ラブライブ! ~寡黙な男子高校生とµ’sの日常~   作:孤独なcat

58 / 70
今回で希編終わりっす


希の望み Part3 ~μ'sの名付親の我儘~

着いたのは何の変哲もないただのマンションだった。

希の部屋の中に入ると若干の異変に気付いた。

まずは玄関付近。家族で暮らしているとするならば靴の数が少なすぎる。あと部屋が真っ暗な上に間取りが狭い。どうもこれはオレの境遇と似てなくもない。

 

おそらく希は一人暮らしかと思われる。

 

希はオレと真姫と希を椅子に座らせるとお湯を沸かした。

 

昌信「一人暮らしか?」

希「…うん。」

 

やはり。

オレは兄貴と住んでるが親と暮らしていないという点では希と同じである。

 

てか、今はそんなことどーでもいい。

 

希「子供の頃から、両親の仕事の都合で転校が多くてね」

真姫「そう…」

絵里「だから、音ノ木坂に来てやっと居場所ができたって」

希「その話はやめてよ。こんなときに話すことじゃないよ」

 

お湯が沸いた音により話がまた中断された。何か丁度いいところで中断されたようだ。

 

真姫「ちゃんと話してよ。もうここまできたんだから」

昌信「そうだな。お茶飲みにきたわけじゃねえからな。」

絵里「そうよ。隠しておいてもしょうがないでしょ」

 

真姫の言葉にオレと絵里が便乗する。

 

希「別に、隠してたわけやないんよ。エリチが大事にしただけやん」

絵里「ウソ…μ'sを結成した時からずっと楽しみにしてたことでしょ?」

希「そんなことない」

絵里「希!」

希「ウチが、ちょっとした希望を持っていただけよ」

 

どうやら希はこのままぼかしていくつもりだ。しかしそんなことはさせたくないかった。

 

真姫「いい加減にして! いつまでたっても話が見えない。どういうこと! 希!」

 

正直オレも全く話が見えなかった。オレが言おうとしたことを真姫が代弁してくれた。

 

絵里「簡単に言うとね、夢だったのよ。希の」

希「エリチっ」

絵里「ここまできて何も教えないわけにはいかないわ」

 

自分が話さない限り、希は絶対に話さないと確信したと思われる。

本人がブレーキをかけても、絵里は止まらない。

 

真姫「夢? ラブソングが?」

絵里「ううん。大事なのはラブソングかどうかじゃない。11人みんなで、曲を作りたいって」

昌信「…」

絵里「1人1人の言葉を紡いで、思いを紡いで、本当に全員で作り上げた曲……そんな曲を作りたい。そんな曲でラブライブに出たい! それが希の夢だったの。だからラブソングを提案したのよ。うまくいかなかったけどね。みんなでアイデアを出し合って、1つの曲を作れたらって……」

 

つまりラブソングに拘っているわけではなかったわけか。本当に全員で曲を作り上げたい結果、1人1人の言葉や思いを反映しやすいのはラブソングってことか。

 

希「言ったやろ。ウチの言ってたものは夢なんて大それたものやないって」

真姫「じゃあ何なの?」

希「……何やろね」

 

次第に希自身が思っていることが明らかになっていく。

 

希「ただ、曲じゃなくてもいい。11人が集まって、力を合わせて、何かを生み出せれば、それでよかったんよ。ウチにとってこの11人は、奇跡だったから」

真姫「奇跡?」

希「そう。ウチにとってμ'sは、“奇跡”」

 

希は自ずと過去から思いを引っ張ってきた。

 

希「転校ばかりで友達はいなかった。」

 

親の都合と言われてしまえば仕方ないものの、そのせいで友達を作る暇もなかった。そのうち必要以上の関係を持ってしまえば別れが辛くなるという理由で自分から作ろうとはしなかった。そう心に嘘をついてきた。

 

希「当然、分かり合える相手も」

 

幾多もの転校をしていくにつれ、1人の時間が嫌でも多くなってしまった。

 

学校でも1人。

家に帰っても両親は仕事でいないから1人。

 

希「初めて出会った。自分を大切にするあまり、周りと距離を置いてみんなとうまく溶け込めない。ズルができない。まるで自分と同じような人に」

 

1人の時間が多くなって結果的に得てしまったその観察眼で、すぐに分かった。この子は自分と同じタイプの人間なんだろうと。言動は違えど、根本的な中身が一緒なのだと。

 

希「思いは人一倍強く、不器用な分、人とぶつかって……」

 

だからこそ、この人には強く興味を持った。

関わってみたいと思った。

 

今でも思い出す。

初めて話しかけたあの日のことを。

 

 

希『あ、あの……!』

絵里『……あなたは?』

希『わ、私……ッ……。ウチ、東條希!』

 

近づくために初めてらしくもない口調を使い始めた。転校や引っ越しばかりで関西に行ったこともあるのが幸いしたのかもしれない。

結果的にそれは成功した。

 

希「それがウチとエリチの出会いやったんよ。」

昌信「これが似非関西弁使うようになった理由か…」

 

オレの言葉に希は微笑みながら首を縦に振る。

 

希「……そのあとも、同じ思いを持つ人がいるのに、どうしても手を取り合えなくて、真姫ちゃん見た時も熱い思いはあるけどどうやって繋がっていいか分からない。そんな子が、ここにも…ここにも…たくさんいた」

 

スーパーアイドルになるために1人で頑張る女の子もいれば、憧れを持つと同時に同じアイドルになりたいと心の奥底で思っている女の子もいる。女の子らしくしたいのにあと一歩が踏み込めない女の子もいれば、もう一度音楽の世界に戻りたいけどなかなか踏み出せない男の子がいる。そんな人達が近くにいた。

 

 

希「そんな時、それを大きな力で繋いでくれる存在が現れた。思いを同じくする人がいて、繋いでくれる存在がいる。必ず形にしたかった。この11人で何かを残したかった」

 

それがμ's。

思いがあって、したい事があるのに素直になれない。そんな思い達を、1つの存在で全て解決できるなら、それはとても素晴らしいことだ。

 

希「確かに、歌という形になれば良かったのかもしれない。けど、そうじゃなくてもμ'sはもうすでに何か大きなものをとっくに生み出してる。ウチはそれで充分。夢はとっくに……ッ」

 

ふと、茶の水面に過去の自分が映った気がした。

それは当たり前に揺らぎ、まるで未練がまだあるかのように迷いを見せる。自分の心を映しているような、そんな感覚。

 

希「……一番の夢はとっくに…だからこの話はもうおしまい。これでええやろ?」

昌信「ええわけねえわ。はぁ…全く。相変わらず面倒な人だ。」

真姫「そうね。」

希「……え?」

 

オレはお茶を一気飲みする。…熱いけど我慢だ。

 

昌信「あ”あ”ぁ~!あっつい。よーし。全員招集すっか。」

 

オレがスマホを手にすると絵里も真姫も取り出した。

 

希「まさか、みんなをここに集めるの!?」

真姫「いいでしょ。一度くらいみんなを招待しても。友達、なんだから」

昌信「μ’sを作ってくれたんだぜ?我儘は言うべきだ。」

 

こうしてμ’sの緊急集会In希宅が開催された。

 

 

 

~*~

 

 

 

穂乃果「ええ! やっぱり作るのー!?」

真姫「そっ、みんなで作るのよ」

 

話し合いが始まるかと思えば、一言目でそんなことを言うのはリーダー穂乃果。

他のメンバーも真姫があれだけ反対していたのに、この態度の変わりように少し驚きを隠せていないようだ。そりゃそうだ。オレだって少し驚いてる。

 

ことり「希ちゃんって一人暮らしだったんだね」

海未「初めて知りました」

花陽「何かあったの、真姫ちゃん?」

真姫「何にもないわよ」

絵里「ちょっとしたクリスマスプレゼントよ。ね?」

昌信「そうだ。μ'sからμ'sを作ってくれた女神へのプレゼントだ。」

 

概要を簡単に説明して作業に取り掛かった。

 

花陽「なるほど。みんなで言葉を出し合ってかぁ……」

陽翔「ま、そんな難しく考えることはねえよ。ん? おお!これは……」

 

西島が花陽にアドバイスし、軽く部屋を見渡していると、1枚の写真が置かれていた。

今となっては少し懐かしささえ感じる夏のある日の写真。

 

希「あ、ああっ!」

陽翔「ぬぉぉ!?」

 

背後からすんなり写真を取られた。

珍しく赤面した希が講堂で撮った写真を大事そうに抱えている。完全にいつもとは違う雰囲気のにこがからかいを始めた。

 

にこ「へえ、そういうの飾ってるなんて、意外ね」

希「べ、別にいいやろ……。ウチだってそのくらいするよ。……友達、なんやから……」

 

希の言葉にみんなが喜ぶ。凛に至っては希に襲い掛かった。もちろん希は枕でガードした。

 

絵里「暴れないの。たまにはこういう事もないとね」

希「……もうっ」

 

呆れながら言うも表情は明るかった。

 

穂乃果「あ、見て!」

 

みんなも穂乃果の視線を追って窓の外に目を向けると外は雪が降っていた。

おそらく初雪かと思われる。

 

昌信「(関東にしちゃあ雪が降るの早いな…)」

 

気付けばドタドタと家を出ていく女子の面々。

残されたのはオレと西島だけ。

 

陽翔「…オレたちも行こうぜ。」

昌信「フッ…しゃーねえな。」

 

家に残るか少し悩んだが結局行くことにした。

もちろん周囲に怪しい人物(浅井も含む)がいないか確認したうえで。

 

昌信「おーい、寒いからあんまり長居はするんじゃ――」

 

誰かの指示でもない。なのに、9人の女神は綺麗に円形を形作っていた。あまりにも自然な光景に、まるでステージの上に立っているアイドルのようにも思えた。

 

それを見たオレと西島は言葉を失った。

 

街灯のおかげか、雪の一つ一つが、輝きにも似た照明でμ'sを照らしているように見えた。

 

 

 

 

それぞれの女神の掌に、結晶が舞い降りるかのように落ちてゆく。

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

穂乃果「想い……」

 

 

 

 

 

花陽「メロディ」

 

 

 

 

 

海未「予感」

 

 

 

 

 

凛「不思議」

 

 

 

 

 

真姫「未来」

 

 

 

 

 

ことり「ときめき」

 

 

 

 

 

にこ「空」

 

 

 

 

 

絵里「気持ち」

 

 

 

 

 

希「……好き」

 

 

 

 

 

どこまでも純白なメンバー全員の想いは、掛け替えのないものへと変わっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

街灯に照らされ、数多の雪が降り。

ぼんやりとしていながらも、眩しいと錯覚してしまえるほどに女神を照らし続けている光景はとても芸術的だった。

 

 

東條希は言った。

9人だけではない、11人で何かを残したかったと。

 

 

 

 

 

 

9人の女神の守護星である少年2人もまた

この光景を見守るのであった。




次回も頑張りますかね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。