一行は冀州を真っ直ぐに北上して、幽州は公孫賛の本拠、北平を目指していた。
「・・・・・遅いな、単」
とは言え全員が徒歩である以上、進行速度は遅いものであり、この日は野営する事になった。
念のため、単に周囲の探索に赴かせたのだが・・・・・・
「青焔!!」
草むらをかき分けて現れた単の表情は、どこか焦ったものだ。
「どうかしたのか?」
と、一刀が問いかければ。
「この先で賊と義勇兵らしき連中が戦闘中、義勇兵側が圧されてる」
その言葉に緊張が走る。
「数は」
「義勇兵が50ぐらい、賊が200近く」
「よし、案内しろ」
「青焔!?」
「義を見てせざるは勇無きなり、見つけちまったなら手ぇ貸すのが道理だ」
「私も行こう」
「私も行きますよ」
「わ、私も行きましゅ」
愛紗、紫牙、朱里が同行する事になり、鈴々に一刀、桃香、雛里の護衛を任せ、5人は一路その場へと向かう。
しばし、森を駆けると開けた場所に出る、確かに50ほどの義勇兵が囲まれている、指揮者は・・・銀髪おさげの少女が見える、彼女だろう。
「どうするよ」
「どうするもこうするもねぇだろ」
ゴキゴキ、と首を鳴らせばブゥン、と大矛を振るい。
「行ってくらぁ」
ここと義勇兵らが囲まれた場所の間にはちょっとした崖がある、それを青焔は事も無げに飛び降りた。
「ちょっ!?」
「青焔殿!?」
「青焔様!!?」
「青焔さん!?」
:戦場
銀髪おさげの少女・・・楽進の頭と心は、焦りでいっぱいだった、四倍近くの敵、統制の取れない味方、最早自分の指示も通じない、万事休す、かくなる上は武人として玉砕を、そう、思った途端、声が聞こえてくる。
「玉砕にゃちょっと速ぇぞお嬢ちゃん!!!」
「!?」
その声に、周囲を見る、がいない、違う、上だ、そう気づくまでにそう時間はかからない。
ズドォオオオン、と轟音を立てて着地したのは、白髪で紅眼、大矛を肩に担ぐ青年だ。
「何だテメェ!!」
「邪魔だ!!」
突如の乱入者に、賊は勝っている余裕からか威勢良く、声を荒げる。
「王文令、義により助太刀するぜ」
その言葉と同時に、襲いかかる賊の数は20ほど、危ない、そう言葉を投げかけようとした楽進だったが、その声が発せられる事は無い。
「温いぞクソガキ共が」
一閃、ただそれだけで、20人の賊は、全員が胴から真っ二つに裂かれていた。
「こ、こいつ強ぇぞ!!全員でかかって潰せぇ!!!」
「―――!?」
全員がかり、今斬った20を除いても180、その数が一人に殺到する、無事でいられる訳が無い、加勢を、そう思った楽進の目の前に、大きな掌が差し出される。
「よくぞここまで奮闘した、疲れて・・・・るだろ?俺に任せろ」
無理だ、できるわけが無い、そう思いつつも、青年の言葉とその背に安心感すら覚える。
「さぁさぁ!!俺はここだぞ!!!この首欲しけりゃかかって来い!!!」
吼える男、その背に、楽進は、憧れを、覚えていたりもした。
ものの四半刻、それだけの時間で、賊は壊滅していた、途中で愛紗と単の二人が乱入してきたおかげでかなり助かった。
「さて・・・・と、無事だったかお嬢ちゃん」
青焔は背後へと振り返る、銀髪の少女が、駆け寄ってくるのがわかったのだ。
「ありがとうございました、なんとお礼を申し上げたら・・・・・・」
「構わんさ、俺らが好きで乱入したんだからよ」
澄んだ眼をしている、真っ直ぐな娘なのだろうな、と感じた。
「あの、それでお願いがありまして」
「お願い?」
「はい」
いつの間にか、他の義勇兵たちも集まってきている。
「私たちも、連れていっていただけないでしょうか!」
「ふむ・・・それは」
クルリ、と振り返れば、こちらに走ってくる四つの影を見て。
「うちのご主君に聞こうか」
「大歓迎だよ!!」
「宜しくな」
例に漏れず二つ返事で加入を了承する桃香と一刀。
「では改めまして、楽進文謙、真名を凪と申します!以後宜しくお願いいたします!」
深々とお辞儀をする凪。
「んじゃあ取り敢えず・・・青焔」
「んぁ?」
「凪の世話頼んだ」
「世話ってお前よ」
「勿論皆で色々教え合って助け合うけど、基本的には青焔任せって事で」
「まぁ・・・良いか、宜しくな凪」
「はいっ!!」
:三日後:幽州北平城
太守府前、青焔と桃香を先頭にして、門を叩いていた。
「公孫北平太守に会いたい、王文令と劉玄徳が会いに来た、と言えば分かるはずだ」
門衛の兵士にそう言えば、二人いた兵士の一人が太守府へと入っていく。
少しした頃、赤い髪をした女性が、息を切らせながら走ってきて、青焔の前で停止し、肩を掴んで。
「文令なのか?」
「ああ」
「本当に本物か?」
「触れるだろ?脚もあるだろ?」
「そうか・・・・よ・・・・」
『よ?』
思わず、女性のタメに対して、皆が反応する。
「よかったぁあああああああ!!!」
がしっと、青焔に抱きつく女性。
『えぇえええええええええっ!?!』
「お前が死んだと聞いてあの時は涙が止まらなくて」
「ちょっ、伯珪!」
「でもこうやって生きててくれて本当に」
生存を喜ばれている、それは嬉しいがむにゅむにゅと柔らかい感触が体にあたっている、しかも皆の前で。
結局、桃香に助けられて伯珪を引き剥がした。
「すまない、取り乱した」
「もぅー白蓮ちゃんったら・・・・」
「桃香もひっさしぶりだなぁ」
「私もびっくりしたよー、白蓮ちゃんが太守様なんて」
太守府の大広間で、キャッキャと会話する桃香と白蓮、こと公孫賛伯珪。
「しかし、文令が生きていて嬉しいよ」
「なんで死人扱いなんだよ」
「太傅も大将軍も処刑されたと聞いて、文令も死んだと思ったんだ・・・多分、各地の諸侯も同じように思ってると思うぞ」
「マジか」
「まぁ生きててくれて私は嬉しいよ、洛陽時代の数少ない友人だしな」
その言葉に。
「あれが友人の生存を喜ぶ時の行動か?」
「むしろあれは・・・」
「ふむ、この先の展開が楽しみな事で・・・」
なんて単、朱里、紫牙の三人がひそひそ話をしている。
「それで桃香に文令、どうしてここに?」
「ああ、それなんだがな・・・」
青焔が事情を説明すれば。
「ならしばらくここでゆっくりしていくと良い」
「・・・・・対価は人手、か?」
「ご名答、何分手が足りなくてな、いる間でいいから色々手伝ってもらえると助かる」
「それぐらいならお安い御用だよ!」
二つ返事の桃香。
「おや伯珪殿、お客人ですかな?」
「お、子龍、いいところに来たな」
白を基調とした衣装に身を包む青髪の少女が、室内へと入ってくる。
「こいつは趙雲子龍、うちの客将で色々と手伝ってもらってる」
「お初にお目にかかる、趙雲子龍でございます」
恭しく一礼する趙雲、そして桃香たちがそれぞれ自己紹介をして、最後に青焔が前へと出る。
「王泰文令だ、宜しく」
何気なく握手を求めるように、差し出した手、趙雲がそれを握る。
「ー!」
感覚が告げている、この少女は強い、と。
「王泰殿」
「む?」
「お手合せ、願えますかな?」
「・・・・・・望むところだ」
抱いた直感は同じだったらしく、ニヤリと笑い合う。
:北平城練兵場
東方、大矛を肩に担ぐは王泰。
「さぁ、こっちは何時でも良いぜ」
西方、直槍を構えるのは趙雲。
「こちらも準備は整っております」
立会人を務めるのは、眼に鋭き光を持つ老将。
「この仕合の立会人、この厳綱が勤めさせて貰おう!」
名を厳綱と言い、公孫賛の父の代から公孫家に仕える老臣だ。
「いざ・・・・・・始めぃ!!!」
厳綱の掛け声と共に、両者が一気に距離を詰める。
「うぉおおおおおおおおお!!!」
「はぁあああああああああ!!!」
甲高い金属音、王泰が横に振り払った大矛は、趙雲の直槍で見事に受け流されている。
振り切ったその隙に、趙雲が懐へと潜り込もうとするも、腕力任せに大矛を切り返してくる王泰。
一撃与えるだけの時はあった、だがこの一撃を受けたら終いだ、そう直感した趙雲はバックステップで一気に距離を取り直し、その間に王泰も、大矛を構えなおす。
僅か数秒のぶつかり合い、だが、それを見る皆の眼には、その打ち合いが眩しく見えた。
「・・・・・凄い、ですね」
「ああ・・・・・青焔殿の一撃も凄まじいがそれを受け流す趙雲の技量も凄まじい」
「・・・俺は、あれに追いつけるのか・・・・、いや追いつくしかねぇんだな」
王泰がまともに受ければ体ごと吹き飛ばすような豪撃を何度も繰り出し、趙雲もまたその豪撃を一寸の誤差も無く受け流し続けている。
「・・・青焔さんって凄い強いね」
「ああ、こんな人が味方にいる・・・・それは凄い事で・・・・」
「?」
「俺ももっと強くならなくちゃ、って思うんだ」
今度は王泰がその豪撃に緩急を付け趙雲を揺さぶり始める、が趙雲もそれに動じる事無く、相変わらずの調子で攻撃をさばき続ける。
「・・・・・・青焔様・・・・・実の楽しげに武を振るう・・・」
「凄い、としか言えません」
「でも・・・・それを可能な限り活かすのが、私たちの仕事だよ紫牙さん、朱里ちゃん」
わざと乱雑な振るい方をして趙雲を誘い出そうとするが、乗ってこない。
「あんなに楽しそうな子龍、初めて見たよ」
「ワシも初めて見ました・・・・・」
思いっきり、縦に大矛を振り下ろす王泰、それを好機と見たのか、その一撃を回避しながら、右に抜けようとする趙雲。
「っ・・・・・おぉおおおおおおおおっ!!!」
吼える王泰、次の瞬間、重力に任せて振り下ろされていた大矛の鋒が、力任せに上へと跳ね上げられる。
「っ!?」
誰もが予測しえぬ軌道、それは相対していた趙雲も同じであり、その鋒は見事に、趙雲の持つ直槍を、跳ね飛ばしていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
趙雲の首筋に突きつけられる大矛。
「・・・・・参りました、私の負けです」
「・・・・・そうか」
ズゥン、と音を立てて落ちる大矛、そして王泰は、その場に倒れ伏した・・・・・・
趙雲―――星は、倒れた王泰に、皆が心配して集まる様子を、遠目に観ていた。
「・・・・・・・」
「おう、ご苦労だったな子龍」
「厳綱殿」
その肩に置かれたのは厳綱の固く、大きな手だ。
「・・・・どうだった、王泰殿は」
「強かったです、それ以上に・・・・・・その眼に形容し難い何かを、感じました」
「興味が湧いたか」
「それは・・・・・・」
珍しく言い淀む子龍。
「行きたけりゃ行って良いんだぞ、子龍」
バッ、と振り向けばそこには公孫賛がいる。
「伯珪殿」
「そもそも子龍は客将であって家臣じゃないから無理に縛り付けるつもりは無いし」
「ですが・・・・・」
煮え切らない子龍、恐らく、人手不足であるここを気遣っているのだろう。
「んじゃあ命令だ!文令たちと一緒に行け!いいな!?」
「は。はい」
世話の焼ける奴、と思うと同時に、珍しいものが見れた、と言った風情で、公孫賛は仕事へと戻るのだ。
:深夜
趙雲との一騎打ちが終わった直後に気絶した青焔は、真夜中に眼が覚めるも、寝付けず城壁の上を散歩していた。
「・・・・・・」
嬉々として武を振るったのは何時以来だろうか、とかんがえていた。太傅の下で仕事をしていた頃に、大将軍直々に武芸を教えられていたころは、楽しかったと覚えている、だが今日、趙雲とした一騎打ちは、その時よりも楽しかった。
「こちらにおりましたか」
背後からの声に振り向けば、そこには趙雲の姿が。
「俺を探していたのか?」
「はい、少々用向きがございまして」
身を翻し、趙雲へと向き直る。
「用、とは?」
「王泰殿は、いかなる理由があって劉備殿、北郷殿の下に?」
「・・・分からん」
「では理由も無く付き従っている、と?」
「そこも自分ではよくわかっていない、ただ・・・・あの二人の思いが本物だという事、その二人から力が必要だ、と言われてこの二人のためならば、と思った」
「・・・・・王泰殿は、実は野心がお有りでは?」
「・・・・・どうして、そう思う?」
僅かに、冷や汗が頬を伝う、紫牙に一刀しか知らぬことではあるが、確かに自分には野心、とも言えぬようなものではあるが、目的があって桃香や一刀と共にいる。
「あの一撃の重みは、ただ忠誠を誓うだけでは持ち得ぬ重さでございました、何か強き信念があるのだろう、そう感じたのです」
「・・・・・俺はな、中華の統一をしたいのだ」
「中華統一、ですか?」
「ああ」
「何故」
「・・・・・・今の中華は乱れている、最早漢王朝の威光一つでは抑えきれぬ程に、な・・・・故にだ、それが大将軍竇武様、大傅陳蕃様の願いだった・・・・・俺はその意志を託されたのだ、だからこそ・・・」
「王泰殿が頂点として、ではダメなのですかな?」
「俺じゃ駄目だ、人を惹きつける魅力というものが無い・・・」
「劉備殿や北郷殿にはある、と?」
「そうだ、そしてあの二人の下で天下取りを支える、それが俺のやり方だ」
「ふむ・・・・・ではその道中、私にも手伝わせていただけますかな?」
「趙雲殿が、か?」
「はい、有能なる将たるもの副将の一人や二人は必要でございましょう?私をお使いなされ」
「何故?」
「好奇心故、王泰殿に、あのお二方の作る天下に興味が湧きました・・・・私は、王泰殿の槍となって働きましょうぞ」
「そうか・・・・・・っ!?誰だ!!!」
不意に、視線を感じた、今の今まで気づかなかったとは・・・・
「・・・・・・」
望楼の影から出てきたのは凪だった。
「いつから、いた」
「最初から・・・です、お部屋から出てくるのが見えまして・・・・念のためと」
「・・・・・今の話も全部聞いてたか」
「はい」
どうしたものか、と思う。あまり良い場面では無い、臣の臣など本来持つべきものでは無い、それを見られてしまった・・・・
「青焔様、今の話ですが・・・・・」
「あー、そのだな・・・・」
「私にも、手伝わせてください!」
「へ?」
キョトン、とした顔をする。
「私は、青焔様の戦う背に憧れておりました、その背中を支えさせていただけるならば、光栄の至です」
「分かって言ってんのか?俺の下って事ぁそれ以上の出世は望めねぇぞ」
「はい、それでも青焔様と共に戦いたいのです」
「む・・・・・・」
「無粋、というものでしょうぞ?ご主君」
「ちょっと待てご主君って何だ」
呼び方が引っかかって、思わず趙雲を見る。
「生涯を賭けてお仕えする方をご主君と呼んでなんの差し支えがございましょう?」
「頼むから普通に名前で呼んでくれ」
少しばかり、頭を抱えていると、いつの間にか凪と趙雲が、並んで片膝をついている。
「この趙雲子龍と」
「楽進文謙」
「身命を賭して王泰様にお仕えする所存」
「何卒、我が真名」
「星」
「凪」
『その名をお預かりください』
片膝付いて真名を預けるという宣言、それは、一つの覚悟の形、自分にできるのは・・・・
「分かった、その覚悟、その真名と共に預かる、星、凪」
こうなったら腹を括るしか無い、最早歩み始めてしまったのだから。
「俺の事は青焔、と呼ぶように」
「分かりました、青焔殿」
「了解です!青焔様!」
これからが大変だな、と思いながら、星空を見上げるのだ。
さて、星と凪の二人がやっぱり青焔の下に収まりました。ここで一旦視点を劉備軍から離し、魏、呉の話に少し移りたいと思います。