目を覚ましたら、そこはどこかの家らしきところであった。自分は、丁寧にも布団で寝かされていた。
『やっと起きたか』
声が聞こえてきた。それはこの家の住人ではなく、自分――――鬼人正邪のものである。
『自分は……意識を失っていたんだね。正邪は、意識があったの?』
『いや、どうやら私の意識もなかった。お前が意識を失うと同時に、私の意識も途切れるみたいだな。逆に、お前が目覚めるとこっちも目覚めるらしいが』
なるほど、意識のオンオフはどうやら一緒らしい。ということは、ここに至るまでの現状は正邪も知らないということか。
『正直言って、倒れたのにも関わらず生きているというのはかなり運がいい。人里じゃなければ、こうはなっていなかっただろう』
『助けられることもなければ、殺される可能性もあったってわけだね』
『ああ、善意で助けられたかもしれないという現状には苛々するが、この状況を最大限利用することだけを考えたほうがいいな』
言い方はともかく、正邪の言うことはもっともである。
天邪鬼という性質上、こうして善意で何かをされることはかなり嫌な気分になっているのだろう。自分も天邪鬼であり正邪であるせいか、いい気分とは言えない。
だがそれでも、生きているということはかなりの幸運だ。
仮に、自分が人里に住んでいて体調不良で倒れたのなら解放された人物にお礼を言い、終わる話であろう。
だけど、自分は妖怪でありこの後どうなるかもわからない。目が覚めたのはいいが、この後どうなるのだろうか。お礼を言って終わる話でもないだろう。
というより、妖怪の自分を助ける物好きなどよくいたものだなあ。
『……何故、倒れたかお前にはわかるか?』
突然、正邪が真剣な口調で話しかけてくる。
『いや、全然。突然めまいがして、気が付いたら倒れてて……』
『……そうか。まあ、まだわからなくてもしょうがないか』
正邪は何を言いたいのだろうか。そう考えていた自分に、若干焦りを含んだ声で再び話しかけてきた。
『これからどうするか、についてだが最優先でやらなければならないことがある。それは住む場所の確保でもなく、情報集めでもない』
『え、そんなに優先すべきことなんかあるの?』
『ああ、ある。正直なところ、今の私は追い込まれているといってもいい』
『……?』
『……察せないか。いいか、それはな――――』
その時、扉がガラッ、と開く音がした。
目に映るのは、自分の知識の中にもある、人里では有名な人物であった。
「目が覚めたか。こちらに来い。色々と聞きたいことがある」
人里の守護者――――上白沢慧音だ。
―――
なるほど、自分を介抱してくれたのは慧音だったのか。
まあ、人里に住む一般の人間が妖怪を介抱するというのもおかしな話なので、妥当というば妥当なのかもしれない。
……しかし、少しだけ違和感を覚えた。
普通に考えて、いくらなんでも妖怪の自分を助けようとするだろうか。しかも、自分は人里に侵入した身である。
助ける前に、門番に確認くらいはするはずだ。正規なルートで人里に入った妖怪ならば助けるかもしれないが、裏から不法侵入した自分を助ける理由などあるのだろうか?
自分が相手の立場なら、不法侵入した妖怪は危険と見なし、人里に害が及ばないよう、それなりの対処をしてもおかしくはないはずだ。
「さて……何から聞こうか」
「その前に、一ついい?」
「……何だ?」
「何故、私を助けたの?」
これだけは、聞いておこうと思った。
「貴方がどんな人間かは知らないけど、妖怪である私を助ける理由などないはず。もう知っているだろうけど、私は不法侵入した身。普通なら、排除しない?」
本当は知っているけど、慧音のことは知らないふりをしつつ話しかける。
「そうだな、私は最初お前を排除しようともした」
「だろうね、それだけに今のこの状況は私からすれば幸運であるとともに、意味が分からない」
「その……なんだ。ある少年がな、言ったんだよ。倒れてるのに、人も妖怪も関係あるかってな」
「なるほどね……」
なるほど、わかった気がした。私が助けられたのは、それが理由ってことか。
『お前は馬鹿か』
『え?』
『それだけが理由なわけがないだろう。まあ、理由としては大体予想がつく』
正邪曰く、それが主な理由でもないらしい。どういうことだろうか?
「なんだ、自分の置かれている状況が見えているから最初は頭の回る妖怪だと思っていたが……意外とそうでもないのか?」
「え、どういうこと?」
「もちろん、その少年も助けたきっかけにはなった。だが、それだけが理由ではないぞ」
自分には全く想像がつかない。ただの善意ではなかったということか?
「言ってなかったが、私は人里の守護者だ。それでもなお妖怪を助けたという意味がわかるか?人里にとって害になり得る存在になるとも思えなかったというわけだ、お前は」
その言葉の言う意味が最初はわからなかった。
が、次の正邪の言葉で理解することとなる。
『要するに、なめられてるってことだな。力がなさすぎて、人間に影響もないと判断したんだろう』
『……そんなに?』
『さっきも言いかけたけど、私の身体は……もう妖力もわずかだ。倒れたのもその影響だろう。このまま何もしないと近いうちに、消滅するだろうな』
『……え?』
『助けたのも、善意というよりは憐れみに近いかもな。ま、変に力がなくてよかったと捉えるべきだな。力がないからこそこうして排除されずに済んだわけだし』
まさか力がないことをうれしく思う日が来るなんてなー、と正邪は一言付け加える。
よくそこまで物事をプラスに考えれるな、と関心すらしてしまう。ここまで追い込まれている状況なのにも関わらずだ。
「さて、お前……いや、名前を聞いてなかったな」
「……鬼人正邪」
「正邪か、私も名乗っていなかったな。上白沢慧音だ」
うん、知っています。
「ずいぶんと遅い自己紹介になってしまったな……っと、そんなことはどうでもいいか。正邪、お前はこれからどうするつもりだ?」
「……今の私に選択肢なんてあるの?」
「そうだな……人間ならば空き家を提供することもできたが、妖怪となると話が別になるな。もし住みたいならば私や私の他の人間の信頼が必要となるだろう。そうでなければ、おとなしく人里から出るしかなくなるだろうな」
まあ、侵入者に人里に住む可能性を与えるだけでも、かなり寛大な措置なのだろう。
さて、これからどうしようか。
『妖力を確保した後に、人里から逃げるのがいいと思うけどな』
正邪は人里から逃げることを提案してくる。人間への嫌がらせを済ませてから、という条件付きで。
それはもちろん選択肢の一つとしてありだろう。嫌がらせ、といって別に思いついているわけではないがやることに対して抵抗はない。命かかってるし。
―――
とは言っても、いったい何をすればいいのだろうか。
慧音の家を出た後、何をしようかと考えつつ人里を彷徨ってた。助けてくれた少年?知らん、割とどうでもいい。
何らかの信頼を得れば人里に住むことも可能と慧音は言っていたが、そもそも人里に住むつもりもない。かと言って、何もせずに人里を出るつもりもないが。
自分が倒れたりと、不幸な出来事こそ起こったものの知りたい情報はある程度手に入った。あとは、今の一番の問題である妖力の確保をどうすべきかである。
嫌がらせ。
やり方は色々あるだろうが、いったい何をすればいいのだろうか。
自分は「何でもひっくり返す程度の能力」を所持している。一見すごい能力に見えるが、妖力が少ない自分ではできることも限られてしまうだろう。
例えるならば、魔法使いが物凄い呪文を覚えていたとしても、魔力が足りなくて使えないようなものだ。
しかし、腐っても自分は能力持ち。何もできないわけではない。
しかも、嫌がらせをする上でも中々に適した能力と言えるのではないか。
『……今なら能力を使ってどんなことができるだろう?』
『大したことはできないだろうな。精々視界をひっくり返して転ばせるとか……そんなもんじゃないか。それも数秒程度な』
確かに、視界がひっくり返ったらバランス感覚がおかしくなって転ぶだろう。
転ばされる、それは立派な嫌がらせだ。バナナの皮で滑って転ぶくらいしょうもないが、十分な嫌がらせだ。
……物凄く小物っぽい気もするが、気にしてはいけない、うん。
『かと言って、人間一人一人に能力をかけるのは厳しいだろうな。ああ見えてわずかではあるが能力への抵抗力があって無駄に妖力を消費しかねないし、変に妖怪退治屋みたいなのに能力をかけてしまったら、こっちの身が危なくなってくる』
『効率も悪ければ、変なリスクもあるわけか……』
相手の気を感じて、実力者と判断するだなんて芸当は、自分にはできない。
ある程度圧倒的な強さを持つ相手ならばわかるかもしれないが、ちょっと強いくらいの相手は判断ができないだろう。故に、間違って多少の実力者に能力をかけてちょっかいをかけようものなら、こっちがやられかねない。
それ以外にも、人間に対して能力を使ってたら、他の実力者がそれを察知して飛んでくるかもしれない。
だから、もし人間に能力を使って嫌がらせをするにしても、数人が限度だろう。すぐに逃げなくてはならないのだから。
だが、もっといい方法はないのだろうか。
仮にすぐに逃げれたとしても十分な妖力の確保にはならないだろう。生きるという意味では、その場しのぎには勿論なるだろうが。
せっかく人里にいるのだ。どうせならば、大量の妖力を確保したいところである。不法侵入がばれた以上、ここに潜り込むのも難しくなっただろうし。
その時、足にコツっと一つの石が当たる。まあ石なんて、意識していなければ蹴ってしまうことなどよくあることだ。
……あれ?
『ねえ正邪、石にも能力ってかけれるかな?』
『石に?かけれないこともない……というか、抵抗力がない分、妖力の消費もほとんどなくて済む。だけど、石に能力をかけて何になる?』
どうやら、能力は通るらしい。
というか、能力が人間よりも通りやすいらしい。これは好都合。
早速、自分は一つの小さな石に対して能力を使ってみた。と言っても、石をひっくり返すというよくわからないようなことではなく、能力の付与といったイメージか。
ちなみに、妖力弾を出すなどの力の使い方はまだ慣れていないが、能力に関しては何故か自然とイメージができた。故に、こうして能力を使うことが出来ているわけである。
『……その石に、能力なんて使ってどうするつもりだ?』
『まあ、うまくいくかはわからないけど。ちょっと見てて』
そういって能力をかけた石を、人通りの多いところへ適当に転がす。
勿論、歩いていたら石なんて気にしないで歩いている人がほとんどだ。一人の男性が、その石を踏む。
こけた。
うまくいくかはわからなかったけど、成功した。何となくだけど、少しだけ妖力が増えたような気がしなくもない。
『……なるほどな、そういうことか』
正邪はそれを見て納得する。説明をせずともあれだけで理解するか、さすがの頭の回転の速さである。
今自分がしたことは、石に能力を付与した。その意味とは、触れたものの視界をひっくり返すというもの。
簡単に言えば、簡易的マジックアイテムみたいなものだ。石には妖力をほとんど使っていないので、一人が石に触れた時点で能力は途切れる。
その能力自体は石にしかかけていないので、妖力の消費もほとんどなくて済む。それは燃費がいいという意味でも勿論いいことなのだが、何よりも気配を察知されにくいというところに大きな意味を持つ。
つまり、誰が仕掛けたのかわからない絶対に転ぶバナナの皮みたいなもの(石)を、そこらじゅうにばら撒くことが出来る。
これはすごいアイデアを思いついてしまった。これなら、かなりの妖力を集めることが期待できる。
『でも、お前のやっている事って物凄く小物なんだよなあ……見てて悲しくなってきた』
『正邪、うるさい。素晴らしい作戦と言って』
自分だって小物だってことは自覚している。でも、生きるためにはしょうがないじゃないか。
そうと決まれば、人里に落ちてる石めぐりでもしよう。さあ人間ども、自分のために石踏んで、たくさん転んでくれることを期待しているよ。
―――
もう、すでに夜を迎えている。
自分は今、最初に比べて物凄く身体が軽くなっている気がした。
身体の内部に何か湧き出てくるような感覚がある。これが、妖力なのだろう。
ちなみに、今はどこかわからない人里から離れた森の中だ。
人里は夕方くらいに、表の門から堂々と出た。事情を知っているであろう門番が、攻撃こそしてこないものの、さっさと人里から出ていけみたいな感じで促してきた。イラッときたので、直接能力を使って視界をひっくり返して転ばして走って逃げた。
さて、今日はこの森で野宿だろうか。今は木の上に登って、周りに警戒しつつ身体を休めている。
夜は妖怪が活発になる時間だ。こんな場所で寝るのは、自殺行為であろう。まあ、妖怪の身体って寝なくても全然大丈夫だけどね。便利。
木の下では何度か別の妖怪が小競り合いをしているのを見たが、そこまで激しい感じではなかった。恐らく、強い妖怪はこの辺りには生息していないのだろう。
とは言っても、自分も同じように弱小妖怪なので全く油断はできないのだが。
妖力の問題は、苦労するかと思ったが意外なことに何とかなった。石ころ凄い。
いくら寝なくてもいい身体とはいえ、やっぱりぐっすりと眠りたい。願わくば、次は身体を十分に休めることのできる場所が欲しいものだ。
石、有能。
正邪の能力って加減が難しい。めちゃくちゃチートだけど、そこまで使えない。イオナズン覚えてるベビーサタンみたいな印象を少しだけ持っています。
実は三回くらい書き直してて、最初は人里に住んでオリキャラと絡ませる構想もあったけど、予想以上のぐだぐだになり没に。オリキャラを自然と絡ませられる人ってすごい。
あと、今回の展開はマリオカートやってて思いついたり、物凄く適当だったりする。