真・恋姫✝無双 新たなる外史   作:雷の人

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第七話:予感

:夜:陳留城

:氷影自室

 

「・・・・・・桂花、自分の床で寝なさいと何度言いました」

 

軍務を終え、自室に戻った氷影、自分がいつも寝ている床の上には、寝間着姿の桂花が。

 

「いえ、今夜こそお情けを」

「帰りなさい」

 

まるで猫でも扱うかのように首根っこを掴んで部屋の外へと放り投げられる桂花。

 

「んー」

 

さて、男性嫌いの筈な桂花が氷影に対してこういう事に及ぶのには理由がある。

 

五年前、まだ桂花は曹操軍に仕官しておらず、貴族の子息として何不自由無く暮らしていた。当時、曹操の父曹嵩に桂花の父荀緄が仕えており、曹家と荀家の関係性は良好とも言えた。

そんな中、曹家と荀家の繋がりを危険視した豪族の一人が、刺客を送り出した、狙いは桂花、曹家の領内で娘が殺され、しかも刺客がわざと捕まって曹嵩に命じられた、と虚言を吐き両家の繋がりを崩す計画だったらしい。

それを防いだのが氷影と蒼季、伯の三人だった。その計画を一速く察した伯が氷影と蒼季に桂花の護衛を依頼、当時繋がりのあり今は軍で隊長職などについているゴロツキたちに協力を仰ぎ計画阻止へと動いた。

結果としては成功だった、しかし刺客から桂花を庇い氷影が重傷を負う。

話を聞くと当時は、助けてもらった恩義を返すべく氷影の看病を買って出た桂花、まぁ借りを作るのが嫌いというのは当時からだったらしい、だが看病をしながら、当時の状況を思い返すに連れ、不思議な思いが心を埋め尽くしていったのだと言う、何をしていても氷影の事を考えてしまう、と。

それが恋である、と気づいた桂花は、生来持ち合わせていた行動性を遺憾なく発揮し、死ぬ気で経済学、軍学などありとあらゆる知識を学び華琳の眼に留まる程の力をつけ仕官したのが二年前、そして今に至る、というわけだ。

 

:蒼季自室

 

「お前らね、四人でこの床に入りきれるわけねーでしょ、自室に帰りなさい」

『えー』

 

自室に戻った蒼季が見たのは、やたら扇情的な格好で床に横たわる真桜、唯夏、愛理の三人、並みの男性なら慌て、スケベなら手を出しただろうが蒼季はそうもいかないわけで、サラッとまっとう至極なツッコミを入れて三人を部屋から追い出す。

 

この三人が蒼季にこうやって色仕掛けをするのは以前から続いている、だが意に介さない蒼季。

 

真桜は、元は義勇兵だった。紗和と二人で山賊と戦うために郷里の若者に呼びかけ義勇軍を結成、したのだが規模100人程度に対し唐突に500の賊に襲われた、抗う事も出来ず、死を覚悟した時に現れたのが蒼季率いる300の歩兵だった。数で劣るのに見事な連携で賊を駆逐する兵士たち、その中を、無人の野を行くが如く駆け抜ける蒼季の姿に「キュンと来た」と真桜は語る。

 

唯夏は、蒼季の従妹である。小さい頃から何かと蒼季に助けられる事があったらしい。何時か自分も「お兄ちゃん」を助けたい、そう思って鍛錬を積み重ね、蒼季より数年遅れで入った軍。蒼季は以前よりも更に強く、そしてカッコ良くなっていた、一目惚れ、というのもおかしい、元々地盤が出来上がっていたんだろう、ともかく、好きになってしまった、昔の優しいお兄ちゃんの面影を残したまま、凛々しく成長した従兄の姿が。

 

愛理は、あの時行き倒れていた、水鏡塾で諸葛亮、鳳統と言った友人と共に学び、その力を試したいと友人たちよりも早めに荊州を出たのが一年前、しかし幼き容姿ゆえか、どこに仕官しようとしても相手にされず、食うにも困り、陳留の街までたどり着いた時には、栄養失調で倒れていた。

次に意識を取り戻した時、その人は傍らにいた、ぶっきらぼうな、それでいて優しい声で大丈夫か、腹は減っていないか、と声をかけてくれた。

体調も回復し、普通に動けるようになった頃、自分を助けてくれた人、曹純に頼み込んで任官試験を受け、その実力を認められて曹純の下で働くようになった、全てはこの人のおかげ、生涯を、自分の全てをこの人に捧げよう、そう思った。

 

:朝:陳留城食堂

ため息をつく兄弟二人。

 

「最近桂花が・・・・」

「そっちぁ一人だろ、こっちは三人だ」

 

聞く人が聞けば逆ギレされかねない状況ではあるが。

 

「早々に想いに答えてあげれば良いじゃない」

『華琳』

 

二人が視線を向けた先には、華琳がいる。

 

「食堂でとは珍しいな」

「今日の朝餉が酢豚だと聞いたのよ、料理長の酢豚は美味しいのよ」

「華琳が認める程とはな」

 

取り敢えず朝飯を食べ始める三人、君主に筆頭、次席武官の座る席にわざわざ近づくもの好きは少ない。

 

「一応言っておくがな」

 

切り出すのは蒼季だ。

 

「想いに答えれば良い、と言うがな・・・・それは思った以上に責任を伴うもんだ」

「うむ、軽い気持ちで答えて良いものでは無く、こちらもそれ相応の覚悟を要する」

「今はまだ応えるつもりは無い、何時か応える時が来るかもしれんが・・・今は無い」

「二人とも堅く考えすぎではなくて?」

「言っとけ」

 

それからしばし無言で食べ続けて華琳が先に席を立つ。

 

食堂の入口を通り過ぎると、華琳が。

 

「と、言う事らしいわ、後は貴女たちの努力次第よ?」

 

楽しげに哂う、物陰に隠れていた桂花、愛理、唯夏、真桜が姿を現す。

 

「気づいてらっしゃったのですか?」

「あの朴念仁二人は気づいていないようだったけれどね」

「それであんな言葉を投げかけられたので?」

「ええ、何時までもただただ断られるだけでは不憫だもの、貴女たちは私にとっても大事なのだから、しっかりした人と恋をして公私共に幸せになり、尚且つ私を支えて欲しいの」

「氷兄と蒼兄はしっかりした人だ、と?」

「ええ、主観的にも客観的にも有望な、ね」

「んー、頑張ります」

「ええ、頑張って頂戴」

 

華琳は本気で四人を応援している、自らの収める土地に住まう民には幸せになって欲しく、臣下たちも幸せであって欲しいからだ、そして・・・・四人の男を選ぶ眼は確かだと思っている、あの二人なら申し分は無い、落す手伝いをするのに些かの抵抗も無いのだ。

 

:午後:陳留郊外

ここ半年程で、賊の数が増加しつつある、その事を榊も感じ取っていた。

 

「押せ!」

 

榊の号令に応じて、突撃を仕掛ける兵士たち、本来は蒼季が賊討伐に出るはずなのだが代理として榊が戦場に出ていた、その指揮は歴戦の武官たちにも劣らず、堅実な采配で賊を討伐仕切っていた。

 

「・・・・・・黄色の巾、か」

 

ことさら、近頃の賊は妙な事に黄巾を身につけている連中が多い、強さも以前の賊と違う。

大陸が荒れる、榊は、確かな予感を持っていた。

 

:夜:陳留城警備隊屯所

 

「以上が報告になります」

「おう、ご苦労」

 

今日の賊討伐の結果報告をする榊、懐から竹簡を取り出し。

 

「それとこちらが新任部隊長の人事案です、お目通しを」

 

手渡された竹簡を、開いて眼を通す。

 

「朱霊に文聘、王忠、王基か・・・・無難な人事だ、お前から当人たちに伝えてくれ」

「承知しました」

 

普段通りならば、ここで報告が終了し、榊も屯所を出るのだが、直立したまま動かない。

 

「どうした?」

「近頃、黄巾をまとった賊が増えております」

「ああ、そういやぁ秋蘭とか兄貴もそう言ってたな」

「何か、嫌な予感がするのですが」

 

この副長は、妙な勘が働く、そのおかげで回避できた危機もあった、信用出来る勘だ。

 

「・・・・俺もそう思う、まぁ・・・・何かあるとすれば三ヶ月以内、かな」

「・・・・大事に、ならなければ宜しいのですが・・・・」

 

二人の予感は、図らずとも的中することになるとは、この時は思いもしなかった・・・・・・




想像以上に桂花が氷影にデレデレです。曹操陣営がやや孫堅陣営に近しい空気になりつつありますね、まぁそれはそれで面白いので放置しますけど。
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