「で、俺にISを教えてほしい、と?」
「ああ」
目の前に立つ少年、織斑一夏。
件の一件により、オルコットと俺との対戦が決定付けられた彼。残された一週間を準備に費やそうという姿勢には好感がもてなくもない。
が。
「なんでまた俺に?」
「いやぁ、その……他には頼み辛いというか、頼めないというか……」
言いつつチラリと周囲に視線を向ける一夏。
周囲には興味津々というのを隠しもしない少女達の視線がむき出しで此方に突き刺さっていた。
「あー、把握」
「と、言うわけなんだ。……後々戦う事になるのは分ってるんだが、それでもなんとか頼めないか?」
「まぁ、俺はいいけどな……」
言いつつ、一夏のその背後から物凄い視線で此方を見るその少女に気付かないふりをしておく。
「――とはいえ、俺に教えて欲しいってのは、今度のクラス代表決定戦云々のくだりだよな?」
「ああ」
「ってことは、理論なんかは教えても仕方ない、か。よし、ちょっと付いて来い」
言いつつ、一夏を引き連れて教室を後にする。
「あ、ちょっ……」
「ん? 何か用か?」
背後から聞こえてきた声。振り返れば、篠ノ之が何かを言いたそうに此方を見ていて。
まぁ、何となく感情は予想できるのだが、彼女が如何いう行動を取りたいのか、と言うのが俺には予想できない。
乙女心と言うのは複雑なのだ。
「あ、いや、その……」
「申し訳ないが少し急ぐんでな、また後で頼む」
そういって一夏を引っ張り、再びその場を後にする。うわぁ、俺鬼畜。
そうして訪れたのが、IS学園の中でも比較的外部からの人間が多くいる地区。
企業所属のISなどの、その追加パーツなんかを運び込んだりする、企業ブロックの一角。
その中に在る、新帝国重工のブロックにこそ用事があるのだ。
「なぁ、こんな所に来て如何するんだ?」
「んー、まぁ、チョット待て」
たどり着いた一角。IS学園側で用意されたその建造物の中。
比較的大きな空間を用意されたその部屋の一つ、そこが新帝国重工に用意された分の区画だ。
「あ、兄さん」
「お、光ちゃん。いたのか」
訪れた真っ白な空間。その中心にでんとすえつけられた白い球体。その前に立つ少女、新谷光。俺の義父である新谷総一郎の娘で、俺の妹分。
「ん、そちらは?」
「ああ、コイツが噂の織斑一夏。一夏、コッチは俺の義妹で光」
「新谷光です。よろしくお願いします」
「あ、ああ。俺は織斑一夏。よろしく」
そんな挨拶をかわす二人を尻目に、俺はさっさとその白い部屋の隅に用意されたコンソールへと手を伸ばし、パパッと必要なデータを打ち込んでいく。
「お前、妹なんていたんだな」
「ん。義理の妹だがな」
「義理?」
「俺が養子なの。昔色々あって、新谷家に引き取られてな」
「……もしかして、悪い事聞いたか?」
「いや、問題ない。光ちゃんは良く出来た妹でな。家族仲も悪くない」
言いつつ、光ちゃんに向き直る。ちょっと頬を赤く染めているのが可愛らしい。
「だから、間違ってもウチの義妹に手を出すなよ? そのときはイノチヲステルカクゴヲシロ」
「わわわっ、出さない! 絶対に手は出さない!!」
「ウチノイモウトニフマンガアルノカッ!!」
「如何言えってんだよ!!」
そんな風にに一夏とじゃれあいながらも、手は休めることなく情報を入力していく。
別に主導入力ではなく、8号としての機能で情報を端末に送信する、という方法も在るのだが、此処には一夏の目が在る。
どんなところから情報が流出するかも分らないので、一応普段はこういう風に普通に端末を扱っておくのだ。
「兄さんもしかして、コレを使わせる心算?」
「その心算。今度ちょっとクラス代表を決めるために試合することになってな。幾らなんでもド素人の一夏をそのまま放り出すのはかわいそうだろう?」
「……そりゃまぁ、そうかもしれないけど……」
「な、なぁ、コレって一体何なんだ?」
「――新帝国重工製、ISシミュレーター」
一夏の問いに光ちゃんがそう返す。
そう、直径3メートルほどの白い球体。これこそが、全世界初のISシミュレーター。
中に入り、実際のISに近い擬体を装備することで、内部に投影されるシミュレーター映像と合わせ、限りなく実戦に近い戦闘が可能、という代物だ。
「因みにコレ、新帝国重工の新商品だから、口外禁止な」
「あ、ああ。わかった」
一夏を球体内部の擬体に搭乗させ、ハッチを閉じ、制御の為のコンソールへと取り付く。
「一夏、このシミュレーターはかなり高度な代物でな。イメージインターフェイスやイナーシャルコントロールなんかを使って、限りなく実物に近い感覚を得られるシミュレーターになってる」
「イナーシャルコントロール?」
「要するに、ジェットコースターに乗った時の、加速感とかを擬似的に体験できるって事」
「なるほど」
因みにこの技術は8号技術に分類されるのだが、少し退化すればISの慣性制御系の技術になる。IS関連技術の発展延長線上の技術といっても誰も疑わない類の技術だ。
「で、兄さん。エネミーデータは如何するの?」
「縁さんのデータでも使おうかと思ってたんだけど、確かオルコットって、狙撃型のISをつかうんだったよな?」
セシリア・オルコット。イギリスの国家代表候補生で、使用ISはブルー・ティアーズ。
第三世代BT兵器の試験機としての側面を持つ機体。
「BT兵器っていうのは、要するにオールレンジ兵器だよ」
「……ってことは、縁さんよりも俺のがいいのかな?」
言いつつ、バンク内に保管されていた俺の戦闘データを引き出してくる。
俺のデータ……つまり、ガンバスターによる戦闘記録。中でも重要なのは、ガンバスターの第三世代兵装、BT兵器と若干似たところの在るオールレンジ兵器のデータ。
「……“怪獣帝国”。まさか初のお披露目が、一夏のシミュレーターとは」
怪獣帝国。要するに、バスター軍団をエミュレートした能力。
最初はナノマシンで構成された、超小型のバスター軍団を作ったのが始まりだ。
何となく作ってみたところ、小型化しバッテリー駆動に変換したことで長時間の稼動は難しくなったものの、ISと連動させることでかなりの効果的運用が可能となったのだ。
現在のソレ――怪獣帝国は、ガンバスターの脇に浮く、二機のベムバスター級……フロートユニットとして存在している。
因みにバスター軍団は中に格納されているわけではなく、格納されているナノマシンにより随時様々なタイプのバスター軍団(極小)を生産するのだ。
「んじゃ、とりあえず一夏、模擬体を動かしてみろ」
言いつつシミュレーター起動。ついでに一夏のデータも取らせてもらおう。
うん、これこそギブアンドテイクと言うものだ。
「……いいのかなぁ?」
「いいんだって。あちらにも此方にも旨みが在るんだし」
呆れたような光ちゃんにそういいつつ、一夏のデータを取る。
シミュレーター内で飛行を開始する一夏は、いきなり建造物データに頭から突っ込んでいるのだが……。
「こりゃ、暫く基礎的なところをやらないとダメかな?」
結局その日はエネミーデータを投影するまでに至らず、ISを飛ばす、という基本的なところに訓練を費やしたのだった。
「で、後からだけど一夏に許可を貰ったこのデータ。欲しい?」
『是非欲しい』
新帝国重工本社に向けて送った秘匿通信。
与えられた自室から本社へ向けて送る通信で、義父である総一郎は即座にそう言葉を返した。
『いきなり通信を入れて、何事かと思えば初の男性IS操縦者の操縦ログだと? 是非欲しい。というかすぐに送れ』
「いや、送ってもいいけど、この回線で送っていいの?」
初の男性操縦者、織斑一夏。一応俺と言う前例がいた、というのが関係者に通る通説では在るのだが、何せ俺と言う存在は普通ではない。
ISの操縦というモノに関しても、俺の特性からISコアに直接協力を頼み込んでの操縦、という感覚だ。言ってしまえば、俺の操縦するISというのは、高度なAIを積んだ無人機と同じような物なのだ。
ソレに対して、織斑一夏のソレは、この女尊男卑の世界に一石を投じる重要な出来事だ。
何せ、『何故彼にISが反応するのか』という事を理解できれば、『他の男性でもISが操縦できる』=『女尊男卑の世界構図崩壊』の切欠になり得るのだ。
そもそもIS関連事業に手を出したのが、その補助金による企業再建の為であり、現在宇宙開発事業により各国からの資金援助を受け、世界有数の宇宙開発企業へと成長した新帝国重工。LEVの生産なども順調な現在、正直これ以上ISそのものの開発には意味が無い(民間への技術転用は十分商業的利益を狙えるが、その点ははるか先を行く8号技術を用いれば、現行技術であるIS系技術は不必要に近い)。
では何故この織斑一夏の登場データが必要かと言うと、我々に需要が無くとも、外での需要は在るという、それだけの話だ。
『そ、そうだな。次の出島への運び込みの時にでも受け取りに行こう』
「まぁ、IS学園で活動している以上、いずれは世界中にデータは出回ると思うけど」
企業間交渉に使う心算なら、早めに取りにおいでと伝えておく。
「そうそう、一夏をシミュレーターに乗せた時、光ちゃんにも会ったよ」
『光に? あれもシミュレーターをやったのか?』
「うん。一夏の休憩の合間に少し。シミュ上でだけど、大分上達してた」
『ふっふっふ。縁ちゃんとずっとシミュレーターで練習していたからな。早く宇宙へ行くんだって』
「そっかぁ」
光ちゃん。昔は俺のことをおにーちゃんと呼び、雛の如くちょこちょこ歩く可愛らしい子だったのだが、今は小柄できりっとした万能系美少女。
今の光ちゃんも可愛らしいけど、昔の光ちゃんも可愛らしかった。
『そうそう、光の面倒も頼むぞ?』
「俺に出来るのは、ISの操縦訓練くらいなんだけど……まぁ、出来る限りはやるさ」
言いつつ、総一郎との通信をきる。
用意されたIS学園内の寮、其処に設置されたPCを経由したネットワーク通信。一応俺の力で秘匿回線を用意したのだが、あくまで在りものの端末を使ったため、もしかすると盗聴されている可能性は無きにしも非ず。とはいえ、別に後ろ暗い事をしているわけではないのだ。そのままPCをシャットダウンさせ、椅子の上で背伸びする。
「まぁ、取り敢えずは、この馬鹿を鍛えてやらねばならんのだけれども」
言いつつ後ろを振り返る。俺に宛がわれた部屋、その扉側のベッドの上。
ISシミュレーターにぶっ通しで乗り続け、シャワーと晩飯の後早々にベットに飛び込みぶっ潰れた織斑一夏をちらりと眺めて、とりあえず一夏用にと送られてきたブルー・ティアーズのデータを編纂する作業に取り掛かったのだった。
■なんでまた俺に?
勿論誰かさんがフラグを叩き追った結果。
■企業ブロック
捏造設定。仮に専用機持ちの国家代表候補や企業代表がIS学園に入ったとして。
機密の塊である最新ISを共有スペースで整備できるだろうか? また専用パーツをいくら学園内にとはいえ、共用スペースで扱えるだろうか? と言う疑問から。
少なくとも本社と情報交換・専用機の整備の為のスペースくらいは設置してるんじゃなかろうか? なんて考えて。
■ウチノイモウトニフマンガアルノカッ!!
鉄板ネタ。
■新帝国重工製、ISシミュレーター
直径3メートルほどの白い球体。実は八雲が秘密裏に設計していた『ISコアを用いないIS』のOSを元にプログラムが組まれているため、極めて実際のISに近い操縦感覚が得られる。但し前述プログラムの使用から、下手に外に出す事が出来ない(疑似IS量産など)。
■怪獣帝国
宇宙怪獣の女王、ならぬ宇宙怪獣の王子。本来は八雲もとい8号の固有技能であるバスター軍団指揮を、IS用に疑似移植したもの。当然本物に比較してかなりサイズが小さくなっている。
オールレンジ兵器に分類されるが、ビット各位にも簡易AIが搭載されている為、同じオールレンジ兵器であるBTに比較し、操縦者の自由度が高い。IS用のバスター軍団はあえて強度を落としている。