ふわふわと、身体が浮いているような変な感覚が姫を包む。
しかし不快な感じはまったくなく、姫はただそのまま流れに身を任せていた。
“姫”
(ん・・・?)
何処からか聞こえる声に、姫の意識はゆっくりと浮上していく。
“聞こえるかい?姫”
(なに・・・?)
“聞こえるんだね。さあ、起きるんだ、姫”
(誰・・・?)
聞き覚えのない声に、姫は微かに目を細めた。
“君は、あの世界で事故にあった”
が、声の主は質問には答えなかった。その声が言ったことに、姫は首をかしげた。
(事、故・・・?)
『事故』という単語に、ぶわっと頭の中に映像が流れる。
(そうだ・・・私、あの時車にひかれて・・・!)
思い出すと、身体の痛みが蘇るようだった。実際には今はもう全く痛みはないのだが、思わず姫はぎゅっと己の手で体をかき抱いた。
(ねえ、・・・もしかして、私は死んだの・・・・・・?)
恐る恐る聞く。
“…いいや。かなりの重体ではあるが…生きているよ”
その言葉に、姫はほっと息を吐く。
“しかし残念だが・・・姫、きみの魂はいまはまだ、体に戻ることは出来ない”
その言葉に、姫は目を見開いた。
(戻れないって・・・どうしてよ!?)
“君の体は、いまは肉体を再生することで精一杯の状態だからだ。君の体はまだ、魂を受け入れられるだけの余裕がない”
(そんな・・・!)
それが本当だとしたら。それならば、姫の魂はこのまま此処にいることになる。
そんなのは嫌だ。こんな訳のわからないところは早く出て、家に戻りたい。
“あぁ、焦らないで、姫。誰も戻れないとは言っていないだろう?”
しかし、声の主が発したのは全く予想だにしない答えだった。
(じゃあどうしろっていうの?言っとくけど、野宿とかそんなの絶対にありえないから!)
と姫が文句を言うと、
“魂を受け入れられるだけの余裕が出来るまで…姫、きみを別の世界にとばそうと思う”
(・・・・・・・・・は、い?)
声の主は、さらりととんでもない事を言い出した。
意味が分からず、姫は目をぱちくりとさせる。しかし声の主はそんな姫の様子など意に介せず、話を進める。
(え、ちょ、別の世界ってどういうことよ!?)
“大丈夫、その世界は君もよく知る世界だ。まあ、慣れるまでは多少の不自由はあるかもしれないが、きみならばすぐに順応するだろう”
(いや、ちょ…私ならってどういうこと!?)
説明を求めるも、
“必要なものは、きみの目が覚めたときにはすでに用意されている”
(だからちょっと待って…!)
声の主は質問には答えず、たんたんと話していく。
“さあ、君のもうひとつの人生を始まりだ”
(だからちょっとま…!)
「人の話きけコラーーーッ!!」
はっと目をあける。
「・・・・・・え?」
むくりと起き上がる。
「・・・・・・部屋?」
目が覚めた姫がいるのは、どこにでもあるような普通の部屋。しかしそこは、姫が知っている「自分の部屋」ではない。
「・・・・・・・・・ここ、どこ」
なんで私ってばこんなところにいるんだ?っと、起き上がったばかりで若干重い頭をフル稼働させて、何があったのかを思い出す。
(たしか和也とデュエルして・・・その帰りに事故にあって、気がついたら変なところにいて・・・それから・・・・・・)
重症ですぐには戻れないから別の世界に飛ばすと、謎の声はそう言っていたことを思い出す。
(まさかあの声のせい?)
目が覚めたときには、必要なものは用意されていると言っていた。
「・・・なるほど、こういうことか」
ベッドから抜け出すと、机の上に一通の封筒がおいてあった。
「・・・・・・?」
変哲のない、どこにでもあるような茶封筒だ。
「なんだろ」
姫はそれを手にとり、すこし迷った後、中身を取り出してみた。
「…は?」
中に入っていたのは・・・
「『ハートランド学園編入書』?」
ハートランド・・・・・・って、ハートランド!?!?
「いやちょっと、どういうこと、これ」
というか、ハートランド学園って・・・
(えっと、つまりここは)
ええ、ええ。確かに『知っている世界』ですとも。けどまさかこの世界に送られるなんて夢にも思ってみなかった。
ーーーつまりここは。
「遊戯王ZEXALの世界・・・」
ぽつりと呟いた自分の声が、妙に反響して聞こえた。
* * *
「碧那姫です。よろしくお願いします」
自分が、好きなアニメの世界にいる。浮かれるのもそこそこに、姫はどういうことだ!?と頭を抱えた。
が、どうやら考えても仕方ないということに気付き、姫はひとまずハートランド学園へ向かった。そしていまは、クラスで自己紹介中だ。
どうやらこの世界での姫には、両親はいないらしい。というか孤児という設定になっていた(なんでそうなった)。
机の上には茶封筒のほかに袋があり、 中にはDゲイザーやらデュエルディスクが入っていた。
そしてデッキに関してだが、なぜか元いた世界で姫が使っていたデッキがそのままあった。おそらく・・・というか確実にあの声の主のしわざだろうけれど。
その中には、チューナーやシンクロモンスターのデッキはもちろん、ペンデュラムモンスターのカードもある。
この世界でシンクロやペンデュラムを使うのは多少の抵抗はある。が、前にカイトが凌牙とのデュエルで融合召喚していたことを踏まえると、エクシーズ召喚がいまの主流の召喚方法なだけで、ただたんにシンクロや融合がすたれつつあるだけなんだろうと思い直した。
・・・・・・もちろん、ペンデュラムは別だろうけど。
そんなこんなで自己紹介をしながらクラスを見渡せば、凌牙やら璃緒、ドルベ、ミザエル、ギラグもいる。
(バリアン七皇がいるってことは、いまの時間軸ってアストラルがヌメロン・コ ード使った後ってことか・・・)
時間軸を確認した姫は、ほっと息を吐いた。これならやれデュエルだの、負ければ魂狩られたり命懸けたりせず、平穏な生活を送れそうだ。
そんなこと考えていると、先生に「席は神代の前だ」と言われる。みると、凌牙の前の席があいている。
「はーい」
迷うことなく席へ行き、「よろしく」と声をかけた。しかし、凌牙は目を見開いてまじまじと姫を見る。
「…な、なに?」
聞いてみたが、運悪くチャイムが鳴ってしまい、凌牙からの回答は聞けなかった。とりあえず席に座ると、前の席の男子に「よろしくな。俺、上村葉月」と自己紹介された。
「よろしく、上村うん」
「葉月でいーって。それよりさ、碧那ってデュエルすんの?」
「え?な、なんで?」
とつぜん言われ、驚く姫。葉月と名乗った彼は、肩肘を付きながら、「それ」と何かを顎でしゃくる。
「それ?・・・ああ、これか」
彼がしゃくったのは、姫の腰。そこには、ピンクのデッキケースがついていた。
「それ、デッキケースだろ?」
「う、うん。そうだけど」
「じゃあさ、デュエルしね?」
「え?いや、でも次授業じゃ・・・」
「ああ、次の時間は自習だから大丈夫」
「うーん・・・」
数秒間悩む姫だったが、「まあ、そういうことなら・・・」と、デュエルを承諾した。
「よっしきまりだ!」
となると話はあっという間に進んだ。転入生のデュエルということもあってか、みんなして机を隅に寄せて、デュエルができるスペースを確保してくれた。
(この世界の人とのデュエルなら、やっぱエクストラはエクシーズに限った方がいいよね・・・)
腰につけているのは、ちょっと鬼畜・・・というか、プレイするのは楽しいけれど、やられるほうはあまり楽しくないデッキ。それを初めてのデュエルで使うのは、気が引ける。
となると、使えるデッキは限られてくるかな。鞄から別のデッキを取り出して、デュエルディスクにセット。
「準備いいかー?」
「うん、いいよ!」
お互いにスペースをあけて、向き合う。
「「デュエルディスク、セット! Dゲイザー、セット!!」」
姫は白とピンク、葉月はモスグリーンのデュエルディスクを展開させた。
「「デュエルターゲット、ロックオン!!」」
『ARビション、リンク』
無機質な機械音とともに、ふたりをAR空間が囲んだ。
「「デュエル!!」」
掛け声とともに、姫はしゃっと初期手札5枚を抜き取った。
...
姫さん、トリップして初デュエル。
次回のデュエル内容、元のサイトに乗せてるのと変えようかどうしようか考え中です。
え?ドルベたちは三年だって?
……同級生でいて欲しかったんだもん。