と、言うわけで現在目の前で行なわれている原作イベント。
原作イベントと言うか、原作冒頭というか、織斑一夏が自己紹介中に意識をトリップさせて麻耶ちゃんをビクゥッ! ってさせて、名前だけ名乗ってそのまま再トリップし始めた、そんな光景。
麻耶ちゃん可愛いなぁ。とても教師には見えないんだけど。
何て事を考えていたら、静かに音も無く教卓脇の扉が開く。全員が織斑一夏に意識を向けている最中、その人物は見事に気配を殺して教卓の正面へ。
「……以上です」
と、その背後で静かに噴出す怒気。……あ、数人気付いた。
「あ、あのー……」
そして涙声の麻耶ちゃん。でもその涙声は、織斑一夏に向けたものと言うよりは寧ろ、その背後に立つその人物の放つ怒気によるものだろう。
まぁ、暈して語ってはいるが、織斑千冬その人の怒気なのだが。
パアンッ、といい音を立てて振り下ろされる出席簿。
如何でもいいのだが、あの通知ぼってそんな乱雑に扱ってもいいものなのだろうか。いや、それほど重要なアイテムではないのだから別にいいのかもしれないが。
織斑千冬と麻耶ちゃんがなにやらニコニコと会話を進める中、自己紹介に備えて手元の紙にペンを走らせる。
……よし、こんなところか。
なにやら唐突に響いた爆音は、自動的に張られたノイズキャンセル機能によりシャットアウト。
自己紹介の精神的負荷でいきなりダウンした織斑一夏を遠目に、いつの間にか再開していた自己紹介。そうして巡ってきた俺の番に、自然と再び教室の空気が重くなる。
心の中のBGMは――ガンバスターマーチかな?
「新帝国重工月面開拓用システム開発部門直属、第三世代型ISガンバスター専属パイロット、新谷八雲だ。現在の目標は宇宙開発。二人目のIS男性操縦者と言うことで目立っているが、ISでの戦闘経験は殆ど無い。一応専用機を持っていて、名はガンバスターだ。以後よろしく」
先達の尊い犠牲により、ある程度の時間を稼ぐことに成功。その時間を駆使して何とか適当にソレらしい自己紹介を組み立ててみた。
周囲の反応としてはまぁまぁ。「ま、これが普通だよな」という表情が多い。
織斑一夏、南無三。
そんなわけで適当に自己紹介を済ませ、その次に一時間目・IS基礎理論が始まった。
いやまぁ、俺は一応ガンバスターシリーズの開発に関わっていたし、ある程度というか、一般的な開発陣営くらいの基礎知識は持っている。第一、この世界の技術レベルはトップ世界に比べれば低いものだし、第一基礎理論なんて「何故そうなるか」ではなく「この機能はこういう機能を持っている」という暗記科目なのだ。一応ロボットに分類される俺がその手のことを苦手にする筈も無く。
そうして一時間目が終了した直後、妙なプレッシャーに圧迫された一組教室内。どうも織斑一夏、ついでに俺に対して誰が接触を取るか、という事で自然に空気が重くなってきているらしいのだが。
「……ちょっといいか」
おーっと此処で少女が一人周囲を差し置いて一気に前へと躍り出た!
あの少女は……確か、篠ノ之箒と名乗っていた少女か。自己紹介が「……篠ノ之箒。剣道部所属。趣味は鍛錬、嫌いなものは軟弱と堕落(ギロリ」と、矢鱈と周囲を威圧していたので印象に残っている。
篠ノ之の名から察するに、確かあの兎さん……じゃなくて、彼の大天災、篠ノ之束の妹なのだろう。然し似ていない。一部(胸部レドーム)以外似て無い。
なんであの妹さんの姉がアレなんだろうか。いやまぁ、どちらもコミュ障という意味では似た物姉妹なのかもしれないけど。失礼。
と、視線の先で立ち去っていく織斑一夏と篠ノ之箒。そんな二人が出て行った直後、教室内の空気が更に悪化した。
どうも、二分の一での迷いの結果、さっさと獲物を一つ奪われたことで注意が完全に此方に集まってしまったのだろう。
「ねねね、やくもんは専用機持ってるんだよね~!」
「(やくもん……)うん。一応な」
「おー!! でもやくもん、どこでISにさわったの?」
そんな中、俺に対してそんな封に問い掛けてくる少女が一人。俺の真正面の座席に座るその少女は、布仏本音と呼ばれた少女だった。
あー……確か、ニコニコ、ちがう、ふわふわ、でもない。そう、のほほんサンだ。
「んー、義父の工場見学をしてるとき、偶々ISに触れて、そのときにISが反応した(ってことになってる)んだ」
「へ~、でもそれでよくいきなり専用機なんてもらえたね?」
「んむ。その工場ってのが新帝国重工のムーンベースでな。使えるものは全部使え! があそこのポリシーだから、専属搭乗者の居ない機体を余らせておくのも勿体無いってことで使い始めて、それ以来の付き合いだな」
そう言って、制服の胸元から待機状態のガンバスターを取り出す。
因みに待機状態のコイツは、何故か地球帝国宇宙軍の紋章のペンダント(?)になっている。
十字にシャキーンのアレだ。
「おぉー!!」
パタパタとその長すぎる袖を振ってみせるのほほんさん。あぁ、たしかにのほほんさんだ。物凄く、癒されます。
重苦しい空気を纏っていた周囲も、いつの間にかのほほんさんの空気に癒されたか、まさにのほほんとした空気が漂っていた。
そうして少しのほほんさんと雑談して仲良くなりつつ、鳴った予鈴にあっという間に過ぎる時間に驚きつつ、次の授業に備えて教材を取り出しておくのだった。
二時間目。麻耶ちゃんの授業に「さっぱり分りません(キリッ」と織斑一夏が決め台詞をキめ、織斑千冬に必殺の一撃を食らわされ、何気に此方にも鉾が向けられたりしつつ。そんな最中回ってきた回し手紙に「あぁ、女子校のノリって奴なのかな?」なんて首をかしげながら、書かれていた質問に解答を載せたりして平和的に二時間目が終了。
そうして訪れた休み時間。
前の時間は出来なかったので、折角なので織斑一夏に挨拶に行くことにしてみた。
「や」
「ん……お、アンタは……」
「(自己紹介聞いてなかったなコイツ)新谷八雲だ。よろしくな」
「お、おう、織斑一夏だ。こちらこそよろしく!」
ガシッと握手をする織斑一夏。そんな風景に教室の一部から黄色い声が聞こえてきたり。
……キニシナイキニシナイ。
「大分お疲れのようだが、大丈夫か?」
「ん、あぁ、正直キツイな。そういう新谷のほうは大丈夫なのか?」
「八雲でいいよ。……まぁ、俺は座席が最後尾だからな」
「俺も一夏でいいよ……そうか。最後尾かぁ」
いいなぁ、というのが丸分りな顔の織斑……一夏。織斑一夏が中央最前列という超デッドゾーンであることに比べれば、中央列とはいえ最後尾に位置する俺のなんと安全位置なことか。まぁ、逆の意味で灯台下暗し、俺のほうが危険域に成るかもしれないが。
「因みに、席を変わる心算は、無い」
「(ピクッ)……そ、それよりも、勉強の方はどうだ? 俺全然ついていけないんだけど」
小さく反応した一夏。話題の逸らし方が露骨なのだが、一々つついても仕方がないので笑って流しておく。
「勉強の方は、まぁ問題ないかな。其処に関しては問題なのは一夏のほうだな」
「うっ!」
「電話帳と間違えるとかネーヨ」
と、「難なら教本貸そうか?」「いいのか?」「俺は一通り読み込んだからな」なんて会話をしていると、静かに此方に近寄ってくる人影が一つ。
「ちょっと、よろしくて?」
周囲を少女たちが牽制しあう中、よく一人突っ込んでこれるななんて思っていると、少女はそんな言葉を掛けてきた。
振り返ってみれば、其処に居たのは金髪ロール。いかにも「わたくしお嬢様ですの!」というのを身体でアピールしている少女が其処にいた。
セシリア・オルコット。イギリスのブルー・ティアーズ一号機の専属パイロットで、国家代表候補生。あー、確かこの子もヒロインの一人だったような……。
ここで「よろしくありませんの」とか、「すまん、話中だ」とか返答したらどうなるんだろうか。
「へ?」
「おっと失礼、俺はお手洗いだ。一夏に用事ならどうぞ」
そんなことを考えつつ、然し実行に移すことは無く。巻き込まれれば面倒ごとになるのは一目瞭然。言いつつ一気に、しかしさり気無くその場から離脱する。背後から少し此方を呼び止めるような声が聞こえたが、まぁ小さな物だ。聞こえなかった、といっても十分に通るだろう。
「喧嘩腰で向かってくる相手に、態々ぶつかりたいとは思わんよ」
それから大急ぎでトイレへと走り、中で少し時間を潰し、再び教室へと戻る。
本来女子校の体を取っているだけあって、この学校には男子用トイレというのが極端に少ない。一部用務員用のトイレには男性用もあるらしいのだが、そういうモノはこの教室のある近辺には存在しない。そこで予め後付で用意された男性用トイレ。これが設置されている箇所まで必死に走る必要が在る、と言うわけだ。
俺はそういうシモの機能はやろうと思えば押さえが効くのだが、これ一般的な男性には厳しいんじゃないだろうか、なんて考えつつ、時間を潰して再び教室へ。
「(何か、殺気立ってるぅー!)」
「(あ、やくもんおかえり~)」
「(ただいまほーちゃん。何かあったの?)」
「(んーっとね、オリムーが入試で教官を倒したんだって)」
「(へぇ、アイツも倒せたのか)」
「(うん、そーなん……あれ?)」
素直に感心する。何せ今までの様子を見ているに、あの織斑一夏は如何見てもISという存在に長く付き合いが在る、とかそういう存在には見えない。
俺は戦闘目的でISに乗っているわけではないが、それでも元々の8号としての戦闘センスに加え、バスターマシン一号二号を模したIS・ガンバスターは、開拓用として考えていたとはいえその原典に恥じることの無い高い戦闘能力を保持している。
競技用ではなく作業用という面も持ち合わせているが、それでも十分な機体では在るのだ。
そんな俺が、結構な苦戦をして得た勝利。織斑千冬駆る打鉄との激闘。かなりしんどかったのだが、まさか一夏まで勝利していたとは。
もしかして「実は天才的な空間認識能力を持っている」とか、「戦闘に成ると人格が切り替わる」とかなトンデモ系主人公だったのだろうか。
「……るものだ。今の時点ではたいした差は無いが、競争は向上心を産む。一度決まると一年間変更は無いのでその心算で」
あ、いつの間にか話が進んでた。えーっと、何の話だ?
「(クラス代表をきめるんだって~)」
「(Thanks! ほーちゃん!)」
クラス代表。確か、文字通りのクラスの代表。
所謂学級委員(?)とかクラス長としての仕事の他に、クラス対抗戦なんかの選手を務める、文字通りクラスの代表を指している。
「はいっ、織斑君を推薦します!」
「ぬえっ!?」
「(鵺?)」
「私もそれがいいと思います」
「お、俺ぇっ!?」
「織斑席につけ邪魔だ。さて、他にいないのか? 居ないなら無投票当選だぞ」
慌てる一夏。その様子に、思わずニヤニヤと笑ってしまう。
うむ、ああいうモてる男が不遇の目にあうのは見ていて楽しい。いや、でもどうせコレも禍転じて福となすのだろうが。
……そろそろ、一石投じてみるかな?
「なら、俺は八雲を推薦するぞ!」
「あ、わたしも~」
「(ちょ、ほーちゃん!?)」
いざ行動しようとした途端、一夏がそんなことを言い出し、次いでそのブカブカの裾を天に突き出してアピールする
「ふむ。他に意見は?」
「まっ「なら俺は、ミス・オルコットを推薦する」てくだ……」
「オルコットを推薦か。ん? オルコットも何かあるのか?」
「いっ、いえ!」
あ、詰った。
「ご、ごほん……その――私は、其処の男性お二方が代表に選ばれることに納得がいきません」
「ほぅ? 然し真っ当な理由は在るのだろうな? 貴様の感情論だけで物事が動くとは思うまい」
「ええ、それは理解しておりますわ。彼ら……特にそちらの彼にはやる気が感じられません。せめて自らやる気をだしていると言うのであれば話は別ですが、気概を全く感じない彼に託すという選択肢は、私にはありえません!」
出だしに少しドモリながらそういうオルコット嬢。何となく気配が大きくなってたので、出鼻を挫く形で推薦してみたのだが。うまく行ったのかな?
これから少なくとも一年間は此処でご一緒する仲間なのだ。下手にギスギスするのは楽しくない。
第一、彼女の気持ちも全くわからないものというワケでもない。
何せ此処に居るのは、世界人口七十億人の中で、選びに選びぬかれた30人弱。当にエリートという文字の代表格。
此処に、IS学園に居るという事は、そのエリートと言う文字と共に、世界の人類70億の代表という看板を背負っているようなものなのだ。
幾ら自ら望んだわけではないといえ、求めても手に入れられない奇跡のような権利、それを得ておきながら不遜な態度(に見える)を取り続ける一夏に対して、少し気分を害したとしても、まぁ。
「なるほど、な。オルコットの意見は分った。然し、だからといってただはいそうですかと取り下げるのも芸が無い……ふむ、貴様等、実際にISで試合をしろ」
ビシッと命令口調で言ってくる織斑千冬。
「試合は一週間後の月曜日。放課後、第三アリーナで順次行なう。織斑とオルコット、新谷は準備をしておく様に」
パンッ、と
織斑千冬の動作に見惚れる大半の生徒と、その中で数名他とは違う動作を取る者。
憮然と胸を張るオルコットに、興味無さ気に窓の外を覗く篠ノ之、どうしたものかと頭を抱えている一夏に、なぜか嬉しそうに袖をパタパタはためかせる本音。
「いきなり面倒事になった……まぁ、面白そうではあるんだけど」
とりあえず、先ずは本社に連絡を入れて、イギリスのISの情報でも仕入れようと考えていた。
■ガンバスターマーチ
でんどんでんどんでんどんでんどんでんどんでんどんでんどん
■やくもん
ぽけもんじゃないよ、やくもんだよ!
■ほーちゃん
いや、本音ちゃんだからほーちゃん。のほほんさんじゃ誰か判らないだろう。
■織斑一夏 Ichika Orimura
リア充。恋愛原子核装備。
■篠ノ之箒
モッピー。天災篠ノ之束の妹。コミュ障と胸部レドームが姉妹の証。
■金髪ロール
セシリア・オルコット。貴族の娘さんらしい。しょっぱいの? ちょっぱった? ちょろいの?
■織斑千冬
アレは誰だ 誰だ 誰だ あれは千冬 千冬せんせー
ブリュンヒルデの名をうけて 刀一本 戦う女
千冬アイズは千里眼 千冬イヤーは地獄耳
千冬パンチは空に飛び 千冬スラッシュは出席簿
戦女神の力 身につけた正義のヒーロー
千冬せんせー 千冬せんせー
■麻耶ちゃん
山田麻耶。元日本代表候補生。その縁でちょっとした知り合い。