真・恋姫✝無双 新たなる外史   作:雷の人

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第五話:次世代

:寿春西部原野

 

「呂蒙隊、潘璋隊は右より、李豊隊、梁綱隊は左より敵軍を締め上げてください!」

 

兵数はこちらが千、あちらが500、揚州に出る賊よりも規模の大きいものだ。

 

右翼からは亞莎、夕姫の率いる300の騎馬が、左翼からは李豊、梁綱の率いる300が賊軍を両側から締め上げている。

 

「美羽様、大丈夫・・・・ですか?」

 

後から聞こえる声に振り向けば、顔を蒼白にしながらも、戦場から眼を離さない美羽、と傍らで心配そうにする七乃。

自分で戦場を見る、そう言った美羽の眼には何か強い者が宿っており、七乃や祈、貞も止めたのだがその程度で止まるわけなど無く、結果として、今の状況にある。

 

「これが、戦」

「ええ、そうです」

「・・・人が死んで行くのじゃ」

「はい、それが今の世の中です」

「・・・・・・」

 

ふぅ、と息を一つつけば。

 

「紀霊隊、甘寧隊、馬忠隊に合図を!中央を潰します!」

 

本陣100を残し、紀霊、甘寧、馬忠が300の重歩兵で中央を抜く。

 

「・・・・・・さて、後始末は祈さんと香さんに任せましょう」

「・・・・・そうね」

 

あっさりと壊滅した賊、既に尚たちが寿春へと来てから半月が経つが既に出撃数が数え切れない事になっている。

亞莎、夕姫の将としての素質はそもそも高水準、半月の間に才能を開花させつつある、また李豊、梁綱ら袁家の将も、素質としては亞莎、夕姫には劣るものの、努力と経験でそれらを補い、並び立っている。

 

:寿春城太守府

出迎えた祈と香、この半月の戦は、この二人をも成長させた。

元々能力はあるのに発揮しきれていなかった祈。

内向的な性格のせいで実力が表面に出なかった香。

度重なる戦の戦後処理などを二人が中心となって行う、という事はやや荒療治ではあったものの、二人の能力を引きずり出すという結果に繋がっている。

 

「秣陵から書状です」

 

祈から手渡された書状を、尚が受け取り、その場で読む。

 

「私と蓮華様に帰還命令、ですか」

「どういう事?」

「わかりません、ですが・・・・恐らく何か動きがある、という事でしょう」

 

クシャリと書状を丸めれば。

 

「香さん、亞莎さん、夕姫さん、帰り支度を済ませましょう・・・思春さん、灰」

「はっ」

「はい」

「残り任期の一月半、貴方がたにここを任せます」

「!?」

「尚様、それは・・・」

「異論は認めません」

「理由を、聞かせていただけますか」

 

思春の、重く低い声に、ふぅ、と息を一つ吐き出せば。

 

「今の孫家には若手の将が少ないです、主だった将も孫静様、黄蓋様、韓当様、程普様、祖茂様は既に30を超えました、朱治様も30手前です、若手の指揮官も雪蓮様、冥琳様、雷刃様が24です」

「・・・・・・」

「私も将、というよりは軍師に近いですし蓮華様も前線の将ではありません、故に・・・・・・」

 

ピッ、と思春を指差し。

 

「思春さんや灰、お二人には成長して貰わねばなりません・・・・前線の将として、ですので半月の任期の間に課題を設けます」

「課題、ですか?」

「はい」

 

思春に向けていた指を、上へと向けて立てれば。

 

「賊がここまで組織的に動く、という事は当然指揮官がいます・・・・お二人と寿春の人員で、これを討ってください」

『・・・・・・』

 

課題、と気軽に出すには難題だ、その指揮官が見つけられないから鼬ごっこを繰り返していたというのに。

 

「正直ですね、私は指揮官の居場所に心当たりがありました、ですが・・・・・あえて討ちませんでした」

『!?』

「皆さんを成長させる時間が欲しかったので、ですが・・・・本営からの呼び戻しとなれば任期中に戻るのは難しいでしょう、ですから・・・・貴方がたに任せます・・・・・」

 

クルリ、と身を翻す尚、その背を、顔を真っ青にした二人が見送るのだ。

 

「厳しくしすぎじゃない?」

 

太守府の門を出ると、そこには蓮華が。

 

「あの二人ならば出来る、と踏みました、それに見つけ出す手がかりもこの半月で与えています・・・課題とは要するに」

「それに気づけるか、という事?」

 

無言で頷く。

 

「前線の将に、特にあの二人のように攻めに回る将に必要なのは敵将を探り当てる嗅覚です」

「嗅覚?」

「はい、軍の配置、兵の動き、様子などから状況を探り当てる能力です・・・黄蓋様や韓当様がこういうのは得意ですね」

「それを思春と灰にも求める?というわけ?」

「はい、先ずはあの二人です・・・今のところは、ですが」

 

ようやく、納得した表情を見せる蓮華。

 

もはや癖になりつつあるのだが、一つ、息を吐いて空を見上げれば。

 

「さて、戻りましょう・・・・・秣陵へ」

 

時代は、静かに動き始めている、尚は、それを感じ取っているのだった。

 

:秣陵北部

 

帰路も鍛錬のため、と行軍速度を僅かに落とし、寿春と秣陵の中間地点で夜営する事になった。

 

「さて、と・・・本題に移りましょうか」

 

あちらこちらで焚き火を囲む兵士たち、そのうちの一つには、尚、蓮華、夕姫、亞莎、香が集まっている。

 

「夕姫さん、亞莎さん、香さんには秣陵に戻り次第、それぞれ別々の方に師事していただきます」

「師事、ですか」

「はい、この半月で、正直三人共私の予想を上回る技量を身につけてくださいました」

「・・・」

「後は先達の背を見て学び取っていただきます」

「誰が、誰に師事する事になるのでしょうか?」

 

ピッ、と手を上げて問いかけてきたのは亞莎だ。

 

「夕姫さんは誾様の下へと行っていただきます」

「んげっ!?・・・せめて他の・・・」

「異論は認めません」

「鬼!悪魔!」

 

誾は性格は外見にそぐわず案外穏やかなのだが軍務に携わる時にはその限りでは無い、孫家の将兵、また近隣の賊をして『隻眼鬼』と呼び恐れ敬われているのだ。

 

「亞莎さんは雷刃様の下へとついていただきます」

「理由を・・・お聞かせ願っても?」

「今の孫家で前後衛両方をこなせる将は雷刃様ぐらいです、亞莎さんには雷刃様に次ぐ両面の将となっていただきたいのです」

「私に出来るのでしょうか・・・・・・」

「大丈夫、できますよ」

 

雷刃は普段やる気なさそうにしているが、時に猛将として前に出て、時に知将として後で指示を出す、万能型の将、亞莎に目指して欲しいのはその位置だ。

 

「そして香さんですが・・・」

「・・・・・・はい」

「私が受け持ちます」

「!尚様が・・・・ですか?」

「はい」

「あの・・・・」

 

ふと疑問を持ったのか、亞莎が手を上げる。

 

「冥琳様では・・・・ダメなのでしょうか?もしくは氷岐様」

 

香の性格は内向的、と言うよりもむしろ人間不信に近いものがある、否、男性不信であろうか、自分もそれを知っているし、亞莎も知っているので女性である冥琳か唯一、香が慣れている氷岐を提示したのだろう。

 

「私も最初はそう考えました、ですが香さんには次世代の軍師として活躍していただきたい、ので内政専門の氷岐様は除外です、冥琳様でも良いのですがあの方も筆頭軍師を継いで、今また陸家のご息女を弟子にとっております、これ以上の負担はかけられません・・・ですので私が受け持つことに致しました」

 

そして何より、これから先を戦い、生き抜いて貰うためには男性不信など乗り越えてもらわなければならない、そのための配置でもある。

 

「私や蓮華様、おいてきた思春さん、灰を含め、ここにいる将校は次世代の孫家を担う者」

 

空を見上げる。

 

「多少強引であっても、皆様には強くなっていただく」

 

それが今は亡き叔父との約束なのだから・・・・・・




尚は前作に比べて率直な物言いをするようになりました。
次回は曹魏編です。
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