最悪だ。
今、目の前にいる人物は自分の知識の中にもある人物。しかも、この異変の首謀者であるのだ。
吸血鬼、レミリア・スカーレット。彼女は自分の知り得る中でも圧倒的強者に位置する大妖怪。
もし仮にその知識がなかったとしても、同じ感想を持っていたに違いない。こいつはヤバい、と。
「……無視だなんて、ひどいわね?」
「……悪いね、でもそれだけ圧倒的なものを見せられると、黙ってしまうもんだよ」
レミリアはふふっ、と不敵な笑みをこぼした後に、その圧力をひっこめた。
……恐らく、こちらの反応を見たかったのだろう。その余裕綽々な笑みが苛々する。
「こちらこそ、悪かったわね?それにしても、びびって委縮して何も出来なくなると思っていたのだけれど、意外とまだ余裕があるのかしら?」
「そう見えるならば、やせ我慢だよ。こっちは圧倒的強者を前に心臓バクバク鳴ってるんだ。今でも警戒心マックスで、余裕なんてありゃしない」
「強者だなんて褒めてくれるのは嬉しいのだけれど、そんな相手を前に警戒心マックスだなんて口に出すのはマイナスポイントなんじゃないかしら?」
「言わなくたってどうせわかるでしょ、だったら言おうが言わなかろうが変わらない」
「……ふふっ、貴方面白いわね。気に入ったわ」
こんな相手に気に入られようが、現状何も嬉しさを感じない。
とにかく今は何事もなく無事に済めば、それだけしか考えられない。
「貴方、名前は?」
「……私の名前を聞いて何の意味があるかわからないけど。鬼人正邪だよ、この館の主さん」
「あら、どうしてそう思ったのかしら?」
「……勘だよ、ただの」
実は知っていた、ということは伏せておく。
「そう、貴方の言う通り私はこの館の主、レミリア・スカーレット。そして、正邪と言ったかしら?」
先ほどまで影を潜めていた圧力が、再び自分を襲ってくる。
「――――貴方は、何故ここに来たのかしら?」
「いや、こっちが聞きたいくらい」
「……え?」
先ほどまでの圧力が、再び静まったような気がした。
「別に来たくてここに来たわけじゃないし、特に目的もないし、とにかく逃げて部屋に隠れようとしただけ」
「え、じゃあ……私の部屋だと知っててここに来たわけじゃないの?」
「たまたま。出来れば誰もいない部屋で一人で籠っていたかったんだけど」
「……正邪、たまたまとはいえこうして私に遭遇した。この異変を起こしたのは私。そんな私に何か言いたいことはあるかしら?」
「あ、えっと……帰っていいですか?あるいはベッドで寝たいので、貸していただければなーと」
「……ふっ」
レミリアが笑い声を漏らす。別に自分は面白いことを言ったつもりはないのだが。本当にただ帰りたいだけ。
「……あっはっは!何それ、貴方本当に面白いわね!!」
レミリアが大爆笑している。何というか、最初は物凄く威厳を感じていたのだが、欠片も感じなくなっていしまった。
見た目のせいもあってか、子供が笑っているだけにしか見えない。実年齢は、確かそこそこ生きていたような気がするけど。
しかし、少し妙でもある。
確か、このレミリアの能力は運命に関する能力だったはず。だったら、自身に来る運命もわかっていたのならば、自分が来ることもわかっていたのではないか、とも思ってしまう。
最初は何故ここにきた、という台詞はわかった上で聞いてきているのかとも思っていたが、この様子を見る限りそんなこともないのかもしれない。
目の前の彼女は、運命に関してどこまで把握しているのか。
それとも、自分という存在は本来存在することのなかったイレギュラーだったのか?
「……私を帰してくれると、非常に嬉しいんだけど」
「駄目よ、貴方のような面白い存在を帰すわけにはいかないわ」
「……でもさ、私は争いに来たわけでもないし、レミリアも弱い私と戦っても面白くないでしょ?やっぱりほら、私ここにいる意味ないんじゃ」
「だったら、いくつか話をしましょうか」
話とは何だ。別に特にここに来た理由も無い自分に、話す内容があるようには思えないが。
「貴方はこの後、どうなると思うかしら?」
「……この後?」
「言い方が少し悪かったわね、この後この館では何が起こると思うかしら?」
「誰かが異変解決にくるんじゃない?これだけの異変を起こしているわけだし」
「……まあ、そうでしょうね。それは間違っていない、じゃあその異変解決に来る者はここにたどり着けると思うかしら?」
いったいレミリアは何を聞きたいのだろうか。真意がわからない。
「……来るんじゃない?博麗の巫女あたりが。勿論ここにも妖精メイドの大群やその他強者はいるだろうけど、たどり着きそうな気がする」
「へえ、言うわね」
「さっき自分が戦った奴がいたんだけど、そいつじゃどう逆立ちしてもほぼ勝てないんだってさ。そいつもかなり強かったんだけどね。……というか、こんな事聞いて何が知りたいのさ?」
「別に?ただのお喋りよ、特に深い真意も無ければ探ってるわけでもない。というより、私もたどり着いてくると思うわよ」
「自分の味方が博麗の巫女には勝てないと?」
「そうなのかもしれないわね。博麗の巫女がここに来るという運命は『見えた』」
「……運命、ね」
これはレミリアがレミリア自身の運命を見たということになるのだろうか。
「でも、貴方が来るという運命は見えなかった。なのに、ここに来た」
「さっきから運命運命言ってるけど、それは本当に見えているの?」
「察しがいいわね、これは私の能力。普段は面白くないから出来るだけ見ないようにはしているのだけれど」
「見えなかったということは、能力は百%ではないと?」
「そんなことはないわ、貴方が初でこれでも結構困惑しているのよ。まあ、これもこれで面白いから別にいいのだけれどね」
やはり、自分という存在はかなりのイレギュラーらしい。それも百%の的中率だったらしいレミリアの能力ですらわからなかったほどには。
本来、ここに鬼人正邪という存在はいなかった、だけど自分はここにいる。それが運命を捻じ曲げているのだろうか?
――――突如、収まっていたはずの圧力が自分に向かってくる。
「運命で見えなかった、それも面白いけど今は別にどうでもいい。そんなことより正邪、貴方の存在が気になるのよ」
「……どこにでもいるような有象無象と一緒だよ。特に大したことはない」
何だか、とてつもなく嫌な予感がしている。
この圧力、今までと違うような気がするのだ。相手を純粋に脅すようなものとは違い、何か闘争心のようなものを感じてしまう。
「貴方は自分を過小評価しすぎなのよ。何なら、戦ったことのない私が評価をつけてあげましょうか?」
「……言っている意味がわからないけど」
「まず、並の妖怪なら私の威圧で気を失っている。それを耐えているだけでも一定のライン以上の実力はあるってこと。他に言えばそうね、たまたまとはいえここにたどり着くことが出来たということ」
「……別に、ただ逃げてきただけだし」
「逃げることも立派な実力のうちよ?この紅魔館の守備を潜り抜けてきたのだ、誇りに思え。――――そして、さらに言えば」
「ちょっ、何掴んで――――」
突然、自分の服を掴んだかと思えば窓へと放り投げられた。当然、吸血鬼の力で投げた窓ガラスは、壮大な音とともに粉々に割れる。自分は、その勢いのまま外へと投げ出された。
「ッ……!」
滅茶苦茶身体が痛い。だけどそれ以上に、集中を切らすわけにはいかない。
痛みに耐えつつ、視線だけはレミリアの姿を絶対に切らさないよう意識する。
「私の暇を潰すくらいの実力はあるんじゃないかしら?ということで、付き合ってくれると嬉しいんだけど」
「傲慢な吸血鬼だなあ……!大体なんで、吸血鬼の部屋に窓ガラスが存在するんだ、もうお前なんかどっかで日光に焼かれてろ……!」
「カーテンの力って偉大なものよ?あと、他の吸血鬼ならともかく、ガラス越しに多少漏れてきた日光で死ぬほど私は軟弱じゃない」
レミリアは突如、カードを取り出した。スぺカで勝負をしようとでもいうのか。
勝負の土俵がそれならば、まだ不幸中の幸いと言えるであろうか。
「本来ならば枚数など細かいルールを決めるのだろうけど――――そんなものは必要ないわね、カードは無制限、どちらかが気を失うまででどうかしら?不慮の事故で死んだならば、その時はその時で」
前言撤回。ふざけんな、死ね!
―――
レミリアの超密度の弾幕を自分は気合で避けていく。
反撃も出来る範囲ではやろうとするが、それは微々たるものでしかない。避けることに集中しなければ、すぐにでも被弾してしまいそうなのだ。というか、通常弾幕でこれか。
というか、そもそもこの勝負、勝負にすらなっていない。
まず仮にこっちの弾幕を当てることが出来たとしても、吸血鬼であるレミリアを気絶させることなんて出来る気がしないし、本当に避け続けることしか出来ないのではないか。
こんなもの、勝負ではない、一方的な虐殺である。
自分が反撃する手段があるとするならば、それは自分の力ではなく、後に来るであろう博麗の巫女や魔理沙の力を借りることしか出来ない。
……いや、それも微妙だ。魔理沙は助けてくれるかもしれないが、博麗の巫女がわざわざ自分のことを助ける可能性も極めて低いだろう。助ける理由がそもそもない。
さらに絶望的な要素を述べるとするならば、その助けてくれるかもわからない者が来るまで、この弾幕を避け続けることが出来るとは到底思えないのだ。
もう、レミリアが勝負に飽きて弾幕を放つのをやめることくらいしか希望はないのではないか。
「本当によく避けるわね!私の見る目は間違ってなかった!」
やっべ、レミリアさん凄く楽しそう。これ飽きないやつだよくそったれ!
あとその目、たぶん腐ってるから。間違いしかないから。
冥符「紅色の冥界」
レミリアが一つのスペルカードを手に掲げ、宣言した。
今までよりもきつい紅い弾幕が自分に襲い掛かってくる。
「ッ!くそっ……!」
気合で避けていたが、無数にあった弾幕のうちの一つが、左腕に直撃してしまった。
予想はしていたが、弾幕の質が相当重い。威力が高く、左腕はしばらく使い物にならないと考えてもいいだろう。
それでも気持ちだけはしっかりと張る。それを切らしてしまったら、完全に終わりだ。
そしてさっき確信した。一撃腕に当たっただけでこれなのだ。大量に全身に被弾してしまったら、気絶じゃすまない。
欺符「逆針撃」
自分は少しやけくそ気味に反撃に出る。
魔理沙戦でも使用したこのスぺカ。初見では対応しにくい後ろからの弾幕。当てることが出来たところでどうなるのかはわからないが、とにかく反撃に出る。
だが、それをレミリアは軽々と避けてしまう。魔理沙のように序盤避けるのに手こずる様子もなく、淡々と避けている。
「アイデアは悪くないけど、スピードが遅いわね。後ろから来たと気づいてからでも軽々と避けれるわよ!」
「この……身体能力お化けめ、どうすれば、いい……!」
どうにかして勝つまではいかなくても、何かしらの現状打破をしたいが、アイデアが浮かばない。
弾幕を避け続けてもジリ貧、打ち返しても軽々と避けられる。
呪詛「ブラド・ツェペシュの呪い」
考えている間に、レミリアは二枚目のスぺカを使用する。
こちらへ向かってくるナイフとともに、紅い弾幕が密集する。
「うあっ……!」
紅い弾幕は辛うじて避けたが、ナイフが避けきれず足に刺さる。一度喰らってしまって動きが鈍ってしまったのか、そのまま何発も弾幕を喰らってしまう。
痛い、痛い、痛い。血は流れるし、弾幕が当たったところは痛みが出続ける。自分の気持ちとは裏腹に、身体が言うことを聞かない。
ついに、飛ぶことすら維持できなくなる。くそ、このまま目を閉じたらいけないことはわかっているのに。
逆らうことが、自分にはできなかった。
―――
「……ちょっと、やりすぎちゃったかしらね」
レミリアは、小さく呟いた。
攻撃力という面では難があったが、自分のそれなりに本気の弾幕をあそこまで避け続けることが出来るのは中々のやり手であると、レミリアは正邪のことを評価していた。だからこそ、ムキになってしまった部分もあるのだが。
別にレミリアは正邪のことを殺すつもりもなければ、痛めつけるつもりもなかった。だが、結果としてこれである。
「……ひょっとしたら、押されていたのは私のほうかもしれないわね」
常に劣勢なのにもかかわらず、正邪の目は常にレミリアを捉えていた。
どうにかする、という正邪の気持ちがレミリアにもひしひしと伝わっていた。
確かに実力ではレミリアのほうが圧倒的に上である。しかし、それでもレミリアは正邪のことを弱者とは思えなかった。
「ま、何にせよしっかりと手当てしてあげないとね。……死んでないわよね?」
とりあえず、医務室に運び誰かに治療させる。そして起きた際にはおいしい料理でも食べさせてやろう、そうレミリアは考えていた。
それが自身を楽しませた礼でもあり、思っていた以上に傷つけてしまった詫びでもあると。
飛んでいたレミリアはぐったりと地べたに横たわっている正邪の元へと舞い降り、そして身体を担ごうとして――――
突然、弾幕がレミリアの頬を掠めた。
「ッ、まだ……!」
それは正邪のほうから飛んできたものであった。気を失ったふりからの不意打ちとは姑息な真似をする、とレミリアは一瞬思ったが、それよりも掠めただけとはいえ自分に一撃入れたことに感心していた。
それと同時に、無理をするなとも思った。そのまま気を失ったふりをしていれば、あとは最初の望み通り、ベッドで寝るだけだったのに。
――――レミリアは何か、違和感を覚えた。
さっきまでの正邪とはほぼ同じだが、何かが違う。そして妖力が少し、膨れ上がっている。
「――――貴方は、誰かしら?」
レミリアは横たわっている正邪に、そう尋ねた。
正邪、あっさりやられる。
からの何か。
うちの書くおぜうはそこまで傲慢でもない。窓ガラスに正邪ぶん投げてたけどそこまで傲慢じゃない……はず。
紅魔キャラは人気あるし、その分二次創作でたくさん作られる。小説でも書いている人によって色々特徴出ますよね。