場所は紅魔館から少し外に出た場所。
その付近では嵐のような弾幕合戦が行われたせいか、地面は抉れ、紅魔館の外壁も所々壊され、いかに激しい戦闘であったかを表している。
そしてその場所には、二人の少女がいた。
一人は、多少の髪や服の乱れがある程度で、特に目立った外傷もなくその場に立っている吸血鬼の少女、レミリア・スカーレット。
もう一人は、髪も服もぼろぼろで、身体中が傷だらけで地面に倒れている天邪鬼の少女、鬼人正邪。
これだけを見るならば、どちらが勝者であるかは明白であろう。
「――――貴方は、誰かしら?」
否。まだ、戦闘は終わっていなかった。
レミリアが感じ取った異変。それは先ほどまで感じていた鬼人正邪ではない、別の何者かというところである。
見た目はもちろん変わらず、妖力が少し膨れ上がった気がするがそれでも大きな変化というわけではない。
だが、何となく目の前の傷だらけの少女に違和感を覚えたのだ。
「痛ッ……何だか、訳わからないことに、なってやがるなあ……何で、『私が』身体を動かせているんだ?」
その台詞を聞くだけならば、傷だらけなのに身体を動かせる、という意味でも捉えられるかもしれない。
だが、ここでは全く別の意味を持つ。
「『私も』鬼人正邪だよ、レミリア・スカーレット」
―――
正邪は正直、この状況が突然すぎて困惑していた。
突然痛みを感じたと思えば、身体を動かすことが出来たのだ。
(あいつだけが気を失い、私が気を失っていない結果こうなったってのか……?そこの所はリンクしてると思ったが、どうやらそうでもないのか)
以前正邪は気を失ったとき、両方同時に気を失ったので身体一つ動かすことも出来なかった。
だが、今回に至っては前回と違ったケースとなる。外にいた正邪が気を失い、中にいた正邪が出てきたということになる。
(気にはなるが、そんなことは今はどうだっていい。それより現状打破だ……目覚めた瞬間に激痛で身体もほとんど動かせないとかどうすりゃいいって話だが)
目の前の強大な吸血鬼を相手に、どうすれば太刀打ちできるのか。
「……貴方は、二重人格?」
「二重人格、か。まあ、間違ってはいないのかもな。私も正邪だし、あいつも正邪だしな。――――ところで」
今しかない、と正邪は考えた。
相手が完全に困惑し、戦意も無く、完全に油断しきっている今。
逆転「チェンジエアブレイブ」
「――――ッ!?」
「誰も、降参したなんて言ってないんだよなあ?」
地面に横たわりながら、情けない姿でスぺカを宣言した。しかも、それは今の正邪が持つ最も強力なスぺカであった。
奥の手は最後にとっておく――――なんてことはしない。一番相手が油断しきっているときに、問答無用で叩き込むのが正邪であった。
(何だか、調子がいいなあおい)
弾幕を打ちながら、そんな感触を持つ正邪であった。前に身体を動かしていた自分よりも、力がみなぎってくる感じがあったのだ。
「くっ……!?」
近距離で油断していたのにもかかわらず、正邪の高密度弾幕をギリギリで避けていくレミリア。
その動きは凄まじい俊敏性を誇ったものであるが、最初のような余裕は欠片もなかった。
――――だが、正邪の弾幕はただの高密度弾幕ではなかった。
「……なっ!?」
正邪を中心に突然球体の空間が発生したかと思えば、身体の動きがおかしくなった。
上下左右、すべてが反転してしまったのだ。それに気づいた時にはもう遅い。
「――――ッ!!」
弾幕がレミリアを襲う。特殊な空間内での高密度弾幕、いくらレミリアといえど簡単に避けれるような代物ではなかった。
(くっ……!弾幕も重いわね……!!)
それは確実にレミリアにダメージを与えていた。
上下左右反転になりながらも、高密度の弾幕を避け、空間外へと避難するレミリア。今の彼女にはそうするしか手段がなかったのだ。
吸血鬼の超再生力故に外傷こそ見当たらないが、服は裂け、ぼろぼろである。内面的ダメージは回復しきれていないのか、肩で息をしていた。
(この私が、逃げるだなんて……!何という屈辱、この罪は重いわよ……!)
レミリアは遠距離から、妖力を最大限までチャージしようとする。渾身の一撃を正邪へと叩き込むつもりだからだ。
プライドの高い吸血鬼の彼女、やられっぱなしでは性に合わないのだ。やられたら、何倍にもしてやり返す。
だが、力を溜めているレミリアはあることに気が付く。先ほどまでピリピリと感じていた妖力が、何も感じなくなってしまったのだ。
これが意味すること――――まさか、と思いレミリアは力を溜めることをやめ先ほどのような奇襲に備えつつも地面に横たわる正邪へと近づいた。
――――完全に気を失っていた天邪鬼が、そこにはいた。
攻撃を喰らうだけ喰らって、反撃をすることもなく勝利を収めてしまった彼女は、何ともやるせない気持ちになったとか。
―――
自分が目を覚ましたら、そこはベッドの上であった。
レミリアと戦っていて、恐らく気を失ったのであろう。そこからどうなったのかは全く分からない。
ここは紅魔館のどこかの一室であろうか。部屋の装飾など、いかにもそれっぽい。
「痛ッ……そういえば、あれだけの戦闘後だもんなあ」
誰かはわからないが、自分はしっかりと手当てをされていた状態であった。それでも、怪我は完治していないので痛みはかなり残っているが。
……けど、よく怪我だけで済んだと思う。死ぬかと思ったし。生きているって素晴らしい。
「……あ、起きたんだ!」
「ん?……えっ」
突然扉が開いたかと思ったら、そこから出てきたのは宝石のような翼を持った、悪魔の妹こと歩く死亡フラグであった。
……あれ?もしかしていきなり大ピンチ?しかし、身構えようにも身体は言うことを聞いてくれません。やべえ。
「……大丈夫?すごい顔してるけど?」
「あ、うん……大丈夫」
痛みを我慢しつつ警戒すればいいのかどうしていいのかわからなかった自分の顔は、目の前の人物に心配されるだけであった。
「あ、そうだ。目が覚めたらお姉ちゃんが呼んでほしいって言ってたから、連れてくるね!」
「え?あ、ちょっと」
そう言って、目の前の人物は部屋から出て行った。
しかし、最初は出会っただけで終わったと思っていたけど、予想していたよりかは普通の印象を受けた。
レミリアの妹、フランドール・スカーレット。自分の知識の中での彼女の像というのは、とにかくやばい。簡単に言うならば、キチガイ。
だけど、今パッと見た感じでは狂っている様子はなさそうだった。あくまでパッと見ただけの印象だけど。実際のところ、どうなのかは知らない。
……そういえば、レミリアを連れてくるって言ってたか。こっちから話したいことは文句くらいしかないし、向こうから話したいことなんてあるのかなあ。
「失礼するわ。……目が覚めたみたいね?」
「……おかげさまで」
レミリアが自分のいる部屋へと一人でやって来た。
「話したいことはいくつかあるけれど……まずは、先に一つ」
「……?ちょ、何やってるの」
何をするかと思ったら、突然レミリアが自分に対して深々と頭を下げたのだ。大妖怪である彼女が、ちっぽけな妖怪である自分に対して。
「貴方に必要以上に深い傷を負わせたこと、それに関して深くお詫びするわ。本当にごめんなさい。そのせいで、一週間も貴方を寝かせることになってしまった」
これはとてつもなく異常なことである。
何がって、目の前の彼女が頭を下げていることがだ。傲慢な印象しかもっていなかったが、少しだけ認識を改める必要があるかもしれない。
果たして、大妖怪の中で自分の非を認めれる奴がどれだけいるだろうか?レミリアは、力のままに動く馬鹿とは違うのかもしれない。
「あー、何というか……もう終わったことだし、別に、ねえ?」
正直なところ、文句の一つや二つくらい言ってやろうと思ったが、こうも真っすぐ謝られると逆に何も言えなくなる。
自分は理不尽に巻き込まれて色々と嫌になってはいたが、一応向こうからすると侵入者でもあったわけだし、こっちも非があるっちゃあるのかもしれないし。
「というか、一週間?そんなに私は寝てたの?ま、確かにこの怪我や身体の疲労から考えると、あり得なくはないのか……」
「……この一週間の出来事、聞きたいかしら?」
「いや、別に。そこまで興味ないし」
正直、自分の関係ないところで起きたことなどどうでもいいし、更に言えば聞かずとも何となくは予想がつく。
恐らくあの後博麗の巫女が異変解決を終え、その他細かい出来事が少しあった程度だろう。
いきなり遭遇した時はかなりパニックになっていたが、フランが地下室ではなく、自分の寝ていた場所に来たというのも、一週間という長い時間がたったということを聞いた今なら理解が出来る。
「……ふふっ、やはり貴方は面白いわね。普通ならその後の経過など、聞きたいと思うのだけれど」
「んー、それよりもさ。ちょっと気になることがあるんだけど」
「いいわ、なんでも答えてあげるわよ?」
「じゃあさ……なんで、この異変を起こそうと思ったの?」
これに関しては色々と推測を立てたのだが、やはり真意は気になっていた。
実はこの後レミリアだけではなく、様々な大妖怪などの実力者たちがそれぞれ異変を起こしていく。自分の知識に間違いがなければであるが。
自分の知る限りでは、それらの異変の理由というのは大体がシンプルで、わかりやすいものでもあった。しかし、このレミリアに関しては真意はわからない。
「じゃあ、質問を質問で返すようで悪いけど貴方は何故だと思うかしら?」
レミリアは笑みを含みながらそう問いかけてきた。面白い答えを期待しているのだろうか。
「吸血鬼が昼間でも外に出れるようにするため――――なんて安直な考えとは思えないんだよね、レミリアに関しては」
「へえ、何故かしら?」
「私から見て頭の悪い妖怪には見えないからだよ。こんなことをしたらどうなるかわかってるくせに、実行した。レミリアは強者ではあるが最強ではないと私も思ってるし、自分でも自覚してるんでしょ?」
「随分とストレートに言うわね……まあ、その通りよ。私はそれを自覚している。今は、という言葉を付け加えるけどね?」
「なのに異変を起こしたということは……表向きの理由とは別に、何らかの別の理由があると見ている。ま、それがわからないんだけどさ」
「いい線ついてるわよ?そこまでわかってるだけでも、貴方は賢い」
まあ、元の知識があるからというのがこれだけの推測を立てることが出来る大きな要因だから別に賢いわけではない。
実際、そこまでわかってたとしても真意まではたどり着いていないのだから。
「じゃあ、答え合わせね。スペルカードを広めるためよ」
「……ん?」
「あら、面白い表情を見せてくれるのね」
いやいやだって、言っていることが予想外すぎて反応に困ったわ。表情が思わず固まっちゃったし。
「正確に言えば、そういう依頼を受け、実行した。それだけよ」
「……は?依頼?」
どういうことだろうか。
自分はてっきり、異変が起きた結果たまたまスペルカードルールが広まったのだと思っていた。
だが、たまたまではなくむしろ、スペルカードを広めるためにこの異変を起こした。レミリアが言うことは、そういうことである。
「吸血鬼異変って知っているかしら?あれで負けた私は、勝者から依頼を受けたのよ。敗者が勝者に従う、よくあることね」
「あれが今回に繋がってたって……?」
「数年後に異変を起こせとしか言われていないから、結構自由にやらせてもらったけどね。このことは、異変解決者の博麗の巫女である霊夢も知らない事よ」
「じゃあ、解決されるために異変を起こしたっていう事なの?」
「そういう事になる……って、ちょっと、なんでそんなに睨んでくるのよ」
思っていた以上に予想外であり、割と面白い話ではあったと思う。
だけど、それなら逆に納得できないこともある。ここまで自分がボロボロになる必要は、なおさら無かったのではないか。
「私がここまで傷ついた理由を教えてください」
「舞台で踊る役者というのは、それこそ死ぬ気で全力を出し演じるものよ?……いや、確かにやりすぎたわよ。そこは謝ったじゃない」
「舞台で役者を殺しかけるとかどこの演技派女優なんですか」
過ぎたこと、謝られたからもういいやと思っていたのに、理由を聞いたらなんか少し苛々してきたような気がしなくもない。
「だけど、異変を依頼の上で起こしたとはいえ私にも利が起きるよう頑張ったのよ?だから普段使わない能力も使ってタイミングを計り、異変を起こしたの」
「タイミングって……なんの?」
「異変解決に来たのは霊夢だけじゃなかったでしょ?もう一人が来たのは、実力がつくまで異変を起こすのを待っていたから。まあ、貴方は完全に予想外だったけどね」
霊夢が来ただけで異変解決が終了したのなら、それこそスペルカードルールが広まるだけに終わっていたのかもしれない。
レミリアの言う利というのは……きっと、先ほど普通に館内を歩いていたフランの事なのだろう。魔理沙を利用し、自分の利としたということが予想できる。
「貴方も十分私にとっての利よ?鬼人正邪、貴方は私が友人と思えるほどの実力と面白さを所有している」
「……え?なんだって?」
「……ねえ、聞き流すって酷くないかしら?何気に、結構恥ずかしいことを言ったつもりなのよ?」
ちょっと恥ずかしそうにレミリアが抗議している。なかなか面白い表情だ。
しかし友人か、うーん。自分で言うのも何だが、天邪鬼らしくない自分は友好的な感情を向けれらるのに極端な嫌悪感を抱かない。だからといって、それが嬉しいという感情も特に無いのだが。
だけど、悪くはないと思う。強者とのパイプというのは、いつかどこかで利になる。向こうも利と思っているらしいけど、それはこちらからしても同じことと言える。
「ま、よろしく。もうテンション上がって殺しかけるとかそういうのはやめてね」
「……わ、わかってるわよ!」
何だかよくわからないけど、死にかけた結果、思わぬ友人獲得。
「あ、そうだ」
「ん?」
「もう一人の正邪と言えばいいかしら?……次出てきたら覚えておきなさい、叩きのめしてやるわ!」
……正邪さん、貴方はいったい自分の知らないところで何をしていたんですか?
紅魔郷編終了。と言っても、ほとんどのキャラとは絡みがありませんでした。魔理沙とレミリアに、繋がりが出来ましたね。
今後もシリーズで多数のキャラと絡ませるということはあまりないかもしれません。勿論、後から例えば紅魔の別キャラとの絡みが出来る、というのはあるかもしれませんが。
全キャラを見たいって思っている人からすると、ちょっと申し訳ないかも。
……あ、ちなみに言うとシリーズごとに進まない可能性もあるし、そもそも書かないシリーズも出てくる予定です。時系列は沿って、進んでいくけどね。