作者「本当はもう1人いますが、今回は出番なしです」
遊司「実をいうとこの作者、他にも小説を書いてるんだが……」
作者「魔法少女リリカルなのはEX・S 過去にとらわれた転生者。絶賛執筆中です!」
遊司「全然進んでない癖によくまあ別の小説なんて出せたもんだな」
作者「気が乗りまして。それにあっちと違ってこっちは友人と一緒に書いているので執筆スピードは安定している、はずです!」
遊司「……信用が薄い気がするが、まあ気長に付き合ってやってくれ」
作者「では本編をどうぞ!」
Episode01 風の導き、光の標べ 前編
海を眺めていると、色々なことがどうでもよくなる。いつも同じで、だけどその実、同じことなど1つもない。景色も、風も、匂いも、その日その時によって少しだけど違っている。
俺たちの日常も同じだ。変わらない日々が続いても、いつも少しずつ違っている。全く変わらない、なんてことはない。
そう例えば、今日が中間テストの日で、既に日は傾いていて、ほんの30分前に自室で目が覚めていたりとか。
「現実逃避は良くないよ」
「うわ!?」
後ろから声をかけられる。誰もいないと思っていただけに、思った以上に動揺してしまった。本島から橋を渡った先にある草原、その西端の海を見渡せる崖の上という、普段誰も来ない場所に来る物好きが他にもいるとは驚きだ。
「何驚いてるの? まるで化物を見たみたいに」
「……なんだ龍可か」
彼女は
「今変なこと考えなかった?」
「いや別に」
ジト目で睨んでくる彼女に、俺は肩をすくめて答えた。
(相変わらず勘の鋭いことで……)
「それで、どうしたんだ? 用があってきたんだろ?」
気を取り直して聞いてみる。こういう時は速やかに話題を変えるのが一番だ。彼女も特に気にしていなかったようで、すぐに機嫌を直してくれた。
「うん。先生から伝言を預かってきたの」
「伝言?」
心当たりがありすぎて思わず顔をしかめる。そんな俺に苦笑しながら龍可は死刑宣告を下した。
「今すぐ職員室に来い。だって」
「ですよねー」
思わずガックリと肩を落とす。テストをサボったのだから当然だろう。予想していたとはいえ、実際に言われると想像以上にへこむ。
俺は決して不良じゃないし、日頃からの成績が悪いわけでもなく、たまたま盛大に寝坊しただけなのだが。
……言い訳にもならないな。
「あー! っくそ。こんなことになるなら実習に向けてデッキ調整なんてやらなきゃ良かった!」
「いや、それは大事なことだよ。……朝までやってなければね」
龍可の突っ込みが容赦なく俺に突き刺さる。
俺たちが通っているここ、デュエルアカデミア・セントラル校高等部はその名の通り
最初ということもあり気合を入れてデッキ調整を行っていたら、いつの間にか日がもぼり始めてしまった。そして少しだけでも寝ておこうと目覚ましをセットして寝たのだがそれが不味かった。気が付けばすでに日は傾いており、目覚ましは電池切れを起こしていたのだ。
思い出しただけで盛大にため息が出る。
「遊司は変なところで要領が悪いわよね。確か入学試験の時も、普段から成績上位で中等部からオベリスクブルーとして主席で入学」
できたはずなのに。
龍可の溜息が痛い。
「テストで回答を1問ずつズラす大ポカをやっちゃって、ギリギリでオベリスクブルーに入学したんだっけ」
「嫌なこと思い出させないでくれ……」
オベリスクブルーというのは俺の所属する寮のことで、このセントラル校特有の制度だ。ここでは入学時に中等部からの成績優秀者の入るオベリスクブルー。そこに漏れた生徒と、高等部から入学してくる成績優秀者の入るラーイエロー。そしてそこに漏れた、成績の振るわなかった生徒が入るオシリスレッドの3つに分けられる。つまりデュエリストとしてのレベルがそこで区別され、それぞれのレベルに合わせた授業が行われるということだ。
そして龍可の言うとおり、俺は中等部から主席で進学するだろうと言われていた。そう、俺、
本日何度目かわからない盛大なため息が出る。もう諦めの心境だ。
「んじゃ行ってくるわ」
「うん。がんばってね」
俺は諦めて龍可に手を振り職員室に向かった。
「ふ、貴様が俺の相手か。不良仲間としてはどうにも迫力に欠けるな」
「いや、不良じゃねえし」
とある戦士族モンスターによく似た有名な不良の不敵な笑みから目を逸らしながら、呆れたように答える。向こうは元から俺の答えなど聞く気はないようで、1人でカッコつけていた。
俺はもう1度大きなため息をして、このデュエルをセッティングした教頭との会話を思い出す。
「デュエルするんですか? 今から?」
「ええ。それだけは今やっておいたほうが面倒が少なくて済むのよ」
職員室にて、とても美人だが怒らせると非常に怖いと有名な教頭先生により説教を受けた後、今後のことを言い渡された。筆記に関しては当然追試が決定。これから数日の間、放課後が追試で埋まると考えると嫌になる。そして今言い渡された実技だが、今回の俺の相手は不戦勝状態になっているらしい。しかしこの試験は以前からどれほど成長したかを見るためのものであって、勝敗はそれほど重要ではない。つまり不戦勝では成績のつけようがないのだ。よって今日のうちに実技は済ませてしまおうということだ。
「で、誰なんですか? 相手って」
誰とデュエルすることになるのか気になり、少しワクワクしながら聞く。
デュエルは好きだ。互の力を全力でぶつけ合う興奮。何が来るかわからない少しの不安と期待。毎回全く違う展開。相手のことを理解しあい、心を通じ合わせる喜び。何より俺の気持ちにデッキが答えてくれた時の嬉しさ。とにかくデュエルは面白い。
今回の相手とはどんなデュエルができるだろう。そんな俺の期待の眼差しに、教頭は笑って答えた。
「それなりの実力者よ。ま、性格面にちょっと問題があるけどね」
「え゛」
俺のワクワクは一瞬で砕かれた。
確かにデュエルは好きだし楽しいが、いつでもそうとは限らない。例えば、相手の行動を何らかのカードで阻害したとき、卑怯だとか反則だとか言ってくる奴がいるが、そんなのとデュエルしても楽しくない。対策してないそっちが悪いんだっての。しかもその後さっさとデュエルを中断したりサレンダーしたり。デュエルに対する姿勢がひどすぎる。そして今回の相手、性格面に問題があるってことは、つまりそういうやつなんだろう。
しかし、「そんなやつの相手嫌なんですけど」と抗議する前に教頭から「不満でも?」と笑顔で言われたら、もうどうしようもなかった。笑顔はもともと威圧だっていうのは本当だと思う。
そんなわけで今目の前にいるのが、その性格面に問題があるらしい生徒なわけだが。
「そんなやつ楽勝っすね、ヤリザさん!」
「とっととヤっちゃってください! ヤリザさん!」
「違ああう!! 俺は
この伊達ヤリ…、じゃなかった。
(問題がある、ってこういうことか。ったく、先生も人が悪いな)
確かに今みたいに人の話を聞かないで暴走したり、すぐ感情的になりすぎたり、それによく授業をサボる不良なのだから性格面に問題があると言えばそうなのだろうが、この人はデュエルに対して非常に熱い一面を持つ。相手を煽ったりはするが、決して卑怯などとは言わないし、途中でデュエルを投げ出したりもしない。この人ならきっと楽しいデュエルになるだろう。
内心でホッとしていると、いい加減業を煮やしたのか、審判を務める鴇矢先生が槍座に声をかける。時間も時間だし、そろそろデュエルを始めたいのだろう。
「ほら、ヤリ……、槍座くん。そろそろ始めてくれ」
「な、鴇矢先生まで!?」
訂正。からかいに行っただけだったようだ。……いやあの先生のことだし間違っただけだと信じよう。
槍座に平謝りしている鴇矢先生は温和で話しやすく、生徒からも人気の先生だ。しかしその本気デッキは非常に鬼畜だと噂で、絶対に怒らせるなとも言われている。
「くっそ、もういい! おいテメエ! とっとと始めるぞ! 俺の力を示して二度と馬鹿にできなくしてやるぜ!」
「!? お、おう!」
いきなりの宣言に思わず引くが、無理やり気を取り直す。
なんにしてもまずは大好きなデュエルができる。それだけで十分さ!
「いくぜ!」
同時にデュエルディスクを構え、起動させる。デッキがオートシャッフル機能によってシャッフルされ、そこから5枚のカードを引き抜く。そして、最後に恒例の挨拶。決闘という名の儀式を始めるための最後の宣言を同時に告げる。
「「デュエル!!」」
ここに、熱き闘志を持ったデュエリスト達の真剣勝負が幕を開けた。
「え。実技試験、今やってるんですか?」
「ええ。第1デュエル場でやってるはずだから、気になるなら見に行ったら?」
思ったより遊司の帰りが遅いので、気になった私は職員室まで行ってみることにした。だけど遊司の姿はなく、教頭先生に話を聞いてみると実技試験を行っているというではないか。
私は教頭先生にお礼を言って急いでその場を去る。相手は誰か知らないが、遊司はデュエルアカデミアでも屈指のデュエリスト。そのデュエルが生で見れるというのだから見ない手はない。
デュエル場に向かっていると、廊下を歩く見覚えのある小柄な女の子の後ろ姿が見えた。
「! 光ちゃん!」
呼びかけると、一瞬ビクッとして、慌てて振り向いてくれる。肩にかかる程度のサラサラで綺麗な白髪。長い前髪で右目を隠し、クリクリの大きな左目を見せている彼女は、いつもどおりの小動物っぷりで母性本能がくすぐられて大変だ。
「あ、龍可さん。こんにちは」
「うん。こんにちは、光ちゃん」
「ひゃ、わっ」
無意識のうちに思わず頭を撫でてしまう。それに恥ずかしそうに悶える彼女に、ついつい衝動に任せて抱きしめたい感情に支配されそうになるが、流石にそれは理性を総動員してなんとか押さえ込んだ。
「あ、あの、いったいどうしたんですか? こっちの方に来たということは、デュエル場に用事でも?」
「え? ああ、そうだった!」
光ちゃんの言葉で忘れかけていた目的を思い出す。と、同時に疑問が浮かんできた。
「って、そういう光ちゃんはなんで? こっちはデュエル場しかないし、光ちゃんも?」
撫でていた手を下ろして聞くと、光ちゃんはすぐに顔を上げて答える。
「あ、はい。デュエル場の電気がついていたので、デュエルでもしているのかと思って」
こう見えて光ちゃんは校内でも有名なデュエリストだ。主席で入学したと言えばわかると思う。そんな光ちゃんはやっぱりデュエルが好きなのだろう。
「そっか。実は今私の友達の遊司が実技試験やってるんだって。よかったら一緒に行かない?」
「いいんですか? ありがとうございます!」
こんな些細なことでも満面の笑みでお礼を言う光ちゃん。
「ん~っ、もう! なんでこんなに可愛いかなあ!」
「え!? ちょ、龍可さん!?」
さっき押さえ込んだ衝動はもう止められそうになかった。
デュエルディスクがランダムで先攻後攻を決め、デュエルが開始される。俺のデュエルディスクに表示されたのはsecondの文字。
「俺の先行だ! 俺はモンスターとカードを1枚ずつセット! これでターンエンドだ」
先攻をとった槍座が手札のカードを2枚取りデュエルディスクにセットすると、裏側表示のカードが立体映像としてフィールドに出現した。この世界においてデュエルモンスターズを飛躍的に進化させた革新的システム。ソリッドヴィジョンシステムだ。それはただの立体映像ではなく、デュエルで発生する衝撃なども再現するすぐれものだ。衝撃といっても、もちろん軽く風が起こる程度で安全なものだが、非常にリアルなモンスターや攻撃とあわせてくると、そんな軽いものでもより現実感を強くし、圧倒的な迫力を生んでいる。デュエルリストの誰もがその魅力に取り付かれているのは当然のことだった。
さて、相手のターンが終わったのだから次は俺の番だ。
「俺のターン、ドロー!」
ドローカードを確認し、手札のカードと見比べる。この手札においてもっとも重要となるカードが引けたといっていいだろう。しかしながら今の状況ではそれも活かせない。
「なら、俺は暴風小僧を攻撃表示で召喚!」
風を操る小柄な少年が俺のフィールドに現れる。強気に笑う彼は、危なっかしくも頼もしく、俺の指示を今か今かと待っているようだった。
暴風小僧
星4 風属性 天使族
攻撃力1500 守備力1600
風属性モンスターを生け贄召喚する場合、このモンスター1体で2体分の生け贄とすることができる。
「暴風小僧でセットモンスターに攻撃だ!」
指示を出すと、暴風小僧は両手を頭の上に掲げ、そこに風を凝縮。それを投げるように前へ突き出すと、風圧の塊となってセットモンスターに向かって放たれた。
同時に、セットされていたモンスターが反転し、その姿を現す。そこには槍を前に構え、 防御の姿勢と取る鎧を着込んだ槍座が、って、え?
「俺の伏せていたのは六武衆-ヤリザだ」
六武衆-ヤリザ
星3 地属性 戦士族
攻撃力1000 守備力500
自分フィールド上に「六武衆-ヤリザ」以外の「六武衆」と名のついたモンスターが存在する場合、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。
また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊される場合、代わりにこのカード以外の自分フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を破壊できる。
守備力500対攻撃力1500。耐えられるはずもなく、ヤリザは風に吹き飛ばされ、破壊された。
「ああ!? ヤリザさんの分身が!」
「ヤリザさんしっかり!」
「うるせえ!! 俺はここにいるわ! って、あ! ちがっ」
途端にさっきもいた取り巻きたちが騒ぎ始める。すぐに槍座が反応するが、なんか今自分がヤリザだって認めなかったか?
「はは……。俺はターンエンドだ」
面白さを通り越して呆れ半分にターンを終了する。見れば鴇矢先生も苦笑気味だった。しかし本当に槍座はヤリザに似ているな。一瞬本人かと思ってびっくりした。
「の野郎、なめやがって……。オメエらも覚悟しろよ! 俺のターンだ!」
槍座は顔を真っ赤にしてデッキに手をかける。さて、こいつもオベリスクブルーなんだし、ここからが本番だろう。
「ドロー! !! コイツはいいカードを引いたぜ」
「?」
ドローした瞬間、槍座の顔から怒りの色が消え失せ、不敵な笑みに変わる。まるで何かを企んでいるかのようだ。
「まずは、六武衆のご隠居を特殊召喚! コイツは相手フィールドにのみモンスターがいるとき特殊召喚できるのさ!」
「!」
六武衆のご隠居
星3 地属性 戦士族
攻撃力400 守備力0
相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚することができる。
特殊召喚、ってことは、まだ何か来るのか。さらなる展開を予想し、意味もなく身構える。そんな俺の姿に笑を深め、槍座はさらに手札のカードを手に取る。
「さらに俺は手札から速攻魔法、六武衆の荒行を発動! この効果でデッキから、チューナーモンスター、六武衆の影武者を特殊召喚するぜ!」
槍座が魔法カードを発動すると、ご隠居が腕を振り上げる。それに呼応するかのように、いかつい鎧を着込んだモンスターが姿を現した。槍座の様子からおそらくドローしたいいカードとはこの荒行のことだろう。
六武衆の荒行
速攻魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターと同じ攻撃力を持つ、同名カード以外の「六武衆」と名のついたモンスター1体を自分のデッキから特殊召喚する。
このターンのエンドフェイズ時、選択したモンスターを破壊する。
六武衆の影武者
星2 地属性 戦士族 チューナー
攻撃力400 守備力1800
自分フィールド上に表側表示で存在する「六武衆」と名のついたモンスター1体が魔法・罠・効果モンスターの効果の対象になったとき、その効果の対象をフィールド上に表側表示で存在するこのカードに移し替える事ができる。
召喚されたモンスターと槍座の発言の1つが俺を驚かせる。
「! チューナーだと!?」
チューナーモンスター。ある種類のモンスターを召喚する際のキーカードとなるモンスター群だ。これが来たということは、それをやるつもりなのだろう。しかし槍座の動きはまだ終わらない。
「驚くのはまだ早い。さらにリバースカード発動! 罠カード、六武衆推参! コイツは自分の墓地から六武衆1体を特殊召喚するカードだ!」
六武衆推参
罠
自分の墓地の「六武衆」と名のついたモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に破壊される。
槍座の伏せられていたカードが表になり、そこから幻影のようなものが飛び出してきた。同時に、槍座のデュエルディスクの墓地が光り1枚のカードが出てくる。今槍座の墓地のあるモンスターは1枚のみ。つまり蘇生されるのは……
「甦れヤリザ!」
先ほど暴風小僧によって破壊されたヤリザが姿を現す。
「出るぞ! ヤリザさんのシンクロコンボが!」
「さすがヤリザさん!」
「オメエらは少し黙ってろ!!」
ギャーギャーと槍座たちがコントを始めるがこちらにとってはそれどころではない。フィールドにはレベル3のチューナーモンスター影武者と、レベル2のご隠居、レベル3のヤリザ。こうして並べたということは、その答えは一つだ。
しかしあるのは恐怖ではない。むしろ何が来るのか楽しみで仕方がなかった。
「ったく。行くぜ! 俺はレベル3のヤリザとご隠居に、レベル2の影武者をニューニング!」
予想した通りに槍座が指示を出と、影武者が3つの光の輪へと姿を変え、そこにヤリザ とご隠居が飛び込む。やがてその2体はそれぞれのレベルと等しい数の光の玉となり、1列に連なった。
「大いなるキングの象徴よ! 俺の武士道にその王道を連ねよ!」
槍座の言葉に合わせ光の輪と玉は一筋の光となり、新たなモンスター呼び出す。
「シンクロ召喚! 押して参れ! クリムゾン・ブレーダー!」
光の中より現れたのは、真紅の体を持つ2本の巨大な剣を携えたまるで機械のような戦士。
クリムゾン・ブレーダー
星8 炎属性 戦士族 シンクロ
攻撃力2800 守備力2600
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。次の相手のターン、相手はレベル5以上のモンスターを召喚・特殊召喚できない。
「シンクロ召喚か……」
これがシンクロ召喚。チューナーとそれ以外のモンスターを墓地へ送り、そのレベルの合計と等しいレベルのシンクロモンスターをEXデッキから特殊召喚する召喚法だ。
「しかもこのモンスターは……っ!」
俺はこのモンスターに見覚えがあった。俺の言葉に気をよくしたのか、槍座は誇るように自分の前に立った戦士に手をかざした。
「そう、このモンスターはあのキング! ジャック・アトラスの従えるシンクロモンスターだ!」
ジャック・アトラスとは今世界で最も注目を集めるデュエリストだ。プロリーグにおいて毎年行われる世界王者決定戦。そこでこのジャック・アトラスは3年連続で優勝。ディフェンディングチャンピオンとなっているのだ。そんな彼はよくデュエルを始めるとき観客に対し、「キングは一人! この俺だ!」という決め台詞を叫ぶことからキングという相性で知られている。今やデュエリスト達の大きな目標の一人だろう。
そしてこのクリムゾン・ブレーダーはそのジャック・アトラスの愛用する強力なシンクロモンスターの1体なのだ。かなりのレアカードのはずだが、いったいどうやって手に入れたんだか。
「コイツでお前の息の根を止めてやるぜ! バトルだ!」
槍座は勢いに乗ってバトルフェイズに入る。そして俺のフィールドにいる暴風小僧を指した。
「クリムゾン・ブレーダーで暴風小僧を攻撃! レッド・マーダー!」
クリムゾン・ブレーダーは高く飛び上がると、慌てる暴風小僧に向かってそのまま躊躇いなく剣を振り下ろした。途端に爆発に包まれ、衝撃が体を襲う。
2800-1500=1300
遊司LP4000-1300=2700
「くっ!」
「さらにこの瞬間クリムゾン・ブレーダーの効果発動! フィフス・マーダー!」
「!!」
槍座の言葉にハッとして顔を上げる。クリムゾン・ブレーダーはまだ俺の前におり、こちらを睨みつけるように見ていた。全身から赤い気のようなものが吹き出し、こちらを威圧してくる。
「次の相手ターン、相手のレベル5以上のモンスターの召喚、特殊召喚を封じる!」
「な!?」
その強力な効果に思わず耳を疑う。その効果は俺のデッキに対し大きな影響をもたらすからだ。
「これでお前は何もできまい! ターンエンドだ!」
槍座の場に戻っていくクリムゾン・ブレーダーを見ながら、俺は焦るようにデッキに手をかけた。
「っ、俺のターン」
(このままじゃまずい。何とか打開できるカードを引かないと)
「ドロー! !!」
ドローしたカードを見た瞬間、それをすぐにデュエルディスクにセットし、発動させる。
「手札断殺を発動! 互いに手札を2枚墓地に送り、2枚ドローする! 俺はダブル・サイクロンとマジック・プランターを墓地へ!」
手札断殺
速攻魔法
お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送る。その後、それぞれ自分のデッキからカードを2枚ドローする。
ダブル・サイクロン
速攻魔法
自分フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚と、相手フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を選択して発動する。選択したカードを破壊する。
マジック・プランター
魔法
自分フィールド上の表側表示で存在する永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
デッキからカードを2枚ドローする。
「俺の手札はこの2枚だけだ。紫炎の寄子と六武衆の御霊代を墓地へ送る」
紫炎の寄子
星1 地属性 戦士族 チューナー
攻撃力300 守備力700
自分フィールド上に存在する「六武衆」と名のついたモンスターが戦闘を行う場合、そのダメージ計算時にこのカードを手札から墓地へ送って発動する。そのモンスターはこのターン戦闘では破壊されない。
六武衆の御霊代
星3 地属性 戦士族 ユニオン
攻撃力500 守備力500
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に装備カード扱いとして自分フィールド上の「六武衆」と名のついたモンスターに装備、または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚できる。この効果で装備カード扱いになっている場合のみ、装備モンスターの攻撃力・守備力は500ポイントアップする。装備モンスターが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、自分はデッキからカードを1枚ドローする。(1体のモンスターが装備できるユニオンは1体まで。装備モンスターが破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。)
「そして、2枚ドロー!」
同時にドローし、手札を確認する。
(……! このカードたちなら)
「俺はカードを3枚セット! ターンエンドだ!」
俺の場の魔法・罠ゾーンに3枚のカードがセットされ、ターンが終了する。
「はっ! カードを伏せただけかよ! それじゃあ終わっちまうぜ!」
槍座の言うとおり、俺のLPは2700。クリムゾン・ブレーダーの攻撃2800を食らえばそこまでだ。だが俺は強気でそれに答える。
「なら、やってみろよ」
「! おもしれえ! 俺のターンだ!」
槍座の顔が小馬鹿にしたようなものから挑戦者のそれへと変わった。カードを引き、即座にカードを発動する。
「俺はフィールド魔法、草原を発動! コイツはフィールドの戦士族と重戦士族モンスターの攻撃力と守備力を200ポイントアップするカードだ!」
フィールドの景色が変わり、爽やかな風の吹く草原地帯へと姿を変える。そこは戦士たちにとっての戦いの舞台。
クリムゾン・ブレーダー
攻撃力2800→3000
守備力2600→2800
わざわざこのカードを発動したのは、槍座のこの攻撃へ挑戦するという強い気持ちを表しているのだろう。それを証明するように、槍座は真っ直ぐに俺を見てクリムゾン・ブレーダーに指示を出す。
「行け! クリムゾン・ブレーダー! ダイレクトアタックだ!」
巨大な戦士が赤い閃光となって俺にその大剣を振り下ろした。
「ここね。デュエルはどうなってるかな」
思ったよりも時間がかかってしまった。主に龍可さんのせいで。もしかしたらもう終わっているかもしれない。
そう思って龍可さんを見るが、しかしそこには何の不安もない楽しそうな笑顔しかなかった。
(……どうして、そんな顔でいられるの?)
「龍可さんは、心配じゃないんですか?」
「え? 心配?」
キョトン、とする龍可さんに、私の疑問はさらに強くなる。
「そのお友達が負けるかもしれないって、考えないんですか?」
私なら、きっと不安になるだろう。自分の友達がデュエルをしていたら、大丈夫だろうかって、心配ばかりするだろう。なのに龍可さんは、全然そんな様子はない。だから思わず聞いてしまったのだ。
「ん~、なんていうのかな」
龍可さんは少し上を向いて考え始めるが、すぐに答えを出したようで私に笑いかけてくれた。
「なんか、遊司なら大丈夫って、そう思えちゃうんだよね。どんなピンチになっても絶対にあきらめない。そして最後にはいつの間にか勝利を掴んじゃってるの」
そう迷いなく言う龍可さんを見ていると、なんだか少し羨ましくなってしまう。つまりそれは、それだけその人のことを信頼しているということだ。
それは、そんな風に思える人が、私にもいればって。どうしても、そう考えてしまう。
「ほら、行こ! ほんとにデュエルが終わっちゃうよ!」
龍可さんに手を引かれデュエル場に入る。そしてその光景に目を疑うこととなった。
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