「はぁ、世界初の男性IS操縦者?」
そんなこんなで新帝国重工を成長させ、世界に根を伸ばすついでに世界を回り、色々本編前に干渉したり亡国機業を苛めたりしつつ。
衛星軌道基地で建造した月開拓用基地を月へと送り、そこで月開拓を行なっていた俺のもとに届いた地球からの通信は、要約するとそんな話だった。
『ああ。しかもどうやら背後には倉持技研が糸を引いているらしい』
「あそこか……」
ついつい呆れたように零れる声。
倉持技研といえば、初代ブリュンヒルデ・織斑千冬のIS・暮桜の整備なんかを担当し、同時にそのフィードバックから、日本の第二世代型量産機の一つ、『打鉄』を出した会社だ。
あそこは織斑千冬を擁し、同時に最も古く、国の直営と言うことも在ってかなりの大手IS企業と呼べるところだろう。
ただ今のあそこは仕事が物凄く遅い。嘗ては研究企業として優秀だったあの会社は、国から優遇される地位に腐り、既にその開発速度は「お役所仕事」といって差し支えの無いほどにダメダメになってしまっている。
暮桜なんてしっかりとしたお手本を持ちながら、量産型の打鉄を作り上げた時点でストップしたダメダメ企業。それが俺の倉持技研に対する眼だ。
『ウチがシズラーシリーズを出した所為で、あそこ大分プレッシャーを掛けられていたからな。織斑千冬経由か、それとも国家経由か。此方を出し抜く形で彼の専属契約を取っていったよ』
「日本国内のシェアだと打鉄がトップなんだけど、世界的普及ならもうウチに抜かされちゃったしな」
2年前に新帝国重工が発表した、量産型第二世代IS『シズラー』タイプ。
Pガンバスターに比べると、フルスキンから一般的なパイロットの姿が露出するタイプの汎用モデルに。その分コストが削減され、火力はそのままに確りと第二世代としての汎用性も得ることが出来たという、中々に上出来な機体だ。
簡単に言うと、Pガンバスターが3メートル強に縮小されたガンバスターなら、シズラーはMS少女ならぬ『シズラー少女』といった感じか。
難点はと言うと、予定よりもバススロットに領域を確保できなかったことか。ラファールタイプ程にマルチロールな武器変更は不可能だが、まぁその分プリセット(内蔵)の武器がかなり在るし。
この機体の発表により、宇宙開拓事業で名を馳せていた新帝国重工は、ISの分野でも一定以上の技術力を保有しているのだという事を世界に知らしめたのだ。
「幾ら国とつながって市場に強いからって、同じ機体だけで何時までも強きでいるから追い詰められるんだろうに」
『いや、一応あそこも打鉄の後継機を研究してたらしいんだが』
「遅すぎるって。ウチはもう未完成だけど、正式版ガンバスターまで建造できてるんだぞ? 暮桜なんてお手本を持って、更にかなり早期に開発スタートした割りに、如何考えてもあそこの開発速度は遅すぎる」
『いや、ウチと比べるのは可哀想だと思うんだが……』
そういう総一郎。まぁ、確かに俺の提供した技術――俗に8号技術と関係者に呼称される――の所為で、常識では考えられない速度で発展する帝国重工と比較するのは、まぁ確かに悪かったかもしれない。
「でもな、ヨーロッパでは既に第三世代型の開発を終えて、其々実証試験に入ってるんだ。ドイツのシュヴァルツタイプなんて、既に試験量産型(ツヴァイク)の生産まで開始してるんだぞ?」
第三世代型、AIC搭載の機体であるシュヴァルツェア・レーゲン。そしてその量産モデルであるシュヴァルツェア・ツヴァイク。
既に第三世代型の量産モデルが生産され始めているという事を考えれば、最初の大きなアドヴァンテージを持ちながら、未だに第三世代型を発表できていない倉持技研の開発速度の遅さには少しくらい感じるものがあっても仕方ないと思う。
『まぁ、あそこはイグニッションプランで、EU内で技術強壮してるからなぁ』
「日本は倉持技研が優遇されすぎた、ってのと、ウチが積極的に競争しなかった、ってのがあるか」
第二回モンドグロッソ。
日本選考枠の一つを得た新帝国重工は、然し惜しくも準決勝敗退という成績を残した。
これは準第二世代機が登場しだした第二回モンドグロッソの事を考えれば、暮桜に並ぶ好成績といえるのだが、此処で準決勝に至るまで、同国同士の戦いが無かったことが倉持に余裕を与えてしまったのだろう。
つまり、
暮桜→決勝戦放棄→実質的準優勝。
Pガンバスター→準決勝敗退
比較すれば、まぁ確かに暮桜のがアドバンテージが在ると感じるだろう。
なんでそこで追いつかれないように更なる開発をしなかったのかは分らないが。
……いや、一応ワンオフアビリティーの固定化なんてのを研究して吐いたみたいだけど、ワンオフアビリティーに頼りきりの機体を作って如何するよと思わなくも無い。
「――で、その事を伝える為だけに、態々地球から直通回線を入れたってワケじゃないんでしょ?」
問い掛けると、画面上の総一郎が重々しく頷いて見せた。
何せ、そんなニュースはあと2~3時間もすれば一般開戦で此方にも入ってくるだろう。だというのに態々直通回線を使った連絡を入れてくる――。
直通回線と言うのは、文字通り月と地球の間で、本来シャトルの推進用に用いるレーザーを使い、レーザー通信を行なうというモノだ。
コレをやると無駄にエネルギーを消費してしまう上、シャトルの運航にも支障が出る。まぁ、本社のメインフレームAIがその辺りは調整してくれるとは思うのだが。
『ああ。今回の件に当って、お前には彼――織斑一夏と同時期に、IS学園へ入学してもらいたいと考えている』
「……ほ~」
まさか、総一郎側からそんな要求がくるとは思ってもいなかった……ワケでもないのだが、如何いう対応をするのかとついニヤニヤとした顔を浮かべてしまう。
因みに俺がISを動かせるのは、Pガンバスターの開発経緯上で確認済みだ。七号を拡大解釈した能力というのは、機械への相性を常に最高値に保っているらしい。
「俺をIS学園へ入れる? 俺は別にかまわんが、いくつか問題が在るだろう」
『戸籍のほうは大丈夫だ。養子として光の同年代に設定しておいたぞ』
「……おいおい」
いやまぁ、確かに俺の外見年齢は17歳程度で固定されている。実年齢はちょっと数えたくない程に喰ってはいるが。
因みに聞いたところによると、俺の戸籍に登録された名前は『八雲』になったそうだ。
まぁ『8号』なんて一般人の名前ではないし、さすがにそう名乗るのはためらわれる。それに比べれば、『八雲』の名前は元々人に偽るときに使っていた偽名なので、それほど違和感も無い。
「光ちゃんと同い年って。大丈夫なのか?」
『問題ない。というか、光もIS学園に入るんでな。ついでに光の護衛も頼む』
「……次から次へと」
『クックック、まぁ光がいるって教えておけば、ある程度は動いてくれるだろう?』
渋々頷く。俺とて、知らないならまだしも、知って態々妹分を切り捨てる心算も無い。
……この数年で、総一郎の俺の扱いがかなり上手くなってきているような気がする。まぁその分奴の弱みも色々と握っているからなんとでも成る話ではあるのだが。
「然し、いいのか? 折角此処での作業も軌道に乗り始めてるんだけど」
『問題ない。ウチのスタッフは優秀だよ。お前一人抜けても、十分に働いてくれる……っていうか、お前がそういう風に仕込んだんだろうが』
「あー、まぁ」
月面開発においてその中核をなしているのは、間違いなくこの俺であるという自負が在る。
というのも、幾ら技術的に宇宙進出が可能となったとはいえ、それでも人類が宇宙へ頻度良く出てくるようになったのは間違いなくここ数年、俺がてこ入れを始めてからだ。
そんな状況。個人の差はあれ、『人類』はまだ宇宙と言う環境に慣れていない。そんな状況で、幾ら優秀な人間とはいえ100%の力を発揮することは難しい。
ソレに対して俺は、母艦アークこそ有するが、その実本人及びバスター軍団が一定数あれば、無限に戦い続けることを想定して設計されている固体だ。
エーテル宇宙ではないこの世界。真空という環境に若干難はあるものの、それでも宇宙になれない人類の変わりは十分以上に出来る。
第一、俺の『拡大解釈されたバスターマシン7号』の力という特典。その中の、7号のフィジカルリアクターに相当する能力。
これは要するに、純粋数学で世界を好きなように書き換えるというマジキチチート能力なのだが、俺の場合これが7号に比べ、効果範囲・効果速度が圧倒的に上回っている。その上子の能力普通にこの真空の宇宙でも使えてしまったのだからもう際限が無い。拡大解釈は伊達ではないのだ。
そんな便利能力を良い様に使って続けていた月の開拓。俺が抜けると成ると、作業効率はガクッと落ちてしまうと思うのだけど。
『問題ない。というか、お前に頼りっきりでは進歩が無いだろ?』
「……まぁ、それもそうか。なら俺もソッチに戻る事にするよ。帰る前に挨拶回りしてこうと思うんだけど、何か急ぐ用事でもあるか?」
『特に無いな。強いて言うなら、光がお前に会いたがってるってくらいか』
「そうか。なら明日の便でソッチに戻るよ」
『ああ、待ってるぞ』
その言葉共にモニターの明りが消える。
「……と、いうわけで俺は地上に戻るんですけど?」
「えー!! それじゃタb……兎さんとの約束わぁ!?」
首をぐるりと90度右へ回す。ムーンベースの一角、俺のプライベートゾーンに程近い格納庫スペースの一角。
EVO-3を基にして開発されたLEV、NE-03「ダンボール」が立ち並ぶその一角。
LEVの並ぶその空間に、一箇所だけ不自然な『白』が起立し、その横には機械的なウサ耳を頭のてっぺんにつけた巨乳の美人が立っていた。
「申し訳ないけど、手伝えない……ってか、誰が原因だと」
「えー、社長の所為でしょ?」
「(ピキッ)……篠ノ之束って何処かの大天災サマのおかげだと思うんですが」
少なくとも、藍越学園とIS学園を間違えた、なんてことが自然に在るなんて、俺は絶対に信じない。因みにこれは織斑一夏について再調査した、その一部として得た事実情報だ。
証拠こそ出なかったが、少なからず目の前のこの女性が絡んでいるのは間違いないだろう。
「えー、兎さんはそのちょー完全無欠の大天才、篠ノ之束って人とはベツジンダヨ?」
「……まぁ、いいけど」
そう言って惚ける女性――自称「兎さん」。
彼女との出会いは、月の開拓が在る程度経った頃のこと。不意にルナベースに感じた違和感。何事かと艦内チェックをしてみたところ、いつの間にか彼女が基地内にもぐりこんでいたのだ。なんでも彼女、独自に開発したロケットに、独自の宇宙ステーションを量子化して積み込み、月面の上空に一人で住んでいたのだとか。調べてみたところ、確かに巧妙に光学迷彩が施されていたが、ルナベースの近隣に人口構造体らしき物の存在を確認した。
で、その時点でこの人物の大体の正体を察し、如何した物かと悩みつつ、まぁ如何でもいいかと考えを放棄したのは記憶に新しい。
……いや、だって此処月だし、地球の法律は通用しないし。俺は逮捕権なんて持ってない、警察でもなんでもない民間人だし。
幾ら国際指名手配されているとはいえ、態々民間人の俺が危ない事をする必要もないのだ。
「とはいえ、既存のISを下地に作ってるんだろ、これ」
「そだよー。ちーちゃんと暮桜のいた所の、第三世代試作機を貰ってきたんだよ」
視線の先にある白いISを指して言うと、兎がひらりと投げ付けてきた白いファイル。無重力に漂うそのファイルを受け取り、早速その中の資料に目を通す。
と、其処に記されていたのは、倉持技研のやっていた第三世代型――話の中でチラリと頭を過ぎった、ワンオフアビリティーありきの機体の開発データに関するものだった。
「この子は白式って言うんだけど、連中、拡張領域を全部使ってワンオフアビリティーの固定化には成功させたんだけど、肝心の機体のほうが全然なんだよねー」
そういう兎の視線の先。其処には、ハンガーに固定された純白の機体。ただし、その四肢は未だ本体にケーブルのみで繋がれ、装甲も所々欠落し、その内部回路を剥き出しにしていた。
「ちぇー、やっくんが手伝ってくれるなら、ちょっと早く仕上られるかなって思ったんだけど」
「俺が手伝わなくても十分間に合うだろう? ……まぁ、約束を守れないのは悪い。代わりに此処のパーツは自由に使って良いから」
「うん、ありがとねー」
ニコニコ頷く兎。
この人、容姿だけなら抜群の美人何だけど、中身がアレなのがなんとも勿体無い。
もし俺がテンプレオリ主なら、絶対に落としに掛かっているほどの美人なのだから。
「ところで、やっ君分解させてくれない?」
「ダメ」
「えー」
俺と彼女の関係はこれに集約されるのだから、なんとも言い様が無い。
「んじゃ、俺はあいさつ回りに行って来る。帰るときはちゃんと鍵しめてけよ」
「はーい。それじゃやっ君、またねー」
「ん、またな」
手を振りつつ、その場を後にする。
このとき俺は気付かなかったのだが、彼女が此処で――新帝国重工のルナベースで白式を建造したことで、あの機体は倉持技研のパーツより、新帝国重工のパーツとの互換性が上がってしまったのだ。
後に開発元よりもライバル企業のパーツと相性のいい、なんとも皮肉な機体として扱われる事になるのだが、それはもう二ヶ月ほど後のことだった。
■新谷 八雲 Yakumo Shintani
バスターマシン8号が、新谷家の養子としての姿で名乗っている名前。
八雲という名前自体は、戸籍が作られる以前から偽名の一つとして使っていた。
因みに八雲の由来は「ふらふらして何処に行くか分らない」と言うのと、単純に「八」という数字が入った名前であるからというモノの二つ。
■月の兎さん
その正体が謎に包まれた、月に住まうウサ耳美少女(笑)。
美人かつ声は田村さん。でも正体は全くの謎(笑)。
元々月衛星軌道上にステルス要塞を持っていたらしく、新しく月開拓に来た新帝国重工に電子的に忍び込んだ際、あっさり八雲(8号)に見つかり、それ以来八雲を気に入り「やっくん」と呼称。何故か八雲の正体(有機ロボ)に気付いた。
以来何故か八雲のプライベートスペースに入り浸り、好き勝手に何かを開発している。しかも利益を還元している分文句も言えず性質が悪い。
■倉持技研
原作で白式の原型を作った日本のIS研究開発組織。
本編では急速に規模を拡大する新帝国重工に押され、何故かマイノリティーな方向に舵を切ろうとしている。それでも未だに打鉄はベストセラー機。
政府関係者が多く、政治的影響力は未だに根強い。