真・恋姫✝無双 新たなる外史   作:雷の人

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反董卓連合
第十七話:出陣前


反董卓連合の発足、南皮太守である袁紹により発せられた檄文は、大陸全土の諸侯へと届けられた。

曰く、董卓による洛陽の暴政、朝廷の私物化、占有、それらを許す事は漢王朝の臣に在らず、董卓を許すな、立ち上がれ、董卓を討て・・・・と。

董卓と袁紹、両名を知る青焔と華琳は、静かにため息をついた。

両雄曰く、「どうせバカが癇癪起こしただけだろう」と。

 

:平原

留守居を兵一万と単に任せ、洛陽へと向かう事になった劉備軍は、兵数の少なさからか差し急いで準備などをする事も無く、落ち着いて出発準備を整えていた。

 

「そう言えば青焔さん、一つ聞きたかったんですけど」

 

ふと、桃香が青焔に質問を投げかけた。

 

「何だ?」

「董卓さんってどんな人なんです?青焔さんや華琳さんが言う分には悪い人じゃ無いって事は分かるんですけど」

「ああ、それは俺も気になった、董卓ってどんな人?」

 

口を挟む一刀、まぁ一刀の場合は元の世界の知識もある分、この世界での董卓について余計に気になっているのだろうが。

 

「少女だよ、儚げで、花が好きで、人どころか虫も殺せないような心優しい娘だよ」

「何でそんな娘を・・・・」

「袁紹が自尊心の塊だからだ」

「つまり?」

「漢王朝の中心である洛陽、大将軍何進が死んで自分が掌握しようとしたら董卓に抑えられた、それが気に食わないだけさ」

「そんなのって・・・・」

「しかも配下がやたら優秀だから性質が悪い」

 

うーん、と唸りながら頭を抱える青焔、そう、君主がバカでも顔良、文醜、張郃の猛将たちに沮授、田豊、審配ら優秀な頭脳が揃っている、それだけに厄介な勢力でもあるのだ。

 

「まぁともかくだ、俺らは領地の位置関係上この連合に参加せざるを得ない、袁紹、韓複、鮑信、孔融に囲まれているからな、華琳だって戦場が真隣だから出ざるを得ない、まぁ雪蓮に関しては無視してもよかったんだろうがこっちに付き合ってくれるみたいだしよ」

 

それだけが救いだ、この三軍が集わなければ何をしようにも力不足だったのだから。

 

「おぅ、ここにいたか」

 

単が、一人の青年兵を伴って現れた。

 

「どうした?」

「ああ、こいつを使ってやって欲しくてな」

 

ピッ、と敬礼をする青年兵。

 

「名は?」

「はっ!姓名を夏侯覇!字を仲権と申します!」

「単、力量はどうだ」

「部隊長格の連中と互角以上、模擬戦やらせても並以上、かなり優秀だ・・・・お前の副官連中皆昇格して手足足んねぇだろ?使ってやってくれ」

 

そう、青焔の副官であった星、凪、六花の三名は今現在、青焔と紫牙による軍部再編に際して将軍に昇格しているのだ、そもそも人材の層が薄いのだから優秀な人材を副官待遇で遊ばせている程暇では無い、という意見の下にだ。

故に一度に三人いた副官を手放した青焔は、確かに最近忙しかったわけで。

 

「あんがとよ、お前は大丈夫なのか?」

「大丈夫だっつーの、机仕事は孫乾と簡雍に任せた」

 

ニヤリと笑う単、「そうか」と一言呟けば、夏侯覇を伴い、一度自宅へと戻るのだ。

 

:王泰私邸

 

「まぁ何も無いところだが入れ」

「お邪魔します!」

 

一応軍部の筆頭である青焔はそれなりの待遇として屋敷を持っている、とは言え会議室代わりに使われたりする事も多く、殆ど寝泊りだけの場所になっている。

 

「さて、・・・・夏侯、という事は陳留の夏侯姉妹と面識はあるのだな?」

 

単も、桃香も一刀も気にしていなかったようだが名を聞いた時に、それが思い立った。

 

「はっ!彼女らは従姉です」

「何故、平原に?君程の実力があるならば華琳も、春蘭、秋蘭も問題なく引き上げてくれただろう」

「少々、思うところがありましたので」

「・・・・差し支えなければ聞かせて貰おうか」

 

ハキハキと答えを返してきた夏侯覇が、言い淀む、が僅かなもので、意を決したように。

 

「自分は・・・・名門夏侯家に生まれました、祖父の血を継いだのか、従姉二人と自分は歳を重ねる事に、武に関して周囲の大人をも凌駕する程になりました」

 

話を聞きながら、白湯を出す青焔。

 

「五年ほど、前です・・・・父から曹操様に仕えろ、と言われました・・・・父と叔父は曹嵩様の部下、その娘に自分の子らを仕えさせる事に何ら違和感は無かったのでしょう、ですが・・・・」

「君は違和感を感じた、か?」

 

無言で首を縦に振る夏侯覇。

 

「父が仕えていたからその主君筋に仕える、と言うのは道理に適うようでそうでは無い、と思うのです、そのような理由から仕えたのではその主君にも無礼にあたります」

 

見たところ一刀らと同い年ぐらいだろうか、五年前と言うならば十二か十三の頃、その時点で既にそこまで考えたと、青焔は、夏侯覇を面白い人材だ、と感じた。

 

「故に出奔、それからは各地を放浪しておりました」

「単に従い付いて来た、という事は劉備様を主君として定める、そういうことか?」

「この街は、笑顔に溢れています、今まで訪れたどの街よりも、このような街を作り上げる君主に興味をもちました、それに・・・・王泰様、実は貴方の部隊で自分は黄巾の乱を経験しております」

「何?」

「あの時の、王泰様のお姿が忘れられないのです、勇敢に皆を振るい立たせ、あの場にいたどの官軍よりも雄々しく戦っておられました・・・・その背に憧れたのです」

「俺の真名は青焔と言う」

「・・・・え?」

「お前のような人物を僅かばかりでも疑った自分が恨めしい、お前程の人物になら真名を、俺の背を預けるに足りる」

 

眼を見開く夏侯覇。

 

「自分の真名は亜紋と申します!」

「亜紋よ、これより中華は乱世に入る、俺はお前を全力で鍛え上げる」

「はい!」

「良いか、みっともなくても良い、生きろ、そしてひとにぎりの矜持を持ち大事にしろ」

「矜持、ですか?」

「それこそが、将たる者を支えるものだ」

「よく、分かりません」

「今はまだ良い、強くなれ!亜紋」

「はい!」

 

夏侯覇仲権、今この時より、乱世の終わる時まで彼は、王泰文令の背を守り続ける事になる。

 

:陳留

 

「というわけで留守居は任せたわ、武栄、慧南」

「留守居が俺たち二人ってどうなんだ?」

「過労で倒れないでしょうか、私は」

 

憮然とした表情の武栄とげんなりした表情の慧南にさらりと言う華琳。

 

「大戦地の直ぐ近くなのだからこんなところでバカをやるバカも・・・・いないとは言い切れないけれど普通の頭ならいないでしょう」

 

バカ、の単語にその場にいた一同が全く同じ顔を思い浮かべる。

 

「武栄」

「蒼季」

 

武栄の肩にポン、と手を置くのは蒼季だ。

 

「俺のとこの部隊長連中を使え、他所の武官文官並みに仕事が出来る、そう『育てた』」

 

蒼季には、曹操軍内で他の誰もが持ち得ない才能がある、育成の才能だ。武も秋蘭と拮抗し、並の文官軍師並みに仕事が出来る、だがいかんせん彼の能力はここで打ち止めなのだ、その彼が次席武官の椅子に座っている理由がそれである、真桜、唯夏は蒼季の育てた人材である、他にも各所に散りばめられている人材には蒼季が育成した者が多いのだ。

 

「うむ、ありがたく受け取る」

「蒼季君は優しいねぇー」

 

ちょっと感動気味な二人。

 

「少し気になったんですけれど」

 

声を上げるのは伯だ。

 

「私や氷影は面識が無いのですが・・・・董卓殿とはどのようなお方ですか?」

「可憐で儚げで、少し前だったならば迷い無く閨に誘っていたわね」

「今は?」

「青焔一筋よ」

「姉者、顔が凄まじい事になっているぞ」

「蒼季、余計な事を聞かないように」

「うーっす」

「なぁ秋蘭」

「なんだ姉者」

「青焔を戦場でうまいこと偶然の事故に見せかけて殺す方法は無いだろうか」

「やったら華琳様に一生嫌われるぞ」

「むぅ・・・・それは困る」

 

それを、少し輪から離れてみているのは氷影と桂花だ、少し前に、氷影は桂花の想いを受け入れた、それ以来、あまり人目を気にせずにいる二人は、こんな場でも手を繋いでいるわけで。

 

「皆さん元気ですね」

「良いんじゃないでしょうか?」

「確かに」

 

微笑み合う二人、にいつの間にか集まる視線。

 

「そう言えばな、以前に北郷から教えてもらったんだが・・・・」

「ん?」

「ああいう二人組を天の国では『バカップル』というらしい」

「意味は分かりませんが何故かしっくり来ますね」

 

これ以降、氷影と桂花の二人を指す固有名詞が『バカップル』になり、恐ろしい事に城下の民にまで浸透したらしい。

 

:秣陵

バンッと机が強めに叩かれる音が、執務室に響く、この場にいるのは雪蓮、蓮華、尚、雷刃、そして留守居である冥琳と諒。

 

「私が留守居とはどういう事だ雪蓮!」

「どういう事もこういう事も言葉の通りよ、留守は冥琳に任せるわ」

「何故遠征軍から私を外したと聞いているのだ!」

 

珍しく激昂する冥琳、まぁ無理も無い事であろう。先の黄巾の乱でも遠征軍から外された、まぁ前回はまだ会議の結果で外した、しかし今回は冥琳の参加していない会議で、勝手に決めたのだ、しかも雪蓮の一存でだ。これに憤慨するのも致し方ない事だったのだろう。

 

「・・・・冥琳、何か隠し事していない?」

「!?何を、言って・・・・」

「気づいていないと思ってるの?何年も一緒にいて」

『?』

 

尚も、蓮華も雷刃も諒もその言葉の意味を掴みかねている。

 

「まぁ私も何かおかしい、ぐらいだったんだけどねー、百合華がこれ、持ってきたのよ」

 

百合華、とは朱治君理の事であり雪蓮、冥琳、雷刃の三人にとって姉貴分のような人である。

まぁそれはともかく、雪蓮が取り出したのは赤く染まった布、冥琳の動作が、こわばった。

 

「・・・・血だと・・・・」

「冥琳さん、それ程までに体調が悪化して・・・・?」

 

冥琳が病弱なのは周知の事実だ、それでも並の武官ぐらいに武芸はできたし、普段はそれをおくびにも出さないために皆が皆、大丈夫なのだろう、と思っていたのだが。

 

「私は大丈夫だ!」

 

何時か動けなくなるかも知れない、それ程に病は自らを蝕んでいる、雪蓮に対し何も出来ないままに病に散る、それを一番恐れているのだ。

 

「冥琳、私はね・・・・皆で泰平の世を見たいのよ」

「雪蓮?」

「私や冥琳、雷刃、蓮華や小蓮、尚に思春に灰に穏、明命、夕姫、百合華、諒オジさん、香、亞莎、暁、白夜、青河、乱、林士、美耶、鈴李、帆、澄、氷岐・・・・皆で笑って暮らしたいの、全てが終わったら。だからね冥琳には今無理をして欲しくないの」

 

その場が静まり返る、いつも、その場の勢いに任せて動いているような雪蓮から聞かされた、未来の話、それはとっても魅力的なもので・・・・

 

「分かった、今回は大人しく揚州を護る事にしよう」

「ええ、頼むわね」

「まぁ武官は灰や誾、百合華もいるし」

「韓当殿も祖茂殿も残る、頑張れ」

「ああ、任されよう」

 

意外に色々考えているんだな、この主君。とか圧倒的に失礼な事を全員が思うのだ。

 

西暦184年・反董卓連合が幕を開ける―――




夏侯覇はゲームでも重宝するお気に入り武将の一人です。基本鄧艾、夏侯覇がいたら他は適当でいいやって感じです、マジで。
次回から本格的に反董卓連合に突入します。
群雄入り乱れ刀槍剣戟が火花散らすシ水関の戦い。
次回!「猪対猪」(半分嘘)をお送りいたします!!

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