邪の溜息が聞こえてきた気がした。そう、「私たち」は既に一心同体のようなものになっているのだ。

 

 

 

『でも、主導権は自分なのに正邪は怒らないんだね。自分が自分じゃなくなったら普通なら正常じゃいられないと思うけど』

『何故か、そこに関しては受け入れられてるんだよな……何故かは私にもわからない。私もある意味、正常じゃなくなっているのは確かだな』

 

 

 

 実は、自分だけではなく正邪の記憶も少しおかしくなっている部分があった。

 自分のようにあまりにも知識が欠如していたり名前がわからないといったような大事といったものではないのだが、ここ最近の記憶がないのだとか。

 

 何故今この水辺付近の場所にいるのか、今がいつなのかがわからないのだとか。

 

 

 

 ここが幻想郷という土地で、ここには正邪含め妖怪がわんさかいるという大まかな情報くらいならわかってきたのだが、それでもかなりの情報不足である。

 

 

 

『んー、結局動いて自分の目で情報を手に入れなきゃ駄目みたいだね』

『まあ、それは同感だけどさ……何だか軽く物事を考えてそうなお前に一つ言っておくぞ』

 

 そう言って、正邪は自分に伝える。

 

 

 

『知識を得たお前ならわかるだろうが、私、鬼人正邪は妖怪の中でも脆弱な存在だ。強い力を持つ妖怪とは訳が違う。油断をすれば、すぐに死んでしまうような存在なんだよ。肝に銘じておくんだな』

 

 

 

 その言葉は、これから生きていく自分に深く突き刺さったような気がした。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 何だか水辺を離れ、適当に歩いていたら人里らしきものが見えました。

 

 本当に偶然です。正邪が言うには、道中で他の面倒臭い妖怪に遭遇しなかったのは運が良かったとのこと。

 ……とは言っても、問題がある。確かに、人里では情報を集めることに関してはかなり適した場所と言えるだろう。だが、今の自分は正邪なのだ。

 

 一応、妖怪でも人里に入ることは可能らしい。勿論、門のところで正式に認められた妖怪に限るのであるが。

 一方正邪さん。絶対こんな性格だから人里なんて来たことがないだろうと思っていたのだが、意外なことに何度か訪れていたらしい。……独自の裏ルートで侵入して。すげえ。

 

 

 

『でも、最近の記憶もないしこの前いつ侵入したのかも覚えてないしなあ。裏ルートの場所は覚えてるけどさ』

『正邪は何をしに人里に来ていたの?』

『そりゃ、嫌がらせさ。嫌そうにこっちを見てくる人間の視線は最高だからな』

『あー……なるほどね』

『……呆れたように納得されても困るんだが。それに、嫌がらせって結構重要なんだぞ?勿論楽しいからやっているって理由もあるが、生きるために必要でもあるわけだ』

『ん?それって……食事みたいなもの?』

『ま、そういうことだ。私の知識が流れ込んでいる分、なんとなくわかってきたようだな』

 

 

 

 人里に侵入するといった行動は、正邪にとっては生きるための行動であったらしい。

 人間に食事が必要なように、妖怪にも食事に代わる何らかのものが必要となってくる。人間そのものを捕食する妖怪もいるが、正邪にとっての食事の代わりになるものは人間への嫌がらせとなるわけだ。

 

 人間は人里に集まるが、逆に言えば人里以外で人間を見かけるといったことはかなり稀なケースとなる。

 

 人間に嫌がらせをすることを怠れば妖怪としての力が失われ、最悪外部からの攻撃がなかったとしても消滅してしまうケースが起こりかねないとか。大変すぎる問題だ。

 一応、一人の人間に嫌がらせを達成すれば強い力を得る云々は別として、生きるだけなら十年ちょっとは生きれるらしい。地味に燃費いい身体だなおい。

 

 

 

『確かこの辺に……あった、あそこだ。お、まだ侵入できそうじゃん、ラッキー』

 

 正邪の記憶を頼りに、自分は裏ルートがあるらしい場所へと足を向ける。しかし、人里って思っていたよりも大きいんだなあ。

 たどり着いた先は、少しぼろぼろになっている板。あ、これボロすぎて取り外しできるレベルじゃん。侵入って、そういうことね。

 

 

 

『しかし人間どもも馬鹿な奴が多いもんだよな。表の門の警備も勿論大事だろうが、こんなところから妖怪に侵入されて被害が出ても知らないぞって話だ』

『現に今侵入中だもんね』

『いくらルールがあるとはいえ、それすら守ろうとしない馬鹿妖怪も多いだろうしな。そんな奴にたまたまこの場所が見つかったら侵入されて殺されて終わりだろうな』

『すごい間抜けな死に方だね、かわいそう』

 

 まあ今もこんな侵入ができたってことは、特に人里内で被害が起きたってこともないのだろう。

 

『そういえば正邪は、人を殺さないの?』

『殺す必要もないしな。殺すことでメリットがあるわけでもないし、逆に目をつけられて面倒なことになる可能性だってある。ま、その場ではスッキリするかもしれないけどな』

『人里外でも?』

『……お前も馬鹿か。仮にその親族あたりが強者に近頃人里から少し離れたところで妖怪が暴れてるって報告したらどうする?』

『あ、なるほど。人里外でも、やりすぎたら妖怪退治屋あたりが出向く可能性もあるのか』

『そういうことだ。何をやるにしても、ある程度の線引きは必要ってことだ。弱者は特にな』

 

 

 

 脳内会話を済ませながら、自分は思ったことがあった。

 この鬼人正邪という妖怪。かなり頭が切れる。知識が豊富とか、そういう類の頭の良さではなく、先を見据える力というのだろうか。

 

 正邪は自分のことを弱者と呼ぶが、それがどのくらいの物なのかはまだわからない部分がある。

 仮に妖怪の中でかなりの最下層グループに属してなお、こうして生きているのならばその理由は頭の良さがあったからなのだろう。

 

 

 

 ……っと、色々考えているうちに人里の大きな通りについていたようだ。太陽が出ていることから恐らく朝か昼のどちらかなのだろう、その影響もあってかかなりの人間が人里には存在し、賑わっている。

 人里の人間が鬼人正邪という妖怪を見て怯えたりしないのは、人里に入ってくる妖怪イコール安全というものがあるからだと推測する。じゃないと、一応小さいながら角も生えている自分が、堂々とこんなところ歩けないよね。

 

 

 

 さて、自分はこれからどうやって行動しようか。何をどのように、誰に聞けばいいのだろうか。

 欲しい情報はありすぎるし、正直なところ妖怪の自分が、人間に今はいつだよ?って聞くのも意味が分からなさすぎる。

 

 あと、いくら無害と認知されていようとも、人間よりは大幅に力を持つ妖怪が人間に声をかけたらびびったりしないだろうか?

 

 ……意外と慣れているという線も否めないが。

 

 

 

 一応、自分の持つ原作知識というよくわからない数少ない知識の中に、人里の守護者と呼ばれる者の知識もあった。力を持ち、知識も豊富で、妖怪の自分が聞いてもたじろぐこともなく、まさに聞くには最適と呼べる相手。

 だが問題もあり、もし自分が侵入してきた妖怪だとばれた場合、消される可能性もある。いやマジで。

 

 

 

『正邪がもし、人里の守護者と戦ったら勝てる?』

『相手の実力が未知だからわからん。だけど、守護者を任されてるほどの人物なら、私が勝つ可能性は無いと考えていいぞ』

『……ずいぶんと自信満々に言うんだね』

『考えられる要素として、まず純粋な実力差。それと、仮に戦う場面になった時のことを考えると、一応はこっちから情報を聞きに行くという前提からの流れになるから、弱者が強者をひっくり返す常套手段の一つである奇襲ができないと考えていい。あと、お前は私百%使えない』

 

 単に勝てない、というだけではなく環境、状況等のことも正邪は考えていたようだ。

 確かに、戦いに行くわけでもないのに奇襲も糞もないよなあ。あと正邪の言う通り、自分はまだ正邪の身体に慣れていない。能力の使い方もまだよくわかんないし。

 

 

 

 ……以下の要素等から、人里の守護者を訪ねるというのは保留。やっぱり、そこらにいる人間に訪ねるのが一番なのかも。

 

 

 

「……おい、知ってるか?最近よく話題になっているあれ」

 

 どうしようか、と考えていたところ何やら人間が何人か集まって噂話をしていた。

 最近、と言うあたりいい情報が手に入るかもしれないと思った自分は、遠くから耳を傾けてみる。妖怪なだけあって、たぶん人間よりかは多少は耳はいい。

 

 

 

「あー、あれか。新聞にも書いてあったやつね。何だっけ、スペルカードルールだっけ?」

「そうそう、この間のやばい異変あったじゃん。吸血鬼とその他の妖怪が暴れるってやつ。ま、新聞に書いてあった知識しかないけどさ」

「その異変が原因でそのルールができたんだっけか」

「詳しくは知らねー、けどそれに近いものはあるんじゃないか。しかしなあ……俺らには全く関係ないとも言える」

「そうだなあ……あれかな、妖怪がおとなしくなって、山菜とか採りやすくなれば人里の人間にも益があるけど」

「そんなうまくはいかねーって……このルールができたからって、そこまで期待はしないほうがいいな」

 

 

 

 はっきりと聞こえました。

 ……なるほど。スペルカードができたばかりの時代なのか、今は。最初に古代がどうとか思ってたけど、全く違ったねうん。

 吸血鬼異変というのはあまり覚えていないけど、その後どうなったのかは何となくだけどわかる。

 

 

 

『スペルカードルール、ってのは何だ。私は知らなかったが、お前はどうやら知っているらしいな』

『んー、自分も詳しくは知らないよ。ただ、これから主となる戦闘手段ってことはわかる』

『戦闘手段?』

『正邪は戦闘の事を生きるか死ぬかでしか考えていないと思うけど、そうじゃなくなると言えばいいのかな、簡単に言えば』

 

 ほう、と正邪が頭の中でつぶやく。

 確かスペルカードルールというのは人間が妖怪と互角に戦う手段という要素もあったと思うが、これは弱い妖怪にも当てはまるものなのではないかと自分は思う。絶対勝てなさそうな相手にも、工夫次第ではチャンスが生まれるのではないか、と。

 

 

 

『まだ信用ならんな、そのルール』

『んー……どのあたり?』

『まず、ルールが浸透してないから必ずその条件で相手と戦いになるとは限らない。浸透させるために新聞を配布したりして何とかしてるんだろうが……まだ印象不足だな』

『結局は今までと変わらない可能性が高いと?』

『何かインパクトの大きい事件でも起こり、それをスペルカードルールで解決ともなれば話は別かもしれないがな。弱者が強者を倒す手段としては悪くない。だが、強者がそのルールを呑んだとしても、それはただの遊び感覚ではないかと思うが……』

 

 

 

 正邪の先を見る力というのは鋭いと感じてはいたが、まさかここまでとは。

 ルールの浸透の話もそうだし、遊びという部分にもびっくりした。そう、スペルカードルールというのは遊び感覚に近かったはず。

 

 

 

『お前は……そうか、なるほど。ルールが浸透する出来事を知っているんだな』

 

 そう、私はこれから起こるであろう出来事が何となくわかる。

 今はまだ噂程度にしかなっていないスペルカードルールではあるが、近いうちにそれが浸透するきっかけとなる事件が起こるはずだ。詳しい日程もわからないし、本当に起こるかどうかまではわからないが。

 

 それでも、ある程度予測をつけて動けるようになるのは大きいのではないかと思う。

 

 

 

 だけど何より、将来のことがある程度わかったところで今をどうしようか、という問題に結局はなってしまう。

 どこに住むかとか、色々と問題は山積みだ。人里に住む?無理だろう、私は妖怪である。それに一文無しだ。

 

 結局、どこか住むところを確保するしかないのだが……ある程度用が済んだら、人里をこっそり抜け出てサバイバルかな。辛い。

 

 

 

 ……というか、めまいがしてきた。なんでだろ、今日歩きすぎたのか、それともこの身体に慣れていないせいなのか……やばい、本気で苦しくなってきた。

 立っている事すら辛くなる。自分は、その辺の地面に膝をついてしまった。というか、倒れた。

 

 

 

 あれ、これひょっとしてやばい?地面、冷たいなあ……なんか声が聞こえるけど、まあいいか……

 

 

 

 自分は、ゆっくりと目を閉じた。




1話目からぶっ倒れる主人公。
作者の中では正邪というキャラはとても頭のいいキャラだと思ってます。
あと幻想郷ってよく人間にとっては地獄みたいなものと言われてるけど、力のない妖怪のほうがよっぽど生きるの辛いと思う。人里みたいに住む場所もないしね。
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