遊戯王TAKEⅡ   作:レイレナード

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作者「お待たせしました。連絡もなくしばらく休んで申し訳ありません」

瑠奈「使い物にならないわね。それしか能がないのにこれではお話になりませんわ」

作者「すみません。いやでも、卒業制作とかで忙しくてですね」

瑠奈「言い訳? はっ! 見苦しい」

作者「ご、ごめんなさい」

瑠奈「ふん。わかればいいのよ」

作者「では今回は前置きは短めにして……」

瑠奈「ちょっと待ちなさい。この私がわざわざ来てあげたのに、これで終わりですって?」

作者「あれ、不満?」

瑠奈「当り前ですわ! 他の方はもっと長かったというのに」

作者「でも何話すの?」

瑠奈「それはもちろんお兄様がいかに素晴らしいお方かというこt」

作者「それでは本編をどうぞ」


Episode06 侵略は追い縋る火が如く 前編

 いつもニコニコあなたの隣にアカデミア新聞

『これが修羅場か!? 帰ってきたあの人が大胆発言! あれから3日、今なお継続中のアレを見て彼らは何を思うのか 取材編』より抜粋

 とある生徒Yさんの証言

「うん? 取材か。……ああ、アレをどう思うかって? 真ざまあみろ、かな。うん。色々迷惑掛けられたし、ちょうど良い薬だと思う。……つか、よく3日も続けられるもんだなあいつらは」

 とある可憐な生徒Rさんの証言

「あはは、可憐だなんて恥ずかしいね。……ああ、あれのこと? 正直ここまで続くなんて予想外かな。どっちも意地になってるんじゃないかと思う。……あ、真が盛大にこけた」

 我らが癒しの女神H様の証言

「なんですかこの渾名!? き、きらびやか過ぎです! ま、まさか龍可さんの言ったことは本当なんですか!? ……え? そんな事はどうでもいい? よくありません!! って真さん危なひょわあ!?」

 

(どうして、どうしてこうなってしまった!?)

 そんな思考を俺は瞬時に切り捨てる。気をそらした瞬間、俺に勝ち目はない。四肢を緩めることなく走り続けた。

 あれから3日。休む暇はほんの少し。体力は限界。精神も度重なる襲撃で磨耗している。だが敵はすぐそばに近づきつつあり、集中を切らせばすぐさま追いつかれてしまうだろう。それだけはあってはならない。

「ふんぬらば!」

「うおりゃあああ!」

 階段を一段跳ばして駆け上がり、すぐさま方向転換して廊下を右に駆け抜ける。だが敵も然る者、俺とほぼ同じスピードで緩めもせず追ってくる。……オカシイ。男子の方が女子よりも身体能力は上だと聞いた覚えがあるのだが。

「いい、加減……! あたしの派閥に、下れおんどりゃあ!!」

「い、いやじゃボケー!?」

 女子に追いかけられるなんて羨ましいというのは幻想でした。三日も追いかけられてみて初めてわかるなんて勘弁して欲しい。というか追いかけられるのを勘弁して欲しい。

 そこで俺の足が、誰かの足に引っかかる。

 走った勢いで投げ出される体。呆然とし、スローモーションのような意識の中、光ちゃんが何かを避けた格好で俺を唖然と見送っている様子が見えた。何の因果か、俺の足元に突き出されるように前に出ている右足も。

(……どうしてこうなった?)

 目の前に地面が近づく中、俺の脳裏には走馬灯のように3日前の光景が頭をよぎっていた。

 

 

「俺のターン! ドロー!」

 籠に積まれているドローパンを勢いよく取り出す。気分は「ガッチャ!」で有名なあのヒーロー使い。あの御人はドロー運がすばらしいのであやかるのにはちょうどいい。

 昼休み。授業を半ば終えた俺は、いつも通り遊司たちと共に食堂で昼食を取りにやってきていた。ドローパンにしたのはDPの消費を抑えるためと、単純に運試しをしたかったからである。

 さて、遊司、龍可、光ちゃんが固唾を呑んで見守る中、俺は袋を開ける。

「……来たぜ」

「「「!?」」」

 出てきたのは黄金の卵パン。前回といい今回といい、引きが良すぎて震えてくる。さすがは「遊」は字を持つ者、格が違うというべきかリスペクトしただけでこれとか。これが俺の引きとか信じられません。

「……俺のドローがこんなにチートな訳がない」

「な・ん・で・だ!? 真、お前ズルしてないよな!?」

「うわ~。さすがの私も疑っちゃうな~」

「……すり替えました?」

 次々と俺の性格やら何やらが貶められていく。光ちゃんが具体的すぎて特に酷い。ちなみに、遊司はイナゴの佃煮、龍可は銀色の白身魚サンド、光ちゃんは味付けモズクだった。

 とりあえず空いた席に座り、続く遊司たちに反論することに。

「皆酷くね!? 流石の俺の心もブロークンハートなんだが」

「俺たちの心が逆にブロークンハートだっ! この前といいこんなの理不尽すぎる!」

「全くです。理不尽です。狙ってたのに」

「そうそう、不公平だよ。だからちょっとずつ交換しよ?」

「……ええ~」

 結局のところドロー運が結果を左右する。良い結果を出せないのは個人のドロー運が無いせいであると言っても過言ではない。故に交換する必要性はまったくないわけなのだが。

「「「……ダメ?」」」

「ぐ! その目はやめろ。そして遊司、てめーはダメだ」

 さすがに上目遣いをされると弱る。龍可と光ちゃんは美少女であるため、女子とまともに話せなかった俺にはちょっと眩しすぎる。遊司? 奴の上目遣いにイラッときたので断じてやらん。

 その後、龍可と光ちゃんに卵パンを分けたり、分け合って食べ比べたり、遊司と卵パンを巡る仁義無き論争を繰り広げたりと楽しい昼休みを過ごす。

 そんな時、遊司の後ろを2人の男子生徒が通り過ぎた。仲が良いらしく、冗談を言っては殴る振りや蹴る振りをしている。片方は青い制服、もう1人は赤い制服であることからブルー生とレッド生であることがわかった。

(あれ? 仲が良い?)

 ふと、あちらの世界で見たアニメの1部分を思い出す。確か昔、というかアカデミアでは区別やら差別やらで、レッド生とブルー生は特に互いにいがみ合っていたはず。かのサンダーさんが良い例である。俺が見た限り、少なくとも仲が良いとは思えなかった。

 気になって残ったパンをすばやく食べ、辺りを見渡してみると、気が付かなかったが仲良さげ赤と青、黄色の混色グループが所々で見受けられた。

「ングッ。どうした真?」

 遊司が挙動不審な俺に気が付いて、半分になったパンを持ち話しかけてきた。ちょうどいいと思い遊司に事情を聞くことにした。

「いやな? レッド生とイエロー生、ブルー生の仲が良いなって思って」

「ハグハングッ。そうか? 俺は気にしたこと無いけど」

 残っていたパンを全て食べ終え、遊司はことも何気に言う。……これは、あのアカデミア時代のことを知らない? ということは時代と共に改善されたとかな?

「はれ? ング。真、昔のアカデミアの実情知ってたの?」

 そう結論付けようとした俺に龍可が口を挟んできた。遊司と同じように少しだけ残ったパンを飲み込み、意外といった目で俺に話しかけてくる。

「え? 昔は仲が悪かったんですか? ハムッ」

 丁寧に千切りながら少しずつパンを食べる光ちゃんは、龍可の肯定とも取れる発言に目を丸くする。確かに今の食堂の光景を見る限り信じられないだろう。

「そうだねえ。今じゃ考えられないかもだけど、アンティルールなんてザラな時代だったらしいしね」

「そこまでやばかったのか!?」

 龍可の言葉に遊司と光ちゃんは驚愕する。まあ信じられないよな普通は。

 アンティルールとは、デュエルにお互いのカードを賭けること。つまりは相手のカードを勝った者は奪えるということ。アニメ内でもそんな場面が確かにあった。

「まあそこはともかく、そんな時代だからブルー生がレッド生を下に見て差別したり、レッド生もレッド生で向上心が無く妬むばかり、なんてこともあったみたいだよ?」

「そんな……」

「そんな時代がなあ」

「でも、そんな時代を変えたのがあの伝説の――」

「遊城、十代」

「あ、真やっぱり知ってたんだ」

 GXの主人公であるヒーロー使い。彼のその姿に大勢の人が憧れ、そして心を許していった。彼の存在はそんな時代で一際輝いていたことだろう。想像に難くない。

「まあ、今回は関係ないんだけどね」

「「「アラ!?」」」

 てっきり彼のおかげで差別やらなにやら無くなったと思っていたのだが。龍可はそんな俺の内心をあっさり否定する発言をした。遊司と光ちゃんも驚いたのか少し体勢を崩している。

「本人にその意思があったかどうかは分からないけど、彼のおかげで大分緩和されたって言われてはいるよ。でも、早々無くなりはしなかったんだって。実は、ここまで仲が良くなったのはここ最近なんだよね」

「最近?」

「何かあったか?」

「私は心当たりがありませんが」

 俺、遊司、光ちゃんの順で首を傾げる。ここ最近ということは、少なくとも2、3ヶ月前は仲が悪かった。そしてそれを最近改善した出来事があるということ。俺はわからなくて当然だが、遊司と光ちゃんにまったく見に覚えが無いというのはおかしい。

「秀、だよ」

「「はあ!?」」

「……あ~何となくわかったわ」

 龍可の一言に俺と光ちゃんの声が揃う。え、秀君ってあの秀のことだよな? 「僕が、僕こそが貴公子だ!(キリッ)」っていうあの? 遊司は納得しているみたいだけど。

「秀ってさ、結構おせっかい焼きだから、女子だけに留まらず男子にも好印象で慕われてるんだよ。そんな秀のおかげで、険悪になっていた皆も仲良くなっていったんだ」

「言われてみればそんなことしてたな。気にしてなかったから気が付かなかった」

「すごい人ですね」

 遊司がどことなくうれしそうな表情で納得し、光ちゃんは感心した様子で龍可の言葉に同意した。俺はそんな奴と戦ったのか。どことなく誇らしいというか、光栄に思ってしまう。

「ちなみに、秀の派閥及び支持率は学園全体の5割を切ってま~す。『秀様ファンクラブ』に始まり、『御庭番(おにわばん)(しゅう)』『貴公子愛好会』『空を飛部(とぶ)』とか色々作られてるよ?」

「「「色々とパネぇ」」」

 秀の派閥はすごく大規模な組織と化していました。てか秀のカリスマがすごすぎる。入学して僅か2、3ヶ月でそれかよ! カイザーさん以上なんじゃないだろうかこれは。

「って待て。派閥? ファンクラブとかそう言う意味か?」

 派閥という言葉が気になって聞いてみると、龍可は「そっか。真は知らないよね」と1人納得して、説明してくれた。正直遊司や光ちゃんも知らなさそうだけどな。実際光ちゃんは興味深そうに聞いてるし。

「デュエルアカデミアで生徒会長になるためには当然生徒たちからの支持率ってものが必要になるわけだけど、それを明確化するための1つの手段として誰かの派閥を作ってそこに所属するって方式がとられてるんだ。たぶん昔の先輩たちの戯れで」

「先輩たちェ……」

 もしかしてアカデミアって想像以上に暇なのではないだろうか。

「まあ、今言った通り明確な決まりってわけじゃないから、別に無所属でもいいんだよ?結局は立候補した人の中から投票日に全校生が投票して決めるんだから。派閥が作られてても立候補しない人だっているし」

「つまりただのファンクラブってことじゃないか……」

 聞いてるとなんだか呆れてくる。しかし同意を得ようと遊司を見ると、どこか遠くを見るような目をしていた。……そこに見たことのない大地でもあるのだろうか。

「まあそうだけど、派閥が大きいとアカデミアの方針とかにも口出しできるから、ある意味派閥って言い方もあってるかもしれないよ」

「派閥の存在はそのまま権力に繋がるのか。人によっては必死になりそうだな」

 生徒の中で権力争いがあるとかそれ放置してていいのかな。生徒の自主性を重んじるにしてもさすがに行きすぎな気がする。

「そういえば残りの5割は? 無所属とかそんなのか?」

「うん? そうだねえ。残りは――」

 俺の質問に龍可が意味ありげな笑みで答えようとしたとき、食堂の入り口が僅かにざわめきだした。その場所を振り返って見てみると、何人かの女子生徒が「お帰りなさい!」「お待ちしておりました!」と1人の女子生徒に大挙して挨拶していた。

「あちゃ~帰ってきたのか~。もうちょっと遅くなると思ってたんだけどな」

「龍可さん?」

 ウェーブをかけたボブ、薄いピンクの髪をしたその少女を見て、龍可は困ったような笑みを浮かべそう呟いた。彼女に嫌な思い出でもあるのだろうか?

「えっとね、彼女はレーナ・ドロエットさん。彼女にも派閥があって、残りの5割の中にそれが含まれてるんだけど――」

「この食堂に中に、兵武真という男子生徒は居る!?」

「……はい?」

 彼女、ドロエットさんの声が食堂に響き渡る。食堂内の生徒が一斉にこちらを見た。

「ふ~ん、なるほどなるほど」

 注目されている俺を見つけ、こちらに向かって悠然と歩いてきた。それはさながら犯人を追い詰める探偵のようで、一体何のようなのかと俺は困惑した。

 そして、俺の目の前で止まる。そこで近くにいた遊司たちに気づき、嬉しそうだった表情を険しくした。

「……」

「ど、どうもレーナ先輩」

「ご無沙汰してます、先輩」

「えっと、初めまして……?」

 それぞれが違う表情をしてあいさつする。遊司は引き攣った笑みで、龍可は困った顔から一転していつもの笑顔で、光ちゃんはどうやら初めて会ったらしく戸惑いながらも普通に。……前者2人、何があった。

「フン、まあいいです。今回は貴様らに用はねえ」

 そんな彼らに構うことなく、口調の激しい彼女は俺に目を向ける。

「あたしは2年のレーナ・ドロエット! 初めまして、真」

「は、初めまして? 兵武真、です」

「あれ、私も言ったのに無視されました!?」

 いきなりの呼び捨てに驚いた。つい口篭る。光ちゃんは無視されたことに悲しそうだ。そんな俺、ついでに光ちゃんに構わず、彼女はこちらを値踏みするように俺を見る。時節「覇気が少し……」「……でも実力は上」と呟いては手をあごに当て考え始める。

「えっと?」

「うん、決めた!」

 え、なにを? 俺がそう言おうとした瞬間――

「喜びな真! あんたは今日から私の派閥に入れるんだから!」

「……ファ!?」

「「なん……だと……」」

「あちゃちゃ、そうくるよね~」

 いきなりの派閥入り宣言に俺はつい変な声を出してしまった。え、どゆことやねん!? 遊司と光ちゃんは驚きすぎてネタにはしり、龍可はまるで予想していたかのように苦笑いしている。

「あたしたちの最終目的はこの学園の頂点に立つこと! そのためには力、つまりデュエルの強い生徒が必要なわけ。そして力の周りには人が集まり、あたしたちは学園で一番の派閥に発展していくことが出来る!」

 レーナさんの演説は最高潮。拳を握り力説している。遊司、龍可、光ちゃんは呆れつつ彼女の話を聞き、その彼女の周りにはその派閥のメンバーであろう女子生徒が集まり同意するように頷いている。

「そのために真、あんたが必要なの。わかった? ってあれ?」

「うん? 真?」

「あれ? 真さんいつの間に……?」

 レーナさんが手を向けた先に俺はいない。そのことに遊司、光ちゃん、その他大勢が気づき始める。

「いた! そこ!」

 その中の誰かがついに俺に気づく。俺は演説が始まり彼女に注目が行くと同時に席を離れ、食堂の出口まで匍匐前進で移動していた。……だって、面倒ごとの臭いしかしないんだもんよあの時点で。

「というわけで、散!」

「おい待てやコラー!!」

 手を軽く挙げ、すばやく起き上がりダッシュ。それなりの好スタートにもかかわらず、その後をレーナさんがすさまじい勢いで追ってきた。なにそれ怖っ! そして早っ!

 とりあえず目下の目標は1日逃げ回ること。1日逃げ回れば諦めてくれるだろう。……諦めて、くれるよね?

 

 

「……早いな」

 逃げていった真とそれを追うレーナ先輩の姿に俺は呆然と呟く。まさに嵐のような一幕だった。光と龍可も呆然としたまま動かない。周りに居た生徒たちも驚愕で固まっていたが、しばらくしてレーナ先輩側の女子生徒は慌てて追いかけ、他は困惑しつつもそれぞれ行動を開始し始めた。

「レーナ先輩必死だね~。まああれだけのことがあったんだし、仕方ないよね遊司~?」

 意地悪げに俺に言う龍可。光は原因が俺にあると知り、まさかといった様子でこちらを見る。そんな2人から俺はすばやく視線を逃がす。

(え、やっぱそうなっちゃうか? でもあれは不可抗力……)

「ま、確かにあの時は不可抗力、と言うより制御不可抗力だったよね」

「エスパーかお前は。そしてその意見には激しく同意しておく」

「え、え? 一体何があったんですか?」

 俺たちの話しについて来れなくなったのか疑問を口にする光。

「そうだね、光ちゃんにも順に話しておこっか」

 そして龍可が光に話し始め、俺はその話に乗っかるようにあの時のこと、あの時に教えてもらった情報を思い出す。

 まずレーナ先輩について。彼女はブルー女子生徒全体の派閥を仕切っていたそうだ。女子生徒は全員ブルー生。それ故ブルー男子勢とレッド男子勢のいざこざには興味が無く、解決できるだけの力がありながらそれを解決しようとも思っていなかったらしい。というかそれすらも利用して男子勢さえも飲み込まんとしていたそうな。

「先輩の狙いは生徒会長の座。他のことはどうでもよかったんだねきっと。ともかく、あのアグレッシブさでどんどん派閥を大きくしていったんだ」

 龍可がげんなりとする。その理由を俺は知っている、というよりも聞かされている。

 勢いに乗っていたレーナ先輩は新入生にも目をつけ始めた。龍可はその時結構迷惑をかけられたらしい。その愚痴に付き合った覚えがある。そして――

「遊司も巻き込まれたんだよね」

「そうだったんですか?」

「あー、まあな」

 光の問いに、俺はあの時のことを思い出し苦笑する。そう、実は俺も真と同じ理由でレーナ先輩に誘われたことがあるのだ。その時の俺は、何というか、適当に返事をしていた気がする。気が付いたらレーナ先輩の派閥に組み込まれていた。道理で知らない女生徒から声をかけられると思った。

 ますます勢いづくレーナ先輩の派閥、ドロエッ党。さてそんなレーナ先輩覇王時代に、1つの綺羅星が颯爽と、意図せず無自覚に舞い降りる。

「秀」

「ここで!?」

 龍可の一言に、光、絶句。そう、ここで、なのだ。ここでも、と言ったほうが正しいのかもしれない。

 仲良くしようぜ思考をこれでもかと学園内に広めていった秀。ドロエッ党が影響を受けないはずも無かった。しかも頭脳明晰、スポーツ万能、才色兼備、アイドルといった、女性に優しい要素をこれでもかと搭載した奴に、心が釘付けにならないはずが無かった。

 誰が予想するだろうか? 俺がそれにさらに拍車をかけていたなどと、内部崩壊のパイプ役になっていたなどと。事の真相を聞かされた俺の心中は察すべし。秀が俺によく構うことで、近くにいたレーナ先輩派の女子生徒と関係ができ、その結果秀に悩殺されてしまうという侵食コンボが出来上がっていた。

「結果、ドロエッ党は秀君派の勢力ができて内部崩壊。その力は学園全体の1割程度にまで落ち込んでしまいましたとさ」

「それであんな態度を……」

 龍可が昔話っぽく話を締める。光は何とも複雑そうな顔をして俺を見た。まあそうだよな。他人事だったら俺だってそんな顔をする

 あの時のレーナ先輩の発言「オウマイガッ!」は忘れない。せっかくの巨大になりかけていた派閥を飴を溶かすがごとく削られたのだ。うなだれて手を地につく姿には不憫しか感じなかった。

 ふとそこで俺は疑問を抱く。全体の1割? 妙に少ないような……。

「たった1割? 残りの5割が先輩の派閥じゃなかったのか?」

 全盛期を9割、今期で秀の派閥と同じ5割くらいと予想していたのだが違ったらしい。

 そんな俺の疑問に龍可はその質問を待っていたとばかりに笑みを浮かべた。

「実は、光ちゃんの派閥で~す」

「けっほ!?」

「実質、秀君と光ちゃんの派閥がほぼ二分割してる状態だね」

 何とも得意げに新事実を暴露する龍可。光はいきなり咳き込み始めた。……じゃなくて! え、まじか!?

「ひ、光、まさかお前が……!」

「ち、違います違います! る、龍可さん!? 私そんなの初耳ですよ!?」

 光が手を上下に振って、今までに無いくらい動揺し始めた。光にとっても新事実らしい。

「ちなみに、私が会長」

「る、龍可さあああああんん!?」

 ついに容量を超えたらしい。真っ赤になって龍可を叩こうと手を上下に振るも、龍可は肩叩き程度にしか思っていないようで、「ん~気持ち良いねえ~」とむしろ率先して叩かれている。なんだこれ、ひどすぎる。

「というかそれで私、先輩に無視されてたんですね!? 絶対あれ敵視されてたじゃないですか、もーもー!!」

「あはは、ごめんごめん。あ、そこもう少し左」

 龍可がこれ以上ないほど幸福な顔をしていた。真っ赤になった光に癒されているんだろう。傍から見ればただじゃれあっているだけだもんな。ふと周りを見ると、食堂のほぼ全員が何か可愛いモノを見たような反応をしていた。なるほど、萌えか。秀と同じ人気を誇るのがわかる気がする。

 光が落ち着いたのは、昼休みが過ぎてからだった。周りの視線に気が付いてさらに真っ赤になる光は素直に可愛かった。

(……しかしあれだ、レーナ先輩とは関わらない方がいいんじゃないかこれは)

 龍可の話を聞いて益々そう思う。まずいい結果を生むことはないだろう。そこのところを龍可と光に話した方が良いかもしれない。

 

 

 そんなこんな、というかあんなこんなで三日。その放課後。

「助けてくれ」

「「「頑張れ(って)」」」

「即答!?」

 光ちゃんに足を引っ掛けられた時はどうなる事かと思ったが、驚異的幸運で一回転して着地することができた。……走馬灯が見えたときはどうなる事かと思った。

 あの後も追いかけっこは続いた。教室廊下職員室校長室生活指導室に始まり、森海空と走り抜けました。空? ……また崖から落ちてスカイハーイとかほんと勘弁である。

 で、流石に疲れが溜まりに溜まってまずいので遊司たちに助けを請うたのだが、……皆さん、御無体すぎやしませんか?

「なんでや! なんでワイがこんな目にあかんといかんのや!?」

「落ち着いて真。私たちだって助けたいよ! でもね……」

「そう、だな……」

「です、ね。ごめんなさい」

「人がギャグってるのに何さその反応!? え、一体何があったし!?」

 何か予想外にも真面目に返された。遊司たちはとても罰の悪そうな顔で、俺を見ず明後日の方向を向いていた。流石の俺もこれには驚いた。レーナ先輩に何したんあんたら。

「そ、それよりも! 先生はどうかな? ほら担任の」

「ああ、鴇矢先生だろ? 俺もそう思って、昨日の放課後先生に頼みに行ったんだけどさ――」

 以下、ダイジェスト。

 

『と、鴇矢先生! ゼハ、ゼハ、い、今すぐ早急にお願いしたいことが! ゼハ!(超汗だく)』

『! ま、真君!? 一体どうしたそんなに慌てて!?』

『は、はい。実は――』

『鴇矢先生(超笑顔)』

『!! こ、これは教頭先生! い、一体何のよう――』

『これを(数枚の写真。映っているのは鴇矢先生と女子生徒らしき姿)』

『こ、これは、その……!(超冷や汗)』

『この件について、少しお・は・な・し・が(絶、笑顔)』

『……はい(肩がっくり)』

『あ、そこのあなた。確か真君といったわね。今日は遠慮してもらえると――』

『や、ヤー!!(絶、笑顔のままこちらを向かれて思わずドイツ式敬礼)』

『ま、真君助け――』

『それじゃあね。早く帰るのよ?(鴇矢先生を引きずって職員室を退室)』

 

『うふふふふ。この20ターン、絶望を味わいなさい!』

『い、いやああああああああああ!?』

 

「って」

「鴇矢先生一体何を……!」

 俺の話を聞いて遊司たちの顔色が青くなった。そうだよな、俺も思い出すだけで青くなる。十分ホラーネタとして使えるねこれ。

「まったくどうすればいいってんだ! ……はっ! 秀に何とか――」

「「「それはやめたげよう(あげましょう)」」」

「さっきから鬼気迫りすぎじゃね!? 何でさ!?」

 すさまじい勢いで反対された。俺の助けを拒んだことといい、一体何が起きたのだろうか。

 その後小一時間説得され、とりあえず秀に頼ることはやめることに。正論で言い負かされた口になった。だが聞いているうちにどこかおかしいと感じるのは俺の気のせいだろうか?

「やっぱり、デュエルで決着をつけたほうが良いと思います」

 ここで光ちゃんが俺に提案してくる。遊司と龍可もそれに賛成なのかこちらに頷いてきた。だが、3日走り続けて俺は思うところがある。

「……あの先輩が、そんなあっさり諦めてくれると思うか?」

 あの先輩だよ? 3日間休みもろくに取らせず追いかけてくるあの先輩だよ? 崖から落ちたときも余裕で着地して平然と追いかけてくるあの先輩だよ? 勝っても負けても碌なことにならないと思う。俺がそう細かく説明すると遊司たちは一様に押し黙る。どうやらわかってくれたらしい。

 さて、どうしたものかと俺たちは途方にくれる。そんな空気の中、突然龍可が俯いていた顔を上げ、なにやら嬉々として考え始めた。「確か以前……」「ジャック……対戦者は……」「イリアステル……」とか呟いてるけど……今何か不穏な言葉を口にしませんでしたか?

 しばらくすると、考えがまとまったのか満面の笑みを浮かべる龍可。そしてそれを困惑の目で見る遊司、光ちゃん、俺の3人。何だろう、嫌な予感しかしない。

「いいこと思いついた! 真、私に任せてくれないかな?」

「え? いや龍可、レーナ先輩と関わるのは嫌なんじゃ――」

「いいからいいから! 思い立ったが吉日ってね。まあ任せてよ!」

「ちょ、ちょっと!?」

 困惑する俺に構うことなく、龍可は俺の腕を引っ掴むと「レーナ先輩どこかな~」と歩き始める。遊司と光ちゃんは顔を見合わせ俺たちの後をついて来た。

 一体、何が始まるのだろうか? 腕を引かれながら、俺は穏便に済むことを願った。

 

「「「「ランニングデュエル?」」」」

 確信。碌なものじゃなかった。

 俺たちがいるのはアカデミアの正面玄関。レーナ先輩はそこで俺を探していたらしく、「あたしの勘が当たった! 寮で待ち伏せしている部下に連絡して置こう」とDパットを操作しだしたときは寒気を覚えた。おのれ、権力ってのはこれだから……!

 そこで遊司たちが居ることに気づくと、あからさまに嫌そうな顔をした。だが龍可がランニングデュエルについて話し出すと、興味を引かれたのか嫌そうなそぶりを見せながらも質問をしてくるようになった。

 ランニングデュエル。発想元が誰かは詳しく覚えていないが、このデュエル方法は一種のネタとして使われていた。文字通り、バイクに乗ってではなく走りながらデュエルをすること。……つまり、すごいシュールです。

「今回は追いかけっこの要領で、真が先輩に捕まったら真の負け、ってことでどうかな?」

「ふ~ん? ……それでいこう!」

 提案者の龍可がそうレーナ先輩に問いかける。レーナ先輩は結構乗り気そうだ。だが待って欲しい。それって俺に結構不利じゃね!?

「ちょ、何でそんなアウェーな条件を出したんだ……!」

「普通のデュエルじゃ満足できない。ならこっちから興味の引くルール、不利な条件を足してあげればいいんだよ」

 龍可の言葉にぐうの音も出ない。龍可の策略は当たり、レーナ先輩とデュエルすることができるようになったのだから文句は言えない。

「ま、私はどんなデュエルになるか興味があるだけだけどね!」

「そんなこったろうと思ったわ!」

 一転して屈託なく笑う龍可。こいつ楽しんでるだけだ!? 遊司と光ちゃんが呆れた視線を龍可に向ける。

「っ~! たく。……まあ、ありがとな」

「へ!? ……ど、どういたしまして」

 だが手伝ってもらったこともまた事実。せいぜい楽しんでもらうことにしようと思う。龍可に礼を言い、俺はレーナ先輩と向かい合う。

「用意は良いか真! やってやるぜえええ!」

「ハイテンションですねまったくもう! いざ、尋常に……!」

 デッキがオートシャッフルされ、5枚カードをドローする。そして俺はクラウチングスタートの体勢に入る。周りからは「なん……だと」、「本気で取りに来てやがる」といった声が聞こえてくる。ええ、本気で逃げる気満々ですとも。追いかけっこではなく、デュエルで決着をつけてみせる!

「「ランニングデュエル、アクセラレーション!!」」

 その言葉と共に一気に走り出す。俺のこれからを賭けたデュエルが、今始まった。

 

 

(真は優しいなあ)

 走り去っていく両名を残った私たちは追いかける。走りながら、ふと私に礼を言ってきた真が脳裏に浮かぶ。ただ面白そうだからと提案しただけなのに、それに律儀に礼を言うなど考えられなかった。

(……まったくもう)

 少し、ほんの少しドキッときた。涙を見せたあの時といい、真は優しすぎる。勘違いしそうになるではないか。

(むう。これが終わったら、後で飲み物を奢ってもらお)

 私はそんな安い女じゃないよ、真。それに、今の私じゃ優しい彼に逃げるようになってしまいそうだから。そんなことを考えているうちにデュエルが始まる。とりあえず頭を振り、それ以上考えないようにする。

「行っくぜえ! あたしのターン!」

 先行はレーナ先輩。ライディングデュエルではないので、先攻後攻はデュエルディスクが勝手に決める。他にもスピード・ワールドやスピード・スペル、スピード・カウンターもないのでただ走っているだけのデュエルと言える。

 だが捕まったら即真の負け。今は距離が離れているのでその心配はないだろう。先輩もどうやらデュエルに専念することに決めたらしく全力で走っていない。というか、距離を取りすぎるとデュエルができなくなってしまうため、つかず離れずの距離に甘んじるしかないのだが。

「あたしはモンスターをセット! カードを2枚伏せてターンエンド!」

「こ、このターンは、えほっ。お、おとなしい、ハア、動き、ですね、こほっ」

「ひ、光? 大丈夫か?」

 光ちゃんが苦しそうに話すのを、隣で並走している遊司が心配する。そういえば光ちゃん、体力なかったっけ。これは失敗した。

「しょうがないか。文句は後でいくらでも聞くからなっと」

「へ? ……へへう!?」

 遊司はそう言うと走ったまま光ちゃんを抱き寄せ、自然な動きでお姫様抱っこした。……さすが遊司、恥ずかしいことを平然とやってのける。された側である光ちゃんの顔は真っ赤に染まり、今にも火が吹き出そうだ。超、可愛いです。

「俺のターン! おっと危な! ドロー!」

 そうこうしているうちに真のターンに入る。今走っているのは林の中。木の根や枝を上手く避け、真はカードをドローする。

「……俺は宵闇の使者をコストに、ダーク・グレファーを攻撃表示で特殊召喚! 更に、白夜の騎士ガイアを通常召喚し、手札のオオルリの効果発動! オオルリを攻撃表示で特殊召喚!」

 現れる3体のモンスターたち。そんな彼らもまた、木の根や枝を華麗に避けつつ真に追従していく。流石は戦士族って感じだね。

「一気に3体のモンスターを!? しかも切り札まで使って無理やり……」

「真、結構跳ばしてきたね。早く決着をつけるつもりだと思う」

 そして真のその選択は間違いではない。実際、ライディングデュエルなんていうDホイールに乗りながらのデュエルは予想以上に体力を消耗する。走りながらのデュエルだってそれは同じだ。ともなれば、捕まったら終わりのルールで追いかけられる側である真は、可能な限り早く決着をつけたいに決まっている。

「でもそれは、焦っているのと同じだろ。下手をすればデュエルの勝敗に関わる決定的なミスをしてしまう可能性もある」

「そうだよね。真大丈夫かなあ」

 面白がって提案したランニングデュエルだけど、これは思っていた以上に真に不利なルールになってしまったかもしれない。

 ……うう、ちょっと反省。

「……はうう」

 私と遊司が考察する中、光ちゃんはまだ混乱状態から回復していなかった。……遊司と真で多少免疫がついたと思っていたのだが、どうやらまだまだのようだ。そこが可愛いけど。

「レベル4のガイアとオオルリでオーバーレイ! エクシーズ召喚! 早々に推参、機甲忍者ブレード・ハート!」

 召喚されたのは真の切り込み隊長である忍者、ブレード・ハート。姿を見せたと思ったら、忍者らしく林の中に隠れてしまった。だが時々木が不自然に揺れるので、しっかり真のそばにいるらしい。

「ブレード・ハートのモンスター効果発動! オーバーレイユニットを1つ取り除き、『忍者』と名のつくモンスター1体を選択。選択したモンスターはこのターン2度攻撃できる! 俺はブレード・ハート自身を選択!」

「な、なんだとお!?」

 ブレード・ハートが真の後ろに現れ、オーバーレイユニットを切り捨てる。これでブレード・ハートは攻撃力2200の2回攻撃が可能になった。毎回初手で出てくるけど、いつ聞いても怖い能力だなあ。

「行け! ダーク・グレファーでセットモンスターに攻撃!」

 正体のわからないモンスターに攻撃する場合は、攻撃力が高いモンスターから先に攻撃するのがセオリーのはずだ。守備力が高かったら目も当てられない。だが攻撃したのは攻撃力1700のダーク・グレファー。もしかしたらブレード・ハートの2回攻撃によるワンキル狙い?

 私の予想をなぞるようにデュエルは進行していく。真に追従していたダーク・グレファーが後ろのレーナに向けすばやく方向転換し、セットされていたカードを切りつける。そして現れたモンスターは――

「な~んちゃって。メタモルポットのリバース効果を発動するよ!」

「んな!? メタポ!?」

「お互いの手札を全て捨てて、その後お互いにデッキからカードを5枚ドローする! あたしが捨てるのはワーム・ヴィクトリーとワーム・ウォーロード! そしてドロー!」

「げ、ワームか。厄介なデッキで。俺が捨てるのは極夜の騎士ガイアとタスケナイト! 5枚ドロー!」

 

メタモルポット

星2 地属性 岩石族 リバース

攻撃力700 守備力600

リバース:お互いの手札をすべて捨てる。

その後、お互いはそれぞれ自分のデッキからカードを5枚ドローする。

 

ワーム・ヴィクトリー

星7 光属性 爬虫類族 リバース

攻撃力0 守備力2500

リバース:「ワーム」と名のついた爬虫類族モンスター以外の、フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

また、このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、自分の墓地の「ワーム」と名のついた爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップする。

 

ワーム・ウォーロード

星6 光属性 爬虫類族

攻撃力2350 守備力1800

このカードは特殊召喚できない。

このカードが戦闘で破壊した効果モンスターの効果は無効化される。

このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、もう1度だけ続けて攻撃できる。

 

 墓地に落ちたモンスターが『ワーム』と聞いて、ドローする真の表情が陰る。どうやら何か知っているらしい。そしてセットされていたモンスターは毎度お馴染みのメタモルポット。ということはあの2枚の伏せカードは用心した方がいいだろう。

「メタポには驚いたがこれでがら空き! ブレード・ハートでダイレクトアタック! カスミ切り!」

 しかし真はさして気にした様子もなく攻撃を続行する。……やっぱり何か心に余裕がなさそう。

「甘い! リバースオープン! 罠カード、バースト・リバース! 2000ポイント払って、墓地から裏側守備表示でモンスターを蘇生! あたしが選ぶのはワーム・ヴィクトリー!」

 

バースト・リバース

2000ライフポイントを払って発動できる。

自分の墓地のモンスター1体を選択して裏側守備表示で特殊召喚する。

 

レーナLP4000-2000=2000

 

「……ワーム・ヴィクトリーの守備力は2500。俺のモンスターたちの攻撃は届かない。よってバトルは終了する」

「ま、ここは仕方ないよな。俺だってそうする。……しかし思いきったもんだな、先輩」

 私の予感が的中した形になった。やってしまったみたいな苦々しい顔をする真を見て、遊司が軽く驚いたように呟く。私も同じ気持ちだ。まさかライフポイントの半分を軽く消費してくるとは。

「くっ! 俺はカードを3枚セットしターンエン……おっとお!?」

「ちい!」

 真がターンエンドすると同時に、いつの間にか近づいていたレーナ先輩が真に向けて飛び膝蹴りを敢行した。それを危なげなく回避する真。今のは良くかわしたなあ。

「る、龍可さん! 今のは反則じゃないんですか!?」

「あ、光ちゃんおはよう」

 光ちゃんが正気に戻り、先程の攻撃について私に質問してくる。遊司も言いたげな視線を送ってくることから、光ちゃんと同じ気持ちらしい。だが――

「反則じゃない……と思うよ。ライディングデュエルでもこんなことあったし……」

「そ、そうなんですか……」

 遊司と光ちゃんが引き攣った顔で私を見てくる。私ではなく彼らライディングデュエリストに言ってほしい。特にやられた側の遊星とかジャックとかジャックとか。彼らならきと喜んで説明してくれるだろう。

「ゆ、油断も隙もあったもんじゃない……!」

「いいからさっさとあたしに捕まっちまいな! そうすれば楽になれるんだぜ?」

「全力で拒否する!」

 そういって走るペースを上げる真。あんなに走ってよくスタミナが持つものだと感心する。更に時々後ろを振り返っては、レーナ先輩に近づかれていないか確認していた。

「待てやオラオラ! あたしのターン、ドロー!」

 そんな真のスピードに負けず劣らず、レーナ先輩の方もドローしつつ追うスピードを上げる。

「忍者どもにはご退場願おうじゃねえか。ワーム・ヴィクトリーを反転! ワーム・ヴィクトリーの攻撃力はあたしの墓地の『ワーム』と名のついた爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップする。まあ、さして意味はないね」

 現れたのは六つの腕を持つ紅い体を持った人型の何か。時々粘着質な音をたててレーナ先輩を追いかけ始める。わ、私このモンスターは好きになれないかな。

 

ワーム・ヴィクトリー

攻撃力0→500

 

「そしてリバース効果を発動! 『ワーム』と名のついた爬虫類族モンスター以外の、フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する! やりな、ヴィクトリー!」

「そんな効果が!?」

 遊司がその効果を聞いて驚く。まるであの激レア魔法カード、ブラックホールのような強力な効果。しかもデメリットは無いも同然。これは真にとって痛いだろう。ワーム・ヴィクトリーは6つの腕を伸ばし、風を切る音を伴いながら真のモンスターたちに迫る。

「唯ではやらせん! 伏せカードオープン! 罠カード、闇霊術-『欲』! 自分フィールド上の闇属性モンスターをリリースして発動できる。俺はダーク・グレファーをリリース! デッキからカードを2枚ドローする! 相手は手札から魔法カードを1枚見せればこのカードの効果を向こうにできるけど……」

「……あたしの手札に魔法カードはないよ」

「なら『欲』の効果によって、俺はカードを2枚ドロー!」

 ダーク・グレファーは『欲』と書かれた魔方陣の中に消え、ブレード・ハートはなすすべなくワーム・ヴィクトリーの腕に貫かれ破壊された。

「上手く避けましたね」

「そうだねえ」

 光ちゃんの賞賛する一言に私は頷く。実質ブレード・ハートのみが破壊されただけの被害ですみ、しかもハンドアドバンテージまで取っているのだから。

「ブレード・ハートだけは破壊される。すまんなブレード・ハート……」

「ちっ! 上手く避けやがって。 バトル! 行け、ワーム・ヴィクトリーでダイレクトアタック!」

「これくらいのダメージは必要経費!」

 ワーム・ヴィクトリーの腕の1本が真の背中を襲った。だがダメージが少ないせいか、少し体勢を崩しただけですぐに持ち直した。よ、良かった。派手に転んだりして怪我しなくて。

 

真LP4000-500=3500

 




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