遊戯王TAKEⅡ   作:レイレナード

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真「短けえ!」

作者「ここで区切るしかなくて!」

真「それなら仕方ない!」

作者「ありがとう!」

真「茶番はともかく、ようやくわかりやすいイベントが始まったわけだ」

作者「遊戯王っていったら大会だよね」

真「一応ないのもあったような?」

作者「ちなみにこれが学園編のラストイベントだったり」

真「しっかり盛り上げていかないとな!」

作者「盛り上がってるといいなあ。適当に因縁とかぶっこんで見てるし」

真「適当で因縁なんてつけられても困るんだが!?」

作者「ではでは本編をどうぞ~」



Episode08 その闘志、竜虎にも劣らず

 新入生対抗デュエル大会当日。

 トーナメント戦に向けこの日、その予選が各デュエル場や体育館で行われていた。予選は2日かけて行われ、トーナメントに出場できるのは新入生40名の内8名。1日目に4名、2日目に残りの4名が決まることになる。そして予選を行う場所は第1、2デュエル場と体育館を2つに割った計4ヶ所。5人でリーグ戦をし、勝ち星の多かった生徒がトーナメント戦の切符を手に入れることが出来る。

 そして俺は今――

「行け、宵闇の使者! 宵闇、双破斬!」

「う、うわー!?」

 

丈LP2700-3000=-300

 

「カット! 良いデュエルをありがとう!」

「そこまで! 勝者、兵武真! 全戦全勝を達成したので、トーナメント出場決定!」

 倒れたブルー生に最近慣れてきたセリフを言い、カチンコのポーズを決める。そう俺は今、トーナメント戦の切符を手にしたところだ。第2デュエル場に設置された座席に座る生徒たちが拍手を俺に送ってくれた。彼らに手を振りながら、俺はこう考えていた。

(目指せ、プレミアム!)

 内心で俺は拳を握り決意を新たにする。動機が不純? 遊司にも言われましたが、あえて言おう。悔しいんだもん! このままでいられるか!

 

 

 

(しかし、こんな大勢の前でデュエルをするなんてびっくりだなあ)

 結構の数の生徒が目に付く中、ふと俺はそんなことを考える。デュエル大会といえば、近くにあるカードショップで友人と仲良くボロ負けしたくらいの記憶しかなかった。そう思えば、こんな大勢に賞賛されるのも悪くは――

『ねえやっぱりカッコ良くない?』

『でしょ? ……それでなんだけどさ』

『う~ん、秀様とどっちかなやむなあ~』

『うおおおお! 真さん憧れるぜ!』

『ああ、戦士の鏡だよな!』

『あの決めセリフがたまんねえ!』

 聞こえてきた会話に思わず肩が下がる。ガックリした、とはこのことだろう。

(そういえばレーナ先輩が「秀派閥と光派閥からどんどん掠め取ってみた! まだまだ及ばないけど確実に大きくなってるよ! やったね真! 家族(勢力)が増えるよ!」といわれた記憶が……。人気者になれてうれしいような、俺の知らないところで派閥が広がっていることに悲しいような……)

「お~い、真~!」

 デュエル場から出て、とりあえず諦観を込めて空を見上げていた俺に声がかかる。

 前方からまるでワルツを踊るように眉目秀麗な生徒、秀が現れた。ついエンカウントしたモンスターのように思ってしまったが仕方ないだろう。いい加減普通に現れないものか……。

 とりあえず――

「秀ー!」

「真ー!」

「「へーい!」」

 恒例のハイタッチを交わす。ちょくちょく会うたびにやっていたらいつの間にかあいさつのようなものになっていた。秀のノリの良さに感謝である。

「いや~僕の方は終わってしまってね。せっかくだから遊司と真、2人の試合を見に行こうとしたのだけれど、どうやら真の方は終わってしまったみたいだね」

「ああ、ついさっきな。結果はどうだった?」

 残念そうに言う秀に逆に聞いてみることにした。きっと、面白いことになっていたんだろうと確信しながら。

 予選日時は、俺と遊司と光ちゃんと秀は1日目、龍可は2日目だった。場所については、遊司は体育館、光ちゃんと秀は第1デュエル場、龍可はもう半分の体育館だった。

 俺が言いたい面白いこととは、光ちゃんと秀のデュエルのことだ。片方は実力未知数の学年主席、もう片方は俺がじかに実力を見たことのあるデュエリスト。興味を引かれるのは当然と言えた。あいにくと大会側の配慮で予選中の生徒、及びトーナメント出場者は予選を見ることが出来ないのだ。デッキの内容を知られないためとはいえなんか悔しい。

 そして秀は、その出来ないはずの観戦をしに来たという。つまり……。

「負けた。彼女、光ちゃんがトーナメント出場だよ」

「……へえ」

 まるで気にしてないとでも言うように、あっさりと負けたと言う秀。その言葉に俺はつい感心したような声を出してしまう。あの秀を破るとは、光ちゃんのデュエルタクティクスは一体どれほどのものなのか。……あれ、あわわと慌てている光ちゃんしか思い浮かばないや。

「おや?」

 必死に凛々しい光ちゃんを思い浮かべようとしていると、秀が俺の後ろを見て驚いたような声をあげた。それに気づいた俺は後ろを振り返る。

「っげ……!」

 するとそこには俺を見て……いや、その後ろの秀を見て苦々しい顔をしている男子生徒が居た。その周りには取り巻きと思しき男子生徒が2人居る。

「ん? あ、あれは『花舞う庭に横切る凛々の綺羅星』、庭瀬秀!」

「や、やべえっすよヤリザさん! 「槍座だ!」あ、すみません。あいつ『例のあの人、に花束を叩きつけて颯爽と去って行った奴』で有名な庭瀬っすよ!」

「すっげ……」

 秀の渾名に思わず呟いた。一体どんなことをやればこんな狙ったかのようなねじくれた渾名を襲名できるのか。呆れるを通り越して感嘆モノである。

 そんな俺を横切り、秀はその男子生徒、槍座に向けて足を進める。そして、対面する2人。一方は苦々しい顔で、もう一方は満面の笑みで。……満面の笑み?

「ヤリっち! 我が親友ヤリっちじゃないか!」

「誰がヤリっちだこのすっとこどっこいがああああ!!」

「べし!?」

「「「アッパーカット!?」」」

 俺と取り巻き2人の声が重なる。秀が槍座のアッパーカットによって薔薇の花弁と共に宙を舞い、そのまま地面に落下した。……なんだろう、花弁のところに若干イラッと来る。それは殴った向こうも同じらしく、仰向けで横たわる秀に向けて大きく舌打ちした。

(((一体どんな関係なんだろうか……)))

 あれ、取り巻き2人と思考が重なった気がする。

 

 互いに自己紹介した後、俺たちは秀の熱烈なしつこさに完敗し食堂で駄弁ることとなった。そして出るわ出るわ、秀と槍座の意外な関係が。

「へえ、幼馴染ねえ」

「ヤリっち、あ、間違えたごめんごめん拳を下ろそうか、ね? こほん。槍座の家、伊達家は優秀な武家でね。男子たるもの強く在れと父さんに言われて、一時期伊達家に放り込まれたことがあったんだ。そこで年の近い槍座と会ってね。以来僕とはマブダチなのさ!」

「ただの腐れ縁だろーが。それと俺の家のことは言うんじゃねえよ、かったりい」

 遊司と絡んでいる時と同じくらいの笑顔の秀とは対称的に、面倒なことになったとでも言いたげな仏頂面の槍座。どう取り繕って見ても、幼馴染で友達だとは思えない。取り巻きの2人組み(佐藤君、田中君という名前らしい)も俺と同じような微妙そうな表情をしている。……何だろう、このサイドストーリー感は。

「そういえばヤリz……ゲフン、槍座。もう1人のマブダチである彼女、まとっちはどうしてるのかな? 最近顔を合わせてなくって」

「てめえ、わざとじゃねえよな? ……まあいい。あいつのことなんざ知らねえよ、ストーカーじゃあるまいし。そんなことより、お前があいつのこと知らねえことに驚きだ」

「いやね? 顔を合わせてはいるんだけど、何故か毎回タイミングが悪くてね。顔を合わせた瞬間忘れ物をしたと言って踵を返したり、声をかけようとすると近くに居た生徒と話し始めたり。最近だと遠くで見かけた途端走り去っていくんだよ」

 何故だろうと首を傾げる秀に槍座は呆れた目をしていた。俺を含め周りの反応もそんな感じだった。秀、それ避けられてる。嫌われてるかどうかはわからないけど、その彼女に明らかに避けられてるよ。

「ところで、そのまとっちというのは誰なんですかいヤリっt……コホン、ヤリザさん」

「言い直せてるようで言い直せてねえよ田中この野郎!!」

「す、すいやせんっした!」

 取り巻きの1人(田中君)の疑問に怒声を上げる槍座。それは俺も気になるところだった。彼らのマブダチ、まとっちという女子生徒は一体どんな人なのだろうか。

「えっとねえ……あれ? あ、噂をすればほら、あの子」

 考えるそぶりを見せた秀は食堂に入ってきたブルーの制服を着た女子生徒に気が付くと、まるで手を差し出すように彼女を示した。彼女もこちら、というか秀に気が付いたのだろう。出やがったとばかりに苦々しい顔を浮かべて辺りを見渡す。……秀を振り切るために何か利用できないかと辺りを探しているようにしか見えない。なんで会う人会う人が秀に苦手意識を持つ人ばかりなんだろうか。ちょっと秀がカワイソウに見えるよ。

 しばらくして諦めたのか、嫌々ながらもこちらにやってきた。赤みがかかった茶色の短めの髪をポニーテールにした彼女は、俺たちの席の目の前に立つと鋭い目を秀に向ける。身長が高いこともあってか、なんだか斬られるような怖さを感じた。取り巻きの2人が若干震えている。

「……何か用か、秀」

「固いなあまとっちは。そんなことじゃヤリっちの心を射止めえぶ! おぶ! く、首が!?」

「私をまとっちと呼ぶなと何回も言ったであろうがこのお花畑頭の愚か者がああああ!! そ、それと貴様には! 関係! ないわああああ!!」

「あばばばばばばば!?」

((((うわ、デジャヴ))))

 俺たちの心はシンクロしていた。槍座までもが首を激しく振られている秀を見て「俺と同じパターンじゃねえか。懲りない奴」とため息を吐く。……ところで、槍座の心を射止めるとか何とか聞こえたが……そういうことなのだろうか。取り巻きの2人組も俺と同じように気になるのか目が輝いている。

「まあ、そんなことはどうでも良い」

「おっふ」

 憂さを晴らして満足したのか秀が泡を吹き始めたのを見て手心を加えたのか、まとっちと呼ばれた彼女は秀を投げ捨てると俺と取り巻き2人組に視線を合わせる。

「すまなかったな、騒がせて。蔵田纏(くらたまとい)という。こいつと槍座とは幼馴染だ。よろしく頼む」

「あ、ああ。俺は兵部真。で、こっちの2人が――」

「さ、佐藤です」

「た、田中っす。よろしくおねがいしやす」

 その毅然とした態度に思いっきり気圧された。あと秀との会話のギャップに。2人も同様のようで、それ以上言葉が続かない。

「……おい、纏」

「っ! ……なんだ槍座」

 そこに槍座が纏に声をかける。纏は嬉しそうな顔をすると、一瞬で毅然とした態度で反応する。……わかりやすっ! ただのツンデレじゃないっすか羨ましい。取り巻き2人も気づいたのか、悔しそうな反面祝福したいという気持ちが顔に出ていた。俺も似たようなものだ。

「ちょっと向こうで話がある。それと、てめえらはここに居るなり帰るなり好きにしな」

 これからする話は聞かせることは出来ない、と言外に告げられる。その重い空気にふざけた思考は鳴りを潜め、俺たちは真剣な顔で頷いた。何やら込み入った事情がありそうだ。

 槍座の後に纏が続き、2人は食堂から出て行った。重苦しい空気が抜け、俺と取り巻き2人は同時に安堵のため息を吐く。

「蔵田、蔵田……。そういえば、有名どころでそんな名前を聞いた覚えが――」

「ストップ、だよ佐藤君」

「っ!?」

 何かを思い出しそうにする佐藤君に秀の待ったがかかる。腕を組む秀の表情は真剣そのもので、佐藤君は気圧され口をつぐむ。俺には先程の空気が戻ってきたような気がした。

「それ以上の詮索はお勧めしないな。彼らにだって知られたくないことくらいある。ここは色々あったってことで、どうか満足してくれないかな?」

「……うっす」

 確かにその通りだ。これ以上の詮索は野暮というものだろう。頼み込むような秀の言葉に佐藤君も納得したのか、少し反省の色の混じった声色で了承した。

「……やれやれ」

 ついため息を吐いてしまう。何やら不穏な空気が漂ってきた。俺にはそんな予感がした。

(どうも、この大会で一悶着ありそうな予感がするなあ)

 椅子に深く腰掛け天井を見上げる。これから来るーナメント戦。幸先は何とも不安だらけだった。

 

 

『……まだ、諦めてねえんだな?』

『当然だ……! 私は貴様に勝つ! 勝って……』

 

『貴様には、伊達家に戻ってもらう……!』

 

 

「行け、エアトス! ダイレクトアタック! 精霊のオペラ!」

「ち、ちくしょう!」

 

大子LP2000-2500=-500

 

「そこまで! 勝者、空羽遊司! 4勝1敗の戦績により、トーナメント出場決定!」

「よっし!」

 この予選を担当している先生の宣言に俺は拳を握り喜ぶ。苦戦した分その反動は大きい。ちなみに苦戦していた理由は――

「なんで……!何でお前なんかが光ちゃんの傍に……!」

『ブーブー!』

『おのれ空羽ぇ! 許すまじ!』

『ぬおおお! 光ちゃんだけでなくトーナメントの権利まで!』

『禿げろ!』

『萌えろ!』

『お前字が違くね?』

 物凄く真面目に俺を睨みつける対戦相手の言葉に同調する観客たち。これだ。対戦相手と観客の大部分が光の派閥に所属する生徒だったのである。そんな中でのデュエルだ、アウェー感がハンパなかった。最初のデュエルでは耐えかねて大ポカをやらかしてしまい勝利を逃した。……その時の周りの反応といったら腹立つ……!

「あ~、空羽。速やかかつ迅速に退場してくれ」

「先生、それだと俺が悪いみたいに聞こえるんですが」

 流石に先生にもこのブーイングの数は手に負えないらしく、とても戸惑った顔で体育館からの退場を俺に命じてきた。……言い方に関して苦言したのは悪いことではないはずだ。意味によっては凄く遺憾である。

「俺が一体何をした……!」

 このままここに居てもバッシングを受けるだけなので、お言葉に甘え苦々しく退場させてもらった。……萌えとは宗教よりも恐ろしいのかもしれない。

 

「あ、遊司!」

「……龍可か」

「え、そこまで嫌な顔されることした私!?」

 とりあえず学食に寄ろうと本館の中を歩いていると、廊下の途中で龍可と遭遇した。あんなことがあったのだ、出会い頭に元凶(光派閥の会長)に会い嫌な顔をするのは当然だ。これぐらい許して欲しいものである。

「大丈夫だ、問題ない」

「それフラグ的な意味合いじゃあ……まあ良いや。どう? トーナメントに出場できた?」

 訝しげな顔をするも、すぐさま切り替えて俺に質問してくる。もちろん俺は意気揚々と答えた。

「当然。龍可は明日だから……光と真はどうなったんだろうな?」

「どうだろうね。予選参加者とトーナメント出場者は見学できないから」

「あ、遊司さん、龍可さん!」

 ここに居ない2人の結果を心配していると、曲がり角から光が現れこちらに手を振ってきた。どうやら彼女の予選も終わっていたらしい。

「ひっかりちゃ~ん! どうだった予選!?」

「わっぷ。だ、大丈夫です。トーナメント出場です!」

 走って抱きついてくる龍可に笑顔で報告する光。流石は主席。どうやら杞憂だったようだ。

「おめでと光ちゃん!」

「おめでとう光。俺もトーナメントに出場するから、よろしくな!」

「は、はい。2人ともありがとうございます」

 更に眩しくなった光のその笑顔に、今まで摩れていた俺の神経が回復していくのを感じた。近くで浴びている龍可は何とも幸せそうに抱きついている。……光派閥の連中がこれに当てられてああなったのかと思うと、ちょっと複雑な気持ちになった。いや、光に罪はないけどな?

 

 後はいつも通り3人で食堂に向かうことになった。真もそろそろ終わっているかもしれないしな。あいつのことだから食堂でドローパンでも漁っていそうだ。

『……っ! ……!』

「ん?」

「? どうかしましたか遊司さん?」

「何々? どうかした?」

 ふと、何か言い争うような声が俺の耳に届く。光と龍可は気が付いていないらしく、立ち止まった俺に首を傾げている。

「こっちからか?」

「ちょ、遊司!?」

「ど、どうしたんですか!?」

 どうにも気になった俺は龍可と光から離れ、彼女たちの制止の声を振り切って先程声がしたと思われる場所に向かう。

 そして辿り着いたのは廊下を出て森の中、道がなく人目に付きにくい一角だった。そこには青い服を着たブルー生4名が、怯えた様子のレッド生の1人を囲んでいるのが見えた。何とも嫌な感じだ。

「お、お願いだ! こ、このカードだけは勘弁してくれ! 何か、そう、DPじゃだめか!? 頼む!」

「それは出来ない相談だ。僕が提案した内容を飲んだのは君じゃないか。約束は守ってもらわないとね」

 レッド生の必死の懇願をブルー生の1人が前に出てあっさりと断る。赤い髪をオールバックにしたブルー生は薄気味悪い笑みを浮かべレッド生に近づき、彼が大事に持っていたカードを素早く奪い去った。な、何やってるんだあいつ!

「おい、やめろ!」

「うん?」

 さすがにこれ以上の暴挙を許すわけには行かない。俺はその男子生徒の目の前に躍り出る。突然のことにその場の全員が驚きの顔を浮かべる。

「誰だい君は?」

「俺知ってます(しん)さん。あの庭瀬兄妹を倒したっていう例の……」

「ああ、確か名前は……遊司君と言ったか。初めまして。僕は美馬坂(みまさか)(しん)だ。……それで? そんな有名人の君が何故こんなところに?」

「……言い争うような声を聞いてここに来た。お前、なんで人のカードを奪った! それを彼に返せ!」

 薄気味悪い顔を崩さず問う彼に、俺は怒りを持って要求する。昔見た光景が頭をよぎる。カードを奪う者、奪われる者。そんなことが日常茶飯事のあの町の光景を。

「奪ったとは心外だね。彼とは正式な契約を結び、そして正式な対価を受け取ろうとしていただけさ。アンティルールという、ね」

「アンティルール……!?」

 得意げに笑う美馬坂に目を見開き、俺は後ろに立っているレッド生に振り返る。その彼はバツの悪そうな顔で視線を逸らした。……以前龍可と真の会話でアンティルールのデュエルが普通に行われた時代があったと聞いたが、どうやらその根はかなり深いらしいな。

「ど、どこが正式だ! 俺を脅して無理やり約束を取り付けたくせに!」

「だけど結局了承したのは君だ。それに強いカードは僕の手にあってこそ意味がある。君じゃあ宝の持ち腐れだよ」

 怯えながらも自分は悪くないと反論するレッド生の言葉を、美馬坂は風を相手にするがごとくさらりと受け答える。そんな奴の一言に、俺の怒りが再燃する。今の言葉は聞き逃せない!

「違う! それを決めるのはお前じゃない。カードたちだ! 奪うなんてやり方は間違っている!」

 奴のその言葉を俺は許せない。そして、この場をただで済ませるわけにもいかない。なら、答えは1つだ! 俺はデュエルディスクを美馬坂に向けて勢いよく構える。

「デュエルだ! 俺が勝ったら、今まで奪ったカードを全て持ち主に返してもらう!」

 俺の言葉に周りの取り巻きたちがざわつく中、心はまるで一石二鳥とでも言うように笑みを深くする。何が可笑しいのだろうか? 何とも訝しく感じる。

「いいよ? ただし、僕が勝ったら君のデッキごともらおう。でもそれだと君が少し損をするから、僕のお気に入りのこのカードも君の勝利品に付けようじゃないか」

 俺の挑戦に了承すると、美馬坂は徐に懐からカードを1枚手に取り目の前にかざす。それは白い縁取りのカード。

「……シンクロモンスター?」

「牙王……! 心さんそれはあんたの……!」

「いいんだよ。こうした方がモチベーションが上がるだろ?」

 取り巻きたちの反応から察するに、正真正銘奴のフェイバリットカードなのだろう。だが美馬坂の顔には焦りがまったく見られない。

(自分のカードをあっさりと賭けの対象にするとは)

 自信の表れか、それとも……。俺の中で怒りが徐々に警戒に変わっていく。

「それと、戦うのにこの場はいささか相応しくないね。あの庭瀬兄妹に勝ったほどの腕前だ、当然トーナメント戦に出るんだろ?」

「ああ、出場する」

「それはちょうど良い。僕も出ることが決定しているんだ。君とはそのトーナメントで決着をつけようじゃないか」

「……わかった。それで良い」

 美馬坂の提案に異存はなかった。今日は予選と言う名目で多くの生徒とデュエルをして疲れているし、デッキの調整もしたい。何より、こいつとの試合は万全の態勢で臨みたい。俺はデュエルディスクを下げ、美馬坂の提案に乗る。

「フフフ、カードたちが主人を決める? 君の持論がいかに絵空事であるか、大衆の前で見せつけてあげるよ」

 そう言うと美馬坂は踵を返し、取り巻きたちを連れここを離れようとする。

「カードはただの力さ。そしてそれは、僕が輝き続けるための舞台装置にすぎない」

 俺に背を向けて、立ち去りながら話す美馬坂。その言葉、絶対に否定してやる!

「カードたちはお前のための道具じゃない! お前には、絶対負けない!」

 その背中に向けて、俺は指を突きつけ言い放つ。負けられない。奴とのデュエルには奪われたカードたちと俺の信念が掛かっているのだから。

 俺は去っていく奴の背中が見えなくなるまで、その背中を睨み続けた。

 

 翌日、残りの出場選手が決まり、トーナメント表が発表された。

 

 1日目第1試合 空羽遊司VS美馬坂心

    第2試合  龍凪光VS間宮櫂

 2日目第3試合  倉田纏VS龍可

    第4試合  兵部真VS伊達槍座

 




今回のNGシーン

たまには、なくても、いいよね!

作者「考えるのが面倒になってきたので次からは次回予告にでも変えようかなって」

遊司「そもそもなんでNGシーンなんて茶番やってたんだよ」

作者「5年前のノリなんて知らんがな」

真「無責任すぎる!?」

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