第四話:孫家と袁(術)家
:揚州秣陵城
秣陵は、孫堅が収める揚州の中枢を司る街だ、交通の便の良さから人の行き来も多く、漢南部でも指折りの発展度を誇る都市である。
その城郭の上から、外の景色を眺める偉丈夫が一人、褐色の肌に黒髪、男は名を孫堅文台、真名を赤虎(セキコ)という。
「こちらにおられましたか、赤虎様」
「おう、尚か・・・・」
赤虎の振り向く先には、走って来たのだろうか、肩で息をする青年が一人、名を諸葛謹子瑜、真名を尚。
かつて赤虎に仕えていた諸葛玄の甥だ、その才は叔父をも凌ぐだろう、そう考えた赤虎は、諸葛玄が亡くなり行く宛を無くしていた尚を引き取り育てる事に決めた、生まれた子が女子ばかりだったので男子を育てるというのは非常に楽しく感じていたのを覚えている。
「皆さんが探しておりました、そろそろ軍議の時間です」
「ああ、そんな時間か・・・・よし、行こうか」
「はい」
張昭に付かせて内政などを学ばせ、弟に預け軍学を学ばせたところ、その才覚は想像以上だった。
「ところで尚」
「なんでしょう?」
「うちの娘を誰か貰ってくれんか?」
「雪蓮様に殴られたいのでしたらご自由に、ですが私はお断りいたします」
歳は次女と同い年だったと記憶している、時折こうやって娘の一人を嫁に、と思うのだが断られてしまう、まんざらでも無いはずだよな、とか考えたりする、だって俺の娘は皆綺麗だもの、とか考えたりするあたり赤虎は親バカなのだろう。
:秣陵城軍議の間
「お待たせいたしました」
尚が扉を開けると、そこには今秣陵にいる孫家の主要人物が勢ぞろいしている。
「いいわ、どうせ父様がフラフラしてたんでしょ?」
赤虎と同じ褐色の肌に桃色の長髪の女性は孫策伯符、真名を雪蓮と言い赤虎様の長女だ。
「まったくお父様は何時もだらしないんだから」
そして同じく褐色の肌に桃色の、短髪の少女。名を孫権仲謀、真名を蓮華、赤虎の次女だ。
「お前ら実の父親に向かって容赦無いね」
少しばかり、赤虎を憐れむような表情をする青の総髪の男が魯粛子敬、真名を雷刃(ライハ)、雪蓮の幼馴染であり、尚にとっては兄貴分のような人物だ。
「まぁ雪蓮らしいというか蓮華様らしいというか」
こちらで呆れ顔な黒の長髪に眼鏡の女性は周瑜公瑾、真名を冥琳、雪蓮、雷刃の幼馴染。
「ふぉっふぉっ、若い連中が元気が良いのぉ」
ケラケラと笑う白髪頭でヒゲの長いお爺さんが張昭子布、真名を氷岐(ヒョウキ)、赤虎の父の代から仕えているという、文官筆頭も務めるスーパー爺さんだ。
「戯け、何時までも話が進まぬ・・・赤虎様、早う席へ」
左目に眼帯をつけた、筋骨隆々な男、名を程普徳謀、真名を誾、赤虎の幼馴染であり、筆頭武官の職を担う。
「うむ」
尚が末席へと座し、赤虎が上座へと座る。
孫堅、孫策、孫権、魯粛、周瑜、張昭、程普、諸葛謹、孫家の本営である秣陵はこの八人により収められている。
「では、此度の議題だが・・・」
誾が立ち上がり、円卓中央に地図を広げる、地図は揚州一帯のもの、数箇所にバツ印が付けられている。
「近頃、揚州全体・・・・否、漢全体での賊の出没件数が増加しておる、しかも想像を遥か超えた速さでだ」
「とは言うがのぉ、どの程度の規模なのじゃ?」
「百人以上の規模の賊の出現率が特に多い、また中には統制の取れた動きをするものもある」
「賊が統制だと?」
「然り」
ただでさえ凶相な顔を歪め、誾が頷く。
賊が増えている、そのせいもあり中央にいたはずの孫静、黄蓋、韓当、朱治、祖茂といった主要武官の殆どが出払う、という状況にあるわけで。
どうしたものか、と思案する一同、そんな中、あ、と何かを思い出したような声が響き、皆がそちらを向く。
「ああ、そう言えばちょっと話が逸れるが・・・」
ヒラヒラと手を上げる雷刃。
「美羽から手紙来てたぜ?」
「美羽から?」
袁術公路、真名を美羽、揚州と隣接する寿春一帯を収める名門袁家の少女、今は亡き彼女の父袁逢と赤虎が洛陽官吏時代の友人であり、その関係もあってか同盟を結び、何かと協力体勢を取っているのだ。
「ああ、人手がどうしても足らんから貸してくれ、とさ」
やはりか、と皆がため息をつくのだが、それには理由がある。
美羽は名門袁家の出自だ、だが異母姉の袁紹の存在がある、袁家内の主だった人材を袁紹に連れて行かれた上に、袁家の威光を見せつけるなどという訳の分からぬ理由から、寿春一帯で賄うには多すぎる10万という軍勢を背負わされている、それをまだ10歳そこらの美羽に張勲、紀霊、閻象の四人だけで動かさなければならないというのだから当人らにとってはたまったものではない。
「う・・・・む、すまんが誰か行ってくれるか?」
この状況だ、赤虎とて本来は人手を貸し出すなどしたくない、だが娘同然に接してきた美羽の嘆願、これを断れる程赤虎は非情では無いのだ。
「・・・分かりました、私が行きましょう」
そういって尚が立ち上がると。
「お父様、私も行って参ります」
と、蓮華も立ち上がる。
「分かった、あと甘寧と馬忠も連れて行け」
その言葉を背に聞きつつ、二人は軍議の間をあとにするのだ。
「灰、話は聞いていますね?」
「はっ!」
「直下の兵300だけを連れて行きます、何時でも出れる準備を」
「御意!」
軍議の間の外に待機していた二人の人物。
黒髪ポニーテールの少年、名を馬忠、真名を灰、尚の補佐役である。
そして紫色の髪に切れ長の眼、どことなく常に不機嫌に見える少女、名を甘寧興覇、真名を思春、蓮華の副官であり護衛も勤めている。
「思春、私の隊にも動員の命令を出して頂戴」
「御意」
せわしなく駆けていった灰とは違い、音一つなくその場からいなくなった思春。
「しかし、名門というのも大変なようですね」
「ええ、四人で十万の軍なんて過剰兵力なんて話では済まないわ」
「貞さんが心労で倒れないかが心配ですね」
「七乃と祈の補佐があっても厳しいでしょうしね」
「我々四人の加勢で少しでも楽になって欲しいものですが・・・」
一度顔を見合わせた尚と蓮華は、深くため息を一つつくのだ。
:3日後:寿春城
兵数500に尚、蓮華、思春、灰と数人の新人を伴い、孫家からの派遣組が寿春へと到着していた。
「おお、来てくださったか・・・お待ちしておりました」
城門で迎えに出てくれた目の下にクマを作り、黄色の重装備に身を包む、名を紀霊、真名を貞、袁術軍にその人あり、とまで言われる筆頭武官だ。
「貞さん・・・少し窶れましたか?」
「最近しっかりと寝ているの?顔色も悪いわよ」
「これでも、初めに比べれば寝ている方なのですが・・・」
乾いた笑いを浮かべる貞さんは、相変わらず忙しいらしい。
「おや?」
ひょっこりと姿を現したのは黒いおかっぱ頭の、人形では無かろうかと思わせる程容姿端麗な少女。
「
「んー、私の読み仮名がおかしかったのは・・・・・・気のせいかな?」
「気のせいでしょう」
ケラケラと笑うこの少女、名を閻象、真名を祈、袁術軍の筆頭文官だ。
「あら
「やっぱり君ら私の事を違う読み仮名で呼んでるよね?」
「なんの事でしょう?」
その後から現れた青髪の少女、名を張勲、真名を七乃、袁術軍の・・・・・・一応軍師らしい。
「おお、尚!蓮華!よく来てくれたのじゃ!」
その合間を縫ってがしっと尚に抱きついてきた金髪の少女こそ、この寿春を収める袁術公路、美羽である。
「美羽様の頼みとあってはこないわけにも行きませんよ」
「そうよ美羽、貴女は私にとっても妹のようなものなのだから」
そういって二人で美羽の頭を撫でると気持ちよさそうにしている。
「さて、こちらの状況をお教えいただけますか?」
尚が早速、と本題に入る事にした。
「うむ、近頃増えてきた賊に少々引っ掻き回されていてな、陳蘭や李豊、梁綱といった経験不足の連中が対処しきれなくなってきているのだ」
「ああ・・・とは言えこちらも今回は私を含めた四人意外は経験の浅い者です、ので・・・・」
「ので?」
「どうせですから経験を積ませましょう、堅実に賊を仕留めながら、です」
「おお~」
「パチパチパチ」
「・・・・・他人事みたいにしていますが七乃さん、祈さん、貴女方もですからね」
『えー』
ふぅ、とため息を一つつけば。
「さて蓮華様、思春さん、灰、亞莎さん、夕姫さん、香さん、荷下ろしを済ませましょう」
今回連れてきた三人の新人、一人は呂蒙子明、真名を亞莎、一人は潘璋文珪、真名を夕姫、一人を虞翻仲翔、真名を香、それぞれ黄蓋、祖茂、張昭の三人の推薦により将校へと昇格した人材であり、今回の寿春への遠征を機に経験を積ませてくれ、と頼まれたのだ。
「そう言えば尚、三人を遠征後誰に預けるか、決めたの?」
「はい、亞莎さんは雷刃さんに、夕姫さんは誾様に、香さんは冥琳様に、それぞれお願いする心づもりです」
「それは新人たちを師事させる相談かしら?」
面白そうなものを見つけた、と言わんばかりの表情で口を挟んでくるのは祈だ。
「ええ、そうですよ」
「何か意見があるなら聞くけれど?」
「んー、香ってあの片目隠した娘よね?」
「ええ、間違いありませんが・・・」
「なら君が担当すれば良い」
「・・・・・・私がですか?」
「援軍の責任者に選ばれるという事は孫家でもそれなりに引き上げるつもりがあるのだろう?ならば後進の指導ぐらいしてみたらどうだい?」
「そうね、それも一理あるかも知れないわ」
「いえ、ですが・・・」
自分に指導など出来るのだろうか?と思案する尚。
「まぁこの遠征が終わるまでに決めれば良いよ、君が決める事だし」
自分で言っておいて自分は関係無い、と言わんばかりにコロコロと笑う祈、色々と荒れるかも知れない、そんな予感を感じる尚であった。
尚の立ち位置は原作の呉ルートの一刀に近いです。多分フラグ立ちまくります、どうなるかは・・・・楽しみですね(w